↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

1話

「ねぇ!」

 

 背中を突き刺すような一声に、

 身体がそり返りそうになる。


 冒険者向けの依頼掲示板の前が、

 嘘みたいに静まり返る。

 

 振り返るべきじゃない、と直感で思った。


「あなたよ!あなた!」


 無視だ、無視。

 こういう声は関わったら面倒になる。


「だ・か・ら!あんた!」


 真後ろから声がする。


 逃げよう、そう考えたときには肩を掴まれていた。

 え、ちょっと待って。


 瞬間、

 視界が強引に振り向かせられる。


 目の前にいるのは、背丈の近い少女だった。


「やっとこっちを見た」


 まったく知らない顔だ。

 燃えるような真っ赤な眼に射抜かれ、

 脚がすくんだ。


「私はアリス!」


 怖い。

 聞いてません。

 

 助けを求めようと周りを見渡すが、

 周囲の大人たちは視線を逸らしていく。

 

 まるでふたりの周りに見えない壁があるようだ。


「依頼があるの!」


 目の前に差し出されたのは、一輪の花の絵だ。

 

 見覚えはない。

 でも、吸い寄せられるような魅力がある。


「これを、探してほしいの」


 声が僕を現実に引き戻す。

 

「……いや、これ、どこにあるかも書いてないけど」

「知らない。でも“ある”はずなのよ!」


 剥き出しの刃を叩きつけるような勢いで強く断言する。


「報酬はこれ」


 小さな袋を押し付けられる。軽い。


「少なくない?」


「……これしかないの。お願い」


 そのときだけ、声が少しだけ欠けた。


——


 冒険者という夢の先を描けず、勝手に失望し、

 何もない自分に言い訳を続ける毎日。


 なんでもそこそこできる。

 だからこそ何も選べない。

 そんな自分に嫌気がした。

 

 逃げだしてばかりの人生に、

 微かな、鈍い光が差し込んだ気がした。


 断る理由はいくらでもある。


 それでも、

 ——先が見えない道を照らすには十分だった。


「分かったよ」


 気づけば、そう言っていた。


 後から思えば、あれが——

 二度目の始まりだった。


——


「ライル!この方が依頼人よ!」


 刺すような声に顔をしかめる。

 いつも通り、何か厄介ごとを持ってきたな。


 あの日から5年、

 依頼人と冒険者という関係は、

 今では冒険者とその仲間に変わっている。

 

 あのときの少女——アリスが、

 今も変わらず目の前にいる。


 放たれる熱気にむせ返りそうになる僕とは対照的に、

 依頼人と呼ばれた女性は、

 アリスの隣で微動だにしない。


 まるで、誰かから身を隠すような、

 わざと印象に残らないような格好をしている。

 

「どうどう。

 落ち着いてよ、アリス。

 まずはどんな依頼か教えてよ」


 満面の笑みで、

 今にも襲いかかってきそうな彼女を宥める。

 もはや猛獣使いだ。


「ふふふ、あなたも知ってるものよ!」


 一枚の資料を差し出してくる。

 

 思い出す。

 “あの依頼”。

 

 これは……あのときの花。


「100年以上前、

 “国から完全に消された”はずの花の確保」

 

 今となってはこの世界に、

 断片的な記録しか残っていない花。


 アリスはニヤリと笑う。


「それが依頼よ」

 

 面白そうだ。

 ——それに、アリスが望んでいるのだから。


「退屈しのぎにはなりそうだね」

 

 あの時から、

 いまだに人生の目的はないし、

 見つかる気配もない。

 

 なら、

 刺激を求めて生きる。

 それが今の僕の生き方だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。