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11話

 視界を埋める花と私の世界に影がチラつく。


 なに?

 意識は意思の中を浮かんでは沈んでいく。


 耳元で、”アリス”という、

 意味にならない音が増えていく。


 花は私。


 急に耳元で音が止んだ。

 代わりに足元で音がする。


 花が宙を舞う。

 どうして?

 でも、私は花。


 舞っては落ち、舞っては落ちる。

 

 影が花を掴んでいる。

 記憶だった気がする。


 私に顔を向ける花が減っていき、

 地面に横たわる花が増える。


 いつの間にか花は全て横たわっている。

 

 視線の先に影が覆い被さる。

 音がぼやけて聞こえる。

 花は私?


 影はどこかにいき、そこに花はない。

 別の花を見る。

 影が被さり、音がして、花が消える。

 その度に甘い香りが薄れていく。

 

 花が消える。

 私が増える。

 

 いつの間にか花が見当たらない。

 花?

 

 何かに肩を急に掴まれ、乱暴に振り向かせられる。


「僕を見ろ」


 目の前には、輪郭のぼやけた彼がいた。




——




 どれだけ時間が経ったかわからない。

 周りにいた、僕を見る“僕”は既にいない。


 でも、”アリス”は横たわる”僕”を見ている。


 ……そうか、あれも僕だ。


 分裂した僕を見ている。


 横たわる僕を掴み、取り込む。

 僕が僕で満たされていく。


 掴み、取り込む。


 すべてを取り込み僕は一つになる。


 でも”アリス”は僕を見ない。


 僕しかいない。

 “アリス”を掴み、振り向かせる。


 言葉と認識した何かが口から飛び出た。




——




 強烈な渇きで目を覚ます。

 あれからどれだけの時間が経ったのか分からない。

 肉の腐りかけた匂いに咽せてしまう。

 

 父であったものに、もたれ掛かるようにして、

 意識を失っていたみたいだ。


 頭がぼんやりする。


 そうだ、ライルさんたちは!?


 身体を無理やり起こす。

 そういえば、庭園にはあの香りが漂っていない。


 花があった場所に視線を向ける。

 あるべき場所に淡い光は存在していない。


 気づけば足がそこに向かっていた。


 人影が二人、そして花の葉が散乱していた。


「ライルさん!アリスさん!」


 彼らに駆け寄る。

 息を呑む。


 二人の目は空を切り、口がだらりと開かれていた。

 そして、

 なぜかライルさんの口元には、

 花ビラや花の根が付いている。


「っ!?」


 ライルさんの胸に耳を当てがう。

 弱い、だが確実に命はそこにある。


 しかし、反応がない。


 アリスさんは?


 彼女もおなじであった。


「起きて!起きて!」


 ゆする、叩く。


「……痛い」

「アリスさん!」


 目の焦点が合っていない。


「何があったんですか!」

「あれ……私は……花」


 身体の芯が急激に冷えていくのを感じる。


「違います!アリスさんはアリスさんです」

「私は……私?」

「そうです!」

「あれ……セレナちゃん?

 ……なんで泣いてるの?」


 頬を手を当てる。いつの間にか、濡れていた。


「お父さんは?……月華草は?」

「……今は、もういいんです」


 そうだ、ライルさんは?

 もう一度揺さぶる。反応はない。

 力無く開かれた、まぶたの奥には光がない。


「そうだ……ライルはどこ?」

「ライルさんは……大丈夫です」


 根拠はない。

 だが、今は断言する。

 

 一度花に囚われた私が解放されたのだ、

 彼だってきっと大丈夫、そう信じるしかない。


「そっか。

 ……彼に月華草を見せれてよかった」


 なにから話せばよいのだろうか。

 

 でも、

 今度はすべてを正直に話す。

 そう決めた。

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