閑話 王族対抗歌合戦 38 お菓子とおはじき
「あ、あ、カルネを皆、知っているのかい?」
マージ王弟が、間抜け口開けヅラを何とかおさめて、戸惑いながらも子供たちに腰を折り目線を合わせて、聞いた。きっと甥っ子のカルネ王太子や、姪っ子のエクレやシエルが小さかった時、こんなふうに相対したのだろう。
竜樹には初見でガウ!したが、王族なんだぞ!なんて子供たちには偉そうぶらないところが、ちょっと好感が持てる。
「カルネでんか、遊びきてくれた〜。」
「めっちゃあそんでくれた!」
「男の子と女の子の赤ちゃんいるって、お父さんの練習させて〜、って。」
「やさしいお父さん、いいよね!」
「かこいい!」
カルネ王太子殿下は、感謝祭が終わってエクレとシエルとの関係が公に改善されたこともあり。新聞寮に遊びにちょくちょく、来るようになった。竜樹とも馴染んで、男同士お父さん同士で、うぬうぬと腹を割った話をしているのだ。
そして新聞寮、孤児院の男の子たちは、付き合って積極的にぶん回したり、剣の稽古、体術など、竜樹はできないコントロールした武力も含めて遊んでくれるところが。
女の子たちも、紳士的におままごとなんかにも嫌な顔をしないで付き合ってくれて、不慣れながらもなりきりっこ、恥つつ声音を使うやさしさが、ふくっと嬉しいらしい。
赤ちゃん役とかやってくれるのである。あの美丈夫が。
たまに男女入り乱れて遊びが混ざっているのは言うまでもなく。カルネ王太子殿下とりっこになったり、じゃあ今日はこっち!など、なかなかの人気なのである。
エクレとシエルは、ぎこちない赤ちゃん役のカルネお兄様を隠れて見ていて、くぷぷぷ、と笑っていた。
「マージさんは王弟殿下なんだよ〜。カルネ王太子殿下はエクレとシエルのお兄ちゃんだから、カルネ殿下にも叔父さんだよ。今日は、内緒で遊びにきたから、マージさん、ってお呼びしてねー。」
「「「はーい!」」」
良い子のお返事、子供たち。
パシフィストの3王子、オランネージュやネクター、ニリヤも、お手てを上げてマージ王弟の所に、とてとてやってくると。
「初めまして、内緒のマージ王弟殿下。第一王子、オランネージュと申します。今日は、マージさん、だけどやっぱりマージ殿下って言っちゃいます。ふふふ、竜樹にエイって連れて来られちゃったのですか?エクレお姉ちゃんとシエルお姉ちゃんもこっちにいるし、フードゥルとは、ごえんがありそうです!」
ちょこん、と面白そうに目礼。非公式だものね。
「第二王子、ネクターです。パシフィストにようこそ!今日は、お菓子がたくさん食べられますよ、良かったです。お楽しみください!」
緊張しいだけど、お目々をクリっとして真面目にご挨拶、よく出来ました。
「だいさんおうじ、ニリヤです。どれがおいしかったか、おしえてください!おみせで、かえるようになるです。おはじき、いれるだのって。もしか、きにいったの、おみやげ、できるかもです。」
おうちにおみやげ、かいますか?と、もう帰る事を気にしているニリヤ。ペコンとお辞儀、深い深い。竜樹が日本人的にお辞儀慣れしているので、時々真似っこ出ちゃうのだ。
「あ、ありがとう。よ、よろしくね、オランネージュ殿下、ネクター殿下、ニリヤ殿下。その、そ、その、私はここで、お菓子?を、食べれば?」
マージ王弟、とぼとぼ竜樹に連れられてきて、お菓子選定試食会議にブッ込まれるとは思っていなかったよう。今更ながらどう対応すればいいか、周りをキョロキョロ。
「みんなー、カルネ殿下のオジサンだってよ!いつもせわになってるし、俺たち面倒みたろうじゃん。マージ、でんか?こっちきな、来るください。………えらい人語、むずい。」
寄って行ってジェムが、マージ王弟に手を差し伸べる。
ジェムは賢いので、初見の貴族や王族に自分から触るリスクを知っているのだ。
汚い浮浪児が!触れるな!と、高飛車な貴族たちの護衛に殴られるなど、危ない目に遭うリスク。それでも、竜樹の紹介でもあるし、エクレとシエルの親戚だから、多分大丈夫とみて、まず自分が手を伸ばして、待つ。
マージ王弟は試されているのを知ってか知らずか。おずおず、ジェムの手を握り。
「な、何だか、女性になったみたいだな。エスコートありがとう、少年。」
と、ぎこちなく笑った。
「おれ、ジェムだぜ、です。」
「ジェム。そ、そうか。言葉は気にしなくて良いよ。エクレとシエルに話すのと、同じで良いよ。」
