14話
冒険者組合から紹介される依頼をこなし、
報酬を貰い、生活を営む。
何の変哲もない日常だ。
今までと違うことといえば、
横たわる彼の世話をすることが、
生活の一部となっただけだ。
なんてことはない。
寝たきり老人の介護と同じだ。
……なんてことはないはずだ。
それに、セレナちゃんもいる。
当番制で、彼を看ると言い出したのは彼女だ。
今日はセレナちゃんが当番の日だ。
私といえば、依頼もそこそこにこなし、
今日の晩御飯の食材を調達している。
そうだ、今日は彼女の大好きなシチューにしよう。
遠くから通うぐらいなら一緒に暮らそうと、
セレナちゃんに提案したときは、
口を大きく開けて驚いていたことを思い出す。
お父さんを亡くして、天涯孤独の身と言うし、
それに事情を理解して、
彼の世話も一緒にしてくれる。
一挙両得というやつだ。
奮発して買った鶏肉の重みを感じながら、
帰路に着く。
ほんのりと朱色に染まる街並みを眺めながら、
明日のことを考える。
気づけば我が家の扉の前に立っていた。
……扉を潜る前に、深呼吸をする。
これは私の新しい日課だ。
鍵を開け、
音を立てないように家へと足を踏み入れる。
何やら騒がしい。
どうしたのだろうか?
そのとき、
彼が眠る部屋のドアが、勢いよく開け放たれる。
「アリスさん!
ら……ら、ら、ライルさんが!」
言葉にならない叫びが、廊下に弾けた。
胸の奥が、嫌な音を立てて縮む。
「……え?」
鶏肉の包みを取り落とす。
床に落ちたそれを拾い上げる余裕もなく、
私は走っていた。
彼がいる部屋へ。
——
眩しい。
……いや、少し暗い?
ここはどこだろう。
見慣れない天井が僕を見下ろしている。
確認をするために、身体を起こそうとする。
が、起き上がらない。
正確には起き上がれない。
身体が重い、というより、
自分のものじゃないみたいだった。
次に首を動かそうとしてみる。
どういうわけか、
自分が考えるより少し遅れて動き出す。
動きが進むに従い、鈍い痛みを感じる。
知らない部屋だ、と思う。
そう判断するまでに、
少し時間がかかった。
似たような部屋を、
見たことがないわけじゃない。
でも、どれにも一致しない。
少なくとも、
自分の部屋ではなかった。
……考えがまとまらない。
頭がぼーっとする。
「……誰か」
声を、
出したような気がした。
自分の耳にすら、
はっきりとは届かなかった。
足元の方が急にざわつく。
誰かが動いた気配。
数巡遅れて、激しい足音が近づいてくる。
「……うそ」
人の輪郭が視界に現れる。
目の下にクマを宿し、
青い瞳を大きく見開きながら、
口に手を当てがっている。
そこには、僕を”庭園”に誘った少女がいた。




