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初めての旅路

 洞窟を抜けると、そこは雄大な平原が広がって・・・いる訳ではなく、見渡すかぎりの岩場であった。

 岩石砂漠と急峻な山脈の境目に、洞窟の入り口はあったのだ。


 眩しい太陽の光を初めて浴びた光の竜王、閃光竜シルヴェストルは目を細めた。

 元いた世界、日本では想像ができない光景だ。


「最寄りの街が俺たちがいたピノンで、歩いて5日ほどの所にあるんだ。」


 側に立つ冒険者のリーダー、ジェイクはそう語った。

 剣を使う戦士のジェイク、槍を使う同じく戦士のフィック、短剣を使う斥候と遊撃のファラ。

 この3人が洞窟の中で出会い、街まで案内してもらう冒険者達である。

 見た目は若い。まだ10代だろう。


「こんな場所だから馬車は使えなくて、歩きになるの。けど、シル様は平気そうね。」


 ファラが言うとおり、このような岩場で禄な道もない場所では、馬車が通るのは不可能だろう。

 歩くのにも難儀しそうだが、空に浮いているシルには影響がない。


「俺も飛べたら楽なんだろうなー。飛べないかな?」

「高位の魔法使いでも、飛べる人なんて滅多にいないんだから、魔法も使えないアンタには無理に決まってるでしよ」


 フィックは軽口を叩くが、ファラに嗜められる。

 どうやら竜でない人間にはものすごく難しいことのようだ。


『では、行くとしようか。斥候も魔物退治も俺がやるので安心していいぞ。』


 気配感知ができるシルがいるので、そもそも斥候が不要なのである。

 魔物に襲われる前にさっさとシルが狩ってきてしまうので、その日の道中は安定して進むことができた。

 狩ってきた魔物の中には、危険なものもいたようだ。

 麻痺と強力な毒を持つジャイアントスコルピオと、成功率が低いものの石化攻撃をしてくるレッサーバジリスクについては、岩場に潜んでいることもあり、階級の高い冒険者でも対応を誤ると危険な魔物だそうだ。

 もちろんシルは、魔術で生成した真空の刃や石の槍で遠隔からすぐ倒してしまうので、なんの問題もなかったが。

 仕留めた魔物を平然と持ってくるシルに、冒険者達は感謝するとともに、自分達だけで遭遇していたらと、恐々とするのであった。

 一方シルは、こっそり狩った魔物の肉を齧ってきており、ジャイアントスコルピオから【麻痺攻撃】【毒攻撃】のスキルを、レッサーバジリスクからは【石化耐性】のスキルを得ていた。



 ◇ ◇ ◇



 その日は、午後に洞窟から出てきたのもあり、すぐに野営することになった。

 3人がテントを設営したりするのを、珍しそうにシルは眺めている。


「シル様の寝る場所はどうしましょうか。私と一緒に寝ます?」

『俺は寝る必要もないし、そのまま不寝(ねず)の番をするからよいぞ。何やら身の危険を感じるしな。』

「危険じゃありません! その鱗がスベスベしてそうだから撫でたりしたいとか思ってませんから!」

「いや、欲望を思いっきり垂れ流してるぞファラ・・・」


 フィックのツッコミに、ファラは顔を真っ赤にして言い訳をしている。

 あそこまでストレートに言っておいて、隠しているつもりなのもすごいが。


『一緒に寝るのは勘弁して欲しいが、別に少し撫でるくらいなら構わんぞ。』

「ファラ! 遊んでないでちゃんと食事の準備をしろ! すみませんシル様。ファらのやつが騒いで。」

『気にしなくてもよい。俺も少しからかったので申し訳ないな。』

「ちゃんと準備しますから、あとで撫でさせてくださいね! 絶対ですよ!」


 ジェイクに叱られても全く懲りた様子もないファラが、食事の準備をしていく。


『水や火が必要なら、出してやるので言うがよい。』

「シル様そんなことも出来るんですか?」


 目の前で、小さな水球と火球を出してやると、3人がまた驚く。


「助かるんですけど、シル様ってどの属性の魔法も使えるんですか?」

『俺が使ってるのは魔術だ。魔法は逆に知らんので使えんよ。』

「魔術って、すごく高位の魔法使いとか上位竜しか使えないって聞いたことありますけど、もしかしてシル様って・・・」

『さあな、どうであろうな。』


 絶句しながらもジェイクが質してくるが、シルはそれをはぐらかす。


(小さなうちは竜王であることは隠しておけといわれたしな。)


