気づいたら駆け出してました。
何故かぼくの書く過去編は暗い感じになってしまいます。何故でしょう?
「メディス様ぁぁあああ!!」
「うげっ!」
決闘が終わった途端、ミーアが俺に飛びついてきた。その気持ちは嬉しいけど今は俺の身体を気遣って………。
「おめでとうございます!これで魔王の地位も安泰ですね!」
「分かったから俺に巻きつかないで!結構限界だから!」
「もう〜メディス様たら〜」
「俺の話を聞いて!」
どうにかミーアに離れてもらった後、振り返るとユーリがゆっくりと立ち上がっていた。まだ彼女の身体は微かに震えている。
「ミーア。悪いんだけど彼女のアレ、治せる」
「はい。お安い御用です」
ミーアはユーリに近寄り、彼女に向かって手をかざす。すると黄色い光が現れユーリを包み込んだ。光がなくなると彼女の震えは無くなっていた。
「ありがとうございます。ミーア殿」
「いえ、それよりも」
ユーリの手を引き俺の前まで連れてきた。
「和解しましょう!決闘も終わったことですし」
そうだな。一応全部終わったんだしそれがいいな。
俺は握手をするためユーリに手を出した。しかし、彼女はなかなか俺の手を握ってくれない。ユーリを見ると、
「…………」
無言でまだ睨まれていた。さすがに俺悪くないよね?
「ユーリ?早くしなさい」
ミーアが圧力をかける。しぶしぶといった感じでユーリは俺の手を握った。睨みながら。しかし俺は悲劇に襲われる。
「………めない」
「え?何か言━━ いだだだだだだだ!!??」
ユーリの握る力がめちゃくちゃ強かった。俺の手がなくなるんじゃないかと思うほど強く握られた。
「ちょっ!離して!お願い!」
手を上下に振ったり思いっきり引っ張ったりするがビクともしない。あ、これ冗談抜きでヤバイ。
「あのホントすいませんでした!勝っちゃってすいません!勝利してごめんなさい!」
「………ふんっ!」
「なんで痛みが増してぇぇぇぇええええ!?」
俺が悲鳴を上げるとユーリはやっと手を離してくれた。もう立っている力もなく地面に倒れる俺。あぁ、お花畑が見える。
「ユーリ!!貴方は何をやったのか分かっているのですか!?」
「くっ………!」
ミーアの怒声を受け、苦い顔をしながら彼女は走り去ってしまった。追いかけようにも今は身体が動かない。
数分後、ようやく痛みが引き動けるようになった。
「ごめんなさいメディス様。彼女の代わりに謝らせてください」
ミーアは申し訳なさそうに頭を下げる。
「別に怒ってないしいいよ。さすがに痛かったけどね」
今思うけどあんな力の持ち主によく勝てたな。もしあのハルバードが一回でも当たってたら………。最悪の未来を想像し、ぶるっと身体が震えた。
「ど、どうかしましたか?何処か痛みます?」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ」
「な、ならいいのですけど………」
言葉に反しミーアは時折俺の身体を触れてくる。その目は不安げだ。
そんなミーアを見てすごく愛おしく感じた。俺のことをここまで心配してくれる人がいて嬉しく思う。気がつけば俺はミーアの頭を撫でていた。たぶん安心して欲しかったんだろう。それに答えるようにミーアの手も下半身に伸びて━━
「て、おいこら。待ちなさい」
「早くメディス様をお慰めしないと!」
「意味深すぎる!」
たくっ、さっきの雰囲気はどこにいったんだ。まぁいいか。
「それにしても、生きててよかったぁ」
改めて思う。よく生きてたな俺。何回死にそうなっただろう。
「ユーリに勝ってしまうなんて驚きました」
「いやまぁ、一応ハンデはあったしね」
正直、あれがなかったら勝つことはできなかったと思う。
