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ジェイ・ソーティ 自衛隊異世界任務記録  作者: EPIC
第2章「次なるフェーズ」
17/21

Part16:「灰色の艦隊、異界へ出航す」

 ――そこは、鋼鉄で囲われた空間。

 お世辞にも広いとは言えず。そして電気照明に照らされてはいるが、十分に明るいとも言えない通路空間。

 物々しい隔壁で一定間隔で区切られるその通路空間を。

 彼、郷真(きょうま) (せい) 一等空尉は歩き移動していた。


 その身体に纏うは、航空宇宙自衛隊のパイロットが用いるフライトススーツに各種装備。

 その小脇にはパイロットヘルメットを抱えている。


「郷真」


 彼特有の静かながらも尖る面持ちで、淡々と通路空間を歩み目的の場所を目指していた郷真は。

 その途中で、おそらく彼を待っていたのであろう人物と出くわして声を掛けられた。


 人物は、凛とした容姿に姿が特徴の女。

 郷真と同じようにフライトスーツを纏う格好から、彼女も同じくパイロットであることが分かる。

 彼女は鈴色という名で、郷真の「相棒」だ。


「デカい事になってるらしい、「出撃」の時間が少し繰り上がった。20分後のはずだったが今からだ」

「あぁ」


 鈴色がまず端的にその旨を伝え、郷真はその事に驚くことはなく、淡々と了解の言葉を返す。

 そして鈴色が郷真を先導するような形で、二人は再び通路を歩み進み始める。


「作戦の大筋は変わりは無い。聞いてるよね?これまでのちょっとした支援任務じゃない、大掛かりな物になる」


 先を行き歩く鈴色は、真剣ながらも同時に少し息を巻くような上擦った声色で。先から続いての説明確認の言葉を向ける。

 その説明を紡ぎ、あるいは聞きながらも。

 二人は間もなく、ほとんど梯子な角度の階段が設けられる空間に至り、迷わずそこを上る。


「ひょっとしたら、「空戦」もありうる。ハードなダンスを踊れるかもね」


 階段を上る間に、鈴色はまた少し上擦った声でそんな軽口混じりの言葉を寄越し。

 程なく二人は階段を昇り切り、上がった先に設けられていた隔壁扉を潜った。


 その向こうに広がっていたのは――大海原だ。


 二人が現在いるのは、船――「艦」の上。

 海上自衛隊の護衛艦、「CVM-183 いずも」の艦上だ。


 現在の場所は、異世界の大陸沿岸から少しの海域。

 二人が今に出た、いずもの甲板に設けられるキャットウォークからは。その海原と、大陸をギリギリ避けて通過していく曇天が大きく望める。


 そしてその海面上に見えるは、「いずも」を中心に編成される「艦隊」の各艦船だ――


 この異世界の地に、まずは最初に大陸中心に「接続点」を見つけ開いて降り立った日本、自衛隊は。

 さらに続いて、異世界の各地各所に繋がり開かれていた、別のいくつかの「接続点」を発見していた。

 そしてその内の一つが海上に繋がっており。それが、この異世界に「艦隊」を派遣することを実現した。


「壮観だなッ」


 キャットウォークに出た鈴色は次には、望んだ光景の内に見える灰色の巨大な「同胞」等の姿に。またそんな息まく声を上げた。


 空の向こうの曇天、悪天候の影響で、微かに波の高い海上海面に見えるは。

 「いずも」を中心とする艦隊を構成する各艦船だ。


 海上自衛隊は、異世界の海の探索調査のために。

 「派遣任務群」。

 DTG――Dispatch Task Groupを編成、これを送り込んだ。


 その編成概要はいずもを旗艦と、作戦任務の基幹とし。


 まや型護衛艦、DDG-180 はぐろ。

 あきづき型護衛艦、DD-118ふゆづき。

 たいげい型潜水艦、SS-516 らいげい。

 ましゅう型護衛艦、AOE-426 おうみ。

 それぞれが「海上自衛隊」よりピックアップされ付随。


 そしてさらに。


 アメリカ海軍からアーレイバーク級駆逐艦、DDG-118 ダニエル・イノウエ。

 イギリス海軍から45型駆逐艦(D級)、D34 ダイヤモンド。

 オーストラリア海軍からホバート級駆逐艦、DDG42 シドニー。


