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竜のスキル

『さて、名前も決まったことだし、お前に竜王が使える能力を教えておこう。』


 カリバーンが言うには、竜王はスキルとは別に独自の能力を使えるらしい。


『まずは簡単なところで、竜王以外の普通の竜も使えるブレスだな。』

『おお、ブレスとか竜っぽいな。』

『シルの世界にも竜はいたのか?』

『いや、伝承のみで生きていた時代にはいなかったな。そもそも伝承も神話に近いものなので、実在したのかも怪しい感じだ。魔法もない世界だったし。』

『魔法がないとは不便だな。しかしシルは魔術を使っていたようだが?』

『こっちに来てから覚えた。というか我流なので正しい使い方なのか怪しいところだ。』


 特に誰かに教わった訳でもなく、魔物の使った魔法を参考に試行錯誤しただけなので、そもそも正しい使い方なのかも不明だったのである。


『我流であれだけ使いこなせるのであれば、筋がいいのであろうな。では、ブレスの使い方を教えよう。』


 竜族は体内にブレスを生成するための器官があり、そこの魔力を活性化してブレスを吐くことができるのだそうだ。

 喉の奥辺り、というなんとも曖昧な説明だが、意識を向けるとそれっぽい感じはする。


『待て待て、ここで使うなよ。ここを壊されると面倒なので奥に行くぞ。』


 この石の神殿のような場所は非常に美しい所である。

 これを造ったのはカリバーンなのであろうが、せっかく造ったものを壊されるのは嫌なようだ。

 連れられて奥に行くと、何もない広い岩場にたどり着いた。

 闘技場と言われても納得ができるような広大な円形で、天井も高くなっている。


『こんな感じだ。できそうか?』


 カリバーンがお手本を見せてくれるが、土の竜王であるからか砂嵐のような感じであった。

 しかし単なる砂嵐ではなく、魔力を帯びていて輝いている。


 喉の奥で魔力を練り、思い切り吐き出すと、白い霧のようなブレスが勢いよく噴出される。

 白い霧なのは、光属性だからであろうか。

 カリバーンのものと同様に、魔力を帯びて輝いているので、なんとも美しい。


『おお、幼生であるのに見事なものだな。クラウ・ソラスの奴が使っていたものと変わらん。』


 無事にブレスを出すことができ、なんとか竜の面子を保てたようだ。


『細くして威力を高めたり、拡散して範囲を広げたりもできるぞ。後で練習するがよい。』


 言われた通りに、出し方の意識を変えると、散水ホースの口を調節するように広げたり狭めたりとできた。


『初めてなのに、いとも簡単にやりおるな。異世界からの訪問者だからこそであろうか。』


 異世界人なのはデメリットにしかならなそうだが、褒められて嬉しくないはずもないので、気分もよくなる。


『では、次は飛翔だな。これも大抵の竜族が使用できるし、亜竜である飛竜も使えるものだ。』

『そう言えば俺には翼がないようだが・・・』

『何を言っておる。お前の背中に小さいが生えておるぞ。』

『ぐぐぐ・・・やっぱり見えない。』

『ふははは。今のその体では見えぬか。どれ、見せてやろう。』


 カリバーンが魔術で地中から銀を取り出し、磨き抜かれた鏡を生成する。

 そこに映り込んだ自分の体は確かに竜で、背中に小さな翼が生えていた。

 肩甲骨のあたりに力を入れると、小さな翼が可愛らしくピコピコと動いていた。


『こんな小さいんじゃ飛べないんじゃないのか?』

『翼はあくまで魔力操作の補助だ。俺のこの翼で羽ばたいて飛べると思うか?』


 確かにカリバーンの翼も小さく、その大きさの翼を羽ばたいても得られる揚力も知れているのだろう。


『飛ぶには、7属性のどれでもない力を利用する特殊な魔術を使って浮いた後、それを制御して進む事になる。多少は風魔術で姿勢制御や加速をすることもある。手本をやる故、魔力の流れを見てみるがいい。』


