第22話:戦乙女の涙と、秘密の祝宴
「セーーーーフッ!!」
深夜の静まり返った路地裏。
隠れ家として使っている廃屋のドアを勢いよく蹴破り、赤城烈兎が飛び込んできた。その肩には、ベッドのシーツでぐるぐる巻きにされた大きな「荷物」が担がれている。
「おい赤城! 本当に連れてきちゃったのかよ!」
古田(俺)が呆れ声を上げる中、赤城は「荷物」をそっと床に下ろしてシーツを解いた。中から現れたのは、まだ少し眠たそうに目をこすりながらも、気品ある金髪を揺らす少女だった。
「ル、ルリカ様……っ!?」
手製の松葉杖を突きながら待機していたエリカが、その少女の姿を見た瞬間、松葉杖を取り落として床に膝をついた。
彼女こそが、オルト・リ王国の正統なる王位継承者――ルリカ・オルト・リ殿下であった。
「……エリカ? ああ、エリカなのね! 無事だったのね!」
ルリカ姫は12歳という若さながらも、凛とした声で叫び、折れた足のせいで動けないエリカの元へと自ら駆け寄ってその体を抱きしめた。
「申し訳ありません……姫様をお守りする立場でありながら、このような不甲斐ない姿で……!」
「いいの、いいのよエリカ。あなたが私のために魔の森へ行ってくれたと、先ほどその赤髪の少年から聞きました。……ただ、少しだけ運ばれ方が手荒でしたけれど」
ルリカ姫はクスクスと笑いながら、赤城の方を振り返った。
「貴方が私を救ってくれたのですね。米俵のように担がれて窓から飛び降りた時は、心臓が止まるかと思いましたが……お陰で、あんなに苦しかった胸の痛みが、今は嘘のように消え去っています。感謝いたします、異界の勇者よ」
言葉は通じないはずなのに、ルリカ姫の真っ直ぐな感謝の視線を受け、赤城は顔を真っ赤にして後頭部を掻いた。
「へへっ、いや、俺はただ外野フライを捕るみたいに突っ走っただけだからさ。元気になって良かったわ」
「あらあら、赤城くんったら本当に分かりやすく鼻の下を伸ばしちゃって。でも、無事に薬が効いて良かったわね」
櫻子先輩がパチパチと拍手をしながら歩み出る。その横では、なのはさんも「うんうん、お姫様、とっても可愛いね」と、不織布マスクを外して微笑んでいた。
「よし、お前ら! 姫様の病気も治ったことだし、明日の大勝負に向けて、景気付けに前夜祭といこうじゃねえか!」
玄田先輩が豪快に笑いながら、宇多川先輩の背中を叩いた。
「おう、任せとけ。国を救ったお祝いだ、特盛でいくぞ」
宇多川先輩が不敵に笑い、スケッチブックに筆を走らせる。
次の瞬間、廃屋の古びたテーブルの上に、信じられない光景が具現化された。
焼き立ての巨大なピザ、山盛りのフライドチキン、肉汁溢れるローストビーフ。そして現代日本の炭酸飲料が詰まった2リットルペットボトル。
ボランティア部が誇る「最強の食欲具現化能力」の真骨頂である。
「な、何なのだこれは……!? この平べったい、紐のように伸びる濃厚な乳酪が乗った円盤は……!?」
エリカが目を丸くして驚愕する。
「それに、この黒い、泡を吹き出している聖水は何ですか!? 飲むと口の中がパチパチと弾けます……! でも、美味しいわ!」
ルリカ姫も12歳らしい素の表情に戻り、初めて飲むコーラとピザの美味さに目を輝かせていた。
「だろ? 俺たちの世界の美味いもんだ。遠慮しないでガツガツ食ってくれよ!」
赤城がチキンを勧め、それをエリカが恐縮しながら通訳し、ルリカ姫が嬉しそうに頬張る。
ついさっきまで命懸けの誘拐劇が行われていたとは思えないほど、隠れ家の中は温かい笑い声とジャンクフードの香りに包まれていった。
「……全く、明日には王宮全体を敵に回すかもしれない大勝負が控えてるってのに、この緊張感のなさは何なんだ」
俺はコーラを喉に流し込みながら溜息をつく。
隣で角田先生がシャケのトバをつまみに酒を飲んでいるのを見て、もう深く考えるのをやめた。
カオスな仲間たちとの、賑やかで少し不気味な前夜祭。
明日のどんでん返しの準備は、これ以上ない形で整った。




