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ギルド証

 ジェイクに案内されて向かったのは、ファラの自宅であった。

 3人とも実家暮らしだが、ファラの家が宿をやっているらしく、そこで歓迎の宴を開いてくれるとのことだ。

 その準備のために、ファラは1人別行動をしていたらしい。


 着いた場所は、ギルドからもほど近く、周囲と比較しても大きい建物だった。

 入るとすぐに、受付用のカウンターがあり、奥が食堂になっているが、そこの半個室を1つ押さえてくれていた。

 部屋に通されると、ファラの両親と兄がわざわざ挨拶に来てくれた。


「うちの娘が世話になったそうで、ありがとうございます。大したものは出せませんが、お礼をさせてください。」

『そんな礼をされるほどではないのだがな。断るのも無粋(ぶすい)だし、ありがたく頂くよ。』

「急だったので、本当にあるものだけですが、ぜひ。」


 この世界ではまだ野営食くらいしか見ていないが、しっかり香辛料が振られた肉や、新鮮な野菜のサラダ、具の多いスープ、柔らかそうなパンは、かなりの贅沢なのではないだろうか。


『これはかなり豪勢なのではないか? 逆に気を遣わせて心苦しいな。』

「命の恩人で、更に傷も癒やしてもらったとか。この程度では足りないくらいですよ。」


 シルは促される、席に着く。

 ジェイク、フィックはもう待ちきれない感じだ。

 冒険者としては一人前として扱われているが、美味しそうな食事を前にしては、まだまだこどもなのかも知れない。

 野営の際に、肉を出したときには、フィックは踊っていたくらいだし。


『それでは頂きます。』


 日本式で良いのか分からないが、こちらの作法を知らないし、どうせ自分は竜なので、合掌する。

 器用にカトラリーを手にすると、肉を口に運んでみる。

 明らかにマイティラットよりいい肉な上に、香辛料を使って旨味を引き立てており、思わず唸る。


『これはうまいな。やはり人間の食事は素晴らしい。』

「良かったー! シル様の口に合うか不安感だったんだ。」

「ファラ、お前が料理した訳じゃないだろう。」


 宿屋の跡継ぎで、ここの料理人でもある兄に(たしな)められるが、気にする様子もない。


「うちの娘が失礼なこととかしませんでしたか?」


 母親が不安そうに聞いてくる。

 よほど、心当たりがあるのだろう。


『特になかったので気にせずともいい。やたらと撫でられるのは少し困ったがな。』


 ジェイクとフィックは、料理を頬張りながら、うんうんと強く頷いている。


「シル様がいいって言ったからですー!」

『あんなにされるとは思わんぞ、普通は。それに少しと言ったはずだが?』

「聞いてませーん!」

「本当にこの娘は・・・」


 母親はおろおろしているが、父親と兄はいつものことのように呆れている。


「こんなんで、いつ嫁にいけるのやら。」


 母親がこぼすと、フィックとシルがすかさずフォローする。

 無論、からかっているだけだが。


「ジェイクが、早いところ覚悟決めないからだよー?」

『うむ、まだ両親に挨拶もしていなかったのか? 早く安心させてやるがよいぞ?』


 途端にジェイクとファラは顔を真っ赤にして(うつむ)く。

 ファラの家族は、あらまあ、といった感じでニヤニヤしながらからかっている。


「シル様! お酒は飲めますか? どうですか?」


 話を必死に逸らそうと、酒を勧めてくるが、まだこの体で飲んだことはない。


『酒は飲んだことがないし、何よりまだ体が幼体なのでな。』

「竜だし大丈夫じゃないですか? ほら、強いし!」


 強さと酒は関係ないだろうと思いつつ、勧められるがままに一口飲んでみる。

 果実酒のようで、爽やかで飲みやすいし、味の濃い肉料理にも合いそうだ。


『これも美味いな。高い酒ではないのか?』

「今日はいいんですー!」

「俺達はご相伴(しょうばん)にあずかれるだけで幸せだな。」


 ジェイクも、からかわれて照れていたのから持ち直したのか、酒を美味そうに飲んでいる。


「ジェイクの結婚式では、もっと美味い酒が飲めるのかなー?」


 またフィックにからかわれて、再び顔を真っ赤にしている。


 ファラの家族は宿屋の仕事があるので退席したが、3人と1匹はゆっくりと食事を楽しむのだった。

 

