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エルフの里

 エルフの里までは本来徒歩であれば一月はかかる距離である。

 いくらシルとリズの旅の速さが異常でも、すぐに着く訳では無い。

 そもそも、素直に街道をそのまま進まず、わざと()れて魔物の群れを狩ったり、盗賊の掃討をしていたりしたのだ。

 特に盗賊は、街道を旅する商人や冒険者にとって危険な存在である。

 そして、盗賊を掃討した場合、近くの街の警備兵から報奨金が貰えるし、盗賊が持っていたものは、原則掃討した者がもらって良い事になっていた。

 ちなみに、報奨金をもらう際、盗賊の状態はDoA(デッドオアアライブ)、つまり生死問わず、である。


 シルは竜である。

 その為、街に入ろうとすると、それだけで一悶着となる訳だが、8級と6級の冒険者2人(警備兵からすると1人と1匹だが)であるし、さらに生け捕りにされた手配中の盗賊を連れているのだから、すんなりと通ることができた。

 実はピノンの街のギルド、及び王都のギルドから大陸内の全ギルドに対して、白竜のシルが旅に出ていることと、怒らせては危険な強さを持っていることが予め通知されていたためである。


 そんな訳で、2人は道中で食事用の肉は補充され、街に付けば盗賊掃討の報酬と、魔物の討伐報酬と素材の売却代金を得ることで、金も順調に増えていたのだ。

 宿も、街で一番の宿に泊まるのも問題なく、竜であるシルも問題なく1人の冒険者として扱われているのだ。

 ちなみに、いつもシルは2部屋に泊まろうとするのだが、リズによって1部屋にされていた。

 野営の時は自重して(厳密にはシルが不寝の番をするため)一人で寝るのだが、宿では容赦無く抱き枕扱いなのだ。


 そんな旅をして20日目、エルフの里の入り口がある森に辿り着いた。

 今までに見た森と比べて木が多く、中は薄暗くなっている。

 しかし、現時点では魔物の気配もない。


「じゃ、シル様ちゃんと付いて来てくださいね。」

『了解。やっぱりエルフと一緒じゃないと入れないとかあるの?』

「うーん、エルフがいなくても辿り着けはしますけど、お勧めはしないです。方向感覚が狂うようになっているので、まず迷います。」

『空からは?』

「それなら多分大丈夫じゃないですかね。」


 と言う事で結界があるとかではないらしい。

 とは言え、森で迷子は御免(ごめん)(こうむ)りたいので、大人しく付いていく。


 森の中では、確かに違和感を覚えることが何回かあった。

 ただ、方向が分からなくなるというほどではない。


『さっきの方向感覚が狂うってのは、精神支配の魔法の1種なのかな。』

「普通は何も気付かないんですけどね、さすがです。ほら、もうすぐ抜けますよ。」


 視界が開けると、村があった。

 そこそこの規模で、周囲には簡単な柵が巡らせてある。

 柵が途切れているところに、門番が2人立っていた。


「エリザベト様、ようこそお帰りくださいました。」

「ただいま。こちらは白竜のシルヴェストル様。入っていいかしら。」

「エリザベト様と行動を共にするのであれば。」

「ありがとう。さ、シル様行きましょう。」


 なんとも拍子抜けするほどあっさりと里に入れた。



 ◇ ◇ ◇



 里の中は、特に人族の村と変わりがないように見えた。

 里の中に人が少ないように思えるのは、単に住人の数の違いなのだろう。

 木造の平屋建ての家屋が並んでいるが、きちんと手入れされているようだ。


 ただ、当然ではあるが、見かけるのはエルフだけだ。


 リズに付いていくと、里の中でも大きな家屋に着いた。


「お帰り、久しぶりだねエリザベト。20年ぶりくらいか?」

「ただいま帰りました、お兄様。18年のはずよ?」


 迎えてくれた青年、リズと同じグレーに近い銀の長髪の青年は、リズの兄のようだ。

 悔しいがイケメンだ。

 何が悔しいのかは分からないが。


「リズ、こちらは?」

「光の竜王、シルヴェストル様よ。いま一緒に旅をしているの。」

『シルヴェストルだ。よろしく。』

「竜王様でしたか。私はアルベルト。この月の氏族の長を務めさせて頂いております。お見知りおきを。」


 氏族の長、ってことはこの村か一族の長かな。


『ほう、リズは族長の妹だったか。それなりの地位にあるとは思っていたが。』

「黙っててごめんなさいね。驚かそうと思ってたけど、あまり効果はなかったみたいね。」

「全くリズは・・・うちの妹が色々とご迷惑をおかけしておりませんでしたか?」

『いや、色々と助けられている。ただな・・・すぐ抱き着かれるのが。』

「あら、そんなこと兄様に言わないでくださいよ。それに妻になるのだからいいじゃないですか。」

「妻・・・だと・・・?」

『俺は竜王なので性別もないし、子孫も残せぬと言っているのだがな。いくら言っても聞いてくれぬのだ。どこまで本気かも分からぬしな。』


 しっぽが抱き枕になるのはいいが、体に抱き着かれると動けないのが困る。

 嬉しいのは嬉しいのだけども。


「そういう事でしたか。リズが結婚する気配がないので心配しておりましたが、竜王様に懸想とはまた・・・ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

