土の精霊
ギルドで、引き渡した討伐証明に対する報酬と、素材の代金を受け取る。
解体代行料を引かれても、金貨2枚ほどになったので、リズと半分にする。
掲示板の依頼を確認しても、やるべき依頼はなさそうだ。
『土の大精霊について、何か知っていることは?』
「大精霊は分からないわ。精霊ノームは南東にある岩石砂漠にいるって伝承はあるけど、実際にあった事はないわね。」
その岩石砂漠は、カリバーンのいた洞窟の前に広がっていたものだろう。
『では、その砂漠を少し調べてみるか。』
「大精霊に何か用があるの?」
『カリバーンに、各地の竜王と大精霊にあっておいた方がいいと言われてるんだ。』
「堅土竜カリバーン、そんな凄い竜と・・・と思ったけど、シル様も竜王だったわね。」
『らしくなくて悪かったな。』
見た目はただのちっこい竜だからな。
「拗ねないでよ、愛らしい姿で好きよ?」
『こう、威厳とかそういうのが欲しいんだよ。』
「成竜、いえ若竜になれば出てくるんじゃない?」
『だと、いいんだが。』
ギルド内の酒場で、昼間から酒を飲みながらの話しだが、周りには聞こえないようにしている。
竜王とか大精霊とか、他の冒険者に知れたら面倒なことになるのは確実だ。
『で、砂漠まで行くが付いてくるか?』
「もちろん、大精霊に会えるのかも知れないし、位階上げにもなるし、一人より安全だし、何よりシル様のお側にいられるしね。」
『相変わらず、口の減らない奴だな。』
性欲がなくなっているので、どうこうするつもりもないし、そもそも出来ないのだが、やはり綺麗な女性がそばにいるのは嬉しいのだ。
それにリズの魔法、魔術の腕が確かなのは、魔術について教えた自分が理解している。
ギルド職員に、岩石砂漠の調査に行くので暫く不在にすることを伝えると、できればついでに取ってきて欲しい素材を頼まれた。
そこでしか採れない薬草と、ピノンに来る際にも狩った魔物の素材である。
好き好んで砂漠に赴く冒険者は、そうそういないので、回収してきてくれると助かるのだそうだ。
ギルドを出たら、また買い出しである。
今回は期間が分からないので、多めに食料を買っておく。
砂漠では、肉が食べられる魔物を見かけなかったのだ。
また、リズの使う矢も多めに用意しておく。
翌朝早く、街の門が開いてすぐの時間に2人は街を出た。
その日は、森と砂漠の境界まで進み、そこで野営する。
『さて、明日から砂漠に入るけど、どう探したものかね。』
「堅土竜様からは何も聞いてないんです?」
『近くにいる、と言うことくらいしか。』
「そもそも妖精だし、どこかに行けば会えるとか、そういうのじゃないのかしら。」
『それはあるかもね。魔力感知をしながら様子を見るしかないかな。』
シルが魔力感知にかかる何かがないかを探りながら、砂漠の中を進んでいく。
そして岩石砂漠に入ってから5日目、かなり奥まで進んで来たところで、異質な魔力を感じたのだ。
そこには、魔物も何もいなかった。
何かないかと周囲の魔力を探っていると、ふわふわと何かが浮かんでいるのが感じられた。
目には見えないのだが、魔力的には確かに何かが浮いているのだ。
それは、まだ魔力感知がうまくないリズにも確かに感じられた。
「もしかして、微精霊かしら。」
『微精霊? 精霊とは違うのか?』
「すごく小さくて弱い精霊よ。力もないけど、精霊であることは確かにらしいわ。」
微精霊らしきものは、シル達が近付くと、こちらに来いとばかりにその体を揺らしながら進み出す。
魔物と遭遇すると、魔物の存在感と魔力のために一時的に感じられなくなるが、戦闘が終わってから探すと、きちんと待ってくれているようだった。
2日間、そんな旅を続けていると、不思議な場所に出た。
ただの大きめの岩山に見えるのだが、何かが不自然なのだ。
近付いて、周囲の魔力を探ってみると、何もない場所に確かに何かがあるのだ。
『結界? 単なる隠蔽とはすこし違う。認識を捻じ曲げて何もないことにしている?』
「私にはよく分からないわ。」
結界近くで急に魔力反応が出現し、2人があわてて距離を取ると、地面から小人が出てきた。
小人と言っても、シルより少し小さいくらいだが。
『おう、確かに竜王だな。契約がないってことは新人か? いま開けるから待ってくれ。』
いきなり一方的に話すと、結界があるらしき場所に手をかざす。
すると、いきなりそこにある空間が裂けたように見えた。
その裂けた先には、洞窟の入り口があった。
