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世界旅行へ

「では、第一回シル様を小一時間問い詰める会を開催します。」


 リズが突然こんなことを言い出したのは、ベヒモスの元を辞した後の野営の時である。

 真面目なのだか巫山戯(ふざけ)ているのだか良く分からないが、とりあえず神妙にしておく。


『はい・・・。』

「異世界ってどういう事かしら?」

『俺が竜王らしいのは、カリバーンもベヒモスも言ってるので、多分確かな事。先代の閃光竜が転生に失敗したのかどうかは分からない。』

「それは前から言ってますよね。」

『で、俺はこの体に生まれる前は、異なる世界の人間だったんだ。魔法も無い代わりに、科学という力で文明が発達した世界。そこで約40年生きてたんだけど、気が付いたらこの世界で竜になってた。』

「どうしてこの世界に?」

『分からない。カリバーンが言うには、創造神が何かをさせたくて呼んだんじゃないか、ってことだけど俺にはさっぱり。』


 むしろ俺が知りたいんだよね、その理由は。


「それを黙ってたのは、異世界の知識のため?」

『そう、思わぬ富や争いを生む可能性があるから、黙ってた方がいいらしいから。ほら、俺って生まれてから数ヶ月しか経ってないけど、魔術で色々やってるでしょ。向こうの世界に魔法はなかったけど、色んな現象がどうして起きるのか、ってことは結構解明されててね。』

「向こうでは学者とか研究者だったんです?」

『いいや、ただのサラリーマン・・・ええと、こっちで言うと魔道具作る職人のまとめ役みたいなことかな。そんな仕事をしてただけで、特に知識が多い訳じゃないはず。』


 一応大学は出ているので、最低限の知識はあるけど、研究者と呼ぶほどの知識はないし、学生の頃に覚えた事なんてあまり覚えていない。


「文官と職人の間みたいな感じかしらね。」

『文官が具体的に何をしてるのか分からないけど、そんな所かな。』

「魔法もなかった世界にいたのに、魔術はすぐ使いこなせちゃうのね。」

『そこは竜王の持って生まれた力のお陰じゃないかな。知力が高いせいか、自分で言うのもなんだけど、向こうにいた時よりすごく頭が良くなってる気はする。』


 本当に竜の能力ってすごいよね、と思う。

 腕力や魔力もそうだけど、知力が高いお陰か、当時は理解できなかったことも、今では理解できたりもする。


「どちらにせよシル様はすごいってことなのね。」

『おだてても、何も出てこないよ。』


 と言いつつ、ストレージから酒を出してやる。

 甘めの果実酒で、リズが好きなやつだ。


「ありがと、いただくわ。」


 機嫌も良くなったのか、ニコニコしながら酒を飲んでいる。


「でも、誤魔化されないわよ。なんで本名知ってたんです?」

『簡単な事で、鑑定が使えるからだよ。それで本名もわかった。』

「鑑定では、ちゃんとリズって出るはずなのよね。なんでかしら。」

『それはなんとも。使えるのは簡易鑑定で、人間相手だと、名前、種族、位階だけだし。本名は言わない方が良かった?』


 この理由は本当に分からない。

 異世界人だから? 竜王だから?