 カリバーンの魔力が翼に集まると、フワッと宙に浮く。

 姿勢制御も翼の魔力を使っているようだが、進む際にはやはり風を使っているようだ。


 浮く際に風の力を使っているようには見えなかった。

 重力の影響をコントロールしているのだろうか。

 そう言えば、石礫や氷球を造った際にも、普通に浮かせて自在に空中で動かしていた。

 意識せずに、重力もコントロールしているのかも知れない。


 シルは翼に魔力を集めて、それを使って重力を操作することをイメージしてみる。

 すると浮き上がるどころか、一気に天井まで行ってしまった。慌てて天井に受け身をとると、地表に落下する。

 地表にぶつかる前に、再度重力を操作してなんとかホバリングに成功する。

 しかし、うまく静止することができず、その場で何度も宙返りをしてしまう。

 幸いなことに、目を回したり酔ったりすることはなかったが、地面と天井を何度も行ったり来たりすることとなった。

 ようやく慣れてくると、翼に風を受けるイメージで姿勢を直したり、回転したりすることもできるようになった。


『最初は危うかったが、なんとか使えるようになったようだな。』


 飛翔もカリバーンから合格のお墨付きをもらえたようだ。


『次は、竜王独自の能力で結界だ。竜障壁とも呼ばれる強力なものだ。竜の体は頑丈な上に鱗も硬く、生命力も高い。さらにこの結界を使うことで、竜王はまず攻撃を受けることがなくなるのだ。』

『そこまで行くとなんかズルくないかな。』

『そう言うな。竜王は最強の生物として君臨しているのだ。おいそれと負ける訳にはいかんのだよ。』

『そんなものか。』

『そういうものだ。』


 竜障壁も、どの属性でもない魔術だが、現象をうまく説明できないので、直接使い方を教えてもらう。


『ほれ、手を出せ。』


 と、カリバーンが大きな前脚を出してくる。

 シルも前脚を出し、爪をちょんと突き合わせると、魔術の使い方のイメージが脳内に流れ込んでくる。


『精神支配の術を応用して、直接使うイメージを流し込んだ。これで使えるだろう。』


 流れ込んだイメージのままに魔力を展開すると、目の前に透明なガラス板のようなものが浮かび上がる。


『できたか。では試してやろう。歯を食いしばれよ?』


 焦るシルに構わず、カリバーンは竜障壁に前脚を叩きつける。

 甲高い音とともにカリバーンの脚が弾かれ、流量壁にひびが入るが壊れはしなかった。


『初めて使ってこれに耐えるとは、またなんとも優秀だな。』


 カリバーンの一撃は、軽く振っただけなので全力には程遠いはずだが、それでも竜王の一撃に耐えられたのだ。

 予想以上の出来に、カリバーンも嬉しいようだ。


『受けて防ぐ以外の使い方も見せておこう。強めの石の槍を俺に撃ってみよ。』


 カリバーンの前に、薄く小さな竜障壁が展開される。

 それに向けて、シルは地面から岩を取り出し、ランスのような尖った円錐形にしてカリバーンに向けて射出する。

 カリバーンは竜障壁を変形させて角度をつけると、石槍をすっと受け流して逸らしてしまった。


『今のは受け流すための使い方だ。少ない魔力で薄い結界を展開していても強力な攻撃をしのげる。もう一発撃ってみろ。』


 言われるがままに、再度石槍をすっと錬成して射出する。

 今度は少し上方に厚めの結界を展開し、石槍の飛来にあわせて上から叩きつけると、そのまま地面に押し付けて砕いてしまった。


『今度は、攻撃を無理やり弾いた上に攻撃に転嫁するやり方だ。直接飛び掛かってきた相手を圧殺することもできる。』

『なるほど、単純に受けるだけではなく、出し方や使い方を工夫することで、攻撃にも転用できるのか。』


 シルは納得した顔で、展開した結界を振り回したり、形を変えたりしてみる。


『もう自在に操れるか。なんとも末恐ろしいものだな。』


 カリバーンも弟子の出来の良さに愉快そうにしている。


『次は、今のシルではまだ使えないが、人化と竜人化の術だ。』

『なんで今使えないんだ?』

『幼生のお前が人化したら赤ん坊になるのだが。』

『なるほど・・・何もできなくなるのか。』


 確かに危険そうだし、やる意味もなさそうだ。

 これも、同じように直接脳内に使い方を流し込んでもらう。

 試せないが、問題なく使えそうだ。



 ◇ ◇ ◇



『さて、俺から伝えたいことはこんな所だ。聞きたい事はあるか?』

『知っていたら人間の言葉を教えて欲しいんだができるか? あと、人間の世界がどうなっているのかも。』

『良いだろう。人間の言葉とどんな国があるのか等教えておこう。言葉は長くなるので後に回して、まずは国と種族だな。』


 いまシルがいるのはランメルス大陸というらしい。

 大陸には大国が2つあり、この洞窟はシャルワリエ王国の領土にある。

 実際には、隣にあるデロドワナ帝国との境界にあるピラート山脈のシャルワリエ王国寄りというだけで、この辺りの国境は明確ではないとのことだ。

 この2国は人族が治める地だが、帝国は人族至上主義で排他的、王国は比較的寛容な国で他種族も普通に住んでいるそうだ。

 この多種族と言うのが、エルフ、ドワーフと呼ばれる半人半妖(この妖は妖魔ではなく妖精のことらしい)の種族、獣の特性と身体特徴を一部引き継いでいる獣人、人族に似ているが魔物に近い能力を持つ魔族である。

