二十五
秦桧、韋小宝、そして船頭は海岸線に沿って南へ進み、時折、風浪を避けたり物資を買い入れたりするために岸へ船を寄せた。
岸辺の景色は、半月前とはすっかり様変わりしていた。木々は鬱蒼と茂り、葉は広く大きくなっている。遠くの空には、連綿と連なる山々がしばしば姿を現した。
気温は蒸し暑く、じっとしていても汗ばむほどだ。太陽が出ると、韋小宝はたちまち汗が止まらなくなる。試しに海水で体を洗ってみたが、終わった後は全身が乾いて痒くなり、洗わないほうがましだった。
秦桧が上陸して陸路へ切り替えると決めた朝、海は濃い霧に包まれ、手を伸ばしても五本の指さえ見えないほどだった。
秦桧は韋小宝と船頭――京東西路出身の趙老人――に話した。
昆山で上陸することにしたのは、昆山が故郷の江寧からさほど遠くなく、二つの土地の方言も似ているため、道を尋ねるのに都合がよいからだ。
それ以上に重要なのは、自分が捕らえられて以来、妻――韋小宝の養母である王媽媽――が南へ下り、昆山県城に住む李姓の従姉を頼って身を寄せていることだった。
三人は昆山城の南にある路地で、二人の姉妹の居場所をようやく見つけた。
王媽媽と従姉が暮らしていたのは、低い平屋だった。
中には寝室が二つしかない。
奥の部屋には、塗装もしていない木の机が二つ置かれ、机の上には紙、墨、筆、線装本が山積みになっていた。壁際には一人用の粗末な寝台が二つある。
手前の部屋には銅のやかんや茶碗、皿などが積まれ、木箱が二つ置かれていた。
王媽媽は言った。
自分と従姉は互いに支え合って暮らしている。王媽媽は人の洗濯や炊事を請け負い、従姉は書画を書いて売り、生活は貧しいものの、どうにか食べていけているという。
秦桧は泣きながら言った。
「お前には苦労をかけた。本当にすまなかった」
「あなたと小宝が帰ってきた。それだけで、天は私を見捨てていないってことよ――」
王媽媽は言った。
「この従姉だって、夫を亡くしたばかりなの。そう思えば、私はまだ恵まれているわ」
王媽媽の従姉の名は李易安といった。
秦桧夫妻が互いの思いを語り合っている間、韋小宝はこの風韻を失わぬ従姨と雑談を始めた。
従姨はちょうど書をしたためていた。
韋小宝は彼女の書を褒めた。
「すごく上手だ。義父さんより上手じゃない?」
「あなたの義父さんほどではないわ。あの人は書に心を傾けて、ずいぶん苦労して修練したもの」
従姨は穏やかに微笑んだ。
「でも、詩や詞なら私のほうが上よ。私も詩詞にはずいぶん苦労したもの」
「乱世の中で、義母さんと従姨さん、女二人で生きていくなんて、本当に大変だね」
「生きていくというのは、いつだって大変なものよ」
そう言いながら、従姨は紙の上に大きく六文字を書いた。
「凄凄惨惨戚戚」
表情は穏やかで、どこか満ち足りている。口元には、かすかな笑みさえ浮かんでいた。
紙には「惨」と書いてあるのに、顔は笑っている。
韋小宝がからかった。
「こうして書いてしまえば、もう惨めじゃなくなるんだね」
「そうよ。書いてしまえば、心の中の苦しみが紙の上へ逃げていくもの」
従姨は答えた。
李従姨の家には、韋小宝と秦桧が寝泊まりできる余分な部屋がなかった。
そこで父子は家の外、ようやく一人が身をひねって通れるほど狭い通路に雨よけを張り、仮住まいとした。
困ったのは、船頭が家に居座り、なかなか出ていこうとしないことだった。
「秦相公、あんたは大官なんでしょう。官人なら、きっと金を持ってる」
