冒険の始まりはギルドから。
(*´Д`)ハァハァ
墓荒らし達が集まるギルドは4階建ての大きな施設で、一階は酒場、二階は受付、三階は書類、四階はお偉いさんたちの事務室として機能している。
斜面に建設された関係で、扉を開けてすぐは二階とつながっており、飲み食いするためにはわざわざ階段を下りないといけないというややこしい構造になっている。
一階につながる扉もあるにはあるが、職員専用になっているので俺らは利用できない
「おぉ、思ったよりも人がいないな。」
扉を開けた先はめまぐるしい数の人がいるが、身動きができない満員電車ほどではない。受付嬢が目を回しながら必死にプレイヤーの対応をしている姿を見ると、本当にNPC達の作られた感情なのか疑問に思うほどリアルだと感じる。
「井崎さん、私おなかすいてきちゃいました。さっさと登録済ませて飯にしましょう。」
ギルドの受け付けは、名前、得意な戦い方と犯罪歴の有無、そして血を数滴たらすだけだ。
読み書きができれば大して問題ではない。
血をたらすのは、悪魔族や黒魔法に関連された禁術に関連があると血が黒くにじみ普通の一般人と判断できるからだ。さすがのウェルカム精神なギルドも、これ等とのかかわりは避けたいということだ。
ある程度時間がたつと、出番が回り受付嬢の前に立つと疲労困憊な姿で案内してくれた。
「ようこそギルドへ!登録ですか?登録ですよね!読み書きは聞くまでもないと思いますが、こちらの書類に書いて血を数滴たらしてください!」
差し出された書類に目を通すと想定通りのことが書かれてたので、言われるがままに登録を済ませて、一階の酒場に向かうことにした。
「よかった、まだ少しは席が空いてるみたいですね。」
テーブル席に座ると、「どこかの国で戦争があったのか?やべぇ数だぞ」「全員読み書きができるって言うじゃねぇか、そんな奴らが流れてきたのか?」「知り合いの商人によると、そんな大規模な人数が通るほど道は荒らされてなかったらしいぞ」「どうなってんだ」など、いきなり現れたプレイヤーに混乱したNPC達の会話が聞こえる。
「とりあえず適当に頼むか。今野、何か食べたいものあるか?」
「うーん、せっかくですし設定にちゃんと忠実なやつ食べたいです。これとかどうですかね」
今野が指したのは「ジッグラト風炙り肉プレート」という、明らかに観光客向けに作ったとわかる名前の品だった。
「お前、それただのご当地グルメ枠だぞ」
「それでもいいじゃないですか、気分です。それと私のプレイヤーネームは下の名前の奈緒にしてあるので奈緒とよんでください。」
「個人情報丸出しだな。なんでわざわざ下の名前にしたんだが…」
「へへ、井崎さんだってそのままじゃないですか」
注文を済ませると、湯気の立つ一人ではとても食べきれない大皿が運ばれてくる。香草の匂いがふわりと広がり、思った以上に食欲をそそる見た目をしていた。
蛍光色めの差し色に様々なものが盛り付けられているため、現実で食べようとするととても手が出せないもののように感じる。
「ここらの店は、誰が監修したんでしたっけ」
「俺と山野だな。レベルデザインの傍ら、グルメ系のフレーバーテキストまで書く羽目になった」
「忙しすぎますね、ほんとに」
「そのぶん会社の経費でヴェネツィアまで料理研究をな」
「私がひぃひぃ言ってる時期に遊びに行ってたんですか!?」
遊びにって…仕事だよ仕事。食べ歩きの。
今野に睨まれながら肉を一口頬張ると、案外しっかりした味付けがされていて、思わず手が止まった。
「……普通に美味いな、これ。ぜんぜんイケる」
「なに驚いてるんですか。」
「文章だけで決めたからな。実際に食レポしてるわけじゃない。それに初めはあんまだったはずだぞ?」
初期設定を書いたときから300年程度時間を加速させたから彼らなりにいろいろアレンジしたんだろうな。誰目線な感情でふけってパクパク料理を二人で食べていく。
席についてからかれこれ数十分は過ぎたと思うが、それでも店内の喧騒は収まらない。
食事が終わるころには、視界の端でチュートリアルの案内が控えめに点滅した。次のステップへの誘導だ。
「ほら、案内来てるぞ。そろそろ受付も空いてきたらしい。」
「ほかの人たちはすぐ依頼を受けて発ったみたいですね。」
軽口を交わしながら席を立つ。空いた皿をそのままに、階段へ向かい、再び二階の喧騒の中へと戻っていく。
チュートリアルはギルドのクエストを一つクリアするまででそれ以降はナビゲーションも望まない限り表示されない。
さっさとこのうざったいシステムを黙らせたいがためにクエストを受けようとするのだが、
「困ったな。」
先ほどまでいたプレイヤーたちがめぼしいクエストや簡単なものを取っていってしまったので、一目でやっかいとわかるようなものや常駐の時間がかかるやつ以外のこっていない。さて、どうしたものか。
「お二人とも、よかったら僕らとパーティ組まない?」
後ろを振り返ると若い二人の冒険者が立っていた。
冒険者の下から二番目の強さを表す銅のタグをぶら下げている男性は、元気なトーンで墓荒らしとして整った身なりを皮装備で済ませているので、新人だがそれなりの回数潜ったことがわかる。
もう片方は女性で、連れとは打って変わって男性の陰に隠れ、おどおどしている。
装備を見るに、魔法系の職業だろうとかろうじてわかるぐらいに深くローブを被っている。
「さっき、すごい人だかりだったろう?彼女が人の多いところが苦手だから待っていたら、普段残っている二人用の依頼が無くなってしまってね。君たちも同じようなクチだろ?」
なるほど、落ちついて行動しているから経験者だと思われたのか。
はたまた女性と行動を供にしている二人ペアだから、少なくとも悪いやつらじゃないとふんで声をかけられたのか…
「ちょうど俺たちもいいのがなくて困ってたんだ。四人用のだといくつか残ってるし、奈緒もそれでいいよな?」
「…はい。いいですよ」
さっきまであんな元気だったのに「二人で...」とぶつぶつ言ってどこか元気をなくした奈緒を横目に再び男性の冒険者に向きなおし、改めて声をかける
「じゃぁ、今回はよろしく。準備があるから、日が昇り切るまでに迷宮前に集合でいいか?」
「ああ、俺がグランで、こいつがフィルだ。」
握手を交わすと、グランは思いのほかしっかりとした力で手を握ってきた。装備こそ皮防具で揺らぎはあるものの、長年やってきた人間特有の、変な気負いのなさがある。
「フィル、行こうか」
フィルが小さく頭を下げる。最初は奈緒の存在に気を取られて分からなかったが、こうして近くで見るとどこか緊張した目をしているのが分かった。初対面が苦手なタイプでパーティ連携をどうしたものかと頭を悩ませながら、二人が人混みの向こうへ消えていくのを見送ってから、隣の奈緒に目を向けた。
「で、何ぶつぶつ言ってたんだ」
「言ってないですよ」
「言ってた」
「言ってません」
頬が若干赤くなってすねている気がしたが、本人がそう言うなら追及するのも野暮かと、それ以上聞かないことにした。
「とりあえず、装備を整えないとな。今の状態だと武芸者の初期支給品の防具しかない」
「私も、初期品のままです。MP消費効率が悪いのでなにか買っといたほうがいいですね。」
「それなら商業区だな。確か……」
視界の端に表示されたマップを開き商業区の中心にピンを指してから奈緒の手を引いてギルドを後にする。
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