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この力は誰の為に  作者: 榎木ユウ
番外編
44/44

恋メール

実験的話です。あくまでもオマケ。

甘いです。

差出人:夏生君

件名:パネェ(゜Д゜)

20**.04.12 18:55

ちょ。訓練、想像以上に半端ない(*´Д`*)


─────────


差出人:ちとせ

件名:お疲れ様です

20**.04.12 20:38

ゆっくり休んでください


─────────


差出人:夏生君

件名:俺、細マッチョ!(添付画像有)

20**.05.22 20:55

風呂上がりの俺、格好よくない?

あ、写真撮ってくれたのは同期の奴だから安心して。ちとせに会う頃には、俺、腹筋割れてるかも。o(*^▽^*)o


─────────


差出人:ちとせ

件名:別にどうでもいいんだけど

20**.05.22 23:12

今日は飲み会でした。サチさんに夏生君の写真見られた。最悪。もう、ああいう写真、送らないで!


─────────


差出人:夏生君

件名:昨日、夜中に電話くれた?

20**.06.08 06:15

本文なし


─────────


差出人:ちとせ

件名:間違えて押しただけ。

20**.06.08 06:55

夜中にごめん。気にしないで。


─────────


差出人:夏生君

件名:お盆もちょっと無理かも

20**.07.31 21:50

会えないからって浮気すんなよ。
















ちとせ、好きだ


─────────


差出人:ちとせ

件名:無題

20**.08.01 05:30

おはよう。今日も頑張って。


─────────


差出人:夏生君

件名:残暑、きつい(添付画像有)

20**.09.05 21:05

すげー真っ黒になった。ちとせは今、どんな感じ? 何でもいいから写メ送ってよ。


マジで。

お願い。


─────────


差出人:夏生君

件名:Re:写真

20**.09.05 21:50

ちょ、左手だけって……!。゜(゜´Д`゜)゜。


─────────


差出人:ちとせ

件名:Re:今日、残業?

20**.10.28 17:58

違うけど、何かあるの?


─────────


差出人:夏生君

件名:いま

20**.10.28 18:00

ちとせの家の前


─────────


☆☆☆



「何で、いるかなぁ」


 呆れたような、間延びした声が夏生の耳に響いた。ドアの前でうつらうつらしていた夏生は顔をあげて、こちらを困ったような呆れたような、何とも言い難い顔で見下ろすちとせを確認する。

(やっぱ、いいな)

 随分長い間会っていなかった気もするし、ついこの前会った気もする。

 だけど、流れた時間は確かで、夏生は職務という言葉の意味を知り、高校生の頃とは明らかに違った、と自分でも自覚していた。


 それでも、変わらないものが目の前にある。


 立ち上がり尻をほおろぐと、ちとせを見下ろす。高校生の時より随分小さく感じるのは、自分の身体の造りが変わってきたからだろう。


「ムサッ!」

「ちょっ! そこは惚れ直すとこだろ?」

 眉間に皺を寄せるちとせを構わず抱き締めれば、ちとせは「図体ばかりでかくなって」と夏生の胸を押す。

 久しぶりの感触に、夏生はそんなちとせの体を逃さないように強く抱き締めると、

「取りあえず中、入れば?」

と諦め半分にぼやくちとせの声が返ってきた。


「そうしたいのはやまやまなんだけど、もう帰らないと駄目なんだわ」

「は?」

 ちとせが困惑を表情に浮かべる。

「明日から配属先決まって、今日はその準備日。母さんに用意頼んで、こっちに飛んできた。だから、もう帰んないとなんない」

「……そう」

 ちとせが目を伏せる。その顔色に、少しばかり寂しげな色を見つけて、夏生は胸の内ごちる。


(あー、抱きたい)


 その小さな手で自分の頭をかき抱いて欲しい。

 欲求不満は、この半年のハードな寮生活では訓練に昇華されていったが、会えば直ぐに思い出すのだからたまらない。


 耐えきれず、俯くちとせの顎に手を添えて上向かせる。

「夏生くん?」

 戸惑いの色を浮かべた顔を覆うように、自分の顔を重ねる。

 一番先に接触したのは互いの鼻。かするように触れて、それを合図に噛みつくようにちとせの口を塞いだ。


 バンバンと、強く胸を叩かれたが、それは最初だけで、こじ開けた唇の中を舌で這えば、ちとせはこちらを睨みつけるような顔をしてから、首に手を回してきた。


 トン、と背中をドアに押しつけられた。

 ちとせがその小さい体からは想像つかないほどの激しさで、夏生の舌に自分のそれを絡めてくる。


(相変わらずキス、うめぇ)


 16のあの当時、夏生を驚かせたちとせのキスは健在で、いったいどんな男が彼女をこんな化け物に育てたのか嫉妬する。

 30まで童貞だった隼生ではないだろうが、彼はちとせのキスに嫉妬しなかったのだろうか。


 随分長い間、キスをしていた気がしたが、終わってしまえば、あっという間で、夏生は名残惜しくちとせと視線を絡める。

 こちらを見上げるちとせは、自嘲めいた笑みを浮かべると、

「次来たら、夏生君のこと食べるから」

と言った。


「え?」


(今、なんと?)

 唖然としてちとせを見ると、ちとせはふう、と溜め息を吐く。


「消防士さんなら合コンしたらモテモテでしょ? こんなオバサン捕まえないで、早く地元に帰んなさい」

「違う! その前の科白!」


(俺のこと、食べるって言わなかったか?!)


 それは、今のキスを考えればそういう意味で、ゴクリと生唾を飲み込めば、ちとせは冷ややかな目で夏生を見上げる。だけど、その瞳の奥には僅かな、今まで見たことのないちとせの色があった。


「次来たら、食べる」

 何をなんてそんな野暮聞かない。ただ、嬉しくてもう一度顔を近づけたら、顎をグイッとおしやられた。


「の、望むところなんだけど!」

 顎を押されながらもそうわめけば、ちとせはクスリと小さく笑ってから、

「来なくていい」

と冷たく夏生を突き放し、そのままドアの鍵を開ける。そして、夏生の脇をすり抜けて、スルリと部屋の中に入ると、振り返って夏生に言う。


「良かったね、消防士、なれて」

 ふんわりと、嬉しそうに微笑まれて、くそ、と思った。

(そういう笑顔残して、どうやって、余所見しろってのさ)


「必ず、来るから」

「期待してない」

「じゃ、また」

「……ん」


 最後は手を振るだけだったちとせが、断ち切るようにドアを閉める。

 見送ってくれてもいいのに、とも思ったが、見送れなかったのかもしれない。


 夏生はニヤつきそうになる顔を必死に堪えながら、駅へと向かう。


 そして携帯を取り出し、ちとせにメールを打ち始めた。



☆☆☆



─────────


差出人:夏生君

件名:今日、

20**.4.12 05:25

生理?


─────────


差出人:ちとせ

件名:朝一から、何聞いてくんの、変態

20**.4.12 06:00

違うけど、頭大丈夫? 


─────────


差出人:夏生君

件名:良かった

20**.4.12 06:05

確認する前に始発、乗ったから。


─────────



☆☆☆


「ちとせ、ただいま。食べられに来たよ」

以上、番外編でした。

ご覧くださり、ありがとうございました。

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