 その後、シルは寝る必要がないからと断ったが、1室を貸してくれると聞かないので、おとなしく屁屋のベッドで休んだが、こちらの世界に来てから初めてのベッドの前にしっかりと寝てしまうのであった。



 ◇ ◇ ◇



 はじめての酒を飲んだが、宿酔(ふつかよい)にもならずスッキリと朝を迎えられた。

 朝食にパンとスープの、簡単だが美味しい食事を頂き、宿屋を後にする。

 宿代を払うと言ったのだが、固辞されてしまい好意に甘えることにする。

 ファラと2人でギルドに向かうが、あとの2人はいつもギルドで落ち合うのだそうだ。


 ギルドに到着すると、すぐにギルドマスター代行のラングの部屋に通される。


「来てくれたか。ちゃんと確認が取れたので、ギルド証も作ってあるぞ。」


 そう言って、ラングは机から金属のカードを取り出す。

 死体から回収したギルド証と違い、金色だ。


「あっさりと認められてな。いきなり8級でいいそうだ。」

『そんないい加減でいいのか? 本来は大変なのだろう?』

「実力は確実に9級だが、さすがに最初から最高位はまずいと言うことでこうなったらしい。9級になるには試験もあるしな。」

『ふむ、ではこれで俺も冒険者だな。』

「シル様、いきなり8級とかさすがですね。おめでとうございます。」


 ファラも喜んでくれているようだ。


「ギルド証を保護するために、血を1滴だけ垂らして欲しいのだが。」


 ラングが何やら道具を取り出して、その上にシルのギルド証をセットする。

 この状態で血を垂らす必要があるようだ。


「一応短剣は用意したが、これでは刃が通らんかな。」

『刃を潰してしまいそうだな。自分の爪でやろう。』


 右前脚の爪で左前脚を引っ掻いてみるが、傷も付かない。

 なかなかうまくいかないのでムキになっていると、やり過ぎてしまい鱗が数米剥がれて、ボトボトと血が垂れてしまう。

 慌てて回復するが、ギルド証は血溜まりになっている。

 ギルド証が一度光り輝くが、血溜まりの中のままだ。


『すまん、やりすぎてしまった』

「別にこれで壊れはしないので、問題はないのだが・・・」

『自分の血でなんだが、竜の血と鱗は素材にならんか?』

「おお、確かに滅多に出回らない珍しい素材だ。」


 ラングが慌てて立ち上がり、棚からトレイと容器、スポイトを取り出す。

 スポイトを使って血を容器に移すと、50ccくらいはありそうだった。

 血を入れた容器と鱗をトレイに乗せると、大声で職員を呼び、至急査定するよう指示をだす。


「あと、昨日預かる素材と討伐証明の査定結果だが、一応説明しておく。」


 査定は大変だったようだ。


 ゴブリンの右耳 銅貨2枚 38匹

 マイティラットの歯 銅貨1枚 82匹

 レッサーロックリザードの爪 銅貨2枚 52匹

 レッサーロックリザードの皮 大銅貨1枚 48匹

 レッサーパラライズリザードの爪 銅貨5枚 14匹

 レッサーパラライズリザードの皮 大銅貨1枚銅貨2枚 9匹

 ケイブバットの牙 銅貨4枚 45匹

 ケイブバットの翼 大銅貨1枚銅貨6枚 43匹

 ジャイアントスコルピオの爪 大銅貨1枚 8匹

 ジャイアントスコルピオの針 大銅貨2枚 8匹

 ジャイアントスコルピオの殻 銅貨8枚 3匹

 ジャイアントスコルピオの毒袋 大銅貨4枚 2匹

 ジャイアントスコルピオの麻痺袋 大銅貨4枚 2匹

 レッサーバジリスクの爪 大銅貨1枚銅貨5枚 7匹

 レッサーバジリスクの皮 大銅貨2枚 5匹

 レッサーバジリスクの石化袋 銀貨1枚 2匹


 合計で、大銀貨2枚、銀貨1枚、大銅貨8枚、銅貨5枚 である。

 麻袋にそれだけ詰まっているのを確認する。


 ちなみに、皮などの数が少ないのは、捌く際に失敗したからだ。

 袋は、実際は繊細な内臓なので、傷付きやすくなかなか難しいのだ。


 確認が終わる頃に、職員が再度部屋を訪れれ、血と鱗の査定した結果として、金貨4枚を置いていった。

 血が3枚、鱗が1枚という内訳だ。


