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第10話:こたつと死神と時空の狭間


「ほら映らんか、このポンコツ! 廃棄したろか、ボケェ!」

時空の狭間、その静寂を裂くようにニャルラトホテプがダイヤル式テレビを乱暴に叩く。


不釣り合いなほど生活感のある炬燵こたつの周りには、場違いな三者が鎮座していた。


一人は黒いローブに身を包んだ、地球担当の魂回収官――死神プラトーン。


もう一人は、次元の裂け目から現れた、世界の調整官『?✤λ?;|』。


そして、この混沌の主であるニャルラトホテプ。


彼らは何事もなかったかのように、この何もない虚無の空間で、仲良くみかんを剥いている。


「どや、プラトーン。古田くんらみたいな濃い奴らをまとめてナーロッパに放り込んだおかげで、魂の回収効率が爆上がりやろ? 俺の采配、感謝してほしいくらいやで!」

ニャルラトホテプは軽薄に笑い、横で無表情に茶を啜る『?✤λ?;|』を小突く。


プラトーンは手に持ったみかんの筋を苛立たしげに取り除きながら、冷ややかな視線を向けた。


「……感心するよ。だがな、お前が連れ回したせいで、『雛菊小道』の防壁が崩壊したんだぞ」

プラトーンの声には、明らかな怒りと疲労が滲む。


「あれは俺の担当エリアで一番厄介な場所なんだ。それを抜きにされたら、誰が残りの死神業務をこなすと思ってんだよ……本当に、とんでもない呪いを置いていってくれたな」


その言葉を聞いた瞬間、ニャルラトホテプの顔から、さっきまでの軽薄な笑みがすっと消えた。


こたつの中の空気が、急激に重く凍りつく。


「――あぁ? 今、何言うたんや?」


ニャルラトホテプがゆっくりと顔を上げる。


その瞳には、光彩を失った底なしの闇が渦巻いていた。

手元のみかんが、握りつぶされたわけでもないのに、ぐしゃりと音を立てて黒い泥のように崩れ落ちる。


「たかが死神一匹、いなくなったくらいで現場が回らんやと? ああ? どんだけ無能揃いやねん、お前らの組織は」


彼は立ち上がり、炬燵を足蹴にする。

天板がひっくり返り、茶碗が虚空に砕け散った。


ニャルラトホテプはプラトーンの襟首を掴み、その顔を至近距離で睨みつける。

その殺気は、プラトーンが管理するあらゆる死よりも深く、冷たかった。


「一人が抜けただけで機能不全に陥るような脆弱な仕組み、そんなもん潰れてまえよ。

お前もだ、プラトーン。お前がそんな低能な部下しか育ててへんから、現場が腐るんやろが。

次、そんな泣き言抜かしやがったら、その薄汚いローブごと面をぶちのめして、二度と口がきけんようにしたるわ」



放り投げられたプラトーンが虚空で体勢を立て直すが、その表情には明らかな恐怖が刻まれている。


ニャルラトホテプは鼻で笑い、再び何事もなかったかのようにテレビのノイズをいじり始めた。

『?✤λ?;|』は、その惨状をまるで興味のない風景のように、静かに見つめている。

彼らが何気なく覗き込むテレビ画面の中では、古田たちが必死に生き延びようと足掻いている。

彼らにとって、古田たちの世界はただの「消費される駒の箱庭」に過ぎないのだ。

そして、この茶番劇の裏側で、誰かの魂が静かにすり潰されている。


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