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【完結】血のつながらない不治の病の妹を優先する旦那様。治療法は見つけましたので、私は離婚して領地で生きていきます。  作者: 夏灯みかん


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第24話 「嫌です」

 客間へ移り、レベッカの母親であるエルシーが使用人に茶を用意させた。

 マリナは一口、二口と温かい茶を飲んだ。

 ようやく、呼吸が落ち着いてくる。


「……先ほどは、申し訳ありませんでした」


 マリナはレベッカに頭を下げた。


「本を投げたことと、大声を出したことは謝ります」


 レベッカは俯いたままだ。

 ネックレスはすでに外されていた。


「ですが、虹彩(イリシア)ダイヤモンドを身につけないでほしいということについては、謝りません」


 マリナは水晶をテーブルへ置いた。


「命に関わるからです」


 レベッカがわずかに顔を上げる。


「今回、虹彩(イリシア)ダイヤモンドの鉱山で働いていた方たちを調べました」


「鉱山……?」


「はい」


 マリナは頷いた。


「そこで働いていた男性たちにも、同じ病気が見つかりました」


「……男性?」


 レベッカの眉が動く。


「ええ。若い男性です。生前には胸の痛みや呼吸困難、失神がありました。亡くなった後に調べたところ――」


 マリナは一瞬だけ迷ってから、続けた。


「心臓に、《鋼心病》特有の結晶ができていました」


「……」


 レベッカは黙った。

 視線が、床へ落ちた本へ向かう。


「《鋼心病》は、若い令嬢だけがかかる病気ではありません」


 マリナは静かに言った。


「まして、美しい女性だけがかかる特別な病でもありません」


 レベッカの唇がわずかに震えた。

 マリナはそれ以上、死者の様子を語らなかった。

 今はまだ、その必要はない。


「まだ断定はできませんが、《鋼心病》は、精霊医療でいう『鋼』属性の精霊力を身体へ取り込みすぎることで発症すると考えています」


「精霊医療?」


 リュシオンが尋ねる。


「ええ。人によって、特定の属性の精霊力を取り込みやすい体質があるようなのです。そして、その体質には血縁による傾向もある」


 マリナは虹彩(イリシア)ダイヤモンドについても説明した。

 虹彩(イリシア)ダイヤモンドは、強い鋼属性を持っている。


 それを長期間、頻繁に身につける。

 あるいは鉱山で原石に長時間触れる。

 鋼属性を取り込みやすい体質の人間がそうした環境に置かれると、身体に鋼属性の精霊力が蓄積していく。


「それが一定の程度を超えると、心臓に鋼のような結晶が形成される。私たちは、そう考えています」


 エルシーが青ざめた。


「では……あのネックレスが……」


「レベッカ様の発症に関係した可能性は高いと思います」


「そんな……」


 エルシーが自分の口元を押さえる。


「でも、治療できるんだろう?」


 リュシオンが身を乗り出した。


「手紙にはそう書いてあった」


「はい」


 マリナは頷いた。


「まず、虹彩(イリシア)ダイヤモンドを外します。ほかの宝石や金属類も、できるだけ身につけないでください」


 レベッカが自分の胸元を見る。


「そして、王都を離れていただきます」


「王都を?」


「王都には金属が多すぎます。貨幣、馬車、建物、装飾品……。できるだけ鋼属性の精霊力が少ない場所で暮らす必要があります」


 マリナは続けた。


「代わりに、風や水の精霊力が豊かな場所で療養していただきます。ロレンス領に、試験的な療養所を作りました。森と小川に囲まれた場所です」


「そこで治るのか?」


「現在、四名の患者に同じ治療をしています」


 マリナは少し間を置いた。


「そのうち三名に、明らかな改善が見られています」


「三人も……!」


 エルシーが再び涙ぐむ。


「レベッカ、聞いたでしょう? 治るのよ……!」


「まだ治ると断言はできません」


 マリナは訂正した。


「心臓にできた結晶そのものが消えたわけではありません。ですが、症状は改善しています。少なくとも、新たな鋼属性を身体に取り込ませないことには意味があると考えています」


「十分だ」


 リュシオンは即座に言った。

 そしてレベッカを見つめた。


「行こう、レベッカ」


「……」


「僕も行くよ」


 レベッカが顔を上げた。


「お兄様も?」


「ああ。もちろんだ」


 リュシオンは迷いなく答えた。


「療養にどれだけ時間がかかっても構わない。僕も一緒に行く。領地のことなら――」


 一瞬、マリナを見る。


「……ブラウン夫妻もいるし、必要なら僕も向こうからできることをする。とにかく今は、君が治ることが一番だ」


 エルシーも娘の手を握った。


「私もできる限りそばにいるわ。ね? レベッカ。もう死ぬのを待たなくていいのよ」


 死ぬのを、待たなくていい。


 その言葉が落ちた瞬間。


 レベッカの顔が強張った。


「……レベッカ?」


 リュシオンが呼ぶ。


 レベッカは膝の上で両手を握りしめていた。


 そして、小さな声で呟いた。


「……嫌です」


「え?」


「わたくし……」


 レベッカは震える声で、それでもはっきりと言った。


「治療は、受けたくありません」


 客間が静まり返った。



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