ジェムの背丈に合わせて喋るマージ王弟に、子供たち、ニパッと笑って。お客さん、珍し楽しだものね。ワーッ!と寄ってたかった。
それも主に女子が。
「カッコいいね!マージでんか!」
「いいおとこ。女泣かせね!」
「恋人いるの?」
「顔が良いからって、二股したらダメなんだからね。」
ジェムが握ってるのと反対の方の手をパシと取って、上着を引っ張って、きゃあきゃあ敷物の方へ連れてゆく。ジェムはニシシシだ。そうなると思った、である。
子供ならではの悪気なさ、ザックリツッコミに、マージ王弟が圧倒されるのは、仕方ないのである。
竜樹はそれをニコニコ見守っていたが、自分も子供だんごになりながら、じゃあお仕事始めます!なんてキリッとして。お菓子が沢山、色々な種類が用意されているテーブルたちの前に歩いていった。
「皆〜、竜樹とーさがお話しますよ。まずは、敷物に座って下さ〜い。」
わぁわあ、キャイキャイ、適当に大体座っていく。静まりの完璧を求めてはいけない。赤ちゃんたちもいるし、小っちゃい子もいる。けれど、竜樹が、すうっと一本、指を立てて、シィ〜っ。
ゆっくり顔を見回して、声を落として子供たちに言えば、むぐぐと皆、お利口に黙った。真似っこして、シィ〜したり。
「はい、よく出来ました。皆、今日は重大なお仕事です。頼りにしてるからね。これから、王宮の、侍従さんや侍女さんたちが買いに来る、お菓子屋さんのお菓子、どれにす〜る?試食会議を始めます。お店やさんのお勉強しながら、皆にお菓子屋さんを運営していってもらいます。ちゃんと、本物のお菓子屋さんのお助けがあるから、緊張しなくっていいんだよ。色々お菓子があるから、食べてみて、美味しかったなあ、お店に置きたい!って思ったら、そのお菓子のテーブルの前の、箱、これね?こういうのに、おはじきをポン、と入れて下さい。」
子供のおはじきは、赤。
侍従さん、侍女さんは、青。
投票用の箱は、木箱で天辺に大人の手が入るほどの、丸い穴が開けてある。そのお菓子の写真が貼ってあるので、分かりやすい。
「数は1つの箱に入れていいのは、1人1こだけ。他のお菓子も美味しいな、って思ったら、1こずつ運んで、入れていいからね。おはじきは、ここにあります。ここから取っていってね。今日は、どのお菓子が人気かなー、って知りたいです。おはじきが沢山入ったら、いっぱいの人が美味しい、って思ったってこと。美味しいお菓子を置きたいよねえ。………真剣に、やるんですぞ?分かりましたかな?」
うん、いっこ、わかったー、とあちこちで声が上がる。
「お値段も書いてあるからね。文字が読める子は、お値段のことも考えておはじきを入れると、もっと良いねー。高い?安い?安いけどまずい、安いけど美味しい、高くて美味しい。とても美味しい。仕入れ値は、お菓子屋さんのキーナンおじいちゃんが教えてくれます。気になる子は、コソッと聞いてね。」
キーナンおじいちゃんが、孫のコギーと。その友達、子犬を王宮の庭で、躾担当の猟犬育成家業のあぶれ次男青年に任せてきたシフレと、並んでいる。
キーナンおじいちゃん、コギー、シフレがニコニコ、手をフリフリっとした。
しいれね、ってなにー?
とか何とか、ちゃんと儲かりの事も少しだけ子供たちに意識させて。
「な、何だか結構ちゃんとしているんだな。」
マージ王弟が、ジェムにそそっと聞く。でも応えるのは女の子たちである。うん、分かってる。でもきっと心細いから一緒にいてあげる、面倒見の良いジェムである。
「そうよ!子供のお遊びじゃないのヨッ。竜樹とーさは、私たちに屋台のドーナツ売りとかもさせてくれてるの。危ないとこは、大っきい子たちや、助祭さんとか、見習いの教会の人とかがやるの。売る時も、お金を扱うから、ちゃんと後ろでみてくれるのよ。」
王都教会孤児院の、針仕事が上手なフィルが、おしゃまに教えてあげる。
「はたらかないと、たべられないんですからねっ。」
「マージでんかも、はたらいてる?」
「オンナノヒモじゃない?」
女の子たち、怒涛。
「マージでんかはヒモじゃねーだろ。カルネでんかのオジサンなんだし、えらい人だろ。大体えらい人はヒモじゃねーよ。」
「ジェム、よく知ってるじゃん。」
ヒモ……。
あんぐ、と再びお口が開いちゃうマージ王弟。
そんなこんな、竜樹が、じゃあ食べてみてねー、難しく考えないで、美味しかったらおはじき、だよ!と言って。
わぁ〜!女の子とジェムに連れられて、覆っていた布を取っ払われたお菓子に突撃、待って待って引っ張らないで。前のめりに、おっとっとと。