 水や火を提供しつつ、食事の準備を眺めているが、干し肉を使った簡単なスープを作っているようだ。

 失礼な話だが、あまり美味しそうには見えない。


『それでは物足りないだろう。マイティラットの肉ならあるが、要るか?』


 その一言を聞いた途端、パァっとフィックの顔が明るくなる。


「ほ、本当にあるんですか? 肉が食べれるんですか?」

『あ、ああ。肉なら分けてやれるぞ。調理はできぬから任せることになるが。』


 その勢いにたじろぎながらも、ストレージからマイティラットの肉を2匹分ほど出してやる。


「肉!肉!!」


 フィックは喜びのあまり、踊りださんばかり・・・では済まずに踊りだしてジェイクから拳骨をくらっていた。


『俺は生で平気だが、お前らは危ないだろうから、しっかりと火を通せよ。』


 言われなくても、生肉を食う奴はそうそういないだろう。

 切り分けると、火にかけてステーキとして焼いていく。


「シル様、助かります。このところ肉が食べられる獲物にあっていなくて。」


 ジェイクが感謝の気持ちには頭を下げてくる。


『狩った後に、とりあえず捌いて取っておいてあるだけだし、気にするな。洞窟を出る前に、お前らにも捌くのを手伝ってもらったしな。』

「それでもありがたいんですよ、シル様。」


 ファラが肉を返しながら、嬉しそうに呟く。

 あのスープだけは、本当に嫌だったようだ。


『レッサーロックリザードの肉もあるが、それも食いたいか? 欲しいなら明日の食事に出してやるが。』


 3人がまた顔をほころばせる。

 問題なく狩れる魔物だが、運ぶのが大変だし痛むから、肉はあまり持ち運ばないようだ。


 なお、マイティラットの肉は、焼いた方がうまかった。


 食事中に話を聞いていると、3人ともピノンの街の冒険者で、階級は4級だそうだ。

 冒険者になりたてのものは1級から始まり、功績・実績を重ねていくことで9級まであがっていくそうだ。

 また、3の倍数である3級、6級、9級にあがる際には試験もあり、それに合格しないと上がれないのだそうだ。

 当然上位階級のものは人数も少なく、ピノンには6級までしかいないらしい。

 4級はそれなりのベテランと認められる階級なので、ゴブリン程度は問題ないはずだが、暗闇の中でたくさんの魔物に囲まれたせいで、押し負けていたそうだ。

 魔法使いが1人いれば、あのような状況でも切り抜けられるのだが、魔法が使えるものは少なく、パーティーやクランに入っていないものは滅多にいないのだとか。


『クランとはなんだ?』

「同じ目的を持つ者や、親しい奴らで集まって作る助け合うための集まりで、ギルドに届けることで有効になるんです。個人やパーティーでもあるんですが、ギルドに実力を認めてもらえると、指名で依頼がきたりするんですよ」

