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第4話:舞い散る胞子と爆心地


 血に濡れた「事象改変付箋」が、マイコニドの大群の中心へと吸い込まれるように着弾した。

 ペタッ。

 その小さな音が、運命を変える合図だった。

 古田の視界にだけ映る、マイコニドたちの足元に浮かび上がる『脆弱性:爆発的増幅』という無機質なログ。

「――っ、そういうことね! 合わせなさい、ふるふる君!!」

 状況を瞬時に察した櫻子先輩が、優雅に右手を突き出した。

 彼女が放ったのは、魔力を消費しない初級の火属性魔法。

 しかし、それが地面に張り付いた血塗れの付箋に触れた瞬間――。

 ドガァァァァァァン!!!!!

 腐界の樹海全体を揺るがすほどの、見たこともない超質量の紅蓮の大爆発が巻き起こった。

 凄まじい爆風がキノコの群れを一瞬で塵へと変え、同時に空中に漂っていた洗脳胞子をも綺麗に焼き尽くしていく。

「ぐわっ……!?」

 爆風の余波で、角田先生が吹き飛ばされるようにその場にへたり込んだ。

 あれだけ凶悪なステップを踏んでいた『皆殺しダンス』が嘘のように、先生の瞳からドス黒い闇が消え、正気を取り戻していく。

「あ……あれ? 俺は一体……」

「あなた……! 良かった、本当に良かった……!」

 駆け寄った綾華先生が、涙を流しながら夫の大きな体を抱きしめた。

 周囲の生徒たちは、何が起きたのかも分からず、ただ呆然と立ち尽くしている。

 爆発の火種となった古田が、口の端から血を垂らしながら、ふらりとその場に倒れ込んだからだ。

「はぁ、はぁ……痛え……マジで痛え……」

 戦闘が終わり、俺はその場にへたり込んで、ズキズキと脈打つ親指を押さえていた。

 爪自体はすぐさま急速再生で元通りに生え揃うはずだった。だが、魔力の枯渇か、あるいはこの異世界の理のせいか――今回ばかりは、指先が全く再生する気配を見せない。

 精神的なダメージもさることながら、自分の生爪を前歯でブチ抜くという行為の代償が、じりじりと神経を焼き続けている。

「……ふるふる君」

 影が差し込み、見上げると、櫻子先輩がドレスの裾を汚すのも構わずに俺の前に膝をついていた。

 彼女の白い手はかすかに震えていて、いつになく真剣で、どこか恐ろしいほどにドロリとした激しい感情を秘めた瞳で、俺の右手をそっと両手で包み込んだ。

「バカじゃないの……? なによ今の力。狂ってるわ。すぐ治るとはいえ、私の前でそんな風に血を流さないで」

「いや、手だと怖くて力が入らなくて……口でやるのが一番確実だったんで……痛たたっ!」

「じっとしていなさい。治らないのなら、私が見守ってあげるわ」

 櫻子先輩は文句を言いながらも、酷く過保護に、愛おしそうに俺の指を手当てしてくれた。

 その横顔を見て、俺は(ああ、この人のためなら、次の爪を剥ぐのも悪くないな)なんて、我ながら毒されているようなことを考えてしまう。

「おーい! 古田、櫻子先輩! 無事か!?」

 瓦礫の山から、ロープを肩に担いだサバイバルの師匠・玄田先輩や、タブレットを片手にした塩原さん、そしてモーニング姿のメカ校長たちが、続々とこちらへ集まってくるのが見えた。

「古田、お前、今のは凄かったな! まるで爆弾魔みたいだぞ!」

 玄田先輩が豪快に笑って肩を叩いてくる。

 だが、俺はまだ自分の指先のヒリヒリとした感覚から抜け出せていない。

 校舎はバラバラの瓦礫となり、ここは見たこともない危険な異世界。

 けれど、こうして仲間たちが無事に集まっているのを見ると、少しだけ安堵の溜息が漏れた。

「よし、お前たち! 落ち込んでいる暇はないぞ!」

 メカ校長が、腕のガトリングをギュインと鳴らして胸を張った。

「ここをこれからの、ワシたちの新しい野営地(学校)とする! レベル1からの学校再建の始まりじゃ!!」

 二つの月が照らす怪しいキノコの樹海で、俺たちの、最高にカオスな放課後が新しく幕を開けた。


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