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『岳飛伝』  作者: RiHakuun
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二十八

曹成は十万の兵を擁し、荊湖南路と広西路の境にある天険の要衝、莫邪関を押さえていた。岳飛は張俊の命を受け、莫邪関の討伐に向かった。

莫邪関を三千の兵で攻めるため韓順夫が出陣してから、すでに十日余りが過ぎていた。それなのに前線からは一向に戦況の報告が届かない。

荊湖南路、道州道県の県衙に陣取る岳飛は、焦燥のあまり広間を行ったり来たりしていた。肩を落とし、これ以上ないほど意気消沈している。副官の傅慶はその脇に直立したまま、岳飛が動くたびに視線だけを追っていた。

韋小宝は何度も岳飛に「座って休んだらどうだ」と言おうとしたが、そのたびに言葉を飲み込んだ。幼馴染を怒らせるのが怖かったのである。

そこへ門外から、手紙を届けに来た駅卒が現れた。訛りを聞く限り、荊湖南路の土地の者らしい。

岳飛が封を切った。

だが、待ちに待った戦況報告ではなかった。臨安府の進奏院が十日に一度発行する公式の邸報だった。

そこにはこう記されていた。

秦桧、尚書右僕射に任ぜらる。

「小宝、お前、宰相の息子になったんだな。これからはお前にしっかり取り入らないとな」

韋小宝は言った。

「義理の息子の俺でさえ知らなかったぞ。礼部尚書だった奴が、どうして突然、宰相の座まで這い上がったんだ?」

「俺は少し事情を知っている」

「聞かせてくれよ」

韋小宝は目で幼馴染に懇願した。

「斉国の劉豫が汴梁へ遷都しただろう? 遷都する前に、劉豫は人を遣わして趙家の汴梁にある皇陵を掘り返し、めちゃくちゃにした。そのうえ、皇陵の風水が悪いから、趙家も天下を失ったのだと言ったそうだ。

祖先の墓を掘り返されたと聞いて、官家は夜中に百官を集め、劉豫への対処を話し合った――」

「対処って、何ができるんだ?」

「戦うか、戦わないか。その二つしかないだろ」

「そのとき、お前の養父秦桧が立ち上がって、『天下を震撼させる妙策がある』と言った。ただし、簡単には人に明かせない。自分を宰相にしてくれたら話す、と条件をつけたんだ」

「秦相公も、随分と足元を見たもんだな」

傅慶が感心したように言った。

「たった一言で、官家は俺の養父を宰相にしたのか?」

「今にも溺れ死にそうな人間を見たことがあるか? 水面に藁一本が浮いていれば、それにでも必死にしがみつくだろう」

岳飛が言った。

「つまり……官家が、その溺れかけている人間だってことか?」

岳飛が黙っているのを見て、韋小宝は続けた。

「『天下を震撼させる妙策』って、何なんだ?」

「お前の養父は、まだ話していない」

「鵬挙、お前って本当にすごいな! 臨安府のことを何でも知ってるじゃないか」

韋小宝が言った。

「そりゃそうだ。今のお前は大軍を握る大将だ。俺より情報網が広いんだからな」

「何が大軍だ。俺はまだ五品の小官にすぎない」

岳飛の顔が険しくなった。

そのとき、空を震わせる銅鑼の音が聞こえてきた。

街から響いてくるようだった。

「一昨日、結婚して厄払いをしたばかりなのに、今日はまた誰かが結婚するのか?」

岳飛はぶつぶつ言いながら外へ出た。

三十人ほどの銅鑼太鼓の一団が、のんびりと小刻みな足取りでやって来る。

花轎もなければ、新郎の姿もない。どう見ても婚礼の行列ではない。

「吉報だ、吉報だ! 岳将軍に吉報をお届けに来ましたぞ――」

先頭に立つ小柄な男が悠々と歩み寄り、腰を低くして頭を下げた。

「韓順夫殿が莫邪関を落としました! 岳将軍に吉報をお届けせよとのことで――韓相公は富川県の城外で、岳将軍のお越しをお待ちしております」

岳飛は男に銀五両を褒美として与え、眉をほころばせた。

「小宝、お前は俺の弟と一緒に富川県へ行ってくれ。俺は官家に勝報を書いてから、すぐに向かう」

韋小宝と岳翻は急いで富川県城外の荒れ地へ向かった。

ちょうどそのころ、韓順夫率いる第七営が全軍を挙げて宴会を開いていた。

山間の平地には、「岳」の字を刺繍した三角旗があちこちではためいている。

数十脚の長卓が一列に並べられ、その中央に韓順夫がどっかりと座っていた。

その前の、赤い布を敷いた舞台では、年老いた楽師が二人、頭を揺らしながら篳篥を吹いている。首を伸ばしたり縮めたりするその様子は妙に規則正しく、まるで二匹の老亀のようだった。