 ギルド証と麻袋を受け取り、ストレージにしまう。

 金貨は、ファラと、いつの間にか合流していたジェイク、フィックにそれぞれ1枚ずつ渡し、残りをストレージにしまう。

 ポカンとしている3人に説明してやる。


『ここまで案内してくれた報酬だ。竜が金を持っていても使い道がないのだ。取っておけ。』

「これは明らかにもらいすぎだ。」

「そもそも、助けてくれたお礼に案内しただけですよー?」

「金貨は要らないので撫でさせてくださいよ!」


 約1名、言っていることがおかしいが、気にしたら負けだろう。

 受け取らないとここで暴れる、等と言う訳が分からない脅しで無理矢理納得させる。


『では、鍛冶ギルドに行ってくるので、これでな。また後で依頼でも見に来る。』

「俺らもいい依頼がないか見てくるよ。」

「戻ってきたら、すまないが受付で冒険者ギルドの説明を受けておいてくれ。面倒だが決まりなんでな。」

『分かった。では行ってくる。』


 シルは、冒険者ギルドを出ると、鍛冶ギルドに向かう。

 と言っても、道を挟んだ反対側なのですぐだ。


 鍛冶ギルドに入ると、驚いている若い職員に声をかける。


『冒険者ギルドに、話があると伝言を頼んでおいたのだが。』

「はい、承っています。ギルドマスターの所へご案内します。」


 職員に、2階のギルドマスターの部屋まで案内される。

 室内には、また禿頭マッチョがいた。

 この街では、この姿でないとトップに立てないのだろうか。


「シルヴェストル殿ですな。お待ちしておりました。」

『待たせたか、すまないな。』

「いえいえ、いくらでも仕事はありますゆえ。して、用件はなんでしたか?」

『冒険者ギルドから聞いていると思うが、調査隊を出した洞窟についてだ。』

「はい、聞いております。残念ですが、竜王の住処ではとても手出し出来ませんので。」

『聞き分けてくれて助かる。それでだが、代わりと言ってはなんだが、そこで手に入れてきたものを買い取ってくれないかと思ってな。』


 シルは、テーブルの上に銅と鋼、銀のインゴットを積み上げる。


「これは・・・銅も銀も純度が非常に高いですな。鉄は、いやこれは鋼ですか。」


 ブツブツと呟きながら、ギルドマスターが品定めを続ける。


「失礼。鑑定に出してよろしいですかな。」

『ああ、構わないのでお願いする。』


 ギルドマスターが職員を呼び、鑑定を指示する。

 大量にあるので、運ばなければならない職員も大変そうだ。


「あと、申し訳ないのですが、このギルドで売買するには、会員になる必要があるのです。ギルド証を作らせでよろしいですかな。会費が年に大銀貨1枚かかりますが。」

『では先に会費を払っておこうか。』

「先程のインゴットの代金と相殺するので大丈夫です。あと、会費は売買がなければその年は払わなくて大丈夫ですので。」

『分かった。それでお願いする。』

「では、すぐに用意させますので。」


 鍛冶ギルドのギルド証は、冒険者ギルドのように階級による違いや、偽造保護がないので、すぐにできるのだそうだ。


『ここでギルド証をもらうのであれば、冒険者ギルドではなく最初からここで作れば良かったな。』

「高位の冒険者のギルド証は、ここのギルド証よりしっかりした身分証明になるので、無駄ではないと思いますよ。複数のギルドに所属する人も多いですし。」

『なるほど、そういうものか。』


 ギルドマスターと雑談をしていると、ギルド証と鑑定結果が届けられる。

 銅が大銀貨7枚、鋼が金貨1枚と大銀貨4枚、銀が大銀貨5枚になった。

 会費と差し引きで、金貨2枚と大銀貨5枚である。


『結構な額になったな。』

「量がある上に質が良かったので。うちとしても、いい商いになりました。」


 見た目はマッチョだが、立派な商人でもあるようだ。

 鍛冶ギルドでの用事も片付いたので、鍛冶ギルドを辞する。


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