『ほれ、早く入れ。何に見つかるか分からねーからな。』
促されるまま、2人は小人に続いて裂け目を通り、そのまま洞窟の中へ誘われる。
「貴方は精霊? 私達を結界の中に入れて良かったの?」
『竜王だから問題ないだろ。あんたは竜王の付き人か? エルフとか珍しいが。あ、僕は精霊ノーム。よろしくな。』
『ノームか、案内すまぬな、助かる。こやつについては、後で大精霊の所で説明でよいか?』
『それでいいよ。早く行かないと待ってるしな。』
やはり、このまま大精霊の所まで案内してくれるようだ。
ノームに連れられ、洞窟の奥に向かうが、すぐにカリバーンがいたような神殿のような造りになる。
そして、辿り着いた大きな扉の奥には、巨大な魔物と言ってもよい存在がいた。
全長は10mくらい。尻尾を含めるともう少しある。
カバをものすごく獰猛で攻撃的にして、角、牙、鬣をつけた感じとでも言おうか。
『新しい竜王か、よく来たな。儂の名は土の大精霊ベヒモス。』
『閃光竜シルヴェストルだ。先代クラウ・ソラスが転生に失敗したらしく、記憶がない故、一度挨拶にと思ってな。』
『ふむ、竜王に異世界のものの魂が入るか。大変であったろう。』
鑑定で見られたのだろうか。
すぐに異世界人だとばれてしまったようだ。
「異世界? シル様、それはどう・・・」
『リズ、それは後で。ああ、こいつはエルフのエリザベト・リクシエール。エルフの里のそれなりの者らしいが、詳しくは俺もよく聞いていない。今は俺の旅の仲間だ。』
「シル様、どうしてその名・・・」
『エルフを番に選ぶとは、さすがは異世界人だな。』
『いや、竜王に番はない・・・』
「さすが大精霊様! シル様の妻だと分かっちゃいましたか!」
会話がかなりカオスになっている。
まあ何となく話しが進んでいるのでいいだろう。
だが、後でリズにはお仕置きが必要そうだ。
こっちも勝手に本名言っちゃったけどな。
『さて、竜王シルヴェストルよ、儂の試練を超えた暁には精霊の加護を付けてやろう。要は儂とノームが力を借りる貸してやる、と言う訳じゃ。やるかの?』
『ああ、もちろん。』
何をやらされるのか知らないけど、死にはしないだろう。
『エルフの娘はどうするのじゃ。』
「私もいいんですか?」
『うむ、そなたにはまだ力が眠っておるようじゃ。今後の助けにもなろう。』
「では、お願いいたしますわ。」
『よろしい、2人とも付いて参れ。』
ベヒモスに連れられ、奥に向かうと、カリバーンの時と同じような広間であった。
『試練と言っても、別に難しいことではない。土の力だけでこれを壊してみよ。』
ベヒモスの両隣に、全長3m近い岩で出来た人形が地面からせりあがる。
ストーンゴーレムだろうか。
『これは守るだけで手は出さんので、安心せい。どちらから行くかの。』
『俺からやろうか。リズはそれを見て参考にすればいい。』
「あら、助かるわ。頑張ってね。」
シルはゴーレムから10mほど距離をあけて対峙する。
『それじゃ、様子見で。』
地面から石槍を20個ほど作り出し、一斉にぶつける。
ゴーレムは腕を振るい、それを撃ち落として行くが何個かは直撃させることに成功する。
しかし、少しヒビが入ったり抉れたりしただけで、それもすぐに修復されてしまう。
『うん、さすが硬いね』
今度は鉄製の大きな刃を作り出して投げつけるが、両腕で防がれてしまい、片腕を落とすにとどまる。
落とした腕も、すぐにふわっと浮いたかと思うと、元の位置にくっついてしまい、何もなかったかのようだ。
『斬るのもだめか。』
『諦めるのかの?』
『まさか、次行くよ。』
今度はかなりの量の魔力を消費して、また地面から何かを作り出す。
それはみるみる大きくなり・・・ベヒモスのつくったゴーレムの3倍くらいの大きさのゴーレムになった。
しかも、腕だけは金属にしている。
『ほう、これはすごいのう。』
楽しそうに呟くベヒモスを尻目に、シルのゴーレムは前に出て大きく腕を振り上げる。
そのまま頭上で腕を合わせて、一気に振り下ろす。
ベヒモスのゴーレムもそれを受け止めようとするが、なんの抵抗もなかったかのように叩き潰され、巨大なクレーターが残るのみだ。
『これはこれは、見事なもんじゃ。合格じゃ。ただ床は壊さんで欲しいがのう。』
ベヒモスがそう愚痴りながら床を修復していく。
『ああ、それは申し訳なかった。しかし硬すぎるから仕方無いだろう。』
『こんなのは想定外じゃて。』