俺は魔法が使えない。だから魔法の対処の仕方なんて全く検討がつかない。特に彼女は竜人族だ。
竜人族はその名の通り、竜にも人にもなれる種族なのである。姿を切り替えるためには魔法を使わなければならない。だから今回はハンデは俺からしたら、かなり大きなものだった。
「ハンデ、ですか………」
「ん?どうかした?」
「………メディス様には話しておきましょうか」
俺には?一体何をだろう。
「ユーリのことなのですけど」
「彼女がどうかした?」
「実はユーリは」
次の瞬間、ミーアは驚くべきことを口にする。
「人間の前では決して竜にはなれないのです」
***
「くそっ!」
ユーリは一心不乱に走っていた。どこを走っているかなんて目に入っていない。気を紛らわすためにただただ走り続けた。
「人間なんて!人間なんて!」
しかし頭の中は新魔王、メディスのことでいっぱいだ。離れようにも離れない。
「まただ………また私は負けてしまった………」
ぐっと歯を食いしばり走る速さが増す。しかしメディスのことは決して頭の中から離れない。むしろ鮮明になっていく。
「お父様……お母様……ごめんなさい……私は力をつけても人間には勝てなかった………」
ユーリは今は亡き両親を思い出す。幼き日の楽しい思い出、そして悲しい思い出を思い出しながら走り続けた。
***
『私が大人になったらお父様とお母様は私が守る!』
両親前でユーリは宣言した。そんな彼女を両親は温かい目で見つける。
『ハハッ、頼もしいね』
『本当ね。私たちの将来は安心だわ。フフッ』
『もー!二人ともバカにしてー!絶対やってみせるもん!人間なんて簡単に倒してみせるもん!』
ユーリは手に持つ木製の剣を振り回し怒ったように言う。
竜人族は個体自体は一線級ではあるが、個体数は魔族の中でも少数種族として有名だった。そのため多くの竜人族は魔界に住んでいるが、ユーリの両親は人間界の自然が気に入ったため、人間に隠れながら山の中に過ごしていた。
『ユーリ。その気持ちは嬉しいけれど、人間を憎んじゃいけないよ。憎む気持ちは何も生まないからね』
諭すように微笑みながら父、ドランは娘に告げる。
『でも!私たちは何も悪いことしてないのに!どうして私たちは隠れないといけないの!』
『人間さんはね、まだお父さんたちのことをよく知らないからだよ。私たちだって彼らのことはよく知らないだろ?お互いのことを知って認め合えば、いつか共存できる日が来るよ』
頭に?を浮かべ、ユーリは小首を傾げる。
『つまりどういうことー?』
『フフッ、仲良くすればいいってことよ』
今度は母、ユーラがユーリに告げる。ユーリはしばらく考えたあと、
『うん………分かった』
納得がいっていない顔をしながら両親の言葉に頷いた。そんな様子を見て両親は微笑む。
『ほらユーリ。こっちにおいで』
ドランはユーリの高さまでしゃがみ込み両手を広げた。
『………うん!』
曇っていた表情が一気に晴れ、ユーリはドランに抱きついた。ドランもそっとユーリを抱き返す。
『フフッ、お母さんも混ぜてちょうだい』
ユーリの背中側かユーラが抱きついた。母の行動にユーリはさらに顔をほころぶ。そんな娘を見てドランとユーラもユーリと同じように笑顔になる。
『二人とも温かい………ねぇ、お父様、お母様』
『なんだい?』
『なにかしら?』
ユーリは顔を上げ、二人の顔を見てこう言った。
『ずっと一緒にいようね!大好き!』
『ハハッ、もちろんだよ』
『フフッ、当たり前よ』
両親を娘をぎゅっと強く抱きしめる。
ユーリは嬉しそうに目をつぶり、両親の温もりに身を任せた。この時、ユーリはいつまでもこの幸せが続くと思っていた。
