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2話

「アリス。

 その依頼、やろう」

 

 言い終わる前に、アリスが割り込んでくる。


「出発は一時間後ね!」


 説明はない。

 どうも、アリスの中では依頼を受けないという、

 発想はなかったらしい。


 このままだと、アリスのペースに乗せられる。

 とりあえず、一度落ち着きたい。

 綺麗に手入れされたカップを手に取り、

 アリスが作った謎の液体を一息で飲み干す。


 少し苦味があるが、爽やかな香りが胸を満たす。

 冷えていく身体が心地いい。


 空になったカップを置くため、目線を降ろす。

 広げられた資料の中の絵に、

 どうやっても目線が吸い込まれる。

 

 アリスとの出会いの象徴の”花”。

 あれから二人で探し続けたが、

 結局、花を見つけることができなかった。

 

 世界に散らばる情報をかき集めた結果。

 “既に存在しない”、

 そんな事実を突き止めたときのアリスの顔は、

 ——もう見たくない。


 一時間か。

 アリスの気持ちは分かる。

 が、準備に時間が全く足りない。

 

 砂漠で冷たい水を見つけたような、

 そんな顔をしているアリスをもう一度宥め、

 追加で一時間を勝ち取った。


「そうだ、出発ってどこに行くんだよ。

 場所がわからないから、準備もできないよ」


 当然の確認をすると、

 部屋の空気が一瞬だけ止まった。


「迷い森にあります」


 声は、アリスじゃない。

 静かで、でも意志を感じる声だ。


 いたのに“いなかった”みたいな依頼人が、

 初めて口を開いた。

 

「迷い森って、いつの間にか外に出ちゃう

 あの森のこと?」

「はい、その通りです」


 迷い森の奥。

 思考が、ほんの一瞬だけ止まった。

 そして、ざわつく。


「どうやって奥に?」

「話せません。

 ですが、案内はできます。」


 聞きたいことだけが、宙ぶらりんのまま残った。


「お願いします。私の父を助けてください」


 父を助ける?

 花との繋がりが予想できない。


 ——いや、今は考えても仕方がない。

 理由は説明できない。

 だが、

 依頼人が嘘をついていないことだけは分かった。


 父、

 その一音だけで、

 部屋の温度が下がった気がしたのだから。


「分かりました。

 アリス、僕は準備に行ってくるよ。

 待ち合わせはここでいい?」


 なぜか、アリスが急に飛びついてくる。

 慌てて腕を広げ、

 投げ出された彼女の重みを受け止める。

 鼻先にギラついた目つきのアリスが現れる。


 僕の身体にもたれ掛かる彼女の身体は、

 普段よりも熱い。


 口角が少しずつ上がり、

 その角度が最大値に達した瞬間に爆発した。


「ライル!

 あるのよ!月華草はまだあるの!」

「いや、まだ確定じゃないでしょ」


 降りかかる唾を受け止め、

 凄まじい力で抱きつこうとしてくるアリスを、

 彼女の熱に当てられないように押し返す。


「ふふ……そうね!そうよね!」


 満面の笑みで肯定してくるが、

 これは、たぶん話を聞いていない。

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