第21話:奇跡の雫と王女誘拐劇
「……ひゅぅ……はぁ……」
オルト・リ王国の王女、ルリカ・オルト・リは、高熱にうなされながら微かな寝息を立てていた。その顔には死の影が色濃く落ちており、公爵が「放っておいても死ぬ」と踏んで放置していたのがよくわかる。
「(これがルリカ姫様か。随分とちっこいな……)」
赤城は懐から櫻子先輩の小瓶を取り出すと、中に入っていたクローンの葉っぱを一枚取り出した。エリカから教わった通り、持参したすり鉢で葉を丁寧にすり潰し、水筒の水を数滴混ぜて緑色のペースト状の薬を作る。
「よし、姫様。ちょっと苦いかもしれないけど、我慢してくれよ」
赤城は姫の頭をそっと持ち上げると、その小さな唇の隙間から、薬草のしずくをゆっくりと流し込んだ。
変化は、まさに魔法のようだった。
薬が喉を通った瞬間、ルリカ姫の全身を淡い緑色の光が包み込んだかと思うと、異常な早さで打っていた脈が落ち着き始めた。土気色だった頬にはほんのりと赤みが差し、苦しげだった呼吸がスゥッと穏やかなものに変わっていく。
「ん……ぁ……」
数分後、姫はゆっくりと目を開けた。その瞳が、目の前にいる見知らぬ赤髪の少年を捉える。
「あ、あなたは……? こ、ここは……」
「おっ、目が覚めたか。気分はどうだ? 俺はただの通りすがりの、元野球部だ」
言葉は通じないが、赤城はとびきりの笑顔でサムズアップして見せた。
その時である。
「おい! 今、部屋の中で物音がしなかったか!?」
扉の外から、見張りの兵士たちの慌ただしい声と、ガチャガチャと鎧を鳴らして階段を駆け上がってくる音が聞こえた。鉄格子が溶かされていることに気づかれたのかもしれない。
「っと、ヤバい。お時間みたいだ」
赤城は姫をベッドのシーツごとぐるぐる巻きにすると、大切な野球道具の詰まったバッグでも扱うように、しっかりと、だが優しく肩に担ぎ上げた。
「きゃっ!? な、何をするのですか!?」
「お姫様、ちいとばかし乱暴するぜ。しっかり捕まってな!」
バンッ!!
兵士たちが扉を蹴破ってなだれ込んできた瞬間、赤城は姫を担いだまま窓枠に飛び乗り、地上数十メートルの高さから夜の闇へ向かって躊躇なくダイブした。
「姫様が攫われたぞォォ!!」
という兵士たちの絶叫を背に受けながら、赤城は壁面を蹴り、まるでホームスチールを決めるかのような完璧なスライディング軌道で城壁を滑り降り、夜の王都へと消えていった。
「(……セーフッ!)」
暗闇の中で、赤城の満足げな声が小さく響いた。




