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第9話:キノコの家と二人の同居人


食環境が整い、次なる課題は「安心できる拠点」の確保だった。


腐海に生い茂る巨大なキノコは、その茎を切り抜けばそのまま頑丈なシェルターとして利用できる。


「これだけの密度だ。素材には事欠かないな」

DIY部部長の物部さんが手際よくキノコの茎に穴を開け、居住空間を次々と作り上げていく。

他の部員たちも息の合った連携を見せ、プライバシーを守るための頑丈な扉や、外からの侵入を防ぐハメ込み式の蓋を短時間で仕上げていった。


校舎の瓦礫が散らばる不穏な森の一角に、あっという間に整然とした「キノコ村」が完成する。


「よし、これで今夜からは安心して眠れるな」

俺が感慨に耽っていると、ふわりと柔らかい感触が右手に触れた。


「……ねえ、ふるふる君。家ができたなら、誰と住むか決めるべきよね?」

振り返ると、櫻子先輩が獲物を慈しむような妖艶な笑みを浮かべて俺の手を引いていた。

彼女の瞳には、拒絶を許さない濁りのない光が宿っている。

「ここなら二人きりの空間も作れるし……あなた、私と一緒に住みなさい? 私の植物魔法で、誰よりも素敵な内装にしてあげる」


提案ではない。それは決定事項だった。

彼女の強引さにたじろいでいると、今度は左手にピタッと熱い感触が重なる。


「ちょっと待ってよ! ……もともと、避難した時からずっと一緒に行動してたのは、私じゃない!」

綿貫なのはが割って入る。

彼女は櫻子先輩の威圧に怯えながらも、必死に俺の腕にしがみついていた。

「そ、そうよね……? 私たち、いつも調査したり、ご飯食べたりしてたじゃない。ねえ、古田くん!」

なのはは縋るような目で同意を求める。

だが、櫻子先輩は彼女の肩を優しく、しかし、まるで見えない鎖で縛り上げるような力強さで抱き寄せた。

「なのはちゃん。あなたはとってもいい子ね。

でもね、あなたは私と一番最初からの『お友達』でしょう? 今まで通り、これからも私と一緒に住むのが一番よ。

私の内装なら、あなたも快適に過ごせるわ」


魔力にも似た優雅な語り口。

そして瞳の奥に宿る、抗うことを諦めさせる圧倒的な圧力に、なのはの瞳から反論の意志が急速に消えていく。

「う、うぅ……そ、そうかも……? サクラコ先輩と住むのが、一番……効率的、かも……」


なのはは、なぜか納得させられ、完全に丸め込まれてしまった。

その様子を見て、櫻子先輩は満足げに微笑み、再び俺の手を強く握り直す。


「というわけで、二人とも私の家に来なさい。さあ、行きましょう?」

完全に彼女のペースだ。


俺は両手に花、というにはあまりに重すぎるプレッシャーを感じながら、半ば強制的に巨大キノコの家へと連行されることになった。


拠点はできた。


けれど、ここが俺の安らぎの場になるのか、それとも二人だけの閉鎖的な『籠』になるのか。俺には、まだそれを判断する勇気がなかった。


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