あの事件が起こるまでは…………
ある日、家に帰ったユーリは絶句した。自分の家が、森が、山が、自分の知る全てのものが燃えていた。
『え、な、何これ!?な、何で燃えて………!お父様!お母様!どこ!?』
ユーリは両親を探した。二人が火によって死亡しているとは考えなかったからだ。ユーリたちは炎を司る竜人族なのである。火事程度の炎で燃えてしまうなんてありえない。
『どこ!ねぇ!どこ!?お父様!お母様!』
すると突然、空気を響かせるほどの咆哮が轟いた。ユーリは音のする方に振り返る。そこには大きな赤い生き物が二頭いた。ユーリはその生き物たちに見覚えがあった。
『お父様!お母様!』
ユーリは走り出す。二頭の赤い生き物、もとい竜化した両親の元へ。
ユーリは走りながら思った。只事ではないと。それは目の前の状況を見れば明らかだが、父と母が竜化しなければならない程の事態に驚いていた。
『もしかして……人間……?』
もしもの可能性を呟く。魔族ならまだいい。同種族ならただのいざこざで終わる。しかし人間なら話は別だ。場所がバレてしまった以上、多くの人間が押し寄せてくるだろう。
不安な気持ちに駆り立てられながら、ユーリはどうにか両親の元に辿り着いた。
『お父様!お母様!』
ユーリの叫びに二人は振り返る。
『ユーリ!?来ちゃダメだ!』
『早くここから離れなさい!』
二人は何かと対峙していた。二人の前にいたのは、
『人間!?』
ユーリの予測は当たっていた。そこには自分とは違う生き物が立っていた。
皮で作られたローブに身を包み、フードを被っているため男か女かすら分からない。さらに言えば人間すらも分からない。
しかしユーリは幼いながらに、本能で分かっていた。目の前の生き物は同族ではないことを。
『何……あれ……?』
人間にも驚いたが、ユーリは人間自体にあまり目がいってなかった。ユーリの目に留まっていたのは人間の持つ武器だった。
人間が持っていたのは杖だった。杖は魔法を発動しやすくする武器としてよく使われる。目の前にいる人間も魔法使いだとユーリは思った。
しかしその杖が普通ではなかった。木製の杖の先端部分には、赤く燃えるような色をした宝石のような何かが付いていた。
『ユーリ!どうしてこんな所に来たんだ!早く逃げなさい!!』
竜化したドランが叫ぶ。その顔に余裕はない。いつも優しい父が荒い口調になっていることに、ユーリは良い状況ではないことを理解する。
『嫌!私も戦う!だってお父様とお母様を守るって決めたもん!』
制止の言葉も聞かず、ユーリは走り出した。腰から剣を抜き、人間の前に躍り出る。
『人間!私はお前なんかには負けない!さぁかかってこい!!』
『…………』
人間は何も答えない。ただ杖を前に、ユーリに向けた。ただそれだけだった。なのに━━
『ユーリ!!!』
目の前が炎一色で埋められた。
『え………』
ユーリはただ呆然と立ち尽くした。立ち尽くすしかなかった。一瞬の出来事だったからだ。なのに、それなのに、
『お父……様………?』
その一瞬の出来事で一つの命の灯火が潰えた。
『お父様……お父様、ねぇ!お父様!!』
ユーリは叫ぶ。しかし目の前に横たわっている父はピクリとも動かない。
『嫌………こんなの嫌!!お父様!!!』
ユーリの瞳から涙が溢れた。認めたくない現実が突きつけられる。キッと、ユーリは人間を睨みつけた。
『許さない!絶対に許さない!お前絶対に殺してやる!!』
再びユーリは駆け出す。が、何かに遮られた。
何かの正体。それは竜化した母の大きな手だった。ユーリはユーラの手の中に収まっていた。
『ユーリ、聞いてちょうだい』
『お母様!?邪魔をしないで!私はあの人間を━━ 』
