魔法を作ろう
雪原を抜けて、森の中での野営地に、リズの押し殺したような声が響く。
「んっ・・・くぅ・・・」
苦悶に囚われた声だ。
野営用テントの中で、リズは悶えていた。
その側でシルは心配そうに覗き込んでいる。
『そろそろ癒やすぞ。』
その声とともに、回復魔術によりリズの様子が落ち着く。
「あと少しがなかなか終わりませんね。」
ヘルツェルの街で、リズはヘルツェル辺境伯の奸計により麻痺に陥り何も出来なかった。
位階を上げることで精神をあげても、あくまで確率が低くなるだけで、完全に防ぐことは出来ない。
それを実現しようとすると、無効スキルを覚えるしかないが、それを覚える事は簡単ではない。
ひたすらその状態異常を受けるしかないのであり、それでもスキルを覚えるのは運であるとされている。
そのため、野営の時にシルのスキルや魔術で、リズにひたすら軽い状態異常を起こしては治す、と言うことを繰り返しているのである。
シルは既に、毒・麻痺・石化・精神支配・即死の全てに対して無効スキルを得ているが、リズは精神支配の耐性のみである。
毒と麻痺は、シルが毒攻撃と麻痺攻撃が使えるので、スキルを発動させた状態でちょんと突くだけでよい。
石化は、石化攻撃を覚えているが、何が起きているのかよく分からない。
そこで、魔物を実験台にして試し、軽度なら筋肉の硬化、重度ならあらゆる体組織を硬化させて動きを阻害させていることが分かった。
その結果を元に、ごく軽度の石化攻撃をすることで、耐性を得ようとした。
精神支配は、闇魔術を使って恐怖状態を引き起こすことにした。
ただ、即死だけはどうしようもないので、これら諦めることにした。
間違って本当に即死してしまっては、どうしようもないのだ。
それで、今リズは毒の苦しみに悶えていたのである。
シルがリズを鑑定すると、毒耐性が毒無効に変化していた。
シルの鑑定も、【簡易鑑定】から【詳細鑑定】となり、ステータスやスキルまで確認できるようになっていたのである。
いまの2人のステータスはこんな感じだ。
名前: 閃光竜シルヴェストル(知立 銀次)
種族: 幼竜
位階: 36
魔力: 5,113
腕力: 992
体力: 935
俊敏: 92
知力: 1,372
精神: 965
スキル: 魔法士、魔術士、悪食、状態異常無効、土耐性、風耐性、水耐性、痛覚耐性、土の加護、風の加護、水の加護、創造神の加護、詳細鑑定、生命力自動回復、大刀術、体術、火魔法、土魔法、風魔法、水魔法、雷魔法、光魔法、闇魔法、魔術、土精霊召喚、風精霊召喚、水精霊召喚、暗視、気配感知、魔力感知、魔力操作、身体強化、念話、麻痺攻撃、毒攻撃、石化攻撃、高速飛翔
名前: リズ(エリザベト・リクシエール)
種族: エルフ
位階: 53
魔力: 1,753
腕力: 306
体力: 318
俊敏: 67
知力: 782
精神: 381
スキル: 魔法士、魔術士、毒無効、麻痺無効、精神支配無効、石化無効、土の加護、風の加護、水の加護、竜の加護、射術、火魔法、土魔法、風魔法、水魔法、雷魔法、光魔法、魔術、土精霊召喚、風精霊召喚、水精霊召喚、魔力感知、魔力操作
これが、門番等をやっている通常の人族の戦士や魔法使いだと、これくらいなのである。
名前: 人族の戦士
種族: 人族
位階: 10
魔力: 100
腕力: 57
体力: 51
俊敏: 8
知力: 40
精神: 40
名前: 人族の魔法使い
種族: 人間
位階: 10
魔力: 152
腕力: 50
体力: 50
俊敏: 8
知力: 46
精神: 40
最早2人は、一般人からすれば人外の領域にあるのである。
シルは、竜になってしまっているが。
ちなみに、シルがカリバーンのところで殺されそうになった地竜が、これくらい。
名前: 地竜ランドドラゴン
種族: 若竜
位階: 42
魔力: 7,334
腕力: 1,778
