二十六
越州の府衙は広々として壮麗で、その威容は韋小宝の想像をはるかに超えていた。
内侍の黄彦杰に取り次いでもらい、韋小宝は秦桧、船頭とともに奥の院の脇部屋へ通され、宋国皇帝・趙構と対面した。
韋小宝は、一瞬この浅黒い肌をした、痩せた二十三歳そこそこの皇帝が、趙構だとは分からなかった。
趙構は秦桧を抱きしめ、涙を流した。
「苦労をかけたな」
趙構は言った。
「朕は運に恵まれず、虎が平陽に落ちるような境遇に陥った。そばにいた謀士や武将たちは、鳥獣のように散り散りになってしまった。それなのに秦学士、お前は苦労を厭わず、千里の道を旅してきた。こうして朕とお前は、ついに君臣として再会することができた……朕は本当に感動している」
韋小宝は、秦桧がいかに逃げ、いかに暴風に遭い、あやうく魚の餌になるところだったかを、尾ひれをつけて一気にまくし立てた。
趙構は聞くたびに感嘆の声を漏らした。
「李世民も言っている。『疾風に勁草を知り、板蕩に誠臣を識る』と……大宋の国運が風雨に揺らぎ、社稷が傾きかけている今……」
趙構の目から二筋の涙が流れた。
「秦学士、お前は異国に身を置いても志を変えなかった。まさに当代の蘇武と呼ぶにふさわしい」
「きっと良くなります」
秦桧は皇帝を慰めた。
「完顔宗弼と完顔昌は軍を引き揚げて金国へ戻りました。金国の朝廷は、黄河と淮河の間に『大斉』という国を建て、劉豫を傀儡皇帝として擁立するつもりです。偽斉の建国は、一見すると荒唐無稽で笑い話のようにも思えますが、大宋にとって必ずしも悪いことではありません。偽斉が緩衝地帯になれば、宋と金が直接国境を接することはなくなり、金の宋に対する脅威も小さくなる。それに、劉豫のような連中なら、金人よりも対処しやすいでしょう」
「秦学士、お前が言ったことなら、朕はとっくに知っている」
趙構は言った。
「それどころか、金国皇帝の完顔晟が最近、突然重い病にかかったことも知っている。では、なぜ完顔兄弟が突然帰国したと思う? 権力争いのために決まっているではないか。皇帝が死にかければ、腐臭を嗅ぎつけた禿鷹のような朝臣たちが、皇帝を切り分けて食らおうと手ぐすね引いて待ち構えるのだ」
趙構は苦々しげに続けた。
「朕も最近になって、玉座の下にいる朝臣たちが、どこまで醜い顔をさらすものか、ようやく思い知った。特に朝廷のあの武人どもだ。己の利益のために、三歳の幼児を皇帝に担ぎ上げようとしておきながら、口を開けば社稷のためだと言う。ふん!」
秦桧、韋小宝、そして船頭の三人は脇に立ち、趙構が胸の内を吐き出すのを黙って聞いていた。
「秦学士、朕もお前の見立てに同意する。外敵による脅威がひとまず去った今、朕もようやく力を割いて国内の危機に対処できるようになった」
趙構は言った。
「近頃、先皇が残した百官の奏札を読んでいて、こんな一文を見つけた――『外を攘わんと欲する者は、必ず先に内を安んず』。まったく朕の心にかなっている」
「国内に、どのような危機が?」
秦桧が尋ねた。
「農民の反乱だ。流賊が跋扈している」
趙構は答えた。
日が西に沈むころ、趙構は秦桧一行を行宮の御膳房に招き、夕食をともにした。
宴の席で、趙構は三人にどんな褒賞を望むか尋ねた。
「社稷のために働けるだけで、臣は十分に満足しております。ほかに望むものはございません」
秦桧が答えると、韋小宝も言った。
「秦学士が言ったことは、まさに俺の気持ちそのものです」
趙構は秦桧を礼部尚書に任じ、韋小宝を中書省の京官へと引き立てた。
二人とも異存はなかった。
すると船頭が言った。
「俺は官家に黄金百両をいただきたい」
そして念を押すように、
「本物の金で百両ですよ」
と付け加えた。
趙構の顔に困惑の色が浮かんだ。
「天下の皇帝様が、黄金百両も出せないってことはないでしょう?」
船頭がからかうように言った。
「この無礼者!」
内侍の黄彦杰が怒鳴った。
「皇上に向かって、なんという口の利き方だ!」
黄彦杰は船頭の襟首をつかみ、後ろへ引き倒した。
船頭は四つん這いどころか、手足を広げて仰向けにひっくり返った。
「皇上、無礼をお許しください。どうにもこの怒りを飲み込めません。私にこの田舎者を少し懲らしめさせてください」
黄彦杰は言った。
「『車船店脚牙、無罪也該殺』――車夫、船頭、宿屋、脚夫、仲買人、この手の連中は罪がなくても殺していいと言われるほど、相手の身分を見て態度を変える連中です」
趙構は黄彦杰と船頭の間に割って入った。
「老人よ、大宋の国の基盤はまだ安定していない。金のかかることがあまりにも多いのだ」
