冒険者になろう
シルの冒険者ギルドのギルド証が欲しいとの言葉に、ラングは困惑しながらも答える。
「冒険者になりたいと?」
『正確には街に入る身分証が欲しい、と言う所だが。空から勝手に入ってもいいが、騒ぎを大きくしたい訳でもない。』
「申し訳ないが、ギルドマスター代行の俺には判断できん。マスター経由で本部に確認するので暫く時間をもらえないか。」
人ではなく竜がギルドに入りたい。
そんな前代未聞の事態だから致し方あるまい。
『お前の責任ではないだろう。気にするな。滞在期限があるがどれくらい待てばいい?』
首にかけた木板を掲げて確認する。
「明日の午後には何とか。」
『ではお願いする。素材と討伐証明はどうしようか。』
「今日預かって査定しておこうか。ギルド証の有無で価格も変わるので、そちらの結果が出てから払うと言う事でどうだろう?」
『では、それでお願いする。』
シルは、軽く頭を下げるとラングも頷き返す。
「あと、ギルド証を発行するにあたり、シルヴェストル殿の強さを確認したいのだが。」
『むう、どうすればよいかな。』
「強さは俺より遥かに上だ。ゴブリンとマイティラットあわせて20匹以上の群れを数秒で全滅させ、斥候もかなり広範囲に探索できる。」
ジェイクが言い添えてくれる。
「4級より遥かに上か・・・どうせギルド証も特例になるのだから階級も特例で最初から上げておくべきかな。」
「この強さで1級は有りえないぞ。」
「悪いが少し実力を見せてくれると有り難いのだが。」
『構わないが、本氣を出したらこの街が更地になるぞ。』
シルの一言に2人は苦笑する。
「近接と魔法、どちらが得意で?」
『どちらもできるぞ。ジェイク達といる間は魔術しか使ってないがな。武器の扱いはこの体なのであまり得意ではない。』
「では、どちらも少し見せてもらおうか。裏の訓練場・・・は危険か。街の外の方がよいか。」
『では、街の外まで行こうか。』
ラングに連れられて街の外に向かう。
1階に降りたところで、精算したい素材を引き渡すが、その量に受付をした職員が、頬を引くつかせる。
ギルド証がまだないので、預り証として木板を受け取る。
ついでに、先程受け取ったギルド証と遺品の謝礼に関する木板を渡すと、すぐに用意してくれた。
「死亡者のギルド証回収が4人分で、銀貨12枚。今回は遺品も回収して頂けたので銀貨1枚ずつ上乗せで、合計16枚になります。ご確認ください。」
『1枚を銅貨にしてもらえるか。立て替えてもらったのを返したいのでな。』
「分かりました。それでは銀貨15枚と大銅貨9枚、銅貨10枚です。」
『確かに。』
「あと、ギルト証発行のために、これに記載内容頂きたいのですが、書けますか?」
『ああ、これなら問題なさそうだ。』
出された羊皮紙に名前を書くが、他は書けるところがなさそうだ。
住所不定、年齢不詳、無職なのだ。
『竜には書けるところがなさそうだが、良いか?』
「構いません。本来は年齢も必要ですが、今回はよろしいかと。」
『では、これで頼む。』
羊皮紙を、職員に渡して確認してもらい、オッケーをもらう。
その場で、立て替えてもらった通行料をフィックに返しておく。
別に返さなくても良いと言われたが、やはり金の貸し借りはよくないので、きちんと押し付けておく。
ラングはその間に、受付近くにいた魔法使いらしき1人に声をかけていた。
魔法の確認のために、ついてくることを頼んでいたらしい。
◇ ◇ ◇
「カーク、少し騒がしいかもしれんが許してくれ。」
「ラングか。どうした? まあこの面子を見れば聞くまでもないか。」
「ああ、シルヴェストル殿の強さを少し見せてもらおうかと、な。」
ラングとカークが挨拶を交わすと、カークも付いてくるようだ。
「では、まず魔法を見せてもらえるかな。どの程度の威力かはここにいる6級の魔法使いである、リズが見てくれる。」
魔法使いは、リズと言うようだ。
ローブで身を包んでいるので分かりにくいが、スレンダーで綺麗なお姉さんだ。
「竜の使う魔法なんて、まず見る機会はありませんし。楽しみですわ。」
「分かっていると思うが、くれぐれも本気でやらないでくれ・・・。出来るだけ周囲に被害が出ないようにしてくれると助かる。」
(綺麗なお姉さんの前だし、良いところを見せないと)
元は、別にそんなに女の子の前で見栄をはるタイプではなかったはずだが、シルは内心張り切っている。
『いいだろう。では順番に行くぞ。』
順番?と、シルとジェイク、フィック以外が理解できないでいると、シルが魔力を練りだす。
まずは火球。
直径にして1m以上の特大のものを創り出すと、それを東洋の龍の形に変える。
20mほど先に幅5m、高さ2mほどの土壁を隆起させそれを硬質化させたところに火の龍をぶつけ、壁を爆散させる。
次に同じく直径1mほどの水球を創り、それを氷球に変える。
そこに上空から雷撃を落とし、粉々に砕く。
さらに、直径2m高さ20mほどの竜巻を生成し、粉々になった土壁と氷球だったものを巻き上げて行く。
最後に、巻き上げたっちと氷に白いブレスをぶつけて跡形もなく消滅させる。
