三十三
すでに真夏だというのに、朝の霧がたなびく川面から立ち上る冷気に、韋小宝は二度続けて身震いした。
方卓のそばでは、同じ身なり――淡い褐色の袍衫を着て、烏角巾をかぶった――王彦とその副官が、腕を上げたり下ろしたりしている。後ろから見ると、まるで二人の儒生が向かい合って碁でも打っているようだった。
韋小宝が甲板へ上がってみて初めて気づいた。二人は碁を打っていたのではなく、酒肴をつまみながら杯を交わしていたのだ。
白い横帆が帆柱のそばに張られ、船首は波を切り裂き、船尾には航跡が長く伸びている。
王彦が言うには、この全長六丈、幅三丈の海船は福建路の造船所でなければ造れないため、「福建船」と呼ばれているらしい。趙構が王彦に下した手札にも、この船に乗って行在建康へ赴くことを許す、と明記されていた。
「朝に白帝を辞して彩雲の間、千里の江陵も一日にして還る――いやあ、この船は本当に速いな。官家専用の船は、やっぱり違うね」
韋小宝が感嘆すると、王彦は姜鼓を一粒箸でつまみ、口に放り込んだ。
「この船も悪くはないが、一流とはいえんな。俺は『神舟』という大船に乗ったことがある。あれこそ凄かった。船の宮殿だけで三階建ての高さがあったぞ」
「王将軍」
王彦の向かいに座る副官が言った。頬には「赤心報国、誓殺金賊」の八文字が大きく刺青されている。
「今は『神舟』とは呼ばないことになっています」
王彦は箸を止めた。
「なんでだ?」
副官は両手を広げた。
「『神舟』という二文字から、『赤県神州』を連想する人が多いからです。そして『赤県神州』は『中国』の別名で、『中国』はまた『大金』の別名でもある――朝廷ではもう、『神舟』の名前を変えようという話まで出ています」
「馬鹿げた話だ」
王彦は箸を置いた。
「そもそも年号を『建炎』に決めた時だって、『三つの火で大金に勝つ』なんて言っていた。よくそんなことを思いついたもんだ! 名前を変えれば金国を打ち負かせるってのか?」
「『大金』はもう『大金』とは呼ばれていません」
副官が言った。
「今は『中国』と改名しています」
「呼び慣れてるからな」
王彦は呵呵と笑った。
「俺は何十年も中国人と戦ってきた。中国人が強くて戦上手なのは認める。だが正面から勝てなくても、奇襲ならいいだろう? 俺の八字軍の奇襲で死んだ中国人は、少なくとも数百人はいるんじゃないか?」
「王将軍は一生を軍馬の上で過ごされ、まさに我々の鑑です」
副官が杯を捧げた。
王彦は自分の杯になみなみと米酒を注いだ。
「では王某から一杯いただこう」
「王相公、ずっと酒を飲み続けていますが、昔の病気がぶり返さないよう気をつけてください」
韋小宝が言った。
「文官になったら、毎日じっと座って文書を読むんでしょう。もっと気をつけないと」
「俺もこの歳だ。もう官職に就くほどの体力はない」
王彦は言った。
「官家に出した引退願いを、官家が読んだかどうかも分からん。とにかく、殺されても二度と戦場には出ん。せいぜい文官でもやるさ。韋大夫、お前が言うように、毎日じっと座ってな」
「じっと座っていると、どんな病気になるんです?」
副官が尋ねた。
「痔だ。王相公の痔は俺が治した。ずいぶん昔の話だ。今さら言うことでもない」
「韋相公、まさかあなたが刀圭の術まで心得ているとは!」
副官は袍の裾をまくり上げ、日に焼けた尻をむき出しにした。
「実は私も長年、痔に苦しんでおりまして。どうか韋相公の妙手で、私のも治していただけませんか?」
「いやいや――俺は痔を刀で治したりしない」
韋小宝は言った。
「民間療法が一つある。試してみるといい。塩水――できるだけ濃いほうがいい――に痔を浸すんだ。毎日半時ほど、それを十日から半月続ければ、きっとよくなる」
「ぜひ試してみます」
韋小宝は王彦の左肩を軽く叩いた。
「王相公、もうすぐ武昌の船着き場です」
「うむ……」
王彦は口の中のものを噛みながら、顔も上げない。
「建康まではまだ遠いぞ」
「王将軍、しばらくしたら船を岸につけてもらえませんか。古い友人がそこで待っています」
「誰だ?」
王彦が尋ねる。
「あなたの昔の部下、岳飛ですよ」
韋小宝は笑った。
「あなたが船で武昌を通ると聞いて、わざわざ会いたいと言ってきました」
王彦の顔色が突然変わった。
口の中の食べかすを川面へ吐き出し、岸のほうを睨む。
「岳飛もここにいるのか? なぜ早く言わん!――船頭に思い切り漕がせろ。全速前進だ!」
「承知!」
