気づいたら遭遇してました。
GWということで連続更新です!まぁ気分でこうなっただけなんですけど。
人間界。簡単に言えば人間の住処。そして魔族が受け入れられない世界。
人間界はある大国を中心に小国や町村が広がっている。
ある大国は『ユニヒルン王国』と呼ばれていた。この国を中心に、人間は繁栄していったと言われている。
現在、このユニヒルン王国には三人の王族がいる。
第一王子、通称『策略王』。彼の行う政治は、まるで最初からそうなることが当たり前のように上手くいく。人間界は彼によって操られていると言っても過言ではない。そして民衆から不満の声がほとんど上がらないことからも、彼の実力が伺える。実質、彼が今のユニヒルン王国の国王である。
第一王女、通称『戦女神』。戦場を駆け抜ける女神。彼女のことをそう称した人は数知れず。誰もが目を見張る容姿に加え、剣術や武術、魔法など、飛び抜けた戦闘能力を彼女は有する。民衆にも慕われており、非の打ち所がない人物である。
第二王子、通称『魔究家』。彼は魔族に関する研究家だ。彼は兄と姉に比べ知名度が低い。表舞台に顔を出すことが少ないからだ。それに加え、魔族について調べているということもあり、気味が悪がられることもある。しかし人間の中では数少ない魔族をよく知る人物なため、一部の人物から一目置かれている。
そんな第二王子、サイド=ユニヒルンは、現在一人の衛兵を連れ森を歩いていた。
「本当にラミアが出たんだろうな?こんな何もない森で」
「そのはずッスけど。私に聞かれても困りますって。いきなり呼び出されたのに」
この森はメディスがよく薬草を取りに来ていた森である。整備された道ではないので歩きにくく、サイドは顔をしかめた。
「たくっ、歩きにくいな。これでラミアがいなかったら歩き損だぞ」
「そうッスねぇ。ていうか一つ気になってたんスけど」
「あ?何がだ」
「そんなに魔族が好きなんスか?」
これは衛兵だけではなく、サイドを知る人物なら少なからず思うことだった。
魔族は人間の憎悪の対象となっている。そんな中、彼は魔族を調べ続けている。だから衛兵はサイドが魔族のことを好きなのだと思っていた。
「は?」
しかし返ってきた答えは、衛兵の思った答えの正反対だった。
「嫌いに決まってるだろ。大嫌いだ。見ただけで吐きそうになる」
「そ、そんなに言わなくて」
「事実なんだから仕方ないだろう。俺はエルフだって苦手なんだぞ」
「あれは微妙なラインじゃないッスか?」
衛兵の問いにサイドは呆れたようにため息をつく。
「あいつらはちょっとややこしいんだよ。その辺の分け方が。だが人間じゃない。だからあいつらも好きじゃない。だからと言って人間が特別好きってわけでもないが」
それだけ言うと彼は再び森の中を歩き出した。衛兵も彼について行く。ここでまた衛兵は質問した。
「ならなんでそんなに調べられるんスか?嫌いなものを調べ続けるって………」
「分からないのか?」
サイドは振り返らずに答えた。
「嫌いだからこそ調べるんだ。例えば俺が魔族の弱点なんかを公表したら、人間と魔族はどうなると思う?」
「そりゃあ人間の方が有利になるんじゃないスか?」
「そうだ。そうすれば魔族は少なくなりいつか滅ぶ。となればだ。誰が名誉ある人物だと思う?」
うーん、と口に手を当て衛兵は考えた。しばらくして答える。
「魔族を上手く追い込んだ国王様か、最後の魔族を倒すであろう王女様ッスかね」
「…………あ?」
衛兵の答えを聞き、サイドは振り返った。衛兵を睨みながら。衛兵は少したじろぐ。
「お前……話の流れで分からないのか?」
「いや、分かりましたけど。現実はそんなに甘くないぞっていうことをサイド様に知って欲かったんスよ」
