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『岳飛伝』  作者: RiHakuun
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二十一

「小宝、お前のせいで俺はひどい目に遭ったぞ!」

窓の外には、玉盤のような満月が低く浮かんでいた。冷ややかな月光が窓辺の古い槐の枝葉を照らし、その影が揺らめきながら室内へ落ちている。

八仙卓の上には、口の広い酒甕が一つ置かれていた。

岳飛は顔を上げ、一碗の焼酒を一気に飲み干した。

「岳飛、あまり飲むな。酒を飲みすぎると、いざというときに役に立たないぞ」

「俺みたいな下っ端の兵士に、俺が逃げたら困るような大事な仕事なんて回ってくるかよ」

岳飛は口を尖らせた。

「小宝、俺の頭にかぶせられた『脱走兵』という帽子は、どうあっても脱げそうにない。もう評判は最悪だ」

「『脱走兵』のほうが『戦死した兵士』よりましだろ。良心に聞いてみろ。金兵を前にして、俺がお前に逃げろと言わなかったら、本当に逃げなかったのか?」

韋小宝は言った。

「飛、自分を信じろ。お前は後世に名を残す男になる」

「ふん! 後世に悪名を残すってか?」

「この二句の詩、聞いたことないか?」

韋小宝は言った。

「――『誰知盤中餐、粒粒皆辛苦』」

「前唐の詩人、李紳の『憫農』だろ。子供が読み書きを習い始めるときに使う詩だ。子供のころ、お前が俺に暗誦させたじゃないか」

「じゃあ、お前は李紳という人間をどう思う?」

「農民をいたわる人? 食べ物を大切にする人?」

「大間違いだ」

韋小宝は言った。

「李紳は衣食住、何から何まで極端に贅沢で、浪費も甚だしかった。前唐の詩人、劉禹錫が『贈李司空妓』という詩を書いている。あれは李紳のことを詠んだものだ」

「李紳は科挙を何度も受けて、そのたびに落第した。ところが後には権力者に取り入って、ようやく官職を手に入れた。役人になってからの李紳は、郷里の誰もが知る苛酷な役人でな。威張り散らして、親族の年長者にまで自分を『爺爺』と呼ばせたうえ、職務を怠って、当時全国を騒がせた冤罪事件――呉湘の冤案まで引き起こした。そんなろくでなしでも、たった一首の詩のおかげで、意図したかどうかはともかく、いったいどれだけ多くの人間を惑わせたことか」

岳飛は黙々と酒を飲んだ。

「『周公恐懼流言日、王莽謙恭未篡時』」

韋小宝は岳飛が酒碗を持ち上げる手を押さえた。

「鵬挙、評判なんて目の前を通り過ぎる雲みたいなものだ。それに、人為的に操ることだってできる。民衆なんて、風が草をなびかせるようなものだ。お前が善人か悪人かなんて、口一つでどうとでもなる」

「そんなに評判が気になるなら、後でお前の孫に伝記を書かせればいい。お前をきれいに包装して、立派な人物に仕立ててもらえ」

韋小宝は続けた。

「そういえば、お前の三房の孫は岳珂って名前にしよう。いいか、ちゃんとこの孫を教育しろ。さもないと、こいつはそのうち李紳みたいに苛斂誅求を重ね、民を食い物にする貪官酷吏になっちまうぞ」