シルがドヤ顔で振り返ると、全員が顎が外れんばかりに驚愕し放心していた。
暫く待つが、反応がないのでシルは不安になり声をかける。
『この程度では大したことなかったか?』
全員がその一言で我に返り、今起こったことを理解しようとする。
「リズ、聞くまでもなさそうだが、どんな感じだ?」
「私の理解を超えすぎてて、なんて言ったらいいのか・・・。王都の宮廷魔道士でもここまで出来るかどうか。いや、それ以上かしらね。」
「だよな、そうだよな。」
ラングとカークが頷いている。
そもそも全属性を操れる魔法使いが、そうそういない上に「くれぐれも本気を出さない」ように言われたにもかかわらず、あの凄まじさである。
「ちなみに本気を出したら、今の何倍くらいになるんだい?」
リズに問われるが、それはシルにも分からない。
『すまんが、本気を出した事がないのでなんとも・・・だな。』
あれだけで、全然力を使っていないと言うのである。
確かに結果が恐ろしくて本気なぞ、出せないのかもしれない。
全員がそれを理解する。
「とりあえず、魔法に関しては最上位と言ってよさそうだな。」
『魔法じゃなくて、魔術らしいがな。』
「そういえば詠唱もしてなかったわね。あんな魔法見たことないしですわ。」
最後のは、魔術ですらなくブレスなのだが、それどころではないようだ。
「では近接を見てみたいのだが。」
『構わぬがどうする? うまく手加減できるか分からんが。』
「そこが不安でな。俺が仕掛けるからそれを受けてもらうでもいいか?」
『ではそれでいこうか。俺も防御はしたことがないので、どの程度できるのか知りたいのだ。』
防御をしたことがない。
サラっと言っているが、さもありなん。
近接防御をするまでもなく、魔術で倒せるのであろう、とラングは理解する。
「では、俺はこの剣でいかせてもらうが、シルヴェストル殿はどうする?」
ラングが、腰に下げた大きめの片手剣を抜き放つ。
飾り気はないが、刀身から感じられる鋭さと美しさから、なかなかの逸品のようだ。
『では俺も武器を使わせてもらおうかな。守るだけなら構わないだろう。』
シルがストレージから、日本刀もどきを取り出して構える。
「刀とは珍しい。では参る。」
こちらに向けて半身にし、剣はこちらに向けて青眼よりやや下段に構えるラング。
剣先がスッと動いたかと思うと、袈裟掛けに斬りかかるが、それはいつ近付いたのかという、凄まじい速さだった。
キンと言う硬い音が響き、シルの持つ日本刀がそれを受けている。
それを正しく認識できたのは当人同士以外では、カークとリズのみであった。
(この重さ・・・鉄の壁を相手にしているようだ)
ラングは本気で切りかかったにも関わらず、あっさりと承けられた挙句、少しも押せないのに焦る。
単発では押せないと判断し、連続攻撃に切り替えるが、それは悉く受けられてしまう。
一旦バックステップして距離を取り、間を置かずに真空斬を放つ。
するとシルの日本刀も空を斬り、真空斬を放ってそれを相殺する。
わずか数秒の間切り結んだだけだが、ラングは剣でも到底叶わないと判断し、構えを解く。
「さすがだ。どこが武器は苦手なのだか。」
苦笑しながら、ラングはお手上げだと剣を鞘に納める。
「俺はこれでも元7級なんだが、どうにも崩せそうにないな、これは。」
ラングも引退前は7級の冒険者だったそうだ。
かなり高位の冒険者だったラングの攻撃を、問題なく凌げたということは、それなりの反応ができたと言う事だろう。
シルも内心では緊張していたのだが、ほっと一息つく。
「俺は半分も見えなかったんだが、フィックはどうだ?」
「俺も一緒だよー。住んでる世界が違うみたいだね。」
ジェイクとフィックは、もう呆れているようだ。
『問題なかった、という事でいいか?』
「ああ、シルヴェストル殿が一流に違いないことは俺が保証しよう。本部には、ありのままを伝えておく。」
疲れた声でラングが答える。
「これは良いものを見せてもらったな。シルヴェストル殿は、街中でくれぐれも暴れてくれるなよ。」
カークは立ち会っていただけだが、満足げだ。
「では、俺は報告の準備をしてくるので失礼する。」
ラングは、手をヒラヒラと振りながら街中に戻っていき、カークもそれについていく。
リズは、シルの魔術をみた興奮から、まだ冷めていないようだ。
「シルヴェストル様! どんな魔術使ったのか教えてくださいよ!」
魔術について教えて欲しいらしいリズがせがんでくるが、シルはジェイクに視線を飛ばす。
『ジェイク、この後何か予定は?』
「ああ、一緒に来て欲しい所があるんだが、いいか?」
『と言うことらしいので、今日は無理だ。また明日ギルドに行くのでその後時間があれば構わないが。』
「明日ですね、楽しみにしてますから!」
リズは、嬉しくて仕方ない様子で走り去っていく。
「シル様、良かったんですか? リズは魔法バカだから大変かもですよ?」
『そ、そうなのか。まあ説明くらいは大丈夫だろう・・・』
安易に答えてしまったのはまずかったか。
シルは、不安になりながらも、ジェイクについて街中に戻っていく。