副官は立ち上がると、船首と船尾の間を走り回りながら、しきりに掛け声を飛ばした。
船員たちが帆の向きを変え、二十本余りの長櫂が片舷の櫂孔から水中へ入る。
漕ぎ手たちの「エンヤ、エンヤ」という掛け声に合わせ、船はまるで心を持った戦馬のように力強く進んでいった。正面から吹きつける風も、ますます激しくなっていく。
「王相公、そろそろ船首を向け直さないと」
韋小宝が言った。
「あの馬に乗った人が見えるでしょう? あれが岳飛です。俺にも声をかけてきて、どうしても王相公を岸に上げたいそうです。うまい酒とうまい料理まで用意して待っていますよ」
「誰があいつの酒なんぞ飲むか!」
王彦は船尾の船室の入口まで歩いていき、叫んだ。
「もっと漕げ、もっと漕げ!」
韋小宝が我に返った時には、船はすでに船着き場を通り過ぎ、下流へ進んでいた。
岸では旗が風にはためいている。巨大な門旗には、「岳」の字がぼんやりと見える。船着き場には、黒々とした大群の迎賓兵が並んでいた。
「王相公、岳飛だって好意でやってるんですよ」
韋小宝が言った。
「あなたが彼を見いだしてくれた恩を、忘れていないんです。何度も俺に言っていました。王彦がいなければ、今の岳飛はないって」
王彦は顔を歪めた。まるで全身に激しい痛みが走っているかのようだった。
「俺が岳飛を見いだしただと? ふざけるな! せいぜい、あいつが逃兵になった時に犬一匹分の命を助けてやっただけだ。それのどこが恩だ? 俺があんな奴を見込むものか! この何年か、あいつがどれだけ人倫を踏みにじる真似をしてきたと思う? 俺の名声をどれだけ傷つけたと思う? 俺の八字軍から、あんな恥知らずの卑怯者が出るとはな……ああ、まったく……!」
副官がなだめた。
「王将軍、あんな奴のことで腹を立てるだけ損です。それに、幸いあいつの顔には我々八字軍の軍号を刺青されていない。もし入っていたら、それこそ大恥ですよ」
「俺が情に流され、軍紀が緩いと言われたのも、確かにその通りだ。岳飛が戦場から逃げた時、軍法では斬首だった……もしあの時、俺が厳格に軍法を執行していたら、この畜生のせいで苦しまずに済んだ民がどれだけいたことか!」
船は岸沿いに進み、船着き場にいた人々は、すでに一つ一つの小さな黒点にしか見えなくなっていた。
王彦はなおも岳飛を罵り続けた。副官がさんざんなだめて、ようやく口を閉じさせる。
武昌から建康まで、二日一夜の船旅。
その間、韋小宝は二度と王彦の前で「岳飛」という二文字を口にしなかった。
韋小宝と王彦は宮中へ入り、面聖した。
趙構は一通り型通りの挨拶を交わし、席を与えて茶を賜った。
「王都統制、お前が朕に出した五通もの引退願い、朕には認められん。朝廷は今、人材が足りない。こんな時にどうして引退できよう?――文官への転任なら、これは簡単に手配できる」
趙構は言った。
「それから、お前の八字軍だが、営後護軍に編入し、岳飛の指揮下に置くことにしよう」
王彦が飛び上がった。
「駄目です! 俺の八字軍をあいつに渡すのは駄目だ!――誰に渡してもいい、岳飛だけは駄目です!」
「なぜだ?」
「駄目なものは駄目です。あんな汚らわしいろくでなし、あの下衆野郎、腐った根っこのような奴に……」
王彦は顔を赤くしたり青くしたりしながら、頭を掻きむしる。
趙構のそばに控えていた内侍、黄彦杰に何度も叱りつけられると、ついには自分の頬を何度も張った。
韋小宝は王彦に、何度か深呼吸してみるよう勧めた。
王彦は言われた通りにした。
ようやく息が落ち着くと、王彦は言った。
「岳飛は逃兵です。八字軍なら誰でも知っている。誰もが唾を吐きかけるような奴だ。岳飛には軍心がない。八字軍を統制する資格などない。もし皇上が無理に編入を進めれば、軍が反乱を起こしかねません。その時になって、俺が事前に警告しなかったとは言わせませんぞ」
趙構は黙って考え込んだ。
しばらくして、口を開いた。
「王相公、お前が朝廷に忠義を尽くしていることは、朕もよく分かっている。戦場での経験も豊富だ。ならば荊湖北路へ行き、宣撫司参議を務めるがよい」
「岳飛がいるのも荊湖北路でしょう? 駄目です。臣は一生官職に就かなくてもいい。あんな奴と一緒に仕事をするくらいなら、官など要りません」
王彦は言った。
趙構は眉をひそめた。
「では洪州へ行って観察使を務めるというのはどうだ?」
王彦はその場に跪き、額を床につけて拝礼した。
「御意、承りました」
そう言って退出した。
秦桧が屏風の後ろから姿を現した。