体力: 1,612
俊敏: 108
知力: 2,164
精神: 1,244
まだシルでも普通に戦えば、善戦すらさせてくれない程度だろう。
閑話休題。
『お疲れ様。毒無効がついたぞ。』
「はあ・・・はあ・・・やっとですわ。シル様ありがとうございます。」
『しかし、詳細鑑定がないと自分の能力が確認できんのは面倒だな。』
どうやらシル以外は、メニューが使えないようなのだ。
だから、自分のステータスを確認するには、鑑定を持っている人に見てもらうか、ギルドで見てもらう必要があるのだ。
どちらも、通常はタダではできないので、いくらか払う必要がある。
リズの場合は、エルフである事を秘しているので、どちらもあまりやりたくないのだ。
『では、明日からは体術の訓練をしようか。』
「はい、すみません。私は魔術と弓しか攻撃手段がないので、距離を詰められると、どうしようもなくて。」
『いざと言う時のために備えるのは、いい事だ。あと、念話も覚えておきたいな。お互いに、周りに聞かれると困ることもあるしな。』
「秘密が多いと大変ですわね。」
『年齢とかな。』
「あら、今夜は抱き枕になりたいのかしら?」
咄嗟に空中に飛び上がると、リズの手が空を切る。
一瞬でも遅れたら、捕獲されていただろう。
リズのステータスの高さは伊達ではなく、殺気も無くノーモーションで動かれるとこちらもギリギリなのだ。
「あら、逃げなくてもよろしいじゃないですか。」
『不寝の番があるからな。』
「シル様なら、動かなくても魔術でどうにかできるじゃないですか。」
『心地良いと寝ちゃうんだよ。』
「あらあら、抱き着かれるのが心地良いと?」
『そんな事は言ってない。』
自分の失言に気付き不貞腐れた振りをするが、完全にバレている。
『そんな事より、聞きたい事があるんだけど。』
話題転換で誤魔化すことにする。
「なんですか?」
リズもからかい過ぎるとシルが降りてこないので、それに乗ってくれたようだ。
地面に降りて、リズの隣に座る。
『魔法の起句、つまり魔法名はこっちの言葉でどんな意味なんだ?』
「意味は知りませんよ。古代神聖語と呼ばれて、意味は失伝してるわ。」
『古代神聖語、そういう扱いなのか。俺にとっては、異世界では外国、つまり異国の言葉がそのまま使われてるんだ。』
「ファイヤーボールとかがですか?」
『そう、ファイヤーが火、ボールが玊って意味だ。』
「そのままですわね。」
『そう、それなのに火球と言わず、態々ファイヤーボールと呼ぶ意味が分からなくて。』
「確かに、火球の方が唱えるのが楽ですわ。もしかして魔法を作ったのは異世界の方なんでしょうか。」
『そうなのかもな。あと、ギルドは?』
「遥か昔にいた異世界の方が、冒険者ギルドの創設者と言われてますわ。生まれに関係なくお金を稼げると言う事で、当時は反発も大きかったらしいですわ。」
この世界は貴族制を採用している。
生まれが、王族・貴族・平民に身分が分けられている。
更に、平民は更に富豪・平民・貧民と明確ではないが分けられ、それを覆すことは無理に近い。
いくら能力があっても、それは活かされることなく死んでいくのだ。
それが、冒険者ギルドができたことで、貧民でも大金を稼ぐことができる可能性が跳ね上がったのだ。
その後、それを真似して鍛冶ギルドや商業ギルドが設立されたそうだ。
『それを考えると魔法も異世界人が関係しているのかもな。でも、魔法はこの世界のシステムの一部だからな。』
「しすてむ?」
『ああ、異世界語で仕組みとか、そんな感じ。正しい訳は系統だった気がするけど、それだと判りにくいからな。』
「確かに、この世界を成り立たせている仕組みと言えば、そうなのかも知れませんね。異世界の方が、神になったんでしょうかね。」
『人が神になる?』
