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16話

 赤い瞳の女。


 名前を思い出そうとする。

 というより、

 最初からそこに“あるはず”のものを探している、

 そんな感覚だった。


 なのに、見つからない。


 見たことがある。

 それだけは分かる。


 セレナを見たときとは違う、

  理由の分からない戸惑いが、胸の奥で鳴っている。


 理由が浮かびかける。

 だが、形になる前にほどけていく。


 何かを考えているはずなのに、

 考えている感覚だけが残る。


 口が動く。

 言葉にならないまま、止まる。


 身体だけが先に何かへ向かおうとしている。

 それなのに、どこへ向かうのかが分からない。


 彼女の視線だけが、離れない。

 視線は合っているのに、何も届いていない。

 そんな気がした。


 呆然としたまま、口が開き、また閉じる。


 気づけば肩から手は離れ、

 数歩だけ僕から離れていく。


 俯き、肩が震えだす。

 そして、

 彼女は部屋を飛び出した。


「あ、アリスさん!?」


 壁の向こうからセレナの声が響いてくる。

 

「アリス」

 

 それが名前?

 

 口に出してみるが、

 僕の中に、その名前は見当たらない。


 セレナと思われる足音が遠ざかっていく。

 だが、すぐにこちらに近づいてくる。


 青ざめた顔で部屋に飛び込んできた。


「ライルさん!

 アリスさんと何があったんですか!?」

「いや……名前を……聞いただけ」


 何が間違っているのか分からない。


「はぁ!?」


 それ以上、セレナの言葉は続かない。

 理解できない生き物を見る、

 そんな目を向けられる。


「……記憶喪失?」


 少し考え込むように視線を彷徨わせてから、

 

「でも私を覚えているし……」


 頭を抱えながら、

 誰に言うわけでもない声を出している。


 一呼吸付き、こちらにゆっくり近づく。


「ライルさん。

 あの庭園で何があったんですか?」

「何って」


 何だ?

 確か……見て欲しかった。


 誰に?

 そこだけが、抜け落ちている


「分からない」


 そう言うしかない。

 それを聞き遂げたセレナは、

 ただその場にうずくまった。


 どれだけ時間が経ったか分からない。

 しばらくすると、

 セレナはこちらを振り向くことなく、

 何も言わず部屋を去っていった。


 僕は何をしてしまったのだろう。

 考えがまとまらないまま、まぶたが重くなる。




——




 物音で意識を揺り起こされる。

 枕元で何かを引きずる音が聞こえる。


 何だ?

 再び落ちようとする意識をかろうじて引き留め、

 閉じようとするまぶたを開く。


 ぼやけた輪郭が暗がりの世界に広がる。


 数拍の後、柔らかい光が差し込んでくる。


 眩しくはなかった。

 目の周りが紅く染まった、

 ”アリス”と呼ばれた女性が座っていた。


 互いの目線が交わり、

 彼女は微笑みながら語った。

 

「初めまして。

 ……私はアリスよ」


「これから、

 ……これからも、よろしくね」

初めて書いたものでした。

なかなか難しいものです。

今後もぼちぼち短編を中心にして、

趣味くらいの感じで更新していきます。

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