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【完結】血のつながらない不治の病の妹を優先する旦那様。治療法は見つけましたので、私は離婚して領地で生きていきます。  作者: 夏灯みかん


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第21話 新しい療養所

 マーシャル辺境伯領から戻った翌日、マリナとレオンは病院の診察室で、父と母に鉱山での調査結果を報告した。


「二人、か」


 父のルシオが低い声で言った。


「はい。鋼属性の精霊力が強く出た遺体のうち、二人の心臓に《鋼心病》特有の結晶が確認されました」


 マリナは鉱山で記録した紙を父へ渡した。


「二人とも、生前に胸痛と呼吸困難がありました。一人は何度か失神もしています」


「完全に《鋼心病》だな」


「私もそう思います」


 ルシオはしばらく記録を眺めてから、深く息を吐いた。


「貴族の若い娘ばかりにかかる病ではなかったのか……」


「おそらく、最初から違ったのでしょう」


 マリナは答えた。


「虹彩(イリシア)ダイヤモンドに接する機会が多く、なおかつ鋼属性の精霊力を取り込みやすい体質の人に発症する。だから、装身具を日常的に身につける裕福な女性に患者が多く見つかっていただけで――鉱夫にも、同じ病気で亡くなった方がいたのだと思います」


 マリナは視線を落とした。


「ただ、診断されていなかっただけで」


「――問題は、ここからだな」


 レオンが言った。


「原因が分かったとして、どうやって治す?」


「そうね」


 マリナは机の上に、小さな水晶を置いた。

 従来の学術医療で考えるなら、問題は心臓に生じた結晶だ。

 ならば、それを取り除けばいい。


 けれど――。


「心臓を切り開いて、結晶だけを取り除くのは難しいでしょうね」


 母のサナの言葉に、マリナは頷く。


「ええ。結晶は心臓の表面だけではなく、筋肉の中に食い込むように広がっています」


 レオンも首を振った。


「今の技術じゃ無理だ。結晶だけ綺麗に取り除くなんてできない。心臓そのものを傷つける」


 外科的に取り除くことができないのなら。

 別の方法を考えなければならない。


 マリナは、魔女と呼ばれていた女性が残した手記を開いた。


『火を寄せる者は火の病を得やすく、冷たき水の地にて休ませよ』


 以前は意味の分からなかった文章だった。


 今なら、少しだけ分かる。


「《鋼心病》は、身体の中に鋼属性の精霊力を取り込み続けることで発症するのだと思います」


 マリナは言った。


「なら、まず新たな鋼属性を取り込ませないことが必要です」


「虹彩(イリシア)ダイヤモンドを外す?」


「それだけでは足りないかもしれません」


 マリナは首を振った。


「町には鋼属性を持つものが多すぎます。貨幣も、馬車の金具も、建物に使われている金属も。病院にだって、医療器具があります」


「では、町から離すのか?」


「はい」


 マリナは手記を指差した。


「精霊医療では、一つの属性が強くなりすぎたとき、異なる属性の強い環境で休ませることがあるようです」


「鋼と相反する属性は?」


「まだ、はっきりとは分かりません。ただ――」


 マリナは窓の外へ目を向けた。

 木々が風に揺れている。


「鋼は硬く、動かないものです。反対に、風や水は絶えず流れ続ける。手記にも、風や水を利用した治療がいくつかあります」


「風鈴草も風属性だったわね」


 サナが言った。


「ええ。《鋼心病》の呼吸苦を和らげる効果があります」


 マリナは頷いた。


「ですから、できる限り金属から離して、風と水の精霊力が強い場所で療養すれば、あるいは――」


 しばらく、誰も口を開かなかった。

 最初に頷いたのはルシオだった。


「やってみよう」

 

 ルシオは声を明るくした。


「今までの治療では、進行を遅らせることしかできなかったんだ。理屈があって、患者の負担も大きくない。試してみる価値はある」


 レオンも頷く。


「クララのこともある。宝石を手放してから状態が良くなって、また身につけたら悪化した。身体の中に入ったときは、もっと悪くなった」


「ええ」


 偶然では説明できないほど、いくつもの事実が同じ方向を示している。

 ならば、試すしかない。


 ◇◇◇


 病院から少し離れた場所に、小川が流れている。

 その川沿いに、以前まで農家の一家が暮らしていた小さな家があった。

 一家は息子夫婦と暮らすために別の村へ移っており、今は使われていない。


「ここなら、いいかもしれないわ」


 マリナは家の前に立ち、周囲を見渡した。


 背後には林、家の前には小川。

 王都や町のように石造りの建物が密集しておらず、馬車もほとんど通らない。

 風が木々の間を抜け、水面を揺らしている。

 水晶を掲げても、鋼色はほとんど現れなかった。


「まずは、ここを借りましょう」


 ブラウン夫妻にも手伝ってもらい、すぐに家の持ち主と契約を結んだ。

 金属製の家具や道具はできる限り持ち込まない。

 寝台も木製のものを使い、食器は陶器に替えた。

 患者たちには宝石はもちろん、金属製の装身具もすべて外してもらった。

 窓は天候が許す限り開け、風を通す。


 水は小川そのものを飲むのではなく、近くの井戸から汲んだものを使ったが、水属性の精霊力を取り入れるため、患者が体力を取り戻せば川沿いを歩かせることにした。


 風鈴草の薬も続ける。

 それが治療になるという確証はない。


 それでも、できることを一つずつ試していった。


 病院に入院していた《鋼心病》の患者四人も、新しい療養所へ移された。


 そして――ひと月が経った。


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