第5章:俺の「一緒に風呂」作戦が招いた甘い地獄
朝の光はまだ部屋に堂々と入ってくる勇気が出ていないようだった。ただ、淡い灰色の光がベルベットのドレープの隙間から忍び込み、艶やかなハードウッドの床に長く伸びた影を描いている。空気には夜中に誰かが交換したらしい新鮮な花の甘い香りが漂い、古い屋敷がまた一日を始めるいつもの軋む音と混ざっていた。
俺は目を覚まし、完全に方向感覚を失っていた。
豪華な漆喰の天井がじっと俺を見下ろしていた。頭の中でパズルのピースがゆっくりとかみ合っていく……俺はもうダニじゃない。シエナだ。ここは俺の昔の寝室じゃない。どこかの豪邸だ。俺を殺したがってる母親と、綿菓子みたいなピンク髪のメイドがいる。
「クソ……」俺は掠れた高い声で呟いた。
コンコン。
ドアに二回、澄んだノックが響いた。礼儀正しく、正確に、まるで精密時計みたいに。
「すぐ行く……」俺はあくびをしながら呟き、顎が外れそうになるくらい大きく口を開けた。
まだまぶたに眠気が鉛のようにへばりついている。よろよろと立ち上がり、素足で床を踏みしめた。半分寝ぼけたゾンビみたいに部屋を横切り、手の甲で片目をこすった。
ドアノブが凍るように冷たかった。回して引く。
ドアを開けた瞬間——
「うわっ!」眩しい朝日を真正面から浴びたような挨拶が飛んできた。「おはようございます、シエナお嬢様!」
ミサキの笑顔がまぶしすぎた。
廊下に立っていた彼女は、両手をスカートの前で綺麗に揃え——半分は完璧な使用人、半分は今にも飛びつきたがってる子犬だった。あの綿菓子みたいなピンク髪が肩を流れ落ち、緑色の瞳がまるで異世界の輝きを帯びている。
完璧な学校制服を着ていた。紺のジャケット、膝丈のプリーツスカート、真っ白なタイツ。そして胸元に光る名札が、俺の目を一瞬で釘付けにした。
「げ、げんき……おはよう」俺はどもりながら答えた。
笑顔を作ろうとしたが、半分しかできず、変な引きつった表情になった。唇が少し震えた。
「えっと……」俺は必死に頭の中の空白を埋めようとした。「……?」
ミサキが小鳥みたいに首を傾げた。
「はい? どうかしましたか、シエナ?」
(クソ……勘違いされなくてよかった……)
でもまだ彼女の名前を思い出せない。視線が再び胸元に落ちた。
そこに、はっきり書かれていた。**MISAKI**。
「なんでもない」俺は慌てて指を突き出した。「その制服が急に目に入ってさ……なんていうか」名札を軽く突いた。「これ。はは」
ミサキは下を見て、二本の指で名札を突き、明らかに不機嫌そうに鼻をしかめた。
「正直、すごく邪魔なんです。学校にいる時はこんなゴミ、必要ないのに」素足(いつスリッパを脱いだんだ?)が床板を苛立たしげにトントン叩いた。「自分たちの名前も覚えられないって思われてるみたいで」
「はは……そうだよな、学校で全員に名札つけるなんて完全にバカげてる」俺は腕を組んでドア枠にもたれた。
(学校……? 今から学校に行くのか? 昨日帰ってきたばかりなのに?)
質問を口にする前に、ミサキが肩をピンと張った。表情が一瞬で変わる。甘さが潮のように引いて、もっと固く、鋭いものが露わになった。
「そういえば……シエナお嬢様、もうシャワーを浴びないと。出発まであと一時間しかありませんよ」
俺は振り返ってベッドサイドテーブルを見た。薄暗い中でスマホがぼんやり光っている。慌てて掴んで画面を確認した。
5:23 AM。
「まだ二時間もあるだろ、ミサキ」俺は冷静に答えた。事実を正しく把握していたから。
「いいえ」
「いいえ」彼女の声が鉄のように固くなった。「普通の人は二時間ですが、お嬢様は早く準備しないと」
「でもそれは——」
彼女が遮った。
ミサキが一歩、音もなく近づいてきた。眉が俺の目の数センチ前に迫る。息——温かく、少しミントの匂いがした——が唇にかかった。緑色の瞳が冷たい炎を帯び、俺の血管を凍りつかせる。
「早くしないと」彼女は一語一語を丁寧に、しかし絶対的に繰り返した。
怒っていた。叫ぶタイプじゃない。冷たい、拒否を許さない目だった。この瞬間、逃げられないことを俺は理解した。
(昔の相棒がよく言ってた言葉を思い出した……「こんな狂った女の子たちは俺が子供の頃にどこにいたんだよ!?」)
幼馴染の痩せたメガネっ子がノートを片手に真顔で言った記憶がよみがえった。「ダニ、女って正しい時はマジで怖くなるからな。相手が絶対に飲み込まざるを得ないくらい、馬鹿馬鹿しい嘘を考えろ」