「迷惑ってなんですかお兄様!」

『別に迷惑とは言わぬが、リズがそれでいいのかと心配でな。』

「心配してくださるのですか。嬉しいですわ。」


 俺の妹は嫁にはやらん!等と(こじ)れることがなくて良かった。

 そもそも、シルは(めと)ることを認めてないので、言われてもお門違いなのだが。


「しばらくはゆっくりとしていくのか?」

「いえ、挨拶に寄っただけなので。長老達にも挨拶した方がいいかな?」

「竜王様がよろしければ、ぜひ。」

『長老?』

「この月の氏族以外も含めて、年齢が1,000歳以上の長老の集まりが長老会なの。一応、人族でいうところの王や大臣の集まりみたいなものだけど、お年寄りがお茶してるだけね。」


 長老をお茶しているだけの年寄り扱いとか、リズも辛辣だ。

 ただ、本当にそれだけの可能性もあるが。


『ここ以外にも村や街があるのか?』

「里の中でも、分かれて暮らしていますので。この月の氏族以外には、()、風、土、水の各氏族がおます。」

『かなりいるのだな。』

「各氏族の人数も少ないので、それほど多くはありません。リズのように里から出ているものも含めて、1,000人いるかどうか、でしょうか。」


 エルフの数は、思ったよりも少ないようだ。


『その人数でも維持できるのは、その長命と魔力の高さがあるからか。』

「はい、人族のような寿命では、エルフは絶えていたでしょうな。逆に長命だからこそ、あまり増やさなかったとも言えます。」

『なるほど、そうとも言えるか。では、長老へも挨拶をしておくとしようか。』

「ありがとうございます。明日改めて挨拶に行くと伝えておきますので、今日はこの家でお休みください。」

『助かる。あと、それほど畏まらなくてもよいので、楽にしてもらえれば。こちらも気が楽なのでな。』

「恐れ入ります。しかし性分でなかなか直すのが難しくて。」

『無理はしなくてもよいのでな。』


 アルベルトも氏族長なので、そんなに下手(したて)に出る必要もないのだが。


「シル様、料理するのでボアの肉を出してくださいな。捌いたのまだありましたよね?」

『ボア自体はあるが、捌いたのはないな。アルベルト殿、ボアを捌く場所を貸して頂けるかな。』

「裏庭に水場がありますので、そちらでよろしければお使い下さい。しかし、それくらいこちらでやりますが?」

『ああ、まだうまく捌けなくて練習中でな。リズ、見てくれるか。』

「はい、ビシバシ厳しくいきますからね!」

『お前も失敗するではないか・・・。』

「もう! わざわざ兄様の前で言わなくてもいいじゃないですか!」


 騒ぎながら裏庭に出ていく2人を見て、満更でもないじゃないか、と妹の様子に嬉しそうに目を細めるアルベルトであった。


 その夜、一人で寝ると言うシルを無視して、抱き抱えたまま自分の部屋に戻る妹を見てしまっては、困惑するしかなかったが。




 ◇ ◇ ◇



 翌朝、午前中の早めの時間に、長老の元へ向かった。

 全氏族の集まりなので、この村の中ではなく、外にあるのだそうだ。

 村の外れにある、鍵のかかった小屋の中には、魔法陣が設置してあった。

 そこに、アルベルトが魔力を注ぐと光りだした。


「では、お乗りください。」


 アルベルトに促されて、魔法陣の上に乗ると、途端に光に包まれる。

 気が付くと、別の場所にある魔法陣の上だった。

 魔法陣を降りると、リズとアルベルトが順に現れる。


『転移の魔法陣か。調べてみたいな。』

「今の我らに、これを作ることができるものはおりませんので。」

『では仕方ないな。魔法陣を覚えておくだけにしよう。』

「おぼえても、魔法には使えないですよ。」


 その程度のことは、当然試しているとのことだった。


『なるほど、その程度は無論試しているか。』

「魔法陣は未だに解明されてない事が多すぎて駄目なのよ。」


 なるほど、みんな丸覚えをしているだけで、意味は分からないらしい。


「月の氏族、アルベルト入ります。」


 そうこうしている間に、扉の前に着いていたようだ。


「おお、白竜ですか。光の竜王様ですな。」


 部屋の中は会議室のような造りで、大きな会議卓の周りに高齢と思われるエルフ達が座っていた。

 多少壮年程度のエルフも混じっているが。


『ああ、閃光竜シルヴェストルだ。』

「クラウ・ソラス殿はどうなさったのでしょう。」

『俺も知らないが、カリバーンが言うには、転生に失敗して俺が新たな光の竜王になったのでは、と言う事だ。』

然様(さよう)でしたか。ともあれ、シルヴェストル様、よくいらした。」

『先の通り、俺にはクラウ・ソラスの記憶は引き継がれていない。色々と頼らせてもらうかも知れぬがよろしく頼む。』

「いやいや、此方こそ。お見知りおきを。」

「シル様には、私が付いていますので、ご心配なく。」

「月の所の妹か、よろしく頼むぞ。」

「はい、お任せを。ね、シル様。」

『ああ、リズ・・・エリザベトには世話になっている。』

「我々エルフは、竜王と大精霊のお力になり世界の理を守るよう、言い伝えられております。お気になさらずに。」


 エルフの長老達との挨拶は、和やかなまま終了した。

 アルベルトの家まで戻り、次の目的地である獣人領について聞く。


「最近は新しい王が立ったようです。強いだけでなく、為人(ひととなり)もよく善政を()いているようです。」

『では、安心して進めそうだな。』

「ただ、強い者を見ると、すぐ戦いたくなるそうで。ご注意ください。」

『戦うと言っても、模擬戦であろう? 命のやり取りにならねば大丈夫だろう。』

「そうですが、街に寄らずに風の谷に向かった方が良いかも知れません。」

『それも考えておこうか。』


 そのままアルベルトの家で、もう一晩世話になり、翌朝早く獣人領に向けて出発する。


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