「危険な魔物が出た場合とかは、上位クランに討伐依頼が出たりするんですよー。」


 ギルド公認のチーム制度だろう。

 銀次がやっていたMMORPGにも、似たようなシステムがあった。

 仕事が忙しく不定期なログインしかできなかったので、チャットを楽しむのがメインで、(たま)にお手伝いをしてもらったり、逆に手伝ったりしたくらいなのだが。


「俺らは、クランには入らずのんびり3人でやってる感じです。」

「大きな街ではないので、クランが必要になるほど冒険者がいないだけなんですけどね。」

「私はこれで食べていけてるし、十分なんだけどね。」

「それは俺たちもだ。」


 3人は、あまり成り上がる欲もなく、ほどほどに稼げれば十分なようだ。

 小さな街らしいので、それでも問題ないのだろう。


 全員が食べ終わると、シルが出した水で食器や鍋を洗い片付ける。

 番はシルがするので、3人ともテントに入り寝ることにする。

 ファラは寝る前に撫でるのを忘れなかったようで、シルを撫でて幸せそうにしていた。

 残り2人も最初は呆れていたが、ファラの様子に気になったのか撫でてもいいか聞いてきた。

 幼竜とは言え、竜を撫でる機会なぞ普通はないだろうから、いい思い出になったのかも知れない。



 ◇ ◇ ◇



 その晩は、特に魔物の襲撃もなく平和だった。

 シルが周囲の魔物はほぼ狩ってしまっているので、襲撃できる魔物もいなかったのだが。


 その日と翌日も岩石砂漠だっが、安定して進行していた。

 相変わらず、事前にシルが気配を感知して、狩ってしまうためである。

 普段の旅と異なり、あまりに平和なので3人は若干気が緩んでいるようだ。

 ファラに至っては、隙あらば撫でようとしてくる始末である。

 ジェイクとフィックは、その都度謝ってファラを(いさ)めるが効果はないようだ。

 あまりに(たる)んでいるのでは、とシルはどうにかしようと考えているうちに、森の入り口へと辿り着いた。

 戦闘らしい戦闘もなく進んでいるため、予定より早く着いたようである。

 日が落ちるまで少しあるが、森の中では野営地を探すのも大変なのでここで野営にすることにした。


 野営の準備をしていると、森の中から魔物が3匹近付いているのにシルが気が付く。

 ゴブリンなのを確認すると、シルは3人に問いかける。


『森の中からゴブリンが3匹近付いてる。お前らやるか?』

「ずっとシル様に任せていて、腕が(なま)ってるしやるか!」


 ジェイクの声に反応し、3人が戦闘準備を整える。


 ゴブリンが森から出てきたところに、潜んでいたファラが奇襲をかけてアサシンよろしく一匹を速攻で仕留める。

 焦った残り2匹に、ジェイクとフィックが躍りかかる。

 2人とも、安定してゴブリンの攻撃をいなして斬りかかり、攻めていく。

 ジェイクの剣、フィックの槍、ともに中々の腕前のようだ。

 あっさりと倒しきり、討伐証明の右耳だけ切り取る。

 野営地のそばに死体を置いておくのも嫌なので、シルの魔術で作った穴に死体を放り込み、そのまま魔術で土を被せて埋めてしまう。


「シル様の魔術ってほんとすごいですね! 嫁に来てください!」

「なんで女のお前が嫁をとるんだよ!」


 ジェイクのツッコミが炸裂し、ファラが拳骨を落とされた頭を抱えてうずくまる。


『お前ら仲間いいな。』

「よくありません!」


 シルの呆れた一言に、ジェイクとファラが揃って反論するが、フィックの次の一言で真っ赤になって撃沈する。


「もうお前ら早く結婚しなよー。」

『ほう、そういう事なのか?』

「あいつらあれでも隠してるつもりなんですよー? そのくせ、パーティーで俺だけ放っておいて勝手に世界に入ったりとか。もー勘弁して欲しいっす。」

『お前も大変なのだな。』


 何故かフィックをなだめる事になるシルだが、本当に可愛そうだったのか地中から鋼を生成して槍を造りだして渡してやる。


 穂と柄の間に竜の装飾もあり、石突き側にも穂が付いている無駄に豪華なものだ。


『これで元気を出せ。鍛造してないから正式なものに比べると脆いかも知れぬので気を付けてな。』


 あまりに突然のことに、思考が追いつかないフィックだが、やっと思考が戻ると泣いて喜びだした。


「シル様に頂いたこの槍。家宝として末代まで奉りますよー!」

『武器なんだから、ちゃんと使えよ。』


 なんとも騒がしい3人に囲まれ、夜も更けていくのであった。



 ◇ ◇ ◇



 翌々日の昼過ぎには、森を抜けることができた。

 あとは2時間ほど歩けば街に着くらしい。


 シルからもらった槍を手に、無駄に元気なフィックが、街が見えてきたと騒ぎ出す。

 初めての人間の街だ。



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