第3話 王都の屋敷へ
「これから王都に向かうのか?」
ルークは驚いたような顔をした。
「ええ。レベッカ様の容態が悪化したとのことなので……」
「なぜ、あなたが? レベッカ嬢は王都で医者に診させているはずでは……」
「――私はもともと、父母の病院を手伝っていました。今は《鋼心病》の研究も父母と一緒にやっております」
マリナは早口で説明した。
薬が必要だということなら、家族が営む病院に行って取って来なければならない。
使者をよこしたということは、レベッカの容態がかなり危ないのかもしれない。
「――風鈴草という薬草を使った薬が、《鋼心病》の症状を和らげる効果があることが最近、わかったのです。そのことをお伝えしていたので、それで持ってきてほしいということだと思います」
マリナはルークに一礼した。
「――先ほどはありがとうございました。私は王都に向かいますが、ルーク様は屋敷にご滞在されて、書類を確認いただいて問題ありません。帳簿はそこにあるのが全てです。あとは、使用人と私の弟に言づけておきますので――」
「あ、マリナ夫人――」
部屋を急いで去ろうとしたマリナの肩へルークが手を伸ばした。
先ほどの管理人の男が伸ばしてきた手を思い出し、マリナは思わず大きく身を引いた。
「――申し訳ない」
そのことに気づいたのか、ルークは一礼して詫びると、マリナを見つめた。
「私も同行させていただいて、よいだろうか。リュシオンには、領地を見に行くと事前に伝えていたのだし――訪れてみたら本人がいないのだから、私も困っている。私もリュシオンと話をしたい」
「……そうですか」
マリナは頷いた。
「私は病院に行って、薬を取ってまいります。戻りましたら出発しますので、よろしくお願いいたします」
◇◇◇
「お父様。――リュシオン様から、レベッカ様の体調が悪化したので、至急王都の屋敷に来て欲しいと連絡がありました。今から行ってまいります」
屋敷から少し離れた村の真ん中に立つ病院を訪れたマリナは、父のルシオにそう言った。
「――今から、すぐに発つのか?」
ルシオは、眉間に皺を寄せ、眼鏡を持ち上げた。
「ええ」
ルシオは頷くマリナを見つめて、息を吐いた。
「――レベッカ様もこちらへ連れてきていただければ、もっと継続的に診ることができると、何度もお伝えしているのに――」
「……そうですね」
マリナは視線を伏せると、呟いた。
薬棚から薬を取り出し、鞄に入れ、屋敷に戻る。
ルークは既に自分の馬車の出発の準備を整えていた。
「奥様、荷物はまとめております」
使用人が慣れた様子でまとめた荷物をマリナに渡した。
「――ずいぶんと手際がいいな。慣れているようだ」
ルークの言葉にマリナは苦笑した。
「――もう、何度も同じように王都に行っておりますから」
ルークは笑わずに、険しい表情をした。
「……宿はどうするのだ?」
王都には一日では到着しない。
「いつもは街道沿いの宿屋に泊まっております」
そう答えると、ルークは眉間に皺を寄せた。
「……街道沿いの宿屋か……。騒がしくて、それでは疲れもとれないだろう」
街道沿いの宿は安宿が多く、酒場も併設しているため騒がしいのは事実だった。
「……慣れておりますから、大丈夫ですわ」
何の気なく答えるマリナに対し、ルークは口調を強めた。
「道中に私の知り合いの貴族の館がある。泊めてもらおう」
「――それは……」
マリナは口ごもった。
正直、有難い話だった。
――けれど、甘えていいものだろうか。
「……あなただけではない。その使いの者も、休む間がなく疲れてしまうだろう」
ルークは王都から来たリュシオンの使者を見つめて言った。
使者は疲れた表情でマリナを見つめている。
「――ありがたいです」
マリナは頷くと、ルークに礼をした。
「お願いいたします」
マリナを乗せた馬車と、ルークを乗せた馬車は王都に向かって出発した。