 各「協力国」から派遣されてきた艦船が組み込まれていた。



 DTGは海上自衛隊が主導を取っているが、各国合同の混成艦隊だ。


 お行儀の良くない話をすれば。

 各国からの部隊・艦船派遣は名目上は、日本のみに異世界の地の探索調査を任せることへの負担を考えての、各国からの協力措置と言われているが。

 その実、異世界という新天地に地球各国は大きな「収穫」を目論んでおり。

 各国各軍からの協力派遣は、その先鋒。もしくはタダ乗りでないことを証明し、大なり小なり「収穫」求めるための正統性確保というところが嫌でも分かるものであった。


 現在この異世界の海の、詳細には大陸沿岸を主とした探索調査は。

 大きく二手に分かれ、海上自衛隊とアメリカ海軍がそれぞれ主体となり進めている。


 「こちら側」、大陸の北西側よりは、上述した海上自衛隊を中心とした任務群が。

 反対、南西側よりは。アメリカ海軍が編成して送り込んだ、アメリカ級強襲揚陸艦、LHA-6 アメリカを中心とした各国混成の制海任務群が活動中だ。

 ちなみに、さすがに原子力空母の派遣はアメリカの上層が却下したらしいが。


 また言えば海上自衛隊も、最近に就役した「次期航空機搭載護衛艦」の存在がなければ。

 いずもをこの異世界の海に回すことには難色を示したであろう。



 そんな各国上層の思惑はさておき。

 艦隊の各国各艦船は、目先の任務に意識を向け、現在も綿密な連携調整の元に作戦行動に従事している。

 今丁度、キャットウォークを歩く二人から。

 向こう洋上を行くオーストラリア海軍のシドニーが、VLSより艦対地ミサイルを盛大に撃ち上げる光景が見える。


「その幻龍帝国とやらには、最悪の日になるなッ」


 その光景を見ながら、鈴色はまた洋々とまでの声で発して見せる。



 今現在。

 自衛隊が降り立った大陸の沿岸部に位置するある地に、窮地に陥っている王国があった。

 その王国は、件のドゥリオルン幻龍帝国の近隣に位置していたがために、その拡大政策の『獲物』の一つとなり。現在侵略の手を伸ばされ、そしてその王都が風前の灯なのだという。


 詳細は割愛するが。

 その王国から逃がされ落ち延びたまだ若き王子が、また奇異な事の流れから探索調査中の自衛隊に保護されるに至り。

 自衛隊はその王国の存在と、そして事態を掌握。


 日本政府、及び自衛隊上層部は。幻龍帝国のその王国への侵略行動は、その延長でこの異世界で現在活動する自衛隊及び各国軍に。

 果ては地球世界に危険を及ぼし兼ねないものと判断。


 結果、介入が決定され。

 そしてしかし、大陸地上を行く陸上自衛隊の到着にはまだ時間が掛かるため。

 まず先手として航空宇宙自衛隊と、そして海上自衛隊のいずもDTGにその対応の命が降りた。


 その内の一角が、郷真と鈴色が所属し。

 現在は海上自衛隊のいずもに「お邪魔」している、分遣航空団であった。


「――」


 キャットウォークから大海原と艦隊各艦船を眺めていた郷真は、次にはその視線を反対に向ける。

 そして見えたのは、いずもの飛行甲板上。

 その発艦スポットに鎮座して待機している、これより自分が登場する愛機――F-35Bの機体だ。


 まだ間もない先日に。先行して改装を終えた2番艦「かが」に続いて、ようやく全ての改装を終えてF-35Bの正式な運用が可能となった「いずも」。

 そのいずもは現在、F-35Bからなる飛行隊を二個飛行隊程搭載し。制海艦としての運用形態にあった。


 そんな経緯から飛行甲板上に鎮座するF-35Bを見ながら、キャットウォークからまた短い階段を昇り、飛行甲板上に上がる二人。

 戦闘機隊の発艦を補助するために、向かい風に向かって全速航行中のいずも甲板上は風が強い。


「派手に舞う準備はいいっ?」

「あァ」


 そんな風に吹かれながらも。次には鈴色が振り向き相対し、抑揚の付いた声でそう尋ねる言葉を寄越し。

 それに郷真は、端的ながらも確かな声色でそれを肯定した。

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