「はは」苦くて懐かしい笑いが漏れた。
ミサキが目を細めた。
「何がおかしいんですか、シエナ?」
俺は深く息を吸った。(クソ、賭けに出るか)
「じゃあ、一緒に入ろうぜ」
「えっ?」ミサキがびっくりして後ずさった。
「一緒にシャワーに入ろう、ミサキ……」俺の目が輝いた。今は女の体だ。一生に一度のチャンス。ずっと溜めてきたものを全部解放できる。
「淑女らしからぬ!」彼女は顔の前で両手をバタバタさせた。「女の子同士で一緒に浴室に入るなんて不適切です!」
俺は壁を思いっきり叩いた。木材が軋んだ。拳の痛みが、俺にもう昔の力がないことを思い出させた。でも構うか。新しい大胆さで手を伸ばし、彼女のブレザーの上から胸を鷲掴みにした。
ミサキが完全に静かになった。頰が一瞬で真っ赤になった。
「それなら」俺は低く、からかうような声で囁いた。「女の子同士で一緒に入るのは不適切か?」
「違います!」声が震えた。「あなたは女の子で、私も女の子です! お互いに信頼がないなら、外の人を信頼できるわけないじゃないですか! 私がシャワー中に知らない人が入ってきて襲われたらどうするんですか!?」
俺はもう少しだけ力を込めた。傷つけない程度に、でも明確に。
「お前は俺の使用人だろ。守護者だ」声に力がこもった。「お前が一緒に来てくれないせいで主人が襲われたら、どうするんだ?」
完全な沈黙。
二人とも息を止めた。廊下に重い空白が満ち、まるで時間が俺たちの意志のぶつかり合いを見守っているようだった。聞こえるのは古い屋敷の小さな軋みだけ。
(ヤバい……ライン越えた)
指を緩め、手を下ろした。もう片方の手を優しく彼女の肩に置いた。
「ごめん、ミサキ。やりすぎた。許してくれ」
でも俺が手を引く前に……彼女の手が俺の腕を掴んだ。
凄まじい力で。
「み、ミサキ……」指が爪のように食い込む。「痛いぞ」
彼女は笑わなかった。瞬きさえしなかった。あの緑色の瞳が、俺が今まで見たことのない凶暴さで俺を射抜いた。握力は鉄のようで、手首を一ミリも動かせない。先ほどまで可愛らしく見えた手が、今は凶器だった。
「正しいですね、シエナお嬢様」彼女の落ち着いた声が背筋を凍らせた。「お嬢様の安全を運任せにできるわけがない。私が間違っていました。許されない過ちです」
「ああ……そうだな……」俺は痛みに顔を歪めながら言った。「でも——」
**ドンッ。**
彼女の拳が分厚いオークのドアに叩きつけられた。五センチの厚みがあるはずの木材が、重い音を立ててひび割れた。破片が飛び散った。
俺の言葉が喉で止まった。
「ク、クソ……」新しく空いた穴を見つめたまま。「マ、マジか……ぶち破った……」
でも声が上手く出なかった。喉が締めつけられていた。痛みか、恐怖か、それともこの状況の狂気か。
ミサキは俺の腕(もう紫色になり始めていた)を掴んだまま、部屋の中に引きずり込んだ。素足が床板を滑った。ドア枠にぶつかり、危うく転びかけた。
「み、ミサキ……」俺は後ろに首を反らしながら抗議した。「ドアが……」
「開いたままです」彼女は振り返りもせず、まるで人間離れした力で俺を引きずった。「心配しないでください、シエナお嬢様。私がそばにいれば安全です」
(私がそばにいれば安全です……)
彼女はその言葉を呪文のように繰り返した。でもその顔……笑顔は完全に消えていた。固い仮面のようだった。さっきまで楽しげに輝いていた瞳は、今や底知れぬ決意の暗い井戸になっていた。
「ミサキ……」俺は引きずられながら息を吐いた。「笑ってないぞ……」
彼女は何も答えなかった。
後書き
正直、作品を投稿してから数週間、いや数ヶ月は誰も評価もブックマークもしてくれないだろうと思っていました。
「小説のオリンポスにまで来てしまった……こんな凡人の俺に、慈悲なんてあるのだろうか?」なんて考えてました。
なのに今日、**二人の方**がすでに読んでくださり、評価を付けてくれて、ブックマークまでしてくださっているのを見て……本当に言葉を失いました。
本当に、本当にありがとうございます。
その二つのブックマークと一つの評価が、ものすごく大きな励みになりました。
おかげでこれから**スペイン語原作版と日本語版の両方**を、最初から最後まで完走する気力が湧きました。
もし少しでも楽しんでいただけているなら、ぜひこれからも一緒にこの物語を見守っていただけると嬉しいです。
次章でお会いしましょう!




