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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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閑話 王族対抗歌合戦 36 夢をあたためて


「お人形遊びってね。」


竜樹が、魔道具バッグから、ザラザラと他の少女人形や、その着せ替え服の試作や、アーちゃん人形の別バージョン、数は少ないが、少女人形の本当に造られたイケジジお父さん人形や素敵お母さん人形をローテーブルの上に出した。

今度の声はアーちゃんを持ちながらも、普通の竜樹の声である。


「心の中の、定まっていなかった愚痴やモヤモヤの気持ちを、形にして言いやすいばかりじゃないの。夢、なんだよね。」


「夢?」

ラベイユ王弟妃が、アーちゃんに渡されたガーゼハンカチで、目尻を拭きながら。片手はニコッと微笑の亜麻色髪少女人形から、離れず。


フードゥル王族勢は、ローテーブルの上の人形と着せ替え服たちを、おぉ、と覗き込んで珍しそうに見た。

これだけの着せ替え服がたんまりあるのも、なかなかない事であるし。男性陣は、着せ替え人形そのものを、自らの幼少期に、手にしていない。

マージ王弟だけは、ムッツリ黙り込んでいたけれど。


とても精巧で、だけど子供が遊べるほどの、触って壊してしまわないかと危惧しないしっかりさ。細かいだけではなく、子供の指に合わせた、着脱しやすい商品に落とし込むための簡略化。

華々しい、ぱっと色が視界に跳ねる。その存在が。

遊んでよ、遊んで!

と、いかにも子供を呼んでいる。

明るい波長を発している。


リボン。レース。フリル。

シンプルでエレガントなシャツ。

タイトなスカート。ワンピース。

女性冒険者らしい革製上着。

小物は眼鏡に靴、ブーツ、ミュール。簪含めた髪飾り。ストッキング、ネックレス、帽子にマフ。マフラー、バッグにイヤリング。

小物たちは小さな部品なので、幼い子が誤飲してしまわないように、わざと無害の苦い味がつけてある。


エクレも、シエルも。ラベイユ王弟妃も。そしてリアン王太子妃も、授乳しながら、うずっ、と少女心が疼くのが分かった。



「子どもたちはこれで遊びながら、夢をみる。お姉さんになった時、何をするかしら?家族がいて、こんな風で、学園に通う?お勉強に図書館に行って、その時の服はこんな組み合わせで、お姫様になって舞踏会へ行って、ドレスで着飾って、お仕事をバリバリするカッコいい女性になって、その時は女性ながら、男性が履くものだけれどお洒落も忘れない素敵なパンツスーツを着たりして。ラベイユ王弟妃殿下、エクレ王女殿下、シエル王女殿下、お人形で遊んでもいいですよ。着せ替えは沢山試作があるからね。どんな状況で、どんな服で組み合わせでも、ダメなんて事はない。だって遊びなんだから。幾つでも夢をみていい。物語をつくっていい。」


少女たちは、そうして幾つも夢を描く中で。自分はどんな女性になっていきたいのかを、その芽を、あたためてゆく。


ラベイユ王弟妃が、自分の片手の少女人形を、優しく撫でる。優しく、優しく、息を吸って、そっと大事に。


竜樹が、アーちゃん人形をコトッと置いて。前のめりに背中を曲げて、腰を引き、深く座って革張りソファに、ふすー、と落ち着いて。ぎゅむむ、と巻角牛皮の軋む音がする。


「喉が渇きました〜。お茶もらってもいいですか?お茶飲みながら、遊びながら、すっ飛ばしたご挨拶、しましょうか。遅れちゃったけど。皆さん、はじめましてとこんにちは、ギフトの畠中竜樹と申します。」

ハハハ、と頭をポリポリするのだった。

後ろに付いたお助け侍従タカラと、護衛で付いてきたパシフィスト王弟マルサも、ムヒ、と笑う。竜樹のペースには、もう慣れたゼ、ってなもんである。


リアン王太子妃が、わたわたしながら、大丈夫かキャイっと身を揉んでいたミルク菓子を用意させ、お茶もそそそと侍女たちが淹れる。

その間に、もうなし崩しに、座ったまま、フードゥルのアジェンダ王様から。

「お会いするのは初めてですなあ。ギフトの竜樹殿、それから、パシフィストのマルサ王弟殿下、良く来て下さいました。フードゥル王アジェンダ、ご来訪を喜ばしく待っておりました。マルサ王弟殿下、護衛でいらしたとはいえ、一歩下がる事もありますまい。そんな風に後ろに立たず、竜樹殿の隣に、どうかゆっくり座られて下さい。」


ようやく本来のご挨拶である。

「ありがとう存じます。パシフィストの王弟、マルサと申します。護衛ならばお言葉があっても後ろに立つべきでしょうが、フードゥルの王族の方々がいらっしゃって専属の護りがある万全のお部屋で、何がある事もないでしょう。甘えさせていただき、近しく座らせていただきます。」

