三十七
「金半両だって?」趙構は布袋から黒っぽい種をひとつかみ取り出した。「種だけでこれほど高価なのに、実がなったら一体いくらで売るんだ? 朕ですら食べられない値段になりそうだな。そなた、朕を騙しているのではあるまいな?」
「臣に皇上を欺く度胸などございません」秦桧は言った。「臣が中国に連れ去られていた頃、幸運にも一度だけ寒瓜を食べたことがございます」
「どうだった?」
「蹴鞠の球ほどもある大きさで、緑の皮に黒い縞模様。果肉は真っ赤で、汁がたっぷり、甘いのにくどくない。その味は……蜂蜜ではないのに、蜂蜜よりも甘い」
「秦宰相、そなたのせいで朕の食い意地に火がついたぞ」
趙構は満面の笑みを浮かべ、内侍の黄彦杰に命じた。
「この寒瓜の種を朕の御花園に植えよ」
寒瓜の種は張通古の使節団が趙構に贈ったものだった。礼には礼を、というわけで、趙構もすでに王倫を使者として遣わし、茶葉や絹織物、日持ちのする江南の名産菓子を一車に積み込んで、中国へ赴かせていた。
「今は値段が天井知らずに高くても、最初の寒瓜の種を積んだ商船が海外から戻ってくれば、儲かると知った農民たちが競って栽培するでしょう。そうなれば市場に物があふれ、瓜の値段も下がる。そうなったら皇上はまた、こんなものはありふれた品で、皇上の万金の御身にはふさわしくない、とお嫌いになるでしょうな」
「秦相よ、少々大げさではないか。朕のどこが『万金の御身』だ? 朕もただの普通の人間、たまたま皇帝になっただけだ。それより、そなたは中国で寒瓜を食べたと言ったな。中国の寒瓜は、どこから来たのだ?」
秦桧は身をかがめ、卓上の『大宋海図』に顔を近づけた。人差し指が地図の上を滑り、「大食国」「東大食海」「天竺」「三仏斉」と順にたどり、最後に「福州」の上で止まった。
「大食国が寒瓜の原産地です。大宋も中国も、寒瓜は大食から運んでおります。中国の寒瓜は張騫の古道を通って伝わり、我が国のものはこの海上航路を通って伝わったのです」
「寒瓜が西から来たのなら、いっそ『西瓜』と呼べばよい」趙構は言った。「古には張騫が命懸けで砂漠を越え、今は秦桧が政務に励んで海のシルクロードを切り開いている。そなたのような有能な者が、朕のそばにあと何人かいてくれれば、大宋の中興など何を恐れることがあろう?」
宮門を出ると、秦桧が言った。
「小宝、どうも最近のお前は上の空だな。さっき官家がお前に話しかけたときも、危うく返事ができないところだったぞ」
韋小宝は口を開きかけて、また閉じた。
本当なら胸の内をすべて打ち明けたかった。韓世忠が張通古を待ち伏せするために刺客を送り込んだこと。そして、張通古が無事に帰国できるかどうか、まだ分からないことを。
だが、ふと顔を上げた韋小宝の目に、秦桧の濃い隈と蝋のように黄色い顔、そして頭頂に新しく生えた一本の白髪が映った。
韋小宝は、口元まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
このところ秦桧は福州、泉州、広州を何度も往復し、商船を海に出す準備で目が回るほど忙しくしていた。そんな秦桧に、韓世忠が新たに作ったこの厄介事まで処理する余力があるのだろうか?
そもそも、どんな手を打って挽回できる?
たとえ皇帝の趙構であっても、何をどう補えるというのか?
