第13話 ネックレスの行方
マリナのネックレスは、その日、病院中を探しても見つからなかった。
翌日には弟のレオンに加え、父のルシオや母のサナまで加わって探してくれたが、それでも出てこない。
「もういいわ。私が落としたのだから、仕方がないわ」
三日目になって、マリナはそう言った。
「でも、高価なものなんでしょう?」
母が心配そうに尋ねる。
「たぶん……。でも、これ以上、みんなに捜してもらうのは申し訳ないわ」
「リュシオン様に何て言うの?」
「……言わなくてもいいでしょう」
母がわずかに眉を上げた。
マリナは気づかないふりをして、患者の記録へ目を落とした。
あのネックレスを失くしたことについて、リュシオンに申し訳ないという気持ちがないわけではない。
ただ、他人の手を煩わせてまで探そうという気にはならなかった。
なくしてしまった。仕方がない。それだけのことだった。
それよりも気になるのは、《鋼心病》の患者たちの状態だった。
特にクララは、この数日、少し体調を崩している。
最初は、少し息苦しいという程度だった。
それが昨日から胸の痛みを訴えるようになり、その日の朝には廊下を歩いている途中で倒れた。
「クララさん」
マリナが病室へ入ると、クララはベッドの上で荒い息を繰り返していた。
「……マリナ、様」
「喋らなくていいわ」
呼吸が浅く、唇が青白い。脈も弱かった。
父が調合した風鈴草の薬を飲ませても、呼吸はほとんど楽にならなかった。
「おかしいな」
隣でレオンが呟いた。
「少し前までは、もっと効いていたのに」
「ええ」
マリナは小さな水晶を取り出した。
「クララさん、少しだけ調べますね」
胸元へ近づける。
その瞬間、マリナは息を呑んだ。
「……どうして?」
透明だった水晶が、濃い銀灰色に染まっている。
鋼の色。――それも、半年前に調べたときより、はるかに濃い。
「姉さん?」
「レオン、見て」
レオンも水晶を覗き込んだ。
「……濃くなってる?」
「先日、測ったときは、こんな色ではなかったわ」
クララにかつての婚約者の話を聞いたあの日。
水晶はぼんやり色が浮かぶ程度だった。
それが今は、向こう側が見えにくいほど濃く染まっている。
《鋼心病》が悪化している。
それは分かる。
けれど――なぜ?
クララは一年間、この病院で暮らしている。
食事は変わっていない。
薬も同じだ。
最近、無理な運動をしたわけでも、外泊したわけでもない。
むしろ入院前よりずっと規則正しい生活をしている。
「何か変わったことは?」
マリナが尋ねると、クララは苦しそうに首を振った。
「……何も……」
「食べたものは?」
「いつもと……同じ……」
「新しい薬を飲んだり、何かいつもと違うことをしたりは?」
クララは答えなかった。
目を閉じ、再び苦しそうに呼吸を繰り返す。
「今日は休んでもらおう」
父がそう言った。
「マリナ。お前も一度屋敷へ戻りなさい。何かあれば使いを出す」
「――でも」
「領地の仕事もあるだろう。こちらには私とレオンがいる」
少し迷ったが、マリナは頷いた。
「……分かりました。何か変化があったら、すぐ知らせてください」
病院を出たあとも、クララの水晶の色が頭から離れなかった。