「ごめんな、ビックリしただろ。マージでんか。ヒモとか言って。」
ジェムが、テーブルの前でクラッシュシュガーのピカピカ光った型抜きクッキーを一つ、摘んで。
「え、あ、ん。ああ、まあ、うん。」
パクリもぐもぐ、いかにも粉ものを食べている!と満足感のあるそれに、ゴックン後、舌がペロリ。
「俺たち、親がちゃんとしてなかった奴らも多いからさ。そっちのアルマは、母ちゃんがヒモに散々食い潰されてさ。借金つくって花街に売られる途中で、ほうりつってやつ?王様が、花街で子供が働いたらダメ、って決めたんで、まわりまわって孤児院に来たんだ。運がよかったよナ。まあ子供売るの元々ダメなんだけどさ、やる奴はやるからさ。」
だからアルマは、男がヒモか、ヒモじゃないかは、必ず確かめるんだよね。他の奴らも似たかんじだよ。そりゃ気にする、ってなるだろ。女たちがツッコむのは、ゆるしてやってくれよな。
サラリと。
マージ王弟の手を握って、腰辺りに頭がある少女アルマ。ふわふわの細い日向の藁茶色髪が、まろい眉が、何て事もない顔をしてジャム入りのマシュマロを食べ、ん?と見上げて、うんうん。
「ヒモじゃない、だいじだよ。たつきとーさもヒモじゃない。マージでんかもヒモじゃない。ヒモじゃないって、カッコいい!」
ニパッと笑う。マシュマロの粉が、柔らかいチェリーピンクの唇に、こなこな散って、白い粒々の歯が朗らかである。
それは大分、基準が低くないかい?
竜樹とーさが聞いたら、ニコッと笑って、黙って内心そう思うだろう。
マージ王弟は、キュ、と苦しい顔をした。
「かわいそうみたいに思わなくていいんだぜー。」
ジェム、今度は植物の茎ストローの中に詰められたゼリーを咥えて。柑橘ちゅるるん。甘酸っぱい!って目をキュむ!
隣のかりんとうまんじゅうを食べようか、それとも葉っぱ小袋の芋スナック菓子を食べようか、指であちこちしつつ。
「俺たちみたいな奴ら、いっぱいいるだろ。でも、俺らは、竜樹とーさが、いてくれるからさ。全然かわいそーじゃねーの。街で家がなかった時みたいじゃねーし、朝も昼もよるも食べられるし。このまま大丈夫になる。ちゃんとした大人になれんだぜ!」
へへっ、と見上げてニコリ。
「あっ、ラクガキのせんべい!お祭りで食べて美味しかったやつ!マージでんかも食べようぜ!えんりょすんなよ!」
ほら!こいこい、として少年は軽く羽持ち、跳んで走ってゆく。
子供たち。
こんな小さな、光の匂いの子供たちが、皆。
「色々な、方法が、ある……。」
結婚していなくても。
血の繋がった子供を、もたなくても。
竜樹は、竜樹とーさ。お父さん。
頼り甲斐があって、安心感のある、ちゃんとした大人。
(カッコいい、ってなんなんだ。)
マージ王弟は見た目が良い。女性にはモテる。女性で苦労した事がないか、と言われれば、逆の意味で苦労の連続ではあった。面の皮一枚で。いや。骨格とかもあるか。醸し出す雰囲気が、全体のバランスが、キラキラとここだ!って所にはまっている。
竜樹は見た目は地味である。カッコいいとは、お世辞にも言えないだろう。嫌悪感は全くない見た目で、人は良さそうだけれど、パンッと張る圧力のような魅力は、ない。父親の威厳的なものすら、ない。
でも子供たちは、シィ〜っとされて、クスクスしながら、当たり前のように指示に従っていた。それも楽しそうに。
『マージ殿下は格好いいわね。』
いつかも、そう言われた。
『だから、みっともない所を見せたくないのかもしれないわ。意地を張っちゃうのかも。』
そう言って、いつも、彼女は。
マージがどんなに心配しても、休んではくれなかった。
『もう少し、もう少しやったら終わるから。』
『キリが良い所まで、やっちゃうわ。』
だったらカッコ良くなくてもよかった。
カッコ悪かったら、エマ王妃様も。
でも、ヒモじゃないのはカッコいい。少女アルマにカッコ悪いとは、思われたくない。
「貴女は、アジェンダ兄様が休憩しなさいと言えば、必ず休んだのに………。」
呟く。モヤモヤの気持ちに、顔がまた、段々と俯いてくる。わあわあと子供たちの賑やかさに、紛れて消えていくポツンと落ちる声。
歯型のついたラクガキせんべいを持ったジェムが、おーい、美味しいよ!とせんべいでコイコイする。
パッと目線をそちらに、躊躇い、だけど。
マージ王弟は、一歩、タッ。
踏み出す、片腕に少女たち。お菓子とおはじき。
少年の手招きに、少し難しい顔をして。