趙構は穏やかな口調で言った。
「朝廷の上から下まで、皆、腰の帯を締めて切り詰めて暮らしている。朕も例外ではない。去年の真冬、越州の地方官が朕の暖を取るために、胡桃の木目のような模様の炭を一袋買ってくれたことがあった。だが朕は高すぎると言って、送り返した」
「俺なんか冬を越すのに、炭を燃やす金もない。自分でぶるぶる震えて暖を取ってるよ」
船頭が言った。
趙構の顔に浮かんでいた微笑みが、ぴたりと固まった。
「老人よ、ではこうしようではないか?」
趙構は言った。
「お前を承信郎に任じよう」
「承信郎って、何だ?」
船頭が尋ねた。
「承信郎は九品の武官だ」
趙構が説明した。
「官位は高くないが、吏部に名を載せておけば、お前の息子は恩蔭を受けられる。将来、官職に就くのもずっと容易になる」
船頭は考えた末、
「よし、ありがたく頂戴する。うちは代々農民だからな。官になれるっていうなら、悪い話じゃない」
と言った。
船頭は二人の内侍に連れられ、御膳房を出ていった。
「皇上、ちょっと人をお尋ねしたいんですが」
韋小宝が言った。
「岳飛は今、どこにいます?」
「岳飛……どこの省の、どの部署の者だ? 朕はそんな者の名を聞いたことがない」
「皇上、岳飛にはお会いになったことがありますよ」
黄彦杰が思い出させるように言った。
「数か月前、御前巡衛軍の劉光世と一緒に来た若い武将です。まだほとんど名も知られていませんが」
「思い出した。あの逃げた将だ」
趙構は額をぽんと叩いた。
「劉光世が彼を泰州の守備に派遣したのだが、金軍がまだ来てもいないのに、あいつは城を捨てて逃げ、江陰に隠れた――」
趙構は秦桧を振り返った。
「我が大宋の役立たずの武官どもは、金人を見ると鼠が猫を見るように逃げ出す。そんな小物だけではない。韓世忠や張俊のような、戦場を長く経験してきた大将でさえ同じだ。どいつもこいつも尻に油を塗ったように、風の便りを聞けば逃げ出す始末だ」
趙構はため息をついた。
「秦相公、お前は知らないだろう。各地から朕のもとへ届く奏札には、『守地を失った罪を待つ』などと自ら罪を認めるものが、数え切れないほどあるのだ。はあ……」
秦桧と韋小宝は、越州に半月あまり滞在した。
秦桧から、金国が国号を「中国」に改めるつもりだと聞いた趙構は、一つの詔書を発した。
越州を昇格させて紹興府とし、大宋の元号を「建炎」から「紹興」へ改めたのである。
皇宮として徴用された紹興府府衙の正門には、新たな対聯が掲げられた。
「紹奕世之宏休、興百年之丕緒」
この半月ほど、毎日の朝議が韋小宝にとって悩みの種になっていた。
夜明け前、彼は紹興県城の東北角、大池湖のほとりにある住まいを出発しなければならない。
そこでは彼と養父の秦桧が暮らしており、家賃は月千三百文だった。
石板橋を三つ渡り、永福寺を大きく迂回して、趙構と群臣が政務を議論する府衙へ向かう。
そして門前では、武器を持ち込んでいないことを確認するため、守門の禁軍に全身をくまなく触られる。
遅刻しないためには、更夫が卯の刻の銅鑼を鳴らす前に起きて、朝飯を食べ終えておかなければならない。
「官家は俺たちよりもっと早起きしてるんだぞ」
秦桧は義理の息子に言った。
「趙構は毎日、寅の刻には起きて『十三史』を読んでいる。古今を通じて、あれほど勤勉な皇帝はそう多くない」
「国はあいつ趙構のものだろ。俺、韋小宝のものじゃない。もし俺が皇帝になったら、あいつよりもっと勤勉に働くさ」
秦桧は韋小宝の頭を二度、強く小突いた。
「二度とそんなことを言うな。お前と私が金国から戻ってきただけでも、すでにいろいろと陰口を叩かれているのだ」
朝議に出るようになってから、韋小宝は一度も発言したことがなかった。
だが、一つだけはっきり分かったことがある。
皇帝の最大の悩みは、北方に新しくできた斉国でも、そのさらに北の金国でもなかった。
宋国全土で、まるで花が咲き乱れるように広がっている反乱だった。
趙構は褒賞を懸けた。
反乱軍を平定し、国境を安寧にした者には、「一年に三度の昇進」どころか、「一年に三十度の昇進」さえ夢ではない。
慶遠軍節度使の范琼が名乗りを上げた。
「乱を起こしている賊の中でも、江南西路と荊湖南路を占拠している曹成こそ、最も危険な存在です。曹成一味を除かなければ、朝廷は公粮さえ徴収できません。皇上、五万の兵をお貸しください。私が曹成を討ち滅ぼしてみせます」
「五万なら五万だ! 本当に事を成し遂げたなら、朕はお前を鎮国大将軍に封じよう――」
「お待ちください――」
人でごった返す群臣の中から、監察御史の万俟卨が身を押し出して叫んだ。
