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ピノンの街

 遠くに見えてきた街がピノンである。

 所々金属で補強されている木製の壁で、街の周囲が囲われている。

 魔物が入り込むことを防ぐための防護壁なのだろう。

 規模として大きい方なのかどうかは分からないが、少なくとも寂れた街という感じではなさそうだ。


 シル達は森から出てきたので、こちらから見える場所に入り口はない。

 別の方角に、恐らく街道とぶつかる場所に入り口があるのだろう。


 その予想通りなのか、ジェイクが街の外壁の左端の方に向かって歩いていく。

 暫く外壁に沿って進んでいくと、大きな門と門番が立っているのが見えた。


 軽鎧ではあるが金属製の鎧に身を包み、槍を持っているので兵士だろう。

 近付いていくシルを見付けると唖然としていたが、慌てて門の中に駆け込んでいった。

 シルは、竜が街に来ることは大事なのかも知れないと、やっと気付いたのだ。


『さて、俺は街に入れるのかな?』

「さすがに竜がくる事態は経験ないだろうし、どうするべきかなんて事も決まっていないでしょうね。」


 ジェイクの言う通り、竜が来た場合の対応マニュアルなぞ、準備されている訳がないのは想像に(かた)くない。


「シル様は悪い竜じゃないし、大丈夫ですよ!」


 ファラは暢気(のんき)なものだが、街の安全を守る事に責任を持つ兵士はそうも言っていられないだろう。


 シル達が門に着く前に、隊長らしき兵が門から出てきた。


「ジェイク、無事だったようで何よりだがその竜はなんだ。」


 先に隊長らしき兵から声がかけられる。

 竜を前にしても臆さずに問いただしてきたのは流石といったところか。


「カーク隊長、こちらは白竜のシルヴェストル様です。俺達を助けてくれた方です。調査隊の遺品を渡したいとのことなので、ここまで俺達で案内してきました。」


 その答えが予想外だったのだろう。

 カークは頭を抱えたくなっていたが、立場上そんな事はしていられない。


「シルヴェストル殿、ジェイク達を救ってもらったとのこと、感謝いたす。しかし、竜を街に入れてよいかは俺にはすぐに判断しかねるので・・・街の安全を守るのが兵士の仕事なので、そこはご理解頂きたい。」

『カークと言ったか。お前の責を果たしているだけなので、それに対して異論はない。しかし俺もこの街の住民と思われるものの遺品を届けに来ただけだ。俺も悪意を向けられなければ、何かしようというつもりはない。通してもらえぬか? 別に押し通ることも可能だし、空から入ればお前たちに止める手立てはないが、出来ればそこまでしたくはない。』


 確かに、わざわざ門を通る必要はなく、外壁を飛んで超えるのは造作もないことだ。

 事実を突き付けられ、カーク隊長は悩む。


「シルヴェストル様は、姿は小さいですがその力は正しく竜のものです。みだりに乱暴をはたらく方ではなく、むしろ紳士的です。対立するよりは、友好的に接したほうが良いかと。」