「お前は親か。変な気を使うな。あと兄上のことを国王様って呼ぶな。兄上はまだ王子だ」
「決まってないようで決まってるようなもんスよ。結婚なされたら確実に国王様ッスね」
「あぁー!うるさい!今はその話はやめろ!だいたい!アイツは姉上が嫁ぐまで自分もしないって言ってるんだぞ!?」
「なんか風の噂で聞いたような………。アレってマジなんスか?」
「マジもマジ、大マジだ。アイツはシスコンだからな。そんなことを言うのは仕方ないのかもしれないが。だがあの恋のこの字も知らない姉上が嫁ぐなんて想像できない!」
サイドはぶるっと身体を震わせる。少し彼の顔も青い。
「ど、どうしたんスか?」
「いや、姉上の旦那(仮)が毒殺される映像が見えた」
「?」
サイドの言ったことが理解できずに、衛兵は首を傾げる。サイドはふぅ、と深呼吸をして息を整えた。
「かなり話は脱線したが、俺は魔族を調べることによって名声を得る。そして嫌いな魔族も滅びて一石二鳥。だから俺は魔族を研究しているんだ」
「なるほど。不純な動機ッスね。てっきり表舞台に顔出さないのは、サイド様が自らそうしてると思ってました」
「俺だってしっかり顔出してるぞ!兄上と姉上が人気すぎるだけだ!」
「つまりあのお二人の人気がありすぎて、自分は日の光が浴びれてないってことッスね。納得ッス」
「お前は俺に対して馴れ馴れしすぎるな。不敬罪で罰するぞ」
そう言うと二人は再び歩き出す。しばらく歩いていると、衛兵がまた疑問を口にした。
「サイド様。ラミアって強いんスよね?」
「あぁ、文献によれば魔法に関するエキスパートらしい」
「そんな相手に勝てるんスか?私たち二人で」
人間の強み。それはなんと言っても絶対的な数だ。一個体自体は魔族に劣るが、その分を数でカバーできる。だから人間は魔族よりも有利に立てるのだ。
しかし今はサイドと衛兵の二人だけ。不安を覚えるのも頷ける。それに加えこの森は現在、立ち入り禁止区域となっている。ラミアが出現したためである。
「私たち一応お忍びで来てるんで、怪我とかしたらヤバイッスよ。援軍なんて来るわけがないし」
「大丈夫だ。俺も一応魔法は使える。それに」
しかしサイドはそんなことを気にしていなかった。何故なら彼にはとっておきの武器があったからだ。サイドはずっと手にしていたものを衛兵に見せた。
「この『竜殺しの杖』があれば心配無用だ」
サイドは不敵に笑った。その表情は自信に満ち溢れている。
「その杖ってそんな大層なものだったんスか。てっきり100円ショップで売ってたボロボロの杖かと」
「なぁ、やっぱり俺を王子として見てないだろ?」
衛兵を睨みながらサイドは茂みを抜けた。するとそこにはもう既に誰かがいた。
***
茂みから現れた人物をユーリは見た。
(銀髪とは珍しいな。それにあの豪華な服。貴族か、もしくは王族か?)
サイドを分析した後、彼女はこの場を立ち去るため、二人に背を向けた。メディスへの行動を反省したのに、また同じことをしては意味がないと思ったからだ。
「そこのご婦人。ちょっと待っていただけますか?」
すると自分の背に声がかけられた。無視をするという方法もあるが、なるべく問題は避けたかった。幸い、サイドは今、ユーリが魔族だとは思っていない。
「何か?」
「ここは今、立ち入り禁止区域なのですが、どうして貴方はここに?」
サイドの言葉にユーリは驚く。
(立ち入り禁止区域だと?こんなのどかな森がどうして………?)
疑問と同時にユーリは焦りを感じていた。人間が、それも女性が立ち入り禁止区域にいるのは明らかにおかしい。どうにか理由を考えていると、
「もしかしてこの人もラミアを探しにきたんじゃないッスか?鎧姿だし」
サイドとは違う男がそう言った。
(ラミアだと?まさかミーア殿のことか?)