 カリバーンやベヒモスも看破していたから、恐らく後者なのだろう。


「精霊相手ならいいですけどね。人間相手にはやめておいて欲しいかしら。」

『ん、分かった。』


 コトリ、と作ったばかりのオリハルコンの短剣を取り出す。


「鍛冶の道具も炉もないのに、これはどうやって?」

『土の魔術でやっただけだよ。鋳造したのとほぼ一緒のはず。ちゃんと鍛造した武器に比べると脆いはずだから気を付けて。』

「火じゃなくて土なのがよく分からないわ。」


 この辺りは異世界知識が前提なので、説明してみる。

 リズもエルフで位階も高く、知力が高いためある程度は理解できるようだ。


 火は温度、つまり物質の熱エネルギーの操作。

 土は固体、水は液体、風は気体の操作。

 この辺りまでは何となく理解できるみたいだが、雷は無理だったようだ。

 自分の体を含めて、世の中が素粒子で構成されているとか、そう簡単には理解できないだろう。

 光の回復における、細胞の説明も同じく無理だった。

 地道に、中高レベルの理科全般を説明していかないといけないかな。


『ところで、俺からも確認したい事があるんだが、当然いいよな?』


 ニッコリしてみたつもりだが、竜の顔でも通じるかな。


『誰が誰の妻かな?』


 すーすー、と音が聞こえてくるのは、口笛で誤魔化そうとして吹けてないからか。

 こんな所にも日本との共通点が、と下らない事で驚く。

 もちろん、巫山戯(ふざけ)ているだけだろうが。


「ほら、パーティーのパートナーだし、似たようなものじゃありません?」

『リズには世話になってるからいいんだけどさ。そんなこと吹聴して大丈夫なのか?』


 気にしているのは、リクシエールという家名を背負った立場なのに、勝手に結婚したことにしてどこかから怒られないか、と言うことだ。


「もう里を出た気楽な立場よ。気にしなくて平気だわ。」

『次は、そのエルフの里の方に行くつもりなんだが?』

「あー、まあ平気よ?」


 目が泳いでいる。


『そうか、大丈夫なら一度ピノンに戻ったら、準備して行くか。』

「え、ええ、もちろん大丈夫よ。」


 本当に平気か怪しいが、気にせずに行くとしよう。



 ◇ ◇ ◇



 街に戻るのは、往路よりも当然早かった。

 どこにあるかも分からないものを探してウロウロしなくても良くなったので。

 魔物に遭遇しても、相変わらずすぐに討伐は終わってしまう。

 そうして、道中で集めた魔物の死体は、ピノンの街の冒険者ギルドに、持ち込まれるのであった。


「これだけの魔物を・・・助かります。」


 解体用の部屋にうず高く積まれた死体、つまり素材の山を前にギルドの素材担当の職員は嬉しそうだ。


「それでは、解体と査定をよろしくお願いしますわ。」


 ギルド職員に依頼をして、リズの家に戻る。


「次はどうするつもりですの、シル様。」


 夕食を食べながらの会話の中で、リズが確認してくる。


『他の竜王のところを巡ってこようかと。一人で気ままに、ってつもりだけどリズも付いてきたいよね。』

「そうね、この街は居心地もいいんだけど、ずっとこのままでってつもりもなかったし。大精霊の加護がもらえるかも、ってのも魅力よね。」

『急ぐ訳でもないし、一緒に行くか。』


 シルとしてもリズがいてくれると、色々と助かるのは確かだ。


「シル様の妻ですからね。ふふふ。」

『まだ言うのか。周囲の認識って既成事実で、固めるつもりか?』

「あら、そこまで考えてはいなかったんだけど、確かにそれはいい手ね。」

『ああ・・・墓穴だったか。』


 やってしまったようだ。

 リズならばそこまで企んでいるのかと思ったのだが。


「冗談ですよ? そうなれば嬉しいですけど。」


 リズがくつくつと笑いながら答える。


『そう言いつつ、今後はそれで貫くんだろう?』

「なんの事かしらね? 私からはこの世界の知識や常識、シル様からは異世界の知識、お互い様でいいんじゃ?」

『確かに、この世界の常識にはまだまだ疎いから、それは助かるんだよな。』


 エルフとしてそれなりに長く生きたリズの経験と知識は、余計な揉め事を避けていくためには在り難い。


『次に行く場所だけど、風の竜王と大精霊を考えてる。山脈沿いに東に行った獣人領らしい。なので、よければ途中にあるエルフの里にも寄るけど。』

「そうね、たまには里帰りもいいかしら。」

『別に里を追い出されたとかはないよな?』

「ないわよ? 帰ったら色々面倒そうではあるけど。」


 家名を隠しているから、やっぱり何かあるのだろうか。


『帰ったら二度と里から出られないとかは?』

「ないとは言い切れないわね。でも、力ずくで逃げればいいだけだし。」

『大変なんだな。じゃ、東に向かってエルフ里に向かうってことで。その後、獣人領に入って風の竜王。南の帝国領の先に雪原に向かって水の竜王。帝都方面に向かって雷の竜王。』

「けっこう、と言うかかなりの長旅ね。食料はある程度は現地調達としても、塩とかの香辛料は用意しておかないとかしら。」


 水は魔術で集められるし、肉は魔物を狩れば手に入る。

 しかし、塩や胡椒は簡単には手に入らない。


『野菜もかな。ストレージに入れておけば傷まないし。』

「便利ですよねーほんと。それじゃ、明日買い出しして、ギルドにも言っておきましょう。」


 大まかな予定も決まったので、休むことにする。

 普段ならしっぽだけなのだが、今日は体ごと捕まってしまった。

 柔らかさに包まれて眠りにつくシルだが、リズの言うとおりになる日も遠くなさそうなのであった。



 ◇ ◇ ◇



 冒険者ギルドのギルドマスター代行のラングに、旅に出ることを伝えると残念そうであった。


「強力な戦力が2人もいなくなるのはつらいんだがな。仕方ないか。」

『すまんな、俺の用事だがリズもいてくれると助かるのでな。』


 ソファに座るリズに抱えられたままのシルが偉そうに答えるが、扱いは猫と変わりないように思えて仕方ない。


「平和な街だし、私がいないと困る依頼もなかったし、大丈夫ですわよ。」

「まあ、そうなんだがな。」


 名残惜しそうにしているラングに別れを告げてギルドを出る。

 もちろん、討伐報酬と素材の代金を受け取った後に。


『カーク、世話になったな。お前がいてくれて助かった。』

「あんな風に驚かされるのはもう勘弁してくれな? じゃ気をつけてな。」

『カークも壮健にな。』

「またね、カークさん。」


 門を出て、東に向かって2人は走り出す。


「常識外れな早さだな、ほんと。」


 すぐに見えなくなる2人の姿を見送るカークの声は寂しそうだった。


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