「シル様本当に優しいから大丈夫ですよ。撫でるとスベスベで気持ちいいし!」


 ジェイクの援護はありがたいが、ファラは援護しているつもりなのだろうか。

 ただの戯言にしか聞こえない。


「従魔という形では、誰が責任を取らなければならないし、それでは不服でしょうな?」

『従魔? 別に俺は誰にも仕えておらんし従ってもない。それは承服しかねるな。』

「でしょうな。でしたら街の者ではない人、という扱いでよろしいか。門の通行料を頂くことになるが。」

『ふむ、それで構わんよ。しかし手待ちがないのでどうしたものか。』

「シル様、自分が代わりに払いますよ! その代わりまた撫でさせて・・・」

『フィック、すまんが立て替えてくれぬか?』

「了解ですー。じゃ、カークさん。銅貨5枚でよかったですよね?」


 ファラは危険な気がしたので、フィックに立て替えを頼む。

 憮然(ぶぜん)としているが、身の安全は大切である。

 カークから木板で出来た仮の通行証を受け取ると、幾つかの注意事項を受ける。

 暴れたり犯罪行為をするなと言うのは当たり前だが、通行証の有効期限が3日間しかないので、それ以上滞在する場合は、再度門で銅貨5枚を払う必要があるとのことだ。

 一通り説明を終えたカークは、改まって(うやうや)しく礼をする。


「ようこそ、ピノンの街へ。」



 ◇ ◇ ◇



 木造住宅が並ぶ綺麗な街並みであった。

 平屋か二階建が多いが、中心部と思われる所には三階建の建物も見える。


「まだ日が落ちるまで時間があるので、冒険者ギルドに行きましょう。」


 ジェイクの案内でギルドの建物に向かうが、ファラは別行動とのことで一行から外れる。


「シル様、また後で!」


 手を振りファラが走っていく。

 こちらを見ているので、前を見ずに走っている事になるが、転んだりぶつかったりしないだろうか。

 ジェイクとフィックが苦笑しながら、先を促す。


 冒険者ギルドの建物は、街の中心に近いところにあった。

 三階建の大きな建物で、外には剣と盾を描いた看板が出ている。

 文字が読めない者でも分かるように、だそうだ。


 ギルドの中に入ると、中は閑散としていた。


「この時間だと、だいたいの冒険者はまだ依頼をこなしているので、ギルドは空いてるんだ。早めに終わった奴が、奥の酒場で一杯引っ掛けてたりはするけど。」


 確かに奥の方には、テーブル席が並んでおり、数組が飲食をしているようだ。

 そんな話をしているこちらを見ながら、カウンターの奥にいたギルドの職員らしき人たちは大慌てだ。

 1人が階段を慌てて駆け上がって行ったので、責任者を呼びに行ったのだろう。


「すぐにマスター代行が来ると思うので、このまま待とう。」


 ジェイクも顔を引き攣らせている職員に声をかけるのは可愛そうだと思ったようだ。

 すぐに階上から人が降りてくる。

 40代くらいだろうか。禿頭のスリムマッチョと言うべき体型の男が前に出る。


「ジェイク、この竜はなんだ?」

「白竜のシルヴェストル様だ。道中で助けてもらった。あと、今回の依頼を報告する上で必用だと思い、ここまで同行をお願いした。シル様、こちらはギルドマスター代行のラングで、ここの責任者だ。」


 実際にはシルが行きたいと言ったのだが、ジェイクからお願いした形にしたようだ。

 別にそこは、どちらでも構わないだろう。


「ジェイクを助けてもらったとのこと、感謝する。ここでは話すのも何だし上で話を伺おう。」


 ラングは職員に一言声をかけると、そのまま一行を上に促す。

 このままついていき、3階のギルドマスターの職務室らしき場所へ案内され、そこにあるソファを促される。

 ラングと向かい会う形でシルとジェイクが座り、フィックは側にあるスツールに腰掛ける。

 シルは座ると言っても、ソファの上に「おすわり」の形でいるのだが。


「改めて、ピノンの冒険者ギルドを見ている、ラングと言う。」

『シルヴェストルだ。』 

「念話なのか? 初めて経験するがすごいなこれは。」


 ジェイク達は気にしていなかったが、念話そのものもあまり使うものがいないようだ。


「さて、今回の依頼の報告があるとの事だが。」

『うむ、ジェイク達が探していたのは、冒険者ギルドのものが2人、鍛冶ギルドのものが2人で合っているか?』

「確かに、その4人だが。」

『では、これを見て確認してみてくれ。』


 シルは、ストレージから遺品をまとめていた革袋を取り出し、中からギルド証を出す。

 それを検めたラングはそっと息を吐く。


「確かに。捜索対象者のギルド証だ。状況を聞かせてもらえるかな。」

『俺が見付けた時には、既に魔物に殺され食い荒らされていた。死体をあさるのは悪いと思ったが、身元を確認できるものがあればと探し、これだけ回収してきた次第だ。』

「なるほど、運がなかったのだな。いやこうしてシルヴェストル殿が届けてくれたのだから、まだ、良かったか。遺族に代わり、またギルドの責任者として礼を言う。ありがとう。」

『見つけたのは偶々(たまたま)だし、遺品を運ぶの労力もかからん。気にしなくてもよい。』

「それでは、こちらの遺品はこちらで遺族に届けさせてもらう。後で礼金を払うので、受付にこれを出してくれ。」


 ラングか、木板に何かを書き付け渡してくる。

 書かれていることは実にシンプルだった。


 死亡者ギルド証回収 冒険者2 鍛冶2 遺品あり  ラング


『ではお願いする。あと鍛冶ギルドにもこの後話すことを伝えて欲しい。』

「ほう、それはなんでしょうかな。」

『別に難しい事じゃない。あの洞窟には立ち入らぬこと。それだけだ。』

「理由を伺っても?」

『あそこは、土の竜王の住む場所だ。立ち入らぬよう伝えてくれと彼から頼まれてな。ジェイクから伝えてもらってもよかったが、俺が直接話した方がどれだけ大変なことか伝わるかと思い、ジェイクに案内をお願いしたのだ。』

「土の竜王・・・」


 今まで平静を装っていたラングが、明らかに動揺しているのが分かる。

 フォローしておいた方がよいだろう。


『そちらから手を出したり、世を乱すようなことをしなければ、彼からは何もしてこんよ。それは俺も同じだが。』


 何もしない、との言葉を聞いてようやく人心地がついたようだ。


「領主代官と鍛冶ギルドにも伝えておきましょう。また若いのが血気に逸って間違いを起こさぬように気を付けておかねば。」

『鍛冶ギルドには、俺も行っておきたいので話を通しておいてくれ。何度も慌てられるのは、申し訳ないし面倒だ。』

「それも伝えておきましょう。」


 ラングは真面目な表情で頷く。

 竜王の怒りに触れたら、この街どころか国が滅んでもおかしくない。

 現在彼の目の前にいるのも、幼いとはいえ竜王なのだが。


『あとついでにお願いがあるんだが、いいかな?』

「何でしょう?」


 ラングは冷や汗をかきながら身構える。


『なに、そう難しい事ではない。俺にもギルド証をくれないかな。それと魔物の素材を買い取ってもらいたい。』



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