船頭は言った。
「俺にもう五十両銀子をくれれば、すぐに出ていく。これだけの日数、あんたを船で運んで、安全に故郷まで送り届けた。夫婦も無事に再会できた。俺は何千里も故郷を離れてきたんだ。帰るには流れに逆らって船を漕がなきゃならんし、何人も人手を雇わなきゃならん。金がかかるんだよ」
五十両とは、明らかに法外な値段だった。
だが船頭は一歩も引かない。
金を手にするまでは、絶対に出ていかないという。
秦桧は一文無し。
韋小宝も、手元には七両にも満たない銀しか残っていなかった。
二人は相談した末、船頭を連れて趙構を探し、船賃を払ってもらうことにした。それが一番確実な策だった。
二人は昆山県令に趙構の居場所を尋ねた。
県令は答えた。
「官家の行方は神出鬼没です。行在も一月ごとに変わり、時には数日で移ることさえあります。私のような下級文官に、どうして分かりましょう」
秦桧はため息をついた。
広漠たる江南。
至るところに山々が連なる。
いったいどこへ行けば皇帝を見つけられるというのか。
「県を一つずつ探していけば、いつかはぶつかるさ」
韋小宝は養父を励ました。
「趙構はいま完顔宗弼に追い回されてるんだ。きっと県令にも居場所を隠してる。もし朝廷の中に裏切り者がいて、居場所を漏らしたら、それで終わりだろ? だったら地元の人間にもっと聞いてみよう」
「小宝、江南では十里ごとに言葉が違う。道を尋ねるのも容易ではない」
秦桧は言った。
「それに、南蛮の地では王化に従わぬ者も多い。皇帝が誰かなど、民にはどうでもいいことだ。そんな人々に皇帝の行方を尋ねる? まるで木に登って魚を探すようなものだ」
昆山県令が秦桧に知恵を貸した。
「武将を探してみては? 特に高位の武将です。彼らは皇帝と密書をやり取りしていますから、きっと官家の居場所を知っています」
秦桧は県令に宋国の軍事防衛区域がどう配置されているのか尋ねた。
県令によれば、皇帝が直接指揮する御営三武将――劉光世、韓世忠、張俊――が、それぞれ江州、明州、揚州を守備している。
三軍の総司令官である杜充は長江戦線に陣取り、その軍営本部は、趙構が建康府と改名した江寧に置かれているという。
三人は北西へ向かい、秦桧の故郷である江寧に到着した。
そこで尚書右僕射兼江淮宣撫使、杜充への面会を求めた。
華やかな衣装を身につけた杜充が、秦桧ら三人を出迎えた。
楚国の秦桧一行の来意を知ると、杜充は鋭い声を上げ、兵士に三人の手足を縛らせた。
「秦学士、お前のようなひ弱な書生が、ずいぶん大したものだな。逃げ足だけは達者だ。だが、まさか今日、自分から網に飛び込んでくるとはな。ははは」
杜充は笑った。
「知っているか? 半月前、私はすでに大金に帰順した。近いうちに大金国の相州へ赴任することになっている」
「相州へ行って何をする? 諳班勃極烈にでもなるのか?」
秦桧が尋ねた。
「知州だ」
杜充が答えた。
「大宋の宰相の座を捨てて、金国の知州になるのか?」
「秦相公、本当に世間知らずだな。宋国はもうすぐ終わるんだ。言っておくが、趙構が皇帝の座を私に譲ると言ってきても、私は欲しくない」
杜充は言った。
「お前が来てくれてよかった。実にいいところへ来たものだ。完顔宗弼に引き渡して、褒美をもらうとしよう」
完顔宗弼は険しい山々の中で趙構を捕らえるのに忙しく、帰還の日取りも定まっていなかった。
俘虜を献上して取り入ろうと焦った杜充は、秦桧一行を囚車に押し込み、淮河東部の真州まで護送した。