韓世忠の秘密は、いつしか韋小宝自身の秘密にもなった。
その秘密は胸に乗った巨石のように重く、韋小宝は茶も喉を通らず、飯もろくに食えなかった。
ちょうど岳飛が廬山で休暇を取っていたので、韋小宝は廬山まで駆けつけ、幼馴染に胸の内をぶちまけた。
「……韓世忠の野郎、胆が大きすぎる。和平をぶち壊そうとしてやがる」
岳飛は護衛に命じた。
「郝卞を呼べ」
ほどなくして、士官姿の若い男が現れた。
岳飛が言った。
「もう一度、韓世忠の陰謀を詳しく話してみろ」
郝卞は一部始終を詳しく説明した。
彼は十九歳で韓家軍に入り、雑役兵から昭武副尉にまで昇った。韓世忠から密かに命じられ、中国使節団を待ち伏せするため、兵を率いて「紅軍」に偽装することになった。
だが、事があまりにも重大で、聖意にも背くと判断した郝卞は、作戦を取り消し、淮東転運副使の胡昉にも密かに知らせた。
韓世忠に口封じされることを恐れ、岳飛のもとに身を寄せたのだという。
「張通古はどうなった?」韋小宝が尋ねた。
「張通古は無事、中国へ戻りました」
郝卞は言った。
「それが妙な話でして。私が胡昉に密告する前から、張通古はどうやら何かを察していたらしく、突然帰国の道筋を変え、洪沢を通らなかったそうです」
韋小宝は安堵すると同時に、どこか物足りなさも感じた。
安堵したのは、自分だけが真相を知る者ではなかったからだ。歴史の流れを自分一人が左右しているわけではない。
そして、物足りなかったのもまた、歴史の流れを自分一人が左右しているわけではないからだった。
郝卞は辞去した。
韋小宝は言った。
「郝卞は韓世忠の人間だ――厳密に言えば、韓家軍の裏切り者だ。彼を匿うこと自体は大宋の軍法には触れないが、将軍同士の暗黙のルールを破ることになる」
岳飛は言った。
「もし官家が、韓世忠が中国の使節団を暗殺しようとしたと知ったら、あいつの皮を一枚剥ぐどころか、殺すことだってあり得る。郝卞は、韓世忠が詔に背いたことを証明する生きた証拠だ。郝卞を手元に置くということは、韓世忠の睾丸を握っているのと同じだ。
それに、韓世忠が俺の岳家軍に間者を送り込んで、俺を監視し、一挙一動を探り、必要とあれば俺を密告させていないとでも思うのか? 俺は信じないね」
岳飛は韓世忠と張俊を山へ招き、ちょっとした宴を開くことにした。二人を廬山の景勝地や、牯嶺東谷に新築した自分の別荘へ案内するためである。
韓世忠は岳飛に尋ねた。
「休暇も終わったんだろう? 鄂州へ戻るべきじゃないのか? いつまでも廬山にいて何をしてる?」
岳飛は答えた。
「母の墓を村のならず者に掘り返されたんだ。祠堂も享殿も叩き壊された。だから墓を建て直している」
張俊が言った。
「身の程知らずの山猿め。岳将軍の祠堂まで壊すとはな。何人か捕らえて、見せしめに殺してやればいいんじゃないか?」
「墓の修復が終われば、俺も鄂州へ戻るつもりだ――いや、鄂州じゃないかもしれん。官家が俺に別の役目を用意しているかもしれないからな。へへへ」
張俊が言った。
「何人か官兵を残して、交代でお母上の墓を守らせればいい」
韓世忠はため息をついた。
「俺たち武将はもともと一段低く見られている。そのうえ宋と中国が和平を結んだら、俺たちの地位はますます下がる。日に日に肩身が狭くなる一方だ。見てみろ、村の百姓までお前を侮辱するようになった。これから先は、もっと苦労することになるぞ」
「そうだな。官家は和平など結ぶべきじゃなかった」張俊が言った。「戦い続けて何が悪い? 中国軍が強いのは強い。だが、いくら何でも人数が少なすぎる。完顔姓の連中が俺たち全員を滅ぼせるとでもいうのか? 俺は信じないね。そのときは、俺はこの雲霧たなびく廬山にでも隠れて……」
「これからは戦もなくなるってわけだ……」韓世忠が言った。
韓世忠が話している間、岳飛と張俊が互いに目配せした。
その一瞬を偶然見てしまった韋小宝は、胸騒ぎを覚えた。
――張俊も、韓世忠が中国使節団を襲撃しようとしたことを知っているのではないか?
ひょっとすると、暗殺計画の黒幕は韓世忠一人ではないのでは?
四人は峡谷を歩き、崖の上にある洞窟まで登った。
岳飛が洞窟の壁を指して言った。
「天地に霊あり、仏手の痕を残す」
洞窟の奥から、誰かの話し声が聞こえてきた。
張俊は声を頼りに洞窟の中へ入っていった。
「おおっ!」張俊が叫んだ。「洞天福地だ! 真人が道を説いているぞ! 早く来い!」
三人も暗い石洞へ入った。
そこにいた「真人」とは、石板の上で胡坐をかいている中年男にすぎなかった。
髪はぼさぼさ、顔は垢だらけで、乞食のような姿。身には青い道袍をまとっているが、茶色い継ぎはぎだらけで、丈が足りず、袍に開いた無数の穴を隠しきれていない。
そして「道を説いている」といっても、七、八人の半ば子供のような童たちを前に、短い言葉をぶつぶつと呟いているだけだった。
「チャキッ――」
韓世忠は腰の刀を抜き、怒鳴った。
「どこの小僧だ! とっとと出ていけ!」
