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これが私の本当の自分じゃない  作者: ミナミラスト


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13/18

第13章:闇の中の燠火のように……

(私は私なのか……それともシエナなのか? 同じことじゃないか? 私は私自身ではないのか?)


背中を水が流れ落ちていく。

冷たい床。

私に覆い被さり、答えを待つ赤い瞳の女。


そして、私の心の奥底で、一筋の光が灯った。


(そうだ。これは私の体じゃない。私の世界でもない。でも、私は私だ。誰が否定しようとも、私は私であると主張し続ける。テセウスの船と同じように、私が私であると信じている限り……私は私のままだ)


私は目を開けた。

彼女を真っ直ぐに見据える。


「肉食系?」私は唇に笑みを浮かべて言った。

「残念だったわね。私は私……自分の好きなように喰らうだけよ」


沈黙。

女は瞬きをした。その赤い瞳が細められる。


「愚かな小娘ね……自分がどんな状況に置かれているか、分かっていないようだけど」


(あ、痛いほど完璧に理解してるわ。でも、あなたに私の恐怖をくれてやるつもりはない)



少し前のこと。水泳部の部室棟にて。


「……ねえ、ミサキ。今日は部活に出る?」


綺麗に整えられた黒髪と、制服越しにも分かる少し引き締まった体つきの少女が、ノートを片付けているミサキの机に近づいてきた。


ミサキは顔を上げた。水泳部の部長、サーシャだった。


「あっ、すみません、部長」彼女は鞄のファスナーを閉めながら言った。

「今日は、お嬢様と一緒に帰らなければならないので」


「一緒に?」サーシャは小首を傾げた。

「あ、そうか。今朝、喧嘩騒ぎがあったって聞いたけど……」


彼女は言葉を切り、少し身を乗り出して声を潜めた。

「ねえ……それって大変すぎない? もしよかったら、別の雇い主を紹介しようか? 私の知り合いに——」


「いいえ」


ミサキ自身が思っていたよりも、その返事は早く口を突いて出た。彼女は少し頬を染める。


「ご心配なく、部長。私はあのお屋敷でとても幸せですから」


サーシャはしばらくの間、黙って彼女を観察していたが、やがて微笑んだ。

「そっか。それならいいんだ。彼女によろしくね」


「はい」


ミサキは、足取りも軽くロッカールームへと向かうサーシャの、ステップに合わせて揺れる黒髪を見送った。


(お嬢様の教室に行かなくちゃ)


彼女は部室棟を後にした。

午後の澄んだ空気が顔に当たる。


同じ科の女子生徒たちはすでに帰路につき、グラウンドではサッカー部の女子たちが走り回り、その声が観客席に反響していた。


本棟へと続く渡り廊下は、奇妙なほど静かだった。静かすぎた。


ドスッ……ドスッ……ドスッ……。


ミサキは立ち止まった。

鈍い打撃音は、教員用ロッカールームから聞こえてきた。くぐもった、規則的な音。まるで何か——あるいは誰か——が壁を罰しているかのように。


(まだやってるんだ……)


彼女は少しの間、じっと立ち尽くした。胃の奥から嫌な味が込み上げてくる。噂は知っていた。誰もが知っていることだ。

でも、自分には関係のないことだ。少なくとも今日は。


彼女は歩き続けた。



到着した時、2年B組の教室はほとんど無人だった。

数人の居残り組が荷物をまとめ、他の者たちは窓辺で談笑している。


ミサキはシエナの席に座った。磨かれた木の表面を指でなぞる。机は冷たかった。


(ここがお嬢様の席……これからもっとお友達ができるかな? 私も……もっと一緒にお昼を食べた方がいいのかな?)


指が勝手に動き出し、机の表面をトントンと叩き始めた。胸の奥で、不安が潮のように満ちてくる。

トントン。トントン。トントン。


(お願いですから、もうどこにも行かないでください、お嬢様……とても寂しかったんです……いつも以上に)


一筋の涙が頬を伝い、机の上に落ちた。それが一瞬だけキラリと光り、木に吸い込まれていくのを彼女は見つめていた。


背もたれに寄りかかり、目を閉じる。

そして、思い出した。


海の上を風が吹き抜けていた頃……。

シエナが初めて退院した時のこと。


その日の朝は晴れていた。暖かく、黄金色の太陽が、お屋敷の庭を蜂蜜色に染め上げていた。


シエナは彼女の方へ歩いてきた——まだ蒼白で、壊れそうだったけれど——その目は……その瞳は生まれ変わっていた。ミサキが今まで見たこともないような輝きを宿していた。


「こんにちは、ミサキ」彼女は言った。その声は以前よりも力強く、生きとしていた。

「待っていてくれて、ありがとう」


(あの時のお嬢様は、とても眩しかった……今でもこんなに綺麗で。私たちより3つも年上だなんて、誰も思わないだろうな……)


白昼夢の中で、ミサキは微笑んだ。


ヒソヒソ、ヒソヒソ。


「えっ?」

ミサキは目を開けた。教室には人が増えていた。生徒たちが出入りしている。壁の時計は午後3時30分を指していた。


(もう30分も経ったの?)