真州を統轄する最高長官は、大金の右副元帥・完顔昌だった。
「また会ったな!」
完顔昌は囚車の木戸を開け、三人を外へ出した。
「こうなると分かっていたなら、最初から私と一緒に来ればよかったものを。船に乗ったり歩いたり、あんな苦労をする必要もなかった」
完顔昌は秦桧を見た。
「秦相公、主人は見つかったか? まだ探し続けるつもりか?」
「探します。趙構を見つけるまで、やめません」
秦桧は答えた。
完顔昌はため息をついた。
「出発する前に、一つ頼めないか。私のために一通、帰順を勧める書を書いてくれないか?」
「誰に?」
秦桧が尋ねた。
完顔昌はゆっくりと事情を話した。
「……官家は私の進言を採用し、黄河から淮河に至るこの一帯の領土を、前宋の大臣・劉豫に与え、皇帝に冊封するつもりだ。国号は『大斉』。詔書もすでに書き上がっている。あとは私が楚州の城を攻め落とすだけだ」
「楚州を落とすのは難しくない。だが、私は城内の民を傷つけたくない。無用な血の負債をこれ以上増やしたくないのだ。だから、楚州を守っている偽宋の将領たちに投降を勧める書を書いてくれ」
「完顔宗弼と一緒に『山を捜し海を探る』んじゃないの?」
韋小宝が尋ねた。
「計画が変わった」
完顔昌は答えた。
「南方は雨が多く、瘴気も多い。長く滞在していると病にかかりやすい。軍中の大半の者が北へ帰りたがっている――趙構については、捕まえられなかったなら、それでいい。捕まえることが我が大金にとって、それほど重要なことか? そもそも最初は、少し懲らしめてやろうと思っただけだ。偽宋など、大金の前では何ほどのものでもない! 大金は天下を志している。どうして敗者ごときにいつまでも構っていられよう?」
「天下を志す? どういう意味です?」
秦桧が尋ねた。
「秦桧、逆に私から聞こう。今の天下には、どんな国がある?」
「私の知る限りでは、中原の金国、江南の宋国のほか、東南には毗舎邪国、西南には大理国と吐蕃国、西北には蒙古国、夏国、遼国――亡命中の遼国だ――がある。東北には高麗国と日本国。そのさらに遠くには……天竺国、大食国がある」
「天竺や大食など、蛮夷の小国は放っておけ」
完顔昌は言った。
「今お前が挙げた国のうち、高麗はすでに我が大金に臣従している。大理も、もう間もなくだ。官家はすでに使者を大理へ送り、段和誉に臣従の誓表を差し出すよう督促している。誓表を差し出せば、大理も我が大金の藩属となる」
完顔昌は誇らしげに続けた。
「その時になれば、天下万邦が我が大金に朝貢する。そうなって初めて、『上国』という称号にふさわしくなる……そして、大金という国号も変えねばならん」
「何という名に?」
秦桧が尋ねた。
「中国だ」
完顔昌は誇らしげに立ち上がり、答えた。
「中国とは、すなわち中華の上国ということだ。趙構は元号を変えることで国運まで変えようとしているのだろう? 建炎は『火』からできている。大金は『金』からできている。火は金に勝つ――まったく、よくそんなことを思いついたものだ!」
完顔昌は鼻で笑った。
「皇帝ともあろう者が、政治に励み民生を改善することもせず、一日中こんな妙なことばかり考えている。我が大金が国号を『中国』に改めるのにも、五行の外へ飛び出すという意味がある」
「中国……」
韋小宝が低くつぶやいた。
「いつの日か、蒙古国、日本国、吐蕃、西夏、それに趙構の偽宋も、中国を正朔と仰ぎ、中国の藩属となるだろう。その時は、皆で一緒に五行の外へ飛び出した中国人になるのだ」