『いいから聞いて!!』
そこでユーリは気づく。ユーラは自分以上に涙を流していたことを。
『お母……様?』
『ユーリ。その心はいけないわ。憎んじゃいけないってお父さんから教わったでしょう?』
『でも!人間はお父様を!』
『それでもいけないことなの。その気持ちは醜いものよ。それよりも貴方は逃げなさい。今すぐここから離れて』
ギュと抱きしめられる。ユーリの好きな抱擁。しかし何か物足りない。ユーリはさらに涙を流す。
『お母様はどうするの?』
『…………』
母は答えなかった。ただ娘を抱きしめるだけだった。
『さぁ、行って』
しばらく抱きしめられた後、ユーリは地面に降ろされた。
『お母様は!お母様は一体どうするの!』
『お願いだから行ってちょうだい!』
『嫌!逃げるならお母様も一緒に!』
その言葉にユーラは悲しげに笑った。
『ごめんなさい、ユーリ。私はまだやらなくちゃいけないことがあるの。だから━━ 』
ユーラは大量の涙を流し、
『貴方だけでも生きて』
大きな翼を羽ばたかせ、風を生み出した。その風にユーリは逆らうことできずに吹き飛ばされた。
『うぐっ、お母様!?』
地面に強く身体を打ち付けたが、竜人族にとっては問題ではなかった。だからユーラはこの手で、ユーリに人間との距離を取らせた。
そのことはユーリも分かっていた。分かっていたため、引き返すことができなかった。自分に手を上げたことのない母が、こんな荒い手を使ったからだ。
『お母様………お母様ぁぁぁああああ!!!』
だからユーリは走り出した。もう会えないであろう母のことを思いながら。
『ごめんなさい、ユーリ。お母さん、あんなことを言ったけど、今醜い気持ちでいっぱいなの』
ユーラは目の前の人間を睨みつけた。自分の前で夫を殺した者を、娘の前で父を殺した者を、ユーラは睨みつけた。その目には黒い感情が見て取れた。
『母親失格ね。娘に言ったことを自分ができてないんだから。こんなお母さんを許してね………』
その言葉を最後に、ユーラは人間へと飛んだ。憎き者の元へと。
ゴオッ!という爆音とともに大きな火柱が立った。それが何を表しているか、少女は理解していた。だから走る。ひたすら走る。涙を流しながら少女は走り続けた。
***
気がつくと、ユーリは森の中にいた。ここまで一心不乱に走ってきたため、周りが見えていなかったのだ。
「何をやっているんだ私は………」
この森はメディスとミーアが会った場所。つまり人間界の森だ。ユーリは無意識にワープポイントを抜け人間界へと来ていた。
「まぁここで一旦落ち着くのもいいだろう」
ゆっくりとユーリは歩き出きながら、父の言葉を思い出していた。
(憎むことはいけない、か。そんな気持ちがあったから私はあいつに負けてしまったのか……?)
あいつ、とはメディスのことだろう。
(はぁ、私は一体何をしていた。いくら両親のことがあるからって人間自体に八つ当たりなどと)
ユーリは冷静になり、改めて自分の行動を恥じた。いきなり決闘を申し込んだことや負けたのにメディスを認めなかったことを。
「帰ったら謝らなくてはならないな」
そこでメディスが言ったことを思い出す。
『あのホントすいませんでした!勝っちゃってすいません!勝利してごめんなさい!』
「………よし、一発殴ってからそれ込みで謝ろう」
そんな時だった。茂みから誰かが現れたのは。
少女ユーリ『ねぇ!お母様!』
ユーラ『フフッ、どうしたの?』
少女ユーリ『今日ね、お父様がね』
ユーラ『えぇ』
少女ユーリ『綺麗な女の人と楽しそうにお喋りしてたよ!』
ユーラ『……………あなた?(ギロッ)』
ドラン『ユーラ!その気持ちと目はいけないよ!』