膝の上で指を絡め合わせ、焦燥感に駆られながら待った。1分経過するごとに、首筋を針で刺されるような感覚があった。


その時、ドアが開き、デイジーが入ってきた。


二人の目が合う。


「ミサキ!」デイジーは弾むような足取りで近づいてきたが、ミサキの表情を見て笑顔を消した。

「どうしたの? もう終わった? シエナはどこ?」


「えっと……私は……」

ミサキは目を丸くした。


「シエナは? 一緒じゃないの?」


デイジーは瞬きをした。混乱。驚き。そして首を横に振る。

「一緒じゃないよ……教室に戻ったんだと思ってたけど」


教室に……教室に……教室に……。

その言葉は、空っぽの洞窟に響くこだまのように、ミサキの耳の中で反響した。


彼女は勢いよく立ち上がった。椅子が床と擦れて甲高い音を立てる。教室中の視線がいっせいに彼女へ向けられた。


「あっ!」ミサキは耳まで真っ赤になった。

「お、お騒がせしてすみません……」


彼女は教室を飛び出した。足早に歩き出し、小走りになり、やがて全力疾走になった。

階段を一段飛ばしで駆け下りる。1階の廊下は、終わりのないトンネルのように目の前に伸びていた。


そして、誰かに激突した。


「っと……!」

「お嬢様!」


涙が雨のように溢れ出した。止められなかった。止めたくもなかった。


そこに彼女がいた。そこに、あなたがいた。


廊下の壁に寄りかかるシエナ。制服は皺くちゃで、髪も乱れていた。でも、生きていた。無事だった。笑っていた。


「ふっ……大丈夫、ミサキ? ヒーローは泣かないものよ……」

シエナは片手を上げ、ミサキの頬を撫でた。その指は冷たかった。氷のように。まるで氷水に浸かっていたかのように。


だがミサキにとって、それは自分を温めてくれる唯一のものだった。


彼女をきつく抱きしめ、その肩に顔を埋める。他のことなんてどうでもよかった。周囲の視線も、廊下も、この世界すらも。


「そろそろ教室に戻らなきゃね?」シエナは温かい声で囁いた。

「行きましょう、ミサキ」


言葉は温かかったが、彼女の心臓はひどく速く打っていた。速すぎた。


「いいえ……その必要はありません……」

「何言ってるの? 学校に行くのはいつだって必要なことよ、あは……」

「違います……そうじゃなくて……」ミサキは涙で濡れた頬を上げた。「授業は、もう終わったんです」


コツ、コツ、コツ、コツ……。

廊下の端から、複数の足音が響いてきた。


集団の先頭にマデリンが現れた。右にヒルダ。左にエリー。そして彼女たちの後ろには、サメが血の匂いを嗅ぎつけるように、ゴシップの匂いを嗅ぎつけた十数人の女子生徒たちが続いていた。


マデリンはシエナとミサキを指差した。

「見て、ハネムーン中の新婚さんよ!」


ドッ! とヒルダの笑い声が壁に響き渡る。

「おいおい、おめでとさん!」彼女は指の関節を鳴らしながら大声で言った。


頬に星のペイントをした女子生徒が、胸元で両手を合わせた。

「お嬢様とメイドのロマンス……最高のネタじゃない!」


「おめでとうー!」

「私たち、本当にあいつに負けたわけ?」

「私もあんなメイド欲しい……」


声が渦巻き、次第に大きくなり、ステンドグラスの窓に反響する。


ミサキは茹でダコのように真っ赤になっていた。シエナの肩に置かれた手が震えている。


一方のシエナは、静かに微笑んでいた。

「はい……教室に行きましょうね?」


「ちょっと、シエナ!」

デイジーが人混みをすり抜けて二人の元へやってきた。彼女はまだ白い付け髭をつけたままだった。


ヒソヒソ声で言う。

「授業はもう終わってるよ、覚えてる?」


「あ、そうだった……忘れてたわ……」


シエナはミサキを腕にしがみつかせたまま集団の方へ振り返り、満面の笑みで声を張り上げた。

「それじゃあ、みんな! 気をつけて帰ってね。また明日!」


一瞬の沈黙。それから、マデリンが微笑んだ。引きつってはいるが、礼儀正しい笑みだった。

「もちろんよ……あなたも無事に家に帰りなさいね、シエナ」彼女は階段を降りながら言った。ヒルダとエリーも影のように彼女に続く。

「もう片方の足首まで捻挫されちゃ、困るものね」


廊下が静まり返る。野次馬たちも枯れ葉のように散っていった。


シエナとミサキは見つめ合った。


「私たちも帰ろうか?」シエナが尋ねる。

「はい」


二人は肩を並べて階段を降りた。シエナの足取りはまだ少し引きずっていた。ミサキは彼女に合わせて歩調を調整する。


二人の手が一度触れ合った。二度。そして三度目には、その指が絡み合った。


(まるで蛍が……光にすがるように)

この章を最後まで読んでくださった皆様に、心より感謝申し上げます。

特に、この作品に大きな影響を与えてくださった、あの二人の方へ。


本当に、この作品は海に沈んで消えてしまうようなものだと思っていました……。

いつも応援してくださり、ありがとうございます。

どうか、彼らの物語を最後まで見守っていただければ幸いです。

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