胸に手を当て、示された場所に、サッと座るマルサ王弟である。フードゥル国を信頼した、という形である。とはいえ、部屋の外にパシフィストの護衛も他にいるけどね。


「マルサって、丁寧に喋れたんだねえ。ッイテ!」

ペチ、と背中を叩かれても別に痛くないけど、痛いってつい言っちゃう竜樹である。

「そりゃ言えるだろ。俺、一応王族だぜ?カカカカ!」


「マルサ王弟殿下は、竜樹様と仲良しなのですわねえ。我が君、カルネ様、パシフィストでは皆さん、こんな風に親しくしてらっしゃるの?我が君も?」

リアン王太子妃が授乳を終えて、授乳ケープを外す。肩に吐き戻し予防のガーゼを置いて、縦に抱いて小ちゃなお背中トントン、なかなかケプリしないので、寝かせてしまって赤ちゃんがお乳を吐かないように、しばらく抱いているお母さんは大変である。


「ああ。パシフィストでは懇意にして下さって嬉しく思っています。竜樹様、マルサ王弟殿下、ようこそフードゥルへいらっしゃいました。どうぞ寛いで。我が妻、リアンを紹介しますよ。彼女は知的好奇心が旺盛で、竜樹様たちのお話を、いつも目を輝かせて聞いていますよ。」

「リアン・フードゥルと申します。お目もじ叶い、嬉しく思いますわ。」


「リアン王太子妃殿下、お噂はかねがね!カルネ殿下が、本当に、愛しそうにお話されるからね。勉強熱心で、前に出て後ろに下がり、背中を押して、本当に心を砕いて隣に立ってくれるのだって。素敵な奥さんだなぁ、とお会いするのを楽しみにしていました!」

竜樹が出されたお茶を、ありがとう、とペコリ侍女にお辞儀して。


「まあ、我が君が。そんなことを。ウフフ、嬉しく思いますわ。」

コハクちゃんを頬ずりしながら、ニッコリ、頬を染める。ケプリ、が出て、アハ、フフフ、と和やかな室内である。


「エクレとシエルの面倒も見て下さって、2人とも成長著しく、大人の女性になろうとしているなぁと感慨深く思っております。誠に有り難く、竜樹様、大変でしたでしょう。」

アジェンダ王が、父の眼差しで、ハハハ、と笑う。

そこで、エクレとシエルが、ムニーと思いながらも苦言を呈さないほどには、彼女たちも大人になったのである。


そう、面倒はかけている。

平民の扱いで、とされたって、やっぱり王女の2人。何かあれば国同士で揉める。その時は、パシフィスト王ハルサ陛下と竜樹が責任をとるのだな、というのは彼女たちにも分かってきているのだ。

その上で、王女のままではできない体験をさせてくれているのだ。

シエルだって、たまにムカつくけど、竜樹には頭が上がらないとこがある。


笑い声が、ふ、と途切れて視線が、ふー。無言の石像のようになっている、マージに流れる。


「………マージ・フードゥルと申します。王弟であります。先ほどは、失礼、いたし、ました。」

胸に手、目礼をして。マージ王弟も本当のアホではなかったようである。ちゃんとする時は、ちゃんとする。何で、しょんぼりしているのだろう。


「いやいやマージ王弟殿下、いきなり大人の人に、あーしろこーしろ、なんて、こちらこそ失礼でしたね。ごめんなさい。目の前で女性に、そういった事情で倒れられたら、うん、それは、傷が残りますよね。周りのご家族だってね。」


「…………。」


お口がへの字になっている。

竜樹に大人になられて、謝られても、いやいやそんな事はハッハッハ、なんて笑えないくらいには、きっとマージ王弟殿下の心の中は、生々しく痛むのだろう。時がたっても、過去じゃないのだ。


「本当はね。」

竜樹がニコニコショボショボ続ける。


「おせっかいついでに、こんな事を言おうと思っていたんです。マージ王弟殿下が、とっても、その……。自分の血が繋がった子供をもつのに、抵抗感があるなら。夫婦で話し合う事ですし、他人が何を言うでもないけど、ラベイユ王弟妃殿下が選べる方法は、色々あるよって。」


「やめて。やめてくれ。」

くしゃ、と見目麗しい顔を歪ませて、耳を押さえる。マージ王弟は、壊れそうに息を浅くして。けれど。


「どんな方法ですか、竜樹様。あ、あ、ご挨拶でしたわね。私、おっしゃられるように、ラベイユです。マージ様の妻でございます。」

胸に少女人形を抱きしめたラベイユ王弟妃は、夫に向けて心配そうな顔をしながらも、目を見張って、問うた。


「よろしくです、ラベイユ王弟妃殿下。うん、女性の方が覚悟がキマってたりするんですよねえ。マージ王弟殿下、怖くないですよ。その方法をここで話したとしたって、夫婦で半分こに、どうしようか、って、ゆっくり話し合えばいいだけのことだから。マージ王弟殿下だけの気持ちで決めるんじゃない。だけど、ラベイユ王弟妃殿下だけの気持ちでも、決められない。夫婦って、子供の事って、そうじゃなけりゃでしょう。」