「言ってませんでしたか? 人間、つまり人族や獣人、エルフ、そして魔族も、とんでもない強さを得て、神格というものが得られると神になれるそうですわ。創造神に認められる必要があるそうですけど。」
『竜王やエルフは神に近いと聞いたし、そういうこともあるのか。そう言えば、芸神はドワーフだったか。』
「そうですわね。今いる神で、最後に神になったのが芸神ドラウヴェルと言われてますわ。」
『魔法が作られたものなら、新しい魔法も作れたりするのかな。』
「聞いたことはありませんね。」
ストレージから槍を取り出し、地面に覚えている魔法の魔法陣を描き出していく。
(ここが属性・・・形状が・・・これは共通点がないな・・・)
(この集中したシル様は久し振りですわね)
以前に見たのは、無詠唱で魔法が使えないかと色々と試していた時だ。
まだ竜王として生まれて一年も経っていないらしいが、リズにとっては偉大で尊敬できる魔術と魔法の師匠なのだ。
そんな幼くも凛々しい白竜に見惚れていると、シルが何かの結論に至っだようだ。
「キュキュキュ キュキューキュー キューキューキュー キュキュ!」
何かの魔法を唱えたのだろう。
真法人が描かれて茶色に光ると、地面がぬかるみに変わり、地表にあった石が沈んでいく。
「シル様? そんな土魔法はないはずです!」
『いま考えたからな。』
「魔法を考えた? ふふ、ほんとにシル様は非常識です。教えてくださいな。」
普通なら考えもしない、新しい魔法を作り出すということを、その場でやってのけたシルの非常識さに、リズは感動している。
絶対に一生懸命付いていこうと、改めて決意するほどに。
「それで、どんな魔法ですか?」
地面に魔法陣を描き、詠唱と起句を教えてくれる。
『母なる大地よ その全てを包み込む柔らかさで 我が敵を捉えよ テンダーポンド。詠唱で必要な単語は、大地 柔らか 捉えよ だな。』
一通りシルの説明を聞き、リズが詠唱を開始する。最初から無詠唱はできないのだ。
無事に発動し、ぬかるみが広がる。
すると、シルのログ表示ウインドウに、文字が流れ出す。
土の新魔法 テンダーポンドの登録依頼が受理されました。
承認者は魔神。確認中。
該当する神が不在のため、代替承認者として創造神が選択されました。
創造神による承認が完了しました。
テンダーポンドの登録が完了しました。
新しい魔法を考え、誰かに教えることで、勝手に新魔法としての登録候補になるらしい。
登録候補に対しては、決裁、つまり承認が必要であり、それは神が行う。
その神による決裁は、ワークフローにより処理されているように見える。
しかもそれは、承認者が不在の際は、代替承認者が自動で選択される。
シルは、以前にワークフローシステムの開発にたずさわったことがある。
承認者と代替承認者が固定であれは、大したことはない。
それを大人数の場合に自動でやろうとすると、登録ユーザ情報のスキーマや、組織情報のスキーマをそれができる形にした上で、ユーザや組織を操作する機能にも、かなりの処理を実装する必要がある。
要するに、もの凄く大変なのだ。
この世界は、誰かにプログラムされたものなのだろうか。
それとも、そんなことは気にせず、創造神が気まぐれに作り上げたのだろうか。
そんな思考の海に沈んでいるシルは、リズの言葉で現実に帰ってくる。
「この魔法は、どんな風に使うんですか?」
『地面をぬかるみに変えることで、相手の動きを阻害するんだ。もちろん飛んでる奴には効果がないけどな。』
「なるほど。隙を作るんですね。素早い魔物や、重量のある魔物には効果が大きそうですわ。」
『問題は、当然魔術でもできるから、態々魔法でやる必要があるか、ってところ。』
「そうですね。でも、魔術で起こせる事象により、どう戦闘を有利にするか、と言うことは考えておいて損はないですね。魔法にするかどうかは別として。」
それを期に、2人はどんな魔術があるといいか、よく議論するようになったのだった。




