旅立ち
シルヴェストルこと銀次は、人語をほぼマスターできたようだ。
元の世界では、英語を覚えることすら禄にできなかったのにである。
入試としての英語は成績も良かったが、会話とかはサッパリだったので、会社のグローバル化対応との謳い文句でTOEICを受けさせられたりしたが、結果は悲壮感すら漂うものであった。
しかし、あっさりと新しい言語を習得できたのは、竜の高い知力の恩恵かも知れない。
人語の勉強の合間に、シルはカリバーンに色々と質問をして知識を蓄えていた。
竜王は食事も水分確保も不要らしい。
神に近い存在故であろうか。
そのため、食事は娯楽に近いもののようだ。
ただ、カリバーンも魔物の肉を食べる事でスキルを覚える事は知らないらしい。
他の竜王にそのような能力はないようだ。
カリバーンの推測では、創造神の加護の力ではないかということだ。
鑑定の説明文にない力があることは、偶にあるらしい。
ましてや、最高神である創造神の加護であるので、隠された力があってもおかしくないだろうとのことだ。
それならそれで、創造神アスシアルフ様から、何かしらの説明が欲しかったところだが。
◇ ◇ ◇
今後シルがどうするべきかを、カリバーンに相談してみた。
創造神の使途であるからには、何かしら使命があるのだろうが、それが不明なのである。
(要件が決まっていないのに、システムを作れと言うようなものだ)
シルは、元の世界でのプロジェクトマネージャという仕事に例えて、その無理さ加減を思い、悩んでいた。
まあ、要件が未確定のまま走り出すプロジェクトなぞ、日常茶飯事であったが。
「とりあえずは、竜王としての力が振るえるよう、位階を上げておくべきであろうな。」
位階とは、ステータスに記載されているレベルを指すらしい。
訓練でもある程度は上げられるが、実戦で魔物を倒すことが効率的らしい。
「あとは、各地を巡り、他の竜王や大精霊に会っておくべきであろう。そのついでに魔物退治をしたり、人の世を見て回るがよかろう。」
竜王と同じく、属性を司る精霊、その中でも強力な力を持つ大精霊とは、友好関係を結んでおいた方が良いそうだ。
だいたい大精霊は、竜王の住まう地のそばにいるらしい。
『では、大陸を旅してくることにするか。』
「それが良いな。その前にお前の力を少し増しておこう。位階がそれだけあれば進化できるであろうし。」
竜は成長する際に、進化して姿を変えるらしい。
「進化と言っても、竜の場合は大きくなる程度だし、竜幼生から幼竜になってもほとんど変わらんがな。」
『それは構わないが、無理に進化させてもいいのか?』
「本来は位階と年齢が条件のところを、年齢を無視するだけだ。シルは異世界での経験と年齢がある故、魂の成熟も問題ない。」
『それなら大丈夫そうかな。どうやるんだ?』
「大したことではない。シルの年齢を誤魔化すだけだ。」
『大したことな気がするけど・・・まあいいや、頼む。』
「ではやるぞ。今回は数日ほど眠ることになると思う故、ゆっくり寝ているが良い。」
カリバーンの手が触れると、魔力が少し流れてくるのを感じる。
竜幼生から幼竜に進化します。よろしいですか?
はい いいえ
視界にダイアログが現れるので、はいを選択すると意識が闇の中へ沈んでいく。
シル自身は気付いていないが、繭のような白いものに包まれていた。
◇ ◇ ◇
気が付くと、視界が白一色であった。
もぞもぞと体を動かし、繭を破って外に出ると、人化したカリバーンが待っていた。
『3日か。予想より少し早いな。』
3日も眠っていたらしい。
カリバーンの大きさが変わっていないので、体長はほとんど変わっていないようだ。
カリバーンに鏡を出してもらうと、頭に白い角が2本生えているのと、翼が少し大きくなっているようだ。
ステータスを確認すると、全体的に伸びているようだ。
名前: 閃光竜シルヴェストル(知立 銀次)
種族: 幼竜
位階: 16
魔力: 2,755
腕力: 486
体力: 461
俊敏: 73
知力: 612
精神: 462
「体調も問題なかろう。いつ出かけても大丈夫だぞ。」
『では、すぐに行くことにするよ。色々と助かったよ、ありがとう。』
「クラウ・ソラスには世話になったしな。気にするでない。それで、外に出るついでに1つ頼まれてくれぬか。」
『世話になったし出来ることなら構わないよ。』
「では、よろしく頼む。この洞窟の入り口に人間が来ているようだ。すまぬが、俺の住処故立ち入ることがないように言ってくれるか。従わぬなら殺しても構わぬ。」