ラベイユ王弟妃、妻だけが子供を欲しくて無理して産んだとして。

育てる時に、父親のマージ王弟が、その責任を半分こしてくれなければ、それでいて側にいるのなら、あまり子供には良い影響がないだろう。


「無理して子供をつくりなさい、なんて、俺、言いませんよ。」


「あら、そうなの?竜樹様。ちょっと残念、とか言ったりして。オホホ、いえいえ、私は黙っていますわ。」

コハクちゃんとオニキス君を、運ばれてきたベビーベットに寝かせて。リアン王太子妃は、ムヒ、と突っ込んで引いた。


「ふふふ、赤ちゃんをもつ、宝物のような幸せを知ったリアン王太子妃殿下ならば、きっと焦ったいでしょうよね。出産の痛みは、乗り越えられると知っているのだから。でも、3、2、1で飛ぶのは、当人たちですから、やる気があって覚悟がキマってないと、飛べる高さも飛べなかったりしますし。」


うんうん。

「そう、そうか、そうよねえ。」

飛んだ経験は、リアン王太子妃にもある。カルネ王太子の結婚の申し込みを、腹に力を込めて受けた時だ。えいっ、と助走をつけて、覚悟を決めて、飛び込まなければならなかった。


「あのね、俺のいた世界でも、子供が欲しくない人は割といました。」


理由はそれぞれ。

子供時代に親が尊敬できなくて、大人になっても自分が親になる未来像が全然できなかったりだとか。

竜樹が以前に読んだ本は、著名人が、小学校に課外授業に行く内容のもの。


「その人は、子供を持つ、って実感、父親になってちゃんと育てて、っていう未来像が描けなかったと言っています。だけど、子供たちの学舎に、自分なりに大人として、何かを伝えに行っているんだよね。人って、食う寝るだけで何もせずには生きていけない、難儀な生き物なんです。何もしない、って、一種の拷問なんですよ。」


拷問。

ビクリ、とマージ王弟が肩を揺らして、ハラハラ妻を見る。

そんなつもりはなかったのだろう。

だけれど、その生活が辛くなければ、ラベイユ王弟妃が今、こんな、竜樹の言葉を聞き逃すまいと張り詰めた顔を、しているはずがないのだ。


「一つ、そんな風に、自分たちの血が繋がっていない、大人の手が必要な子たちに、できる事をすること。俺みたいに、孤児院とか繋がっても良いし、子供を養子にしてもいい。」

竜樹がミルク菓子を一個、摘んで皿の中で隔離した。


「一つ、直接子供に接するのでなくても、着せ替え人形のように、子供のためにできる事を、2人で協力してすること。マージ王弟殿下、お召し物、素敵でカッコいいですからねえ。センスもそれなりにお有りだろうし、お国に広めるためのご商売のアドバイスも、良くできるのでは?あれダメこれダメじゃなくて、これを2人で実現するにはどうしたら?って思ってくれたら、嬉しいですけど。」

ミルク菓子がもう一つ、横に並ぶ。


「それでも、どうしても血の繋がった子供が欲しいとラベイユ王弟妃殿下が思うなら。マージ王弟殿下がその気になるように、子供たちと触れ合ってみるとか、妊婦さんやお母さんたちと話をしてみるとか。女性の出産も仕事するパワーも、人それぞれに違うんだから、現実の女性について、色々なご夫婦に話を聞いてみるとか。フードゥルだけじゃなく、他のお国でもね。2人で、まずは、ちょっとずつ、やってみられては?」

もう一つ、ミルク菓子を並べて。


「それでどうしても2人の話し合いが上手くいかなければ、未来のために離婚も選択肢の一つとして、考えたって良いし。まあそのために、着せ替え事業でお金を稼いで、ラベイユ王弟妃殿下は次に行ける余裕をつくることもありかな〜、って。」

3つをヒョイパクっと食べた。

もぐもごしゃり、さらり。


「ん、これおいし〜ですね。」


その後、竜樹は、お人形遊びするリアン王太子妃とエクレとシエルと、遊びながらボーッと考え込んだラベイユ王弟妃殿下を自由にさせておいて。

サラッと魔道具タブレットで、王族対抗歌合戦の候補曲リストを流して聞かせて、ふんふん、ふ〜ん♪

鼻歌うたって、まだ曲が決まってないけれど、決めておいてください!なんて、じゃあねーと手を振って。


しょんぼり項垂れるマージ王弟の手を引いて。何故かパシフィストの新聞寮に、連れ帰って。




「あんまり竜樹様と、お話できませんでしたけど、何だかこれからの希望とワクワクで、胸がいっぱいよ。」

うっとりするリアン王太子妃を、フードゥルに残して。







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― 新着の感想 ―
マルサも一緒だった!竜樹の海外出張について行けてよかったです。クマの郷の時は3王子と一緒だったから王族過多でお留守番でしたからね。 マージ王弟殿下には、亡くなった義姉の王妃の事がよっぽど心に深い傷と…
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