パーティー
リズの家は、少し中心から外れた住宅街にあった。
大きくはないが、一人暮らしなので丁度よいのだろう。
いざ入るとそこは汚部屋・・・と言うことはなかった。
あの性格なので、と不安だったのだがこまめに掃除をしているようだし、冒険者なので荷物もそれほど多くない。
食事は途中で買ってきたもので済ませ、風呂も借りてさっぱりできた。
風呂がついた家は少ないのだが、リズはこれだけでこの家を契約することに決めたのだそうだ。
一緒に風呂に入ろうだとか、ベットで一緒に寝ようだとか、どこまで本気か分からないリズだったが、そこは固辞した。
ソファでも、十分に気持ちよく寝れるのだ。
シルは、リズが寝ている間にそっと簡易鑑定で確認してみた。
名前: リズ(エリザベト・リクシエール)
種族: エルフ
位階: 43
本名があっさり判明したが、家名がついている時点でやはりそれなりなのだろう。
これは、知らない事にしておいた方が良さそうだ。
翌朝は、途中でサンドイッチを買って食べながら、冒険者ギルドに向かう。
一応、急ぎの依頼やリズがやらないとまずそうな高難度な依頼がないか、毎日確認するのだそうだ。
「南の森の奥でオーガが出たみたいだけど、これは大丈夫そうかしらね。」
あまり積極的に依頼は受けず、基本は適正レベルの冒険者に譲っておき、誰もやらなさそうなら受けるそうだ。
『では、外で昨日の続きをするか。』
連れ立って街の外まで出ていく。
今日は、まずリズに他の魔法を見せてもらう。
昨日は火を扱ったが、実はあまり得意ではなく、風土水光が得意、火雷が苦手、闇は使えないのだそうだ。
下級、中級の魔法をそれぞれ見せてもらい、順に魔法陣と詠唱を覚えていく。
詠唱短縮と無詠唱は、全部やっていたら時間がかかってしまうので、またの機会にしておくことにした。
これでシルは、【風魔法】【土魔法】【水魔法】【雷魔法】【光魔法】のスキルを覚え、【魔法士】の称号を手に入れた。
それが終わると、リズの手にまた魔力を流して操作する練習をしてもらう。
その間にシルは、魔法と魔術で魔力を消費が変わるか確認してみる。
ストーンバレットやウインドエッジのように、単純なものであれば多少魔法の方が少ない程度だが、水魔法などは一手間かかるため。発動の速さも消費魔力も魔法の方がよかった。
ただ、威力だけではなく、射程、効果範囲、持続時間と好きに決められる魔術の方が、やはり使い勝手がよかった。
それに、単発なら魔法だが、多重発動をさせる、つまり同時に複数の魔法や魔術を並行して発動する場合には、魔術が圧倒的に効率が良かった。
魔法は、同じものを複数発動させても、普通に発動させただけ魔力が使われるが、魔術はまとめて作り出すので非常に効率がいいのだ。
これが異なる術や異なる属性を同時に使おうとすると、魔法では複数の魔法陣を並行して描くことになり、難易度が跳ね上がる。
リズで2つ、シルでも3つが同時発動の限界だった。
それに対して魔術は、術や属性が異なっても、まとめてイメージするだけなのだ。
そこで、一度お昼休憩にする。
予め買っておいたパンと肉の串焼きをストレージから取り出して、リズと一緒に食べる。
「シル様のそれって、アイテムボックスですか? 温かいままってことは時間凍結の効果もあるんですよね。」
『いや、アイテムストレージなんだけど、何それ?』
「えと、違うんですか? アイテムボックスって魔道具知りません?」
リズが革製に見える袋を取り出す。
「これがアイテムボックスなんですけど。」
中から回復薬や、矢の入った矢筒を取り出す。
「結構中が大きめなんですよ、これ。でも時間凍結が付いてるやつは高くて・・・金貨何百枚もするし、滅多に売りに出ないんですよ?」
シルがストレージから取り出した串焼きは、買った時のままホカホカだ。
『ふーん、これ凄いんだ?』
「とっても凄いんですからね。もうずっと付いていこうかしら。」
相変わらず本気かどうかよく分からないが、慣れてきたのか気にならなくなってきた。
『さて、もう一つ検証に付き合ってれ。』
「何をすればいいのかしら?」
『俺の後に水魔法を使ってくれ。簡単なやつでいいから。』
そう告げると、シルは魔術と周囲の水蒸気をごっそり集めて巨大な水球を作り出す。
その後、リズが魔法を使っても、正常に発動しているにも関わらず、水が発生しない。
首を傾げながらも、再度発動させるがまた水は出てこない。
シルが、水球の身図を拡散させて大気に戻すと、やっとリズも魔法で作れるようになる。
『なるほど、やはり魔法でも無い袖は振れないか。』
「どういう事? 何が起きてたのか分からないんだけど。」
『俺が水を使い切ってたから、もう水が出せなかったんだよ。』
首をコテンと傾けて、理解できないをアピールしてくる。
