9・誰かからの恋文
9・誰かからの恋文
翌朝香音と香織は、何時もと同じ様に上野公園を歩いて学校に向かっていた。
「あ、直也だ!」
香音が言った。確かに前方には直也が歩いていた。
「おっはよ! 直也!」
「おはよ、直也!」
「おお、おはよう!」
直也に駆け寄りながら香音は挨拶した。
その後三人は話しながら学校に向かった。
やがて学校が見えてきた時、突然香音が言い出した。
「あ、ごめん! 私ちょっと先に行くね!」
それだけ言うと香音は、香織達が何か言う前に走って行ってしまった。
「何だあいつ・・・トイレか?」
直也が言ったが、其れは香織にも分からなかった。やがて学校の昇降口に着き、香織は外履きの革靴から下駄箱にある上履きに履き替えようとした。
「ん?・・・」
その時上履きの上に、白い封筒の様な物が置かれているのに気が付いた。そして其れには差出人の名前は書かれておらず「桜井 香織様へ」と宛名だけが記載されていた。
「えっ?・・・僕宛て?・・・」
香織は最初、「桜井 香音様へ」の見間違いかと思ったが、もう一度確認をしてみると、やはり「桜井 香織様へ」であった。
「どうした香織?」
下駄箱の前で立ったままであった香織に直也が尋ねた。香織は慌てて封筒をブレザーのポケットに仕舞った。
「な、何でもないよ!」
香織は慌てて返事をした。直也は頭の上に「?」を浮かべた様な顔になったが、直ぐに其れも無くなった。香織は手紙が気になりながらも、直也と共に教室に向かった。
二階の教室に向かう階段の踊り場で、先に行った香音と再会した。
「あ、お姉ちゃん。さっきはどうしたの?」
香織が尋ねる。
「うん、実はさ、昨日教室に忘れ物したと思って慌てて行こうとしたら、その途中で忘れてなかった事を思い出して・・・アハハ(笑)」
と、香音は誤魔化す様に答えた。
「何だ、トイレかと思った!」
そう言う直也に、香織は肘を打ちこんだ。そして三人で教室に向かった。
教室に向かう途中、香織は香音に手紙の事を言おうと思ったが、どうしても言う気になれず、とうとう教室に着いてしまった。教室には既に和馬が居た。
「おっはよ! 香音♪」
と突然背後から真由が現れ、香音のスカートを思いっきり捲った。
「ニャ⁉」
香音は驚きつつも、捲られたスカートを押えた。しかし捲られた一瞬で香音の下着を見た真由が感想を述べた。
「わお! ピンクのイチゴ柄パンツ! カッワイイ♪」
「・・・! 真由!」
手紙の事を考えていた為に、僅かに反応が遅れながらも、香織は香音のスカートを捲った真由に怒った。幸いにも教室には大半が女子で、香織と直也と和馬以外の男子生徒は来ていなかった。
「へへ~ん! シスコンの香織も、お姉ちゃんのパンツ見たかったのかな?」
「っっ!・・・何を言ってるんだ!」
からかい気味に言う真由に、香織は更に起こる。香織は手紙の事は後回しにして、先に真由を何とかする事を優先した。
「もぉ~、止めなよ二人とも(苦笑)」
苦笑しながらも、香音は二人に向かって呟いた。
※ ※
その後授業の時間になったが、一時間目は担当の教師が休みで自習となった。自習課題が何も無い為、生徒達は会話をしたり携帯を弄っていたり雑誌を見たりしながら過ごしていた。
香織は香音と話していたが、先程の手紙を思い出し立ち上がった。
「どうしたの?」
香音が尋ねた。
「ちょっとトイレ」
香織は答えた。勿論トイレというのは嘘で、本当は手紙の中身を確認する為であった。香織が席を離れると、香音の所に恵理と真由がやって来た。香織は真由がセクハラをしないか心配をしながらトイレに向かった。
トイレに着くと香織は個室に入り、便器の蓋を閉めてその上に腰を掛けて、ブレザーのポケットから手紙を取り出した。
「・・・・・」
香織は内心ドキドキしながらも、手紙の封を開けて中に入っていた便箋を広げ内容を確認した。
前略
突然こんなお手紙をお出しして、御無礼をお許しください。
私はずっと前から、香織クンの事が好きでした。香織クンは美人で優しいからです。
けど香織クンは私の事を異性として好きになれないと思います。
それでも私は香織クンに自分の想いを伝えたくて、この手紙を書きました。
もし私の事が気になるなら、今日の放課後に上野公園の不忍池に来て下さい。其処でお返事を待ちます。それでは。
草々
そう便箋に書かれていた。便箋は可愛らしい花柄模様だが、筆記から人物を特定されたくないのか、記載されている文字はワープロ文字であった。
手紙を読み終えると香織は、手紙を仕舞いながら考えた。自分を好きになってくれる人が居るのは嬉しいが、香織は姉である香音の事が好きであった。其れは勿論叶わない恋である事も承知であった。手紙の差出人も香織が誰かを好きというのを気づいているのか、「香織クンは自分の事を異性として好きになれない」と述べていた。
しかし其れでも差出人は、今日不忍池に居るとも述べてた。
「・・・一応行ってみよう」
香織は差出人の為にも、放課後に不忍池に行くことにした。
※ ※
香織が教室に戻ると、香音の所にはまだ恵理と真由が居て会話をしていた。仕方なく香織は直也と和馬の所に行った。二人はゲーム雑誌を見ながら話していた。
「おう、香織どうした?」
直也は香織が何かを言いたそうにしているのに気づき尋ねた。
「実は・・・」
香織は直也に手紙の事を話した。
「そっか・・・じゃあお前困ったな」
と言う直也に対して、香織は「何故?」という表情を見せた。
「だってお前、香音の事が好きだろ?」
「なっ!」
直也は答える様に言った。其れに対して香織は驚いた。誰にも香音の事が好きである事は話していないのに、何故か直也が知っていたからだ。香織は幸いにも周りの声のおかげで、香音には聞こえていなかった。
「な、何でそんな・・・」
香織は驚きながらも尋ねる。
「だってよ、あんなにベッタリと一緒に居れば、香音の事を好きだって気づくぜ!」
直也が答える。
「其れにお前は、香音を見る目と真由や恵理その他の女子を見る目も違うしな」
和馬が続けて答える。
「和馬も知ってるの?・・・あと誰が気付いてるの?」
「俺と和馬、其れに真由と恵理だけだ。あとの連中はお前はシスコンとしか思っていないな多分」
と、周りを見ながら直也が言った。何時も香音に対してセクハラをしている真由も、自分の姉への恋心に感づいていたのだ。
「でっ? お前はどうするんだ? その手紙の相手に対して」
直也が尋ねた。
「会うつもり・・・でもちゃんと言うよ、『僕には好きな人が居ます』って」
「そうか・・・まっ、頑張れよ!」
香織がそう答えると、直也が香織の肩を叩きながら言った。そしてその直後、一時間目の授業の終わりのチャイムが鳴った。




