8・香音・香織の夜
久しぶりの投稿です…。
8・香音・香織の夜
自宅に着くと、二人は私服に着替えて、香音は夕食を作り、香織は香音が呼ぶまで、自室で宿題をやっていた。幼い頃から香音と香織は同じ部屋で過ごしており、中学の入学と両親の転勤の二つの理由で、別々の部屋にする事を親から提案されたが、二人は其れを断り、現在も同じ部屋で暮らしている。
香音と香織の部屋は七畳程の広さであり、入って正面には窓と二つの机があり、机には教科書や参考書、其れに一台の共有のノートパソコンが置かれており、部屋の右には二つの本棚があり、右側には木製の二段ベッドがある。ちなみに上が香音の寝床であり下が香織の寝床である。
香織は持っていたシャープペンシルを置いて、机の引き出しを開けて、一枚の紙を取り出した。それは幼稚園の頃に書いた、将来の夢について書いてある紙だった。
しょうらいのゆめ・おねえちゃんのおむこさんになる
と、香織が幼い頃に書いた夢が書かれていた。其れを見てほくそ笑みながら思う。
『あの頃はただ姉弟という関係で好きだったけど・・・何時の頃からか、僕はお姉ちゃんが一人の女性として好きになってたんだよね・・・一人の女性として愛していたんだよね・・・でも・・・駄目だよね・・・』
香織はそう思いながらも、其れは叶う事の無い夢である事を理解していた。
「香織ク~ン♪ ご飯だよ~♪」
と、香音の呼ぶ声がした。
「うん、今行くよ!」
香織はそう返事をして、紙を机の中に仕舞い、部屋から出て行った。
※ ※
やがて夕食が終わり、二人は後片付けをする。そして香織が使った皿を洗おうとした時・・・
「あっ、香織クン! お皿洗うのはお姉ちゃんがするから、先にお風呂に入っちゃいなよ♪」
と、香音が香織に言った。しかし香織も・・・
「でも、自分のくらいは洗うよ!」
「いいの! 香織クンはゆっくり温まってきなさい!」
その後一分くらい言い合っていたが、結局香織が根気負けして、洗わずに入る事にした。そして香織がダイニングから出ようとした時・・・
「・・・良かったら香織クン・・・お姉ちゃんと一緒に入る?・・・」
と、からかい気味に香音が言った。この二人は昔は一緒にお風呂に入っていたが、小学校五年生辺りから別々に入る様になった。
「なっ・・・何言ってるの!?」
「ウフフ♡ 冗談よ♪」
香織は顔を赤くしながら、寝間着などを取りに部屋に向かった。
※ ※
湯気が起ちこむ浴室で、香織は湯船に浸かりながら、香音の事を考えていた。
「・・・・・何でだろう・・・何で僕はお姉ちゃんを好きになったんだろう・・・一緒にこの世に生を受けた人を好きになるなんて・・・」
香織は湯に顔を沈め、湯には泡が湧いてきた。
※ ※
青色の寝間着を身に纏った香織が、入浴を終えてダイニングに行くと、香音はダイニングにあるソファーで文庫本を読んでいた。香音の前の低い机には、部屋にあった筈のノートパソコンが置かれていた。ダイニングの隅にはプリンターがあり、香織は後で姉が何かをするだろうと思った。
「出たよお姉ちゃん・・・何読んでるの?」
頭をタオルで拭きながら、香織は香音に尋ねた。
「ん? 恋愛小説だよ♪ 弟が姉に恋をするっていう、禁断恋愛の話なんだ」
「!・・・そうなんだ・・・」
何気に香音は述べたが、香織はまるで自分の事の様に思ってしまい、少々動揺してしまった。香音は本を閉じると、香織の方に向かってきた。
「ほら香織クン、髪乾かそう!」
「うん」
香音は香織をソファーに座らせると、浴室の脱衣所と共同になっている洗面台からドライヤーとヘアブラシを持ってきて、香織の髪を乾かし始めた。
先程入浴していた香織は、出た直後に乾かすのは可能であったが、幼い頃から二人は、お互いの髪を乾かし合ってきて、其れは今でも行っているのだ。香音は香織の髪を、ドライヤーで粗方乾かすと、ヘアブラシで丁寧に、香織の髪を梳かし始めた。
「香織クンの髪って、サラサラして綺麗ね♪」
香織の髪を手に絡ませる様にしながら、香音が感想を述べる。
「そうかな?・・・お姉ちゃんも同じくらいだと思うけど・・・」
髪を触られている感触を感じながら、香織は答える。
「はい終わり!」
と、香音は髪を梳かすのを止めた。どうやら梳かし終わった様だ。
「じゃあお姉ちゃん、お風呂入ってくるからね♪」
そう言うと香音は、ヘアブラシをソファーの前の低いテーブルに置き、入浴の為部屋を出て行った。
一人残った香織は、ソファーに座った。その時先程香音が読んでいた恋愛小説が目に入り、香織は其れを手に取って読んでみた。
恋愛小説の内容は、一つ年上の姉に弟が恋をするという内容であった。暫く読んでいく内に、香織はある台詞に惹かれた。
『僕と姉さんは、絶対に切れない赤い糸で結ばれてるんだ!』
という、弟の台詞であった。
「赤い糸か・・・僕とお姉ちゃんは、絶対繋がってないだろうなぁ・・・」
香織は何だか空しくなり、本を閉じてテレビを見る事にした。
それから暫くすると、ピンク色の寝間着姿の香音が、濡れた髪をタオルで拭きながら、ダイニングに入ってきた。ちなみに香音と香織の寝間着は、色が違うだけのお揃いの寝間着である。
「ふ~良いお湯だった♪・・・じゃあ香織クン! 私の髪お願いね!」
「はいはい♪」
そう言うと香音は香織の前に座り、香織は先程自分がやられた様に、香音の髪を乾かし始めた。暫くすると香音の髪は乾いてきて、ブラシ越しにサラサラとした感触が感じられた。
「やっぱりお姉ちゃんの方がサラサラだよ! やっぱり女の子だから!」
「じゃあ同じくらいサラサラって事にしようよ♪」
と、香音は笑いながら言った。どうやら意地でも香音は、自分は香織と同じと言いたい様だ。
だが香音の心境は穏やかでなかった。幼い頃は何の問題も無く、香音の髪を梳いでいたが、香音に恋心を抱くようになってからは、時々であるが内心ドキドキしながら行っていたのだ。
やがて髪を梳かし終わり、二人はソファーに座り、テレビのバラエティー番組を見て過ごした。そして気が付くと、時刻は午後一一時になっていた。香織は眠る為に、ダイニングを出ようとした。
「!」
すると香織は香音は立ち上がらず、机に置かれたパソコンを起動させている事に気づいた。
「あれ? お姉ちゃんはまだ寝ないの?」
「う、うん! ちょっとやる事あるから、香織クン先に寝てて良いよ!」
香織が尋ねると、香音は何故か慌てた様子で答えた。
「『多分クラス委員の仕事の何かかな?・・・』分かった、お休み!」
「お休み♪~」
香織は香音に就寝の挨拶をすると、自室に向かった。
自室に辿り着くと、香織は欠伸をしながらベットに向かい、ベッドで横になると掛け布団を引っ被った。最初は香音が来るまで待とうとしたが、十五分くらい経つと、待つという考えより睡魔の方が勝ってしまい、香織は気付かない内に眠ってしまった。