だが、それをやって可愛いのは小さい女の子だ。80歳児では・・・と思ったが怖くて言えない。
まあ、美人さんなのでそれでも絵にはなるのだが。
『水魔法は魔力で水を作りだしてる訳じゃない。空気の中にある、細かい水を集めてるだけなんだ。だから、俺が水を使い切った後には、リズの魔法が発動しても水が出なかったんだ。』
リズは分かったような分からないような、といった感じだ。
ここは異世界で、ベースにある知識に違いがあるのでこれは致し方あるまい。
『ようは、周りにあるものを使い切ったら、魔法も効果がないこともあるってことだ。水と火くらいだろうけどね、気にしなきゃいけないのは。』
「なんとなく分かったわ。」
細かい理論は少しずつ伝えていけばいいだろう。
『では、リズの魔術の練習に戻ろうか。』
魔力操作にも慣れてきたので、それを放出する練習を繰り返す。
石を動かしたり、風を起こしたり出来るようになったので、あとは想像力と慣れだ。
二人で冒険者ギルドに戻ると、受付のおじさんが声をかけてきた。
「南の森で発見されたオーガが、上位種らしいとの報告があったんだ。2人に討伐を頼めないだろうか?」
「私は構わないけど、シル様はいかが?」
『俺も構わない。詳しい場所を教えてくれるか。』
「ありがとうございます。説明しますので、こちらへ。」
おじさんに一通り説明をしてもらう。
最低でもハイ・オーガ、もしかしたらオーガ・リーダーもいるかも知れないとの事で、報酬も上乗せがあるようだ。
説明が終わると、リズと二人でパーティー登録なるものをしてもらう。
リズも旅道具はアイテムボックスに入っているとのことなので、食料や水だけ買って、そのまま行くことにする。
市場で、惣菜や食材を買い出し、ついでにリズが酒も買ってから、街の外へ出る。
通常であれば、徒歩で3日ほどの距離だ。
森の中なので馬車はつかえない。
ただ、リズとシルのレベルなら、走った方が早いくらいではないだろうか。
『索敵はするので、走り続けられる最高速ですすんで構わないぞ。』
その言葉の通りに、2人は森の中を駆け進む。
エルフであるリズにとっては、森は障害にならないし、シルは飛んでいるのだ。
魔物に遭遇しても、シルが気配感知で気付き、2人で先制攻撃するので通り魔のように片付いていく。
死体も後で捌けばいいと、とりあえずストレージに放り込んでいく。
野営の準備も、リズは手慣れたもので、簡単に作ったという料理も美味しかった。
料理に関しては、シルはなんとも無力である。
不寝の番は、シルが寝なくてよいので問題ない。
ただ、安心しすぎているのか、リズがしっぽを抱えたまま寝てしまったのには困ったが。
「野営だったのに、こんなにぐっすり眠れるなんて夢みたいだわ。」
朝、寝覚めがよかったのか、リズはスッキリした様子だ。
ただ、若干血生臭い。
寝ている間に、近寄ってきた魔物をシルが倒しているのだが、しっぽを掴まれていて動けなかったので、死体をストレージに回収できていないのだ。
血の臭いが更に魔物を呼んでしまっているので、一旦野営を片付けて、少し移動してから朝食にする。
パンとスープだけだが、まだ柔らかいパンと、ちゃんと味つけをしたスープなので、通常の野営よりずっといいものらしい。
『今日中に目標と遭遇するかも知れないから、気を付けていこう。』
「私が見付けるよりもずっと早くに、シル様が見つけちゃうので、気の付けようがないんですよ?」
のんびりと会話をしながら、今日もかなりの速さで進んでいく。
『っと、それらしい反応があった。少し止まろう。』
「まだ見えませんね。」
『結構距離があるから、こちらに気付かれることもないだろう。そう言えば距離の単位ってあるのか?』
「そりゃありますよ。これくらいが1メートルですね。」
『良かった、俺の知ってる単位と同じようだ。』
シルはメートルのまま特に変換が要らないと言いて安堵する。
『ここから約2,500の所にいる。ほとんど動いてないな。』
「そんなに遠くまで分かるとかずるくないです?」
『ずるってなんだよ・・・。とりあえず気付かれないように300まで近付こう。』
「それくらいまで行けば数も分かりそうね。」
そっと気配を消しながら、しかし素早く近付いていく。
「オーガが4体、ハイ・オーガも4体、オーガ・リーダーが2体ですね。」
『思ったより多いな。行ける?』
「100メートルまで近付いて、そこから弓でオーガを倒しつつ足止めします。その隙に、リーダーやれますか?」
『それで行こうか。残りのハイ4体は臨機応変ってことで。』
「じゃ、やりましょ。」
リズはアイテムボックスから大きな弓と矢筒を取り出す。
美しい装飾も施されており、見事なものだ。
矢をつがえる準備をして、進軍を再開する。
シルも日本刀もどきを取り出しておく。
既に、視界にしっかりとオーガ達を捉えられる距離まで近付いている。