 エルフ、獣人、魔族はそれぞれ種族で固まって暮らしている土地があり、そこは王国・帝国とは独立しているという形になっている。

 位置的には、大陸の真ん中にピラート山脈が横たわり、北側にシャルワリエ王国、南側にデロドワナ帝国がある。

 山脈の東側に小さいながらエルフの住む森と獣人領がある。

 シャルワリエ王国の更に北にある半島に魔族領があり、その間には火山地帯があるそうだ。

 各種族が使っている言語は、多少の方言はあるものの統一されているとのことで、一つ覚えるだけで済むのはシルとしては非常に助かった。


 カリバーンも竜の姿のままでは人語を話せないので人化してもらい、器用に人語と念話を駆使して教えてもらった。

 使用される文字は独特であるものの、単語としてはラテン系のものに近く、文法は日本語に近いものだ。

 問題は、日本語の文法のように、口語の場合はかなり自由度が高いという事だが、単語の意味が分かればなんとかなるであろう。



 ◇ ◇ ◇



 シルがだいたい人語を理解できるようになった頃、気になっていたことをカリバーンに聞いていた。


『竜王は繁殖しないと言っていたと思うが、性別はないのか? 人化したカリバーンを見ると男のようだけど。』

「確かに竜王に雌雄の区別はない。ただ魂としてどちらかに寄るようで、それが人化をした際の結果に出るようだ。シルは異世界では雄だったらしいから、人化したら雄になるのではないかな。」

『他の竜王はどんうなんだ?』

「ほぼ雄だな。水の奴が雌だが面倒な性格だ。闇の奴は人化したのを見た事がないから知らぬな。」

『7人もいれば色々か。いや7体なのか? 7匹なのか? 7頭なのか?』

「わははは、シルは細かいことを気にするのだな。」


 なぜか笑われてしまった。

 この世界では、数える時の単位はあまりきにしないのだろうか。

 カリバーンが大雑把なだけな気もするが。


「お前は失礼なことを考える時に顔に出ているぞ。気を付けよ。俺は気にせんがな。」


 カリバーンが心を読めるのではなく、シルが表情に出やすいだけだったらしい。


「ついでだ。他の竜王のことも教えておこう。」


 火の竜王、猛火竜レーヴァテイン。王国と魔族領の境界にある火山を根城にしているらしい。

 風の竜王、暴風竜フラガラッハ。ピラート山脈の獣人領寄りが拠点のようだ。

 水の竜王、溢水(いっすい)竜ミュルグレス。帝国の更に南にある雪原をフラフラしているそうだ。

 雷の竜王、豪雷竜タケミカヅチ。帝国領内に居を構えているらしい。

 闇の竜王、幽闇(ゆうあん)竜ダインフレイフ。魔族領にいるらしい。


 闇だけはいまどこにいるのかよく分からないらしい。

 繋がりは感じるので、生きているであろうからあまり気にしていないらしい。


挿絵(By みてみん)


 シル、と言うか銀次が気になるのは、それぞれの名前である。

 元の世界の、伝説の武器や神の名前が、カリバーンとクラウ・ソラス以外にも使われているのである。


 カリバーンに聞いてみると、なるほどと思える答えであった。


「恐らくは、創造神さまが我々を生み出して名前をつける際に、そちらの世界の情報を覗いて、参考にしたのであろう。それか、そちらの世界の神がこちらの世界の竜王の名前を参考に色々とやったかだ。」

『神は異世界の情報を見れるのか?』

「お前がここにいるというのが答えであろうな。詳しくは知らんが情報を見たり、異世界の神と取引したりもあるようだ。」


 さて、自分の魂はあちらの神から売られたのだろうか、こちらの神が要求したのか、どちらであろうか。

 自覚はないがシルは創造神の使途らしいので、いずれ聞く機会もあるかも知れない。


「1つ伝え忘れておったが、竜王は自分の力を示すための武器を1つだけ作り出せる。それが名前が異世界の武器の名前である理由の1つかも知れぬな。」


 そう言うと、カリバーンは自らの手の上に魔力で剣を造りだしていく。

 綺羅びやかで美しいが、凄まじいまでの力を感じる剣。

 まさに聖剣の呼び名に相応しい一振りであった。


「俺が使う意味はあまりないので、人に手を貸す際に貸し与える程度だがな。お前も竜王の力が正式に覚醒したら、作り出せるようになれるであろう。」


 自分の力を象徴する武器。

 シルに取ってはどんなものになるのであろうか。



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