韓順夫の親兵が岳翻を呼びに来て、長卓のそばに座らせた。

岳翻は韓順夫の右隣にぴったりと寄り添って腰を下ろした。二人は顔を寄せ、何やら親密そうに話している。

韋小宝は席を立ち、あたりをきょろきょろ見回しながら、いつの間にか一つの池のそばまで歩いてきた。

水辺では野草が伸び放題になり、苧麻は彼の頭より高い。青緑色の桑の実をつけた桑の木が一本、水面へ枝を伸ばしている。

韋小宝は野草の上に腰を下ろし、休んだ。

ほどなくして立ち上がると、舞台のそばにいた人々が左右へ分かれ、二、三人が通れるほどの道を開けているのが見えた。

鋭い口笛と、岳家軍の兵士たちの狂ったような歓声、怒号が入り混じり、濁流のように押し寄せてくる。

一隊の裸の女たちが、ゆっくりとその通路を歩き、舞台へ向かっていった。

裸の女たちが舞台へ上がった途端、通路の両脇にいた群衆が素早く閉じた。

韋小宝は必死になって人波をかき分け、舞台の最前列まで押し進んだ。

裸の女は二十一人。

誰もが肩を越す長い髪を垂らしている。年長の者は四十歳前後に見え、若い者はまだ十三、四歳ほどだった。

彼女たちの姿勢は皆同じだった。片腕で胸を隠し、手のひらで股間を覆っている。

韓順夫が袋を手に、一人の肌の黒い少女の前まで歩いていった。

彼は少女の腕を払いのけた。

「何してる?」

韓順夫は真顔で言った。

「お前のその小さな二粒の葡萄なんぞ、俺のより小さいじゃねえか」

そう言って、少女の隣にいた中年女の胸に手を伸ばした。

女がその手を払いのける。

韓順夫は袋を持ち上げ、中年女の頭から酒を浴びせかけた。

女が両手で頭をかばった隙に、韓順夫はその首をつかみ、肩越しに投げ飛ばした。

女は舞台の上に仰向けに倒れた。

韓順夫はしゃがみ込み、女の両脚を力ずくで開いた。

「何を隠してるんだ?」

韓順夫はへらへら笑った。

「俺たち岳家軍を歓迎してくれねえのか?」

「将軍――おやめください――」

群衆の中から、頭に白い布を巻いた中年男が、片言の汴京官話で懇願した。

「お願いです、どうか女房を放してやってください――岳将軍――」

韓順夫が振り返った。

「岳将軍? どの岳将軍だ?」

「岳飛岳将軍です」

男は言った。

「どうか、女房を放してください」

韓順夫は気まずそうに笑った。

「俺は岳将軍じゃねえ」

そして首を回し、左右の兵士に尋ねた。

「門番は何やってる? 軍営に民間人を勝手に入れていいのか?」

五、六人の兵士が一斉に中年男へ飛びかかり、地面に押さえつけた。

韓順夫が尋ねる。

「どいつがお前の女房だ?」

男は頬を膝で押さえつけられていた。

口を大きく開き、喉の奥から獣のような咆哮を迸らせる。押さえつけられていない両脚が、あちこちをめちゃくちゃに蹴り続けていた。

「う……うわぁ……」

裸の女たちの中の、ふくよかな少女が声を上げて泣き始めた。

韓順夫はその泣き声に引かれるように少女のところへ行き、手を伸ばして髪を撫でた。

そして顔を上げ、酒を何口かあおると、袋を放り捨て、目を閉じて恍惚としたように天を仰いだ。

――韋小宝には、なぜそれほど陶酔しているのか、さっぱり分からなかった。

その少女の髪に置かれていた腕が、突然、胴体から吹き飛んだ。

敵襲だった。

長刀を手にした騎兵百余騎が陣営へ突入し、不意を突かれた岳家軍を何度も何度も斬り倒していく。

韓順夫の腕が、騎兵の一人によってその場で斬り落とされた。

韋小宝は混乱に乗じて池のほとりの桑の木の下へ逃げ込んだ。

周囲から、入り乱れた悲鳴と命乞いの声が響く。

木の下に隠れていても安全ではないと思った韋小宝は、這いつくばって池のほとりの泥沼へ潜り込んだ。

泥の中の水は骨まで凍るように冷たく、上半身が勝手に震え始める。

岳飛が大軍を率いて救援に駆けつけたときには、岳家軍を襲撃した騎兵隊――岳飛によれば曹成が送り込んだ兵だった――は、すでに姿を消していた。

岳家軍の死体が山にも谷にも満ちている。

赤い布を敷いた舞台に横たわる韓順夫は顔面蒼白で、すでにかなり前に息絶えていた。

岳翻は長卓の下で死んでいた。右頬を鋭利な刃物で削ぎ取られ、頬骨がむき出しになっている。とうに絶命していた。

全身血まみれの岳飛は、弟の遺体を抱きしめ、暗く沈んだ空を黙って見つめていた。

韋小宝は胸の奥がひどく寒々しくなり、幼馴染のそんな姿を見るに忍びず、顔を背けた。

韓順夫と岳翻の葬儀は翌日の午の刻三刻に行われることになり、墓所は二人が殺された荒野に定められた。

岳家軍およそ五千の兵が七つの方陣に分かれ、頭を垂れて立っている。

三度、軍号が鳴った。

八人の屈強な男たちが二つの漆黒の棺を肩に担ぎ、巨大な墓穴の前までゆっくりと進んでいく。

肩から先を失った韓順夫の遺体――なんとも奇妙な話だが、岳家軍が地面を三尺掘り返しても、肩から斬り落とされたその腕はついに見つからなかった――と、顔の半分しか残っていない岳翻の遺体。