趙構は首を振った。
「この王彦という男、歳はまだ老いたとはいえんのに、頭の固さときたら大したものだ」
秦桧は言った。
「八字軍が岳飛に従わないのであれば、まず王彦に、八字軍が誰を最も尊敬しているか尋ねてみてはいかがでしょう。最も尊敬されている者に軍を預ければ、兵と将が心を一つにし、士気も高まるでしょう」
「朕は、心が一つになりすぎるのが怖いのだ」
趙構は言った。
「外で何を言われているか、お前も聞いているだろう? 『韓家軍』『張家軍』――そうだ、最近では劉光世の勢いも増して、『劉家軍』まで増えた。朕が国庫の銀を使って養っている軍隊が、いつの間にかあいつらの私兵になっている。韓世忠、張俊、劉光世の三人は何年も軍に身を置き、三代の皇帝に仕えてきた。勢力は根を張り、名声は天子を覆いかねん。岳飛は朕が一から引き立てた男だ。それなのに、よりによってあいつが一番役に立たん。配下の兵も将も、誰一人としてあいつに心服していない。腹が立つと思わんか?」
「では、皇上が岳飛を育てているのは、韓、張、劉の三将を牽制させるためですか?」
秦桧が尋ねた。
趙構は答えなかった。
しばらくして、突然、集議の終了を宣言した。
韋小宝は養父の後について、数人の大臣とともに部屋を出ようとした。
その時、趙構が彼を呼び止めた。
部屋に残ったのは韋小宝と趙構だけだった。
普段なら皇帝の影のように付き従っている内侍官たちも、どこへ行ったのか姿がない。
「韋小宝、楊幺が罪に服する前夜、あいつが残した言葉を、一つ残らず朕に話せ」
「それは長い話になりますよ」
韋小宝は言った。
「少し思い出させてください」
「一字も漏らすな」
趙構は言った。
韋小宝が趙構の寝宮を出た時には、すでに日は沈んでいた。
空の彼方には黄と白が入り混じった天の川が浮かび、まるで一筋の煙がそのまま固まったようだった。
秦桧が宮殿の正門の外で韋小宝を待っていた。
「義父さん、どうして建康に来たんです? もう温州知州はやらないんですか?」
「官家に呼ばれた」
秦桧は答えた。
「今は行宮留守だ。建康と臨安を行ったり来たりしている」
「行宮留守は、どの役所の管轄なんです? どんな仕事をするんです?」
「官家が臨時に設けた官職で、まだ担当する役所すらできていない。枢密院と尚書省に籍を置いている」
秦桧は少し間を置いて言った。
「仕事の内容は……国家機密だ。お前にも話せんな」
秦桧は太学府の隣にある、三室二間に小さな庭までついた古い屋敷を借りていた。
王媽媽と、その従姉にあたる李易安も一緒に暮らしている。
韋小宝は土産に薄荷味の緑豆糕を一箱買い、表姨の李易安に贈った。
李易安は韋小宝を褒める打ち込み詩を二首続けて書いた。
韋小宝は、ついでに幼馴染の岳鵬挙にも一首作ってくれないかと頼んだ。
「岳鵬挙を持ち上げる詩を書けって? 小宝、お前までこんな追従をするのかい?」
「姨媽、誤解しないでください。岳飛が大官になれたのも、俺、韋小宝の苦労があったからこそですよ。むしろあいつが俺にへつらうべきなんです」
「口ばかり達者で、なるほど『小宝』という名がぴったりだ」
李易安はそう言いながら、手でぱたぱたと風を送った。
机の上の宣紙がふわりと舞い落ちる。
韋小宝は姨媽の口元へ緑豆糕を一切れ運んで食べさせた。
李易安はたちまち機嫌を直した。
「小宝、お前の幼馴染の評判がどれほど悪いか、知っているかい。あの男は洞庭湖で何十万人も殺したんだよ――」
「根も葉もない話ですよ!」
韋小宝は反論した。
「洞庭湖に何十万人も入るわけがないでしょう? 全国の楊幺軍を全部合わせても二十万人を超えません。洞庭湖の本拠地だけなら、十万人くらいでしょう」
「世間では、あいつを貶めるくだらない噂がいろいろ流れているよ」
「どんな噂です?」
「豚の妖怪が生まれ変わった姿だとか。閻魔王の手下が足りなくなったから、あの男をこの世へ送り、人をたくさん殺させて小鬼を集めさせているとか」
「なんです、それは!」
「世の中が乱れているからこそ、岳鵬挙のような男が高い地位へ這い上がるんだ。『邦に道あれば則ち仕え、道なければ則ち隠る』……」
李易安は床に落ちた宣紙を拾い上げ、窓辺に静かに座った。
そして筆を取り、
「九万里の風、鵬正に挙がる。風よ休むなかれ、蓬舟を吹きて三山へ去らしめよ」
と書いた。
韋小宝は言った。
「もし姨媽が蓬莱の三仙山を見つけたら、ぜひ俺も呼んでください。一緒に隠居しに行きますよ」