数人の子供たちは怯えた顔で洞窟の外へ逃げていった。
ただ一人、髷を結った少年だけが残った。
少年は刀を抜いた韓世忠など眼中にないかのように、乞食姿の男へ尋ねた。
「道長様、私はまだ、道長様が金人と法術で戦ったお話を聞きたいです」
少年の発音は明瞭で、官話も見事なほど標準的だった。
乞食姿の男は目を伏せ、地面を見つめながらぼそぼそと呟いている。時折、突然声を大きくし、いくつかの言葉を引き伸ばすが、すぐにまた声を落とす。
韋小宝には何を言っているのかさっぱり分からず、振り返ってあたりを見回した。
だが、彼以外の四人は皆、耳を澄ませて真剣に聞き入っていた。
「お前も秦州成紀の出身か? どうして成紀方言を話せる?」
張俊が乞食姿の男に尋ねた。
返事を待つことなく、張俊は韓世忠に言った。
「この老道、なかなかのものだ。靖康の大乱の内幕を実によく知っている」
少年が言った。
「道長様、私も仙人になりたい。法術を学びたい。入道の法門を教えてください」
乞食姿の男は再びぶつぶつと呟き始めた。
しばらく聞いてから、韓世忠が言った。
「この牛鼻子の老道、呪文を唱えてやがるな!」
そして少年を足で蹴り飛ばした。
「俺には持病があってな。誰かが呪文を唱えているのを聞くと、頭痛が始まるんだ――こういう怪力乱神の話が一番嫌いなんだよ」
さらにもう一度足を上げ、乞食姿の男まで石板から蹴り落とした。
少年は乞食姿の男を支えながら洞窟の外へ出ていった。
すると乞食姿の男が口を開いた。
今度の声は明瞭だった。
中原の正音である。
「陸游、弟子よ。しっかり法術を学び、仙道を修めるのだ。大きくなったら中国人を打ち、北へ中原を定め直すのだ……臆病に縮こまる亀のような腰抜けどもを真似してはいかんぞ……」
韋小宝は二人を追いかけ、少年に尋ねた。
「お、お前……陸游っていうのか?」
少年は頷いた。
洞窟の外の陽光が、乞食姿の男の顎に生えた白髪交じりの髭を照らしていた。
韋小宝は目を凝らし、その黒ずんだ顔をじっと見つめた。
「俺……どこかでお前を見たことがないか?」
乞食姿の男は何も答えず、少年を連れて少しずつ遠ざかっていった。
「韓将軍、どうして子供まで殴るんだ?」韋小宝が言った。「子供の頃の経験は、一生その人間に影響するんだぞ。あの少年に恨まれて、将来出世したら、詩を書いてお前を罵り、悪評を広められるかもしれないとは思わないのか?」
「仙人修行に夢中になるようなガキが、大人になって何の役に立つ? 一生が潰れたようなものだ」韓世忠は鼻で笑った。「俺は人を見る目があるんだ」
「しかし、あの道士……どこかで見たことがあるんだよな……」
韋小宝は、遠ざかっていく一老一少、一高一低の背中を眺めながら独り言を呟いた。
「そうだ……あいつだ……姚希晏だ」
韓世忠と張俊の二人が言い争いを始めた。
「道君皇帝だって仙道を修めていた。あの方も出世の見込みがなかったというのか?」張俊が言った。
「皇上は例外だ! 普通の人間で、仙人修行や丹薬作りに夢中になる奴は、間違いなくろくでなしだ!」韓世忠が言った。
「韓相公、その発言は、先皇が無能だったと当てこすっているようにも聞こえますが」
「だったら官家のところへ行って、俺を告発すればいい」
「俺が怖くてできないと思うなよ」
「行けよ。行かないなら俺の息子だ」
岳母の墓地の修復工事は急速に進んだ。
修復された墓は、表面を白玉石で覆うことをやめ、一枚一文の香糕煉瓦を敷き詰める形に改められた。
墓地の脇には衛兵の兵舎も建てられた。二十人の岳家軍が三交代で昼夜を問わず墓地、祠堂、儀門、凉亭、享殿、石像生、そして山の斜面の半分にまで広がる珍しい樹木や花々を守り、破壊しに来る村人たちを近づけないようにした。
修復されたばかりの岳母の墓を見終えると、韓世忠、張俊と彼らが連れてきた護衛たちは、それぞれ山を下りていった。
韓世忠は淮東鎮江府へ、張俊は淮西合肥へ。
韋小宝は一人、一頭の馬に乗って建康へ戻る。
そして、つい先日朝廷から河南路招討使に任じられた岳飛は、河南へ赴任することになっていた。
廬山を下りてみなければ分からない。
山を下りた途端、江南の酷暑の恐ろしさを身をもって思い知らされた。
六月半ばの江州の大地では、万物が烈日の下で焼かれ、生命の気配すら失っている。
韋小宝は、岳飛の山腹の別荘――室内にひんやりとした涼気が満ちたあの家を、心の底から恋しく思った。
建康へ戻るとすぐ、韋小宝は城内の空気がおかしいことに気づいた。
秦桧に尋ねる。
「何かあったのか?」
「噂では、大宋が中国へ派遣した使者の王倫が捕らえられ、定州中山府に拘禁されたらしい」秦桧が言った。「中国の宰相、完顔宗磐と左副元帥の完顔昌もまた、投獄されたそうだ」
韋小宝は眉をひそめた。
「こりゃ、まずいな……中国はいったい何をするつもりだ?」
「しばらく様子を見よう。事態がどう動くかをな」
七月五日。
趙構と臣下たちは、中国の都元帥完顔宗弼が十万の兵を率いて、陝西・河南へ進軍したとの知らせを受け取った。