完顔昌は言った。
秦桧は完顔昌のために帰順勧告文を書くことに同意した。
ただし、いつの日か完顔昌から「投桃報李」、つまり恩返しをしてもらいたい、と望んだ。
「どうやって『投桃報李』すればいい?」
完顔昌が尋ねた。
秦桧は完顔昌の耳元で何事かを囁いた。
「もし本当にそんな日が来たら……」
完顔昌は眉を寄せ、しばらく考えた。
やがて歯を食いしばって言った。
「分かった。約束しよう!」
秦桧は筆を走らせ、ほどなく三千字ほどの帰順勧告文を書き上げた。
完顔昌は秦桧一行を軍営に泊めようとしたが、秦桧は丁重に断った。
完顔昌が秦桧に黄金十両を贈ろうとすると、秦桧は固辞した。
「秦相公、頭がおかしくなったんじゃないのか? 目の前に黄金があるのに、いらないっていうのか」
完顔昌の大軍営を離れると、船頭が愚痴をこぼした。
「お前さん、趙構を探して何をしに行くのか忘れたのか? 俺の船賃を払うためだろ! もし完顔昌の黄金を受け取って、俺に五両くれれば、俺は今すぐお前さんたちに付きまとわなくなる。秦相公、書生馬鹿だなんて悪く言うなよ。だが世の中には、本当にいるんだな! 本を読めば読むほど、人間が馬鹿になる奴ってのが」
「もしあの黄金を受け取っていたら、旅はきっと災難続きになったでしょう」
秦桧は言った。
「『左伝』にもある――『匹夫に罪なく、璧を懐けばその罪となる』」
「分からん!」
船頭は言った。
「『匹夫』の二文字なら知ってるぞ。お前さん、俺を罵ってるんだろ」
韋小宝は秦桧に尋ねた。
「義父さんは、完顔昌にどんなふうに『投桃報李』してほしいの?」
秦桧は首を振った。
「言わなくてもいいだろう」
完顔宗弼の大軍は淮河沿いを巡回し、韓世忠の軍と小競り合いを繰り返していた。
金兵を避け、戦場から遠ざかるため、秦桧ら三人は長江の支流の一つに沿って下り、洪州の地へ入った。
そこで韋小宝は、昔なじみの人物に出会った。
洪州留守の范琼だった。
范琼は前日に、監察御史が届けてきた趙構直筆の書状を受け取ったばかりだった。
書状には、越州へ来て皇帝に拝謁せよ、と記されていた。
なんと趙構は越州に隠れていたのだ。
韋小宝は秦桧に、急いで范琼と一緒に越州へ向かおうと促した。
「出発があと数日遅れたら、官家がまた逃げ出してるかもしれないぞ」
出発を前に、范琼は部下を集め、滕王閣のそばにある埠頭で囚人を処刑することにした。
両手を後ろ手に縛られた男女五十人ほどが、裸で埠頭前の刑場に跪かされていた。
韋小宝が珍しいと思ったのは、処刑人が手にしていたのが、処刑でよく使われる鬼頭刀ではなく、長さ一尺ほどの鉄鋏だったことだ。
処刑が始まった。
処刑人は片手で鋏を囚人の首に突き刺し、そのまま上へ切り上げる。
もう片方の手で裂けた皮と肉を引っ張り続け、ついには頭皮を一枚丸ごと剥ぎ取った。
「こいつら反逆者は、金軍の道案内をし、完顔宗弼に策を授けた」
范琼は言った。
「こいつらのせいで、俺は戦うたびに負けてきたんだ――南蛮の連中、よく聞け! 今度また完顔宗弼に金や食糧を送る奴がいたら……覚えておけ。こいつらと同じ目に遭わせる。俺、范琼が生きたままお前らの皮を剥いでやる!」
群衆に紛れて見物していた秦桧は、全身を震わせていた。
「この犬畜生どもめ……軍閥が、ここまで横暴になるとは! ここまで残酷になるとは!」
秦桧は吐き捨てるように罵った。




