第11話:森の探検と、世代の溝
「よし、そろそろこのキノコ村を離れて、本格的な調査に出るぞ!」
玄田先輩の号令で、俺たちは遠征隊を組んだ。より豊かな居住地を求めて、腐海の奥地へと足を踏み入れる。
木村くんが予備のパンの実を抱え、金剛くんがレンガを背負う。山口先生は相変わらずその肢体を揺らしながら、鋭い足取りで先導していく。
「あー、湿気がすごいですね。これじゃあ髪がまとまらないですよ」
「なのはさん、そんなことより足元ですよ。毒キノコを踏まないように」
なのはさんが俺の服の裾を掴んで怯えていると、櫻子先輩がキラキラとした瞳で声を上げた。
「ねえ、見て見て! この感じ、まるで『川口浩探検隊』みたいじゃない! 巨大な怪獣を追って、未知の森を突き進むのよ。ワクワクしない?」
隊列には数秒間の沈黙が流れた。
「……かわぐち、ひろし?」
「誰ですかそれ。有名な探検家か何かですか?」
安倍が不思議そうに首を傾げ、土屋さんも小首をかしげる。
「……えっと、すごく昔のテレビ番組なんだけど。ほら、ヤラセギリギリの演出とか、凄まじい緊迫感とか! 秘密の洞窟で戦ったりするのよ!」
「すみません、櫻子さん。僕ら、今の今までネット動画とゲームにしか興味がなくて……」
木村くんの申し訳なさそうな言葉に、櫻子先輩は「あー……そうよね」と少し肩を落とした。
50年という歳月を校舎の隅で過ごした彼女にとって、当時の熱狂は今や誰にも通じない「古い教養」の類なのだ。今は肉体を持って人間として歩んでいるけれど、時折見せるその浮世離れした感覚が、彼女の持つ独特の空気感を作っている。
夜、巨大なキノコの根元で野宿することになった。
焚き火を囲んで角田先生が語る怪談に、なのはさんが「ひっ」と悲鳴を上げて俺の腕に抱きつく。平和な夜だった。
ただ、見張り番をしていた櫻子先輩だけが、森の奥から流れてくる「風の音にしては整いすぎた、奇妙な静けさ」に気づき、複雑な表情で眉をひそめていた。
(この森、なんだか妙に……区画整理されているみたい……)
彼女がそう感じた瞬間、森の奥からふわりと甘い花の香りが流れてきた。それはこの腐海のものとは思えないほど清々しく、あまりに整った、人工的な芳香。
「この先、一体何があるのかしらね……」
誰にも聞こえない声でそう呟くと、彼女は焚き火の火を少し大きくした。
その炎の向こう側で、神々がこちらを監視していることなど、俺たちはまだ知る由もなかった。