リズが見惚れるような美しい仕草で、矢をつがえる。
「クアッドショット」
静かに呟くと、矢を放つ。
それは4条の光となって、オーガ4体の眉間にまっすぐに吸い込まれていく。
「木々を守りし草達よ その身を以って戒め 敵を封じよ ソーンバインド」
矢が眉間に突き立ち、一瞬で命を奪うのと前後して、リズの魔法が発動し、残りのリーダー達の足に草木の蔓が絡みついて、その動きを封じる。
さすがにオーガ・リーダーは、すぐにそれを引き剥がし身の自由を確保するが、その頃には日本刀を構えたシルが目前に迫って降り、そのまますれ違う。
すれ違う瞬間に振るった刃は、リーダー達の頭と体に別れを告げさせており、巨体はそのまま血を吹きながら倒れるしかなかった。
ハイ・オーガは、まだ蔓に苦闘していて動けなかったので、あっさりと矢に貫かれるか、首を切り落とされるしかなかった。
『なんとも呆気ないな。』
「シル様が強いからですよ?」
『倒した数はリズの方が多いし、あの魔法のお陰だ。あれはなんだ?』
「エルフの秘伝なので秘密ですよ。」
『そう言われると、これ以上聞けないじゃないか。』
「ふふふ、シル様優しいですね。」
シルは、血振りをして日本刀の汚れを飛ばし、聞こえないふりをしながらオーガ達が何か持っていなかったか確認する。
オーガの持っていた木の棍棒と、ハイ・オーガの持っていたボロボロの大剣は使い物にならなそうだったが、リーダーの持っていた鉄製の大きな棍棒は使えそうだった。
人間が使うには大きすぎるが、鋳潰せばかなりの鉄が回収できそうだ。
『オーガは素材になるのか?』
「高額なものはなかったと思いますよ。シル様のストレージに入るなら丸ごとギルドに持っていって、解体を代行してもらった方が楽そうですね。」
『ギルドはそんな事までしてくれるのか。』
「もちろんタダじゃないわ。手数料はバッチリとられます。」
『それはそうか。タダならみんなそのまま持ってきてしまうしな。』
「そんなこと出来るのは、シル様くらいなんですってば!」
雑談をしながら、死体をストレージに回収していく。
こっそり肉を齧っていたが、オーガ・リーダーから、【身体強化】を手に入れていた。
「それじゃ帰りましょうか。」
『日が落ちるまでまだあるしな。』
街に向かってまた走り出すが、途中でオークの群れを見つけたので、進行方向とは少しずれていたが、これも片付けておく。
オークの他に、オークソルジャーとオークメイジがいたが、特に問題なかった。
リズの弓の戦技、アローレインにより、脳天に矢を受けて、ほとんどが即死であったし、運良くそれを受けなかったものも、シルの日本刀の餌食になるだけであった。
持ち物は大したものはなかったが、残念なことにギルド証を持っていた。
倒した冒険者のものを、わざわざ持っていたのだろう。
王都発行のものだったが、とりあえすこれはギルトに出しておこう。
なお、オークソルジャー1体は、すぐ食べられるようにその場で捌いた。
見た目は気持ち悪いが、肉としては美味しいのだそうだ。
そしてその肉は夕食として、おいしくいただきました。
ただ、その際に酒を呑んだリズがすぐに抱き着いてきて困ってしまった。
しっぽならまだしも、全身でくっつかれると、魔物が近付いてきた際に、迎撃ができないのだ。
結局は、昨日同様しっぽに抱き着くので我慢させた。
翌日は順調だった。
オークとの戦闘で、けっこう時間がかかったので街に入るのは無理だろうと思っていたのだが、なんとか滑り込みで間に合った。
遅くなったがギルドに報告しておこう。
ギルドの受付に行っても、職員は帰りの早さが信じられないようだった。
往復だけで6日くらいはかかるはずなのだなら。
持ってきた死体を見せると、ようやく理解してくれたが、そんなものをここに出すなと怒られてしまい、解体室で改めて死体を積み上げた。
道中で遭遇した魔物全部を、倒して持ってきたからだ。
解体代行と査定を依頼し、オークから回収したギルド証も渡しておく。
王都のギルドで発行されたものでも、ここで問題ないようだ。
一通りの話しが終わると、そのままギルド内の酒場に行き、依頼完了のささやかな乾杯をする。
また抱き着かれそうだったので、酒はほどほどにさせたが、酒を控えさせられたことに不満かあるようだった。
リズの家に帰ると、リズが体を洗ってくれた。
もちろんリズは濡れてもいい服を着たままだったのに、がっかりなぞしていない。
柔らかいブラシを使ってくれたのだが、なんとも心地良かったのだ。
シャンプーされるペットもこんな感じなのだろつか、と思ったが飼っていた猫は、当然猫なのでシャンプーは大嫌いだった。
こうして、シルの初めての依頼、初めてのパーティーは無事に終わったのだった。
なぜか、夜寝る際にまたしっぽに抱き着かれたのだが、抱き枕の役割を受け入れるしかなかった。