「皇上、軽々しくお約束なさらぬように」
万俟卨は范琼に向き直った。
「ずいぶん大きな野心を持っているな! 曹成を討ち滅ぼすだけの力が、お前にあるのか? 軍に入ってから、いったいどの戦いに勝った? 皆の前で言ってみろ」
「奏札では『十万の敵を破った』だの、『朱仙鎮に迫った』だのと吹聴しているが……朝廷でも世間でも、これほど厚顔無恥な大ぼらを吹けるのは、お前、范琼くらいだろう」
万俟卨はさらに言った。
「范将軍、私ははっきり言っておこう。兵を何万与えようとも、奸賊童貫と同じ轍を踏むだけだ。大宋の兵力を無駄にする。それが一つ」
「二つ目。仮に運よく曹成を平定できたとしても――范将軍、お前は民衆がお前を何と呼んでいるか知っているか?」
「『范剥皮』だ!」
「そう、『皮剥ぎ范』だ! 民衆はお前を『范剥皮』と呼んでいる。聞こう。お前は反賊の曹成より、どこがましなんだ?」
「大宋の民が朝廷に信頼を失ったのは、お前のような奴がいるからではないのか?」
万俟卨は趙構に向き直った。
「皇上、臣は監察御史として、本日正式に范琼を弾劾いたします」
そう言って、開かれた奏札を両手で捧げ、趙構に差し出した。
趙構は奏札に目を通した。
その表情は、怒りとも迷いともつかず、刻々と変化した。
「臣、何鋳も万監察御史による范琼への弾劾に同意いたします」
四十歳を少し過ぎたような、がっしりした男が趙構に向かって拝礼した。
「范琼は民を虐げ、その悪行はとりわけひどく、全国に知れ渡っております。どうか皇上、ただちにこの者を罷免してください」
「皇上、今回の弾劾は臣一人の意見ではありません」
万俟卨が言った。
「御史台の二十二名の監察官が、全員一致して范琼の弾劾に賛成しております」
「黙れ!」
范琼が怒鳴った。
「お前ら犬畜生の台諫官ども、徒党を組んで俺を陥れやがって! どうせ誰かに買収されたんだろう!」
范琼は群臣を睨み回した。
「誰だ? 俺の兵を丸ごと奪おうとしている小悪党は! こんな陰謀を仕掛けやがって! 度胸があるなら出てこい!」
「范将軍、ここに買収される者がいるとすれば――」
何鋳が言った。
「どう考えても我々御史や諫官ではないでしょう」
「御史台は独立した一派で、三省六部の拘束を受けません。范将軍、お前が民から搾り取った膏血で六部の官僚を買収し、内侍まで買収していることを、我々御史台の者が知らないとでも思ったか?」
何鋳は冷ややかに続けた。
「それなのに、我々が買収されたなどと侮辱するとは――范将軍、『蘇軾と仏印』の話を聞いたことがあるか?」
「お前には、何もかも犬の糞に見える。では聞こう。もしかして、お前自身が犬の糞の塊だからじゃないのか?」
「これでも読書人か! よくもそんな下品な言葉を口にできるな!」
范琼が言った。
「皇上、御史台の官人は何よりも名誉を大切にしております。范琼のこの野郎が、血を吐くような悪罵を浴びせて御史の潔白を汚さなければ、臣もこのように怒り、取り乱すことはありませんでした。どうかお許しください」
「もういい、もういい。頭が痛くなってきた」
趙構は言った。
「范琼、曹成討伐のことには、しばらく関わらなくていい。紹興府で数日ゆっくりしていろ。朝議も早めに退出することを許す。行け」
言葉が終わるや、左右から二人ずつ、計四人の帯刀護衛が范琼に近づいた。
口の中で絶えず不満げに鼻を鳴らしていた范琼は、暗い朝堂から護衛に連れ出されていった。
朝議が終わると、百官は散っていった。
趙構は枢密院、門下省、中書省、尚書省から数名の大臣を選び、東側の一室に新しく建てられた小さな木造の小屋へ集め、協議を行わせた。
他の大臣より数階級低い尚書省礼部の長官である秦桧も、その会議に残された。
集議が始まる前、韋小宝は秦桧に尋ねた。
「御史台の連中って、いったい何者なんだ? あいつらが一言言えば、官を失わせることまでできるじゃないか」
秦桧は苦笑した。
「大宋の仕来りは昔からそうなのだ。諫官が皇帝に白簡を差し出したら、真に過失があろうとなかろうと、白簡で弾劾された官員は、ただちに職務を停止されて取り調べを受ける」
秦桧は続けた。
「景祐四年、諫官の韓琦が一通の白簡を提出し、当時の四人の宰相を弾劾したことがあった。その結果はどうなったと思う?」
「四人の宰相は、その日のうちに全員罷免された」
「諫官の司馬光、御史の包拯――この二人のうち、どちらが当時の官界をひっくり返すほどの騒ぎを起こさなかった?」
「俺、こういう連中とは、できるだけ距離を置くことにするよ」
韋小宝は言った。