『リズ、どうだ? 参考になったか?』
「バカじゃないの? 参考になるとかそんなものじゃないでしょうが! 私はまだ魔術を使いこなせるところまできてないのよ?」
リズも呆れるしかない。
これをどう参考にしろと言うのか。
と口で言いつつ、最初の2撃で硬さと回復は把握できた。
「それじゃ、私も行きますわ。」
リズは目を閉じて集中し、イメージを固めていく。
そして魔力を練り上げて、一本の石槍、いや鉄での槍を作り出す。
ただ、それは細かった。レイピアのように細く鋭かった。
それを撃ち出すためにぐっとためを作り、そこで静止する。
目を開き、ゴーレムをじっと観察する。ゴーレムの中を流れる魔力の流れを見極めるために。
そして探していたものが見えた瞬間、思いっきり腕を振り、高速で槍を撃ち出す。
ゴーレムは腕で防ごうとするが間に合わず、その体を貫く。
ヒビもなく、まるで最初から生えているかのようだ。
ゴーレムはその体を維持できなくなったのか、砂のように一瞬で崩れる。
その後、リズも極度の緊張から開放されたのか、その場にへたる。
『これもまた見事。魔力の流れを司る1点のみを破壊したか。』
『あれ、核とか魔石みたいなものなかったよね?』
「ええ、なかったわよ。でも魔力が流れが偏るところがあったのよ。それが常に動いてるから狙うの大変だったわ。」
リズがゆっくりと立ち上がる。
よっこらせ、と聞こえてきそうだ。
『2人とも、よくやった。では、加護を与えよう。』
ベヒモスから茶色の光が無数に立ち昇ると、2人の周りを旋回し、やがて吸い込まれていく。
『これで、土の術式の威力と効率が上がるし、儂の分体とノームを召喚できるようになる。ノームは、複数呼び出せるぞ。』
頭の中に、それぞれの召喚魔法の魔法陣と詠唱が浮かんでくる。
更に土魔法の魔法陣と詠唱、起句も浮かんでくる。
「これは超級魔法?」
『魔術が使えるからあまり必要ないじゃろうがな。』
リズは魔法を覚えられて嬉しそうだが、シルにはもっと気になることがあった。
『ここの地下に希少金属が埋まってるみたいなんだが、もらってもいいかな?』
『そうじゃな、それぞれ3割くらいまでならいいぞ。』
『それは助かる。早速失礼して・・・』
シルの魔術により、地面から金属の塊がぽこぽこと出てくる。
「銀に金、白金に霊銀? 神金も!? これは・・・?」
『金剛鉄じゃな。』
「これだけで、一生遊んで暮らせそうなんだけど。」
『これだけあれば、新しい俺の武器も作れるかな。』
シルが鋼で作った日本刀もどきを取り出す。
『ほう、鋼でできておるが、硬度が随分と高そうじゃな。』
『そうなるように作ったからな。ベヒモスは鍛冶に詳しい?』
『芸神には敵わんがそれなりにな。』
『芯をオリハルコンにしてアダマンタイトを被せるのと、逆にするのはどっちがいいかな。魔力の伝達効率と硬度を両立するには。』
『芯に少しだけミスリルとプラチナの5対5の合金を入れて、その上にオリハルコン、最後にアダマンタイトを被せるのがええじゃろ。』
ベヒモスの言葉を参考に、日本刀を作っていく。
今まで使っていたのに対し、より長くなることで大太刀となり、反りは小さく直刀に近くなっている。
刃は少し白っぽいが鎬は青、美しい刃文が、浮き上がっている。
魔力を通すと、薄っすらと白く光り、刃文が揺れているようだ。
「きれい・・・」
『うむ、美しいな。』
『いい感じにできたね。』
何回か大太刀を振ってみるが、重心も問題ないようだ。
「これ売ったら金貨何百枚になるかしらね?」
『売らないからね?』
別にお金は食料品を調達する分くらいしか要らないしね。
「弓も作れます?」
『リズは既にすごいの持ってるじゃないか。』
「まぁそうなんですけど。」
『作るなら魔術の補助用の短剣か短杖かな。』
「造ってくれるんですか? なら短剣で両刃で広め、刃渡り30cmくらいで柄が長めがいいです!」
『やけに細かいな。どれどれ・・・』
アダマンタイトを被せないで、外装はオリハルコンで仕上げる。
少し幅が広めの直刀で、オリハルコンなので金色に光っている。
刀身にほぼ湾曲はないため、三角形に近い感じになっており、真ん中には何本かの溝が走っている。
腰に装備できるよう、アダマンタイトで鞘を造り革を巻いておく。
「問題なさそうね。」
リズは短剣を手に、本当に嬉しそうだ。
短剣が嬉しい事より、シルに作ってもらった事が嬉しいのだが、シルがそれに気付く様子はなかった。