一瞬どういうことか分からなかったが、ユーリはあることを思い出す。ミーアは時々人間界へと訪れていた。その時に人間に目撃されてしまったのだろう。
(帰ったら釘を刺しておこう)
しかしこれで理由ができた。(ミーアのせいでこんな自体になってるとも言えるが)
「そのもしかしてだ。私もラミアを狩りにきたのだ。しかしここにはいないようでな。私は今帰るところなんだ」
「そうでしたか。それは呼び止めてすいません。ですが少しお話を聞かせてもらえませんか?どの辺りにはいなかったなどを」
遠回しに帰りますオーラを放っていたユーリだったが、サイドは気にせず話しかけてきた。
「すまないが、私は急いでいるんだ」
「まあまあそんなこと言わず少しぐらいいいじゃないッスか」
サイドだけでなく、衛兵もユーリへと近づいてきた。ユーリは足を速め二人から距離を取るよう試みる。
「ちょっと待ってください!」
この場を離れようとしたユーリを見て焦ったのか、サイドは彼女の腕を掴んでしまった。
(人間に触られ━━ )
「触るな!!」
衝動的に、彼女は勢いよく腕を振り上げてしまった。竜人族の力によってサイドは数メートル吹き飛ばされた。
「ちょっ!いきなり何を………ん?」
そこで近くにいた衛兵が何か気づいたように首を傾げた。すると目をカッと見開いてユーリと距離を取り叫んだ。
「ササ、サイド様!つ、角!頭に角が!コイツ魔族ッスよ!!」
「何?」
(くっ、しまった。バレてしまった)
サイドは立ち上がると目を細め、ユーリの頭を凝視した。角を確認すると、チッと舌打ちをして顔をしかめた。
「くそッ、魔族なんかに触れてしまった。もう敬語を使う意味もないな。ていうか俺は魔族に敬語を使ってしまっていたのか。あー、気持ち悪い」
明らかな嫌悪に対し、ユーリはサイドを睨みつけた。
「女で怪力。頭に角。………お前、ドラゴンだな」
「だからどうした?私は今人間に触れられて機嫌が悪いんだ。吐きそうな程にな。だが、今日のところは見逃してやる。さっさと消えろ人間」
いつもならユーリはすぐさまハルバードを出していただろう。しかしメディスの件もあり、少し人間に負い目を感じていた。だから今回は人間自体に借りを返そうとしたのだ。
「ドラゴン!?サイド様!ああ言ってることですし帰りましょう!帰ってご本読んであげますから!!」
「だからお前は親か!忘れたのか?俺のとっておきを?しかも相手はドラゴン、竜だぞ?」
サイドは杖をユーリへと向けこう言った。
「『竜殺しの杖』の相手が竜なんて最高の組み合わせじゃないか!」
サイドの発した言葉にユーリは身を固くする。
(『竜殺しの杖』………だと?)
最初は聞き間違いだと思った。もし本当に竜殺しの杖であっても、自分が知る杖ではないと思っていた。しかし、
サイドが持つ杖の先端部分には、あの夜見た、燃えるように赤い宝石のような何かが付いていた。
それを見た瞬間、ユーリの身体は一気に熱くなった。そして無意識のうちにハルバードを握っていた。
「あ、あんなデカイ武器に勝てるわけないッスよ!」
「お前は黙って見てろ!この杖の力を!」
サイドは何かを唱えると、赤い先端部が光りだした。その赤い光は段々と膨れ上がっていき、気がつくと一つの大きな火の玉となっていた。
「さぁ来いドラゴン!お前のその武器で火の玉を叩き斬ってみろよ!」
しかしユーリは巨大な火の玉を見て動かなかった。いや、動けなかった。
ユーリは人間にある二つの感情を抱いていた。一つは両親を殺したことへの憎しみ。メディスに態度が悪かったのはこのためだ。そしてもう一つの感情は、恐怖である。
ユーリたちは炎を司る竜人族であり、炎への耐性は充分にある。しかし襲ってきた人間はそんな竜人族を、竜化した竜人族を、両親をあっさり燃やしたのだ。彼女は知らず知らずのうちに人間に対し、恐怖の念を感じていた。そのため人間の前では竜化できなかったのだ。
そして現在、彼女の中では憎しみよりも恐怖の方が支配していた。人間、竜殺しの杖、炎。ユーリを動けないようにする材料は充分に揃っていた。
「あ、ああ………」
ユーリが身体を震わす間も、火の玉は彼女を塵一つ残さないよう大きくなっていく。その火の玉を見て立っていることすらままならず、ハルバードを離してその場に座り込んでしまった。
「ハハッ!怖気付いたようだなドラゴン!このまま燃えてなくなってしまうがいい!!」
サイドの言葉を聞き、ユーリはぐっと歯を食いしばった。
(またか……また私は何もできずに終わってしまうのか)
悔しさのあまり、彼女は地面を握りしめる。
(目の前に父上と母上の仇の一端があるというのに……私は………)
自分の無力さに、彼女の瞳から涙が零れる。
(誰でもいい。勇気をくれ。ほんの少しでいい。立ち上がれるだけの勇気を!)
「死ね!ドラゴン!!」
サイドが火の玉を撃とうとしたその時。
まるでユーリの叫びに応えるように、
「間に合った!」
一人の黒髪の青年が二人の中に割って入った。
ユニヒルン王国を出発前
衛兵「お弁当は持ったッスか?」
サイド「持ったよ」
衛兵「水筒は持ったッスか?」
サイド「持ったって」
衛兵「傘は持ったッスか?」
サイド「今日は雨降らないだろ」
衛兵「ハンカチは持った━━ 」
サイド「お前は俺の親か!!!」