『それくらいの頼みならいくらでも構わないよ。では、行ってくる。』
「気を付けてな。あまり人間の世界に立ち入り過ぎぬようにな。特に人の間の争いには。世界のためにならぬものであれば、それに対する勢力に助力するのは構わぬが、そうでなければバランスが崩れる恐れがある。」
『ふむ、そういうものか。気を付けるようにするよ。』
「それと、お前の言葉遣いは丁寧すぎる。竜王同士なら構わぬが、人間相手にそれは侮られる。不遜なくらいの態度でよいぞ。」
『それは難しそうだな。頑張ってみるよ。それではな。またいずれここに来るよ。』
「ああ、困ったことがあれば何時来ても構わぬぞ。」
シルは挨拶を済ませると、洞窟の出口に向けて飛び去る。
出口は、最初の水たまりから、反対側の方に行くと比較的すぐとの事だった。
◇ ◇ ◇
遭遇した魔物は基本無視しつつ、邪魔なものだけ排除して洞窟の中をかなりの速度で飛んでいく。
念の為、水たまりで水を補給して出口に向かっていると、戦闘していると思しき音が聞こえてくる。
人間3人が、多数のゴブリンとネズミに取り囲まれているようだが、数に押されて人間側が劣勢のようだ。
『我が片付ける、危ないので下がっていろ。』
3人に念話をを飛ばすと、突然のことに驚いている。
人間たちの前に、魔術で土壁を生成して守りを固めておくと、真空の刃を飛ばして、ゴブリンやネズミ達の首を刎ねていく。
僅か数秒の間に、魔物たちは全て息絶えていた。
『お前ら大丈夫か?』
呆然としている人間に声をかけると、ハッと気を取り直し答える。
「ああ、助かったよ。ありがとう。」
「怪我人はいるが、なんとか全員生き残れたたよ。」
男2人は大して怪我はないが、女1人が腕に怪我を負い、血を流している。
『ふむ、怪我をしているようだな。傷を癒やしてやるのでそのまま動くなよ。』
シルが、浮いたまま近付くと、女は怯えて固まったまま動けないでいる。
『少し痛むかも知れんが耐えろ。』
魔術で、大気から水を生成して洗浄し、更にメタノールを生成して消毒する。
消毒の際に女は痛みで顔をしかめるが、声を出さずに耐えている。
(消毒ってしみるよね。頑張って耐えて)
心の中で応援しつつ、消毒が終わると光の魔術で、傷口を再生する。
自己治癒力を高めつつ、傷口の細胞を再生することで傷を塞いでいく。
理解を超えた出来事に、3人は再度呆然とすることになる。
『ひとまずはこれで大丈夫だろう。血は失っているので無理はするなよ。』
「あ、あ、ありがとう、ございます。」
女はペコリと頭を下げる。
「あの、失礼ですが竜であってますか?」
女がまだ怯えながらも訊ねてくる。
『ああ、白竜だ。こちらに害がなければ攻撃したりしないから安心するがいい。』
「害とかとんでもないです。助けていただいてますし。」
『して、お前らはなぜここに?』
「それは俺が答えます。」
一番年上だと思われる男が前に出る。
恐らく彼がリーダーなのだろう。
「俺達は、ピノンの街の冒険者なんだ・・・です。」
『話しにくければ普通で構わないぞ。別に俺はお前らの王ではないからな。無論、失礼な態度を取れば保証しないが。』
「すまない。では普通に話させてもらう。実は街の鉱山調査隊がここに来ているはずなんだが、帰ってこないので俺たちに捜索が依頼されてここに来ている。できれば、奥を調査させて欲しいのだが。」
『冒険者2人と鍛冶ギルドのもの2人なら、行く必要はないぞ。残念ながらゴブリンに殺されていたからな。』
「そうか・・・ではせめて遺品だけでも回収に行かせてもらえないだろうか。」
『それも俺が回収してあるから問題ない。ここは地の竜王が住む場所だ。彼からここに立ち入らぬよう伝言を頼まれていてな。もし、それでも進むと言うのなら俺はお前らを殺してでも止めなければならない。』
「っ!!」
その言葉を聞いた(念話だが)3人は、緊張に体を強張らせる。
『心配せずとも、ここで引き返せば何もせぬ。』
その一言で、安心した3人はほっとしたようだ。
『1つ頼みがあるのだが、遺品を渡すのと今の事を伝えるためにその街まで行きたいのだが、案内してくれるか。』
3人は、顔を見合わせると、同じ思いなのか頷く。
「助けてもらった礼もあるので、それくらい喜んでお受けします。」
内心は分からないが、快く受けてくれたので、冒険者3人の後を追い外に向かう。
無論、先程片付けた魔物の解体を手伝ってもらってからだ。