二つの棺は縄に吊られ、ゆっくりと穴の底へ降ろされていった。

白い粗衣をまとい、一本の赤い縄でつながれた男が二十二人。

王貴に引かれ、岳家軍の将兵たちの前へ連れてこられた。

岳飛は王貴の手から赤い縄をひったくった。

「こいつら役立たずの護衛どもが、韓副指揮と俺の弟、岳翻を死なせた!」

岳飛は叫んだ。

「上官の安全すら守れない護衛なんぞ、何の役に立つ? だったら弟と一緒に黄泉へ行かせ、ここに葬ってやる!」

岳飛の言葉を最初に聞き取った兵士が、後列の者へ小声で伝えた。

一人から二人へ、二人から四人へ――。

岳家軍はたちまちざわめき、騒然となった。

「それはなりません!」

第二営隊の隊長、趙秉淵が片膝をついた。

「曹成は陰険で狡猾な男です。まさか奇襲を仕掛けるほど大胆だとは、誰にも予想できませんでした。韓副官と岳翻将軍を守れなかったのは、護衛たちにも確かに落ち度があります。しかし死罪にするほどの罪ではありません。大宋の軍法に従い、一人につき二百杖を打つのがよろしいでしょう――死なずとも半死半生にはなる。それだけ痛い目を見れば、二度と忘れません。岳将軍、いかがでしょう?」

第三営の副官・王貴と、副都統制兼第五営隊長の張憲も、趙秉淵にならって跪いた。

続いて第一営隊長、第四営隊長――。

棺の中の韓順夫を除けば、岳家軍七営すべての隊長が岳飛の前に跪いた。

岳飛は顔を上げたまま、遠くを見つめて立っていた。

「岳将軍、どうかもう一度お考えください。生きた人間を死者と一緒に葬るなどという話が百越の地に広まれば、岳家軍の名声を傷つけ、朝廷の威信を損ないます」

王貴が言った。

「百越の地の蛮族たちが、それでも大宋に帰順しようと思うでしょうか?」

「王相公の言うことは核心を突いています」

趙秉淵が言った。

「生きた人間を殉葬させるのは、天理に背く行いです。孔老夫子も『始作俑者、其無後乎』とおっしゃっています。殷商以来、天下に生きた人間を殉葬させる風習など二度と現れていません。岳将軍、どうかこの護衛たちに生きる道を残してください」

岳飛は足を上げ、趙秉淵を蹴り倒した。

「謀反する気か?」

岳飛は趙秉淵の額を踏みつけた。

「曹成に買収されたんだろう? わざと俺の足を引っ張りに来たのか?」

岳飛は趙秉淵の軍服の襟をつかんで引き起こし、拳で頭、首、胸、腹を次々と殴りつけた。

趙秉淵は一言も発せず、岳飛の拳脚を受け続けた。

口から血を一筋吐き出す。

このままでは岳飛に殴り殺される。

王貴と張憲が駆け寄り、岳飛を抱えて止めた。

岳飛は二人を振りほどいた。

「こいつら役立たずを、あの世へ送れ」

岳飛が言った。

二十二人の護衛は、一人ずつ墓穴へ突き落とされた。

穴の縁では数人の兵士が、息を切らしながら土を掘り、穴を埋めていく。

十日余りが過ぎた。

重傷の癒えていない趙秉淵は、勝手に馬を引き出し、陣営を抜け出した。

岳飛は幼馴染を呼び寄せた。

「俺が一番恐れているのは、あの趙秉淵の畜生が曹成のところへ逃げ込むことだ。もし岳家軍の軍事機密を曹成に漏らしたら、大変なことになる」

岳飛は軍靴の中から、幽かな光を帯びた刃物を抜き出した。

「小宝、この刀を持っていけ。今すぐ趙秉淵を追え。普段から見ていたが、趙秉淵はお前を友人だと思っている。お前には警戒していない。隙を見て――この一刀を食らわせろ」

「俺……俺……人なんて殺したことないぞ、岳飛!」

韋小宝は泣き笑いのような顔になった。

「小宝、今は非常時だ。俺は動けない――曹成がいつ攻めてくるか分からない」

岳飛は言った。

「人を殺すのは難しくない――」

そう言いながら、刀を持った手を伸ばし、引いた。

「昔、俺が飢えをしのぐために人肉を食い、喉の渇きを癒すために人血を飲んだことがある。あのときこそ、本当に難しかった」

岳飛は自分の乗馬を一頭、韋小宝に与えた。

韋小宝は今度ばかりは遠慮もせず、ぐずぐずすることもなく、赤茶色の汗血馬にまたがった。

そして一路、趙秉淵を追って駆けていった。

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