「小宝、お前は一口も酒を飲んでないのに、どうして酔っ払いみたいなことを言い出すんだ?」

岳飛は怪訝そうに言った。

「長男の岳雲だってまだ十歳にもなってないんだぞ。俺に孫なんているわけないだろ」

「岳飛、俺の言葉を覚えておけ。絶対に息子に言い聞かせろ。岳珂という孫をしっかり教育しろ。後々、一地方を害するような奴にならないようにな」

韋小宝はため息をついた。

「俺だって分かってる。こんな話をしても無駄かもしれない。人にはそれぞれ定められた運命がある。もしかすると、岳珂の運命は、貪官酷吏になることなのかもしれない」

「小宝、お前は時々、本当に俺を怖くさせる」

岳飛が言った。

「何でも断言するからな。まるで、もう起きてしまったことを話しているみたいだ。人の運命はすべてお見通しなのに、お前はどうなんだ? 小宝、お前自身の運命は?」

「俺もこの世で役を演じている他の人間と同じさ。天の神様が動かす一枚の駒にすぎない。俺の運命なんて重要じゃない――少なくとも、この世界ではな」

韋小宝は酒甕を抱え上げ、豪快に飲み干した。


それから半月。

応天府から戻ってきた宗沢は、驚くべき知らせをもたらした。

大楚国の皇帝、張邦昌が応天府商丘県の郊外で皇位を康王趙構に禅譲し、しかも自ら「大宋受命之宝」――伝国玉璽を差し出したというのだ。

趙構は喜んで即位し、元号を「建炎」、国号を「大宋」と定めた。

「三つの火で『炎』。炎の火は小さな金に勝つ。なかなか縁起がいい」

宗沢は感慨深げに言った。

「俺は、そうとも限らないと思う」

「韋大夫、『そうとも限らない』とは、どういう意味だ?」

「最近、金国のほうでもかなり大きな動きがある」

韋小宝は言った。

「孔夫子の第五十一代嫡孫――衍聖公の孔元措が天下に布告したんだ。大金こそ天下の正統な主だとな。大宋がどれだけ縁起を担ごうと、聖人の末裔のお墨付きには敵わないんじゃないか?」

「もし山東路が大宋に属していたら、孔の一族は今度は大宋こそ唐を継ぐ正統だと言うさ」

王善が言った。

「王相公、宗将軍、聞いてないか? 金国も国号を変えるつもりらしいぞ」

韋小宝が言った。

「何に変える?」

宗沢が尋ねた。

「水は火に勝つ。金国が『大水国』にでも改名するのか?」

「俺が金国皇帝の腹の中の虫だとでも思ってるのか? 金国の新しい国号なんて、俺に分かるわけないだろ」

韋小宝は肩をすくめた。

「宗将軍、ちょっと休暇をもらえないか。商丘へ行って、大宋の新皇帝に拝謁してこようと思うんだ。昔を思えば、俺は康王と同じ鍋の飯を食い、同じ便所で小便をした仲だからな。その康王が皇帝になったんだ。こりゃ一目見に行かなきゃならない」

「ちょうどいい。これを官家に届けてくれ」

宗沢は一通の手紙を差し出した。

商丘県は汴梁からおよそ三百里。馬なら五日ほどで着く距離だった。

ところが最近は馬の値段が狂ったように上がり、借馬の料金もそれにつれて高騰している。一日三百枚の銅銭を払っても、長距離を走れない駄馬しか借りられない。

しかも馬を借りるには、二十両もの銀を保証金として預けなければならなかった。

韋小宝にはそんな金はない。

そこで彼は、小さなロバを一頭借りた。ロバなら保証金は馬の半分以下で済んだ。

道中は歩いたり休んだり。

さらに道を間違えて興仁県で数日を無駄にしたこともあり、韋小宝が商丘へ着いたときには、出発してからすでに半月以上が過ぎていた。

商丘県の城内では、軍衣と軍袴を身につけ、土埃まみれになった兵士の姿が目立った。

街をぶらつく旅人は少なく、物売りや荷運び人などの姿はさらに少ない。

韋小宝は府衙の正堂へ入り、趙構に拝謁した。

そこで一目見て、懐かしい顔がずらりと並んでいるのに気づいた。

武将は韓世忠、劉光世、張俊、杜充。

文臣は張浚、王安中、王時雍、劉豫。

禁軍の頭領、范琼。

正堂は低く狭苦しく、大勢の大臣たちが肩を寄せ合うように詰め込まれている。

二十代そこそこの趙構だけが、古びた素朴な太師椅に一人で座っていた。

趙構は韋小宝が届けた手紙を読み終えると、何気なく韓世忠へ渡した。

「宗の爺さん、また俺に汴梁へ移れと言ってるのか。何なんだ、これ」

趙構が言った。

「汴梁は金国のすぐ隣です。皇上は即位したばかりで、まだ基盤も固まっていません。そんな危険を冒すべきではありません」

韓世忠が言った。

「張邦昌!」

人垣の中に立っていた張邦昌が、周囲の同僚を押し分けて趙構の前へ出た。

「大金から返事は来ているか?」

「まだです。皇上のお手紙に書かれた要求は、あまりにも……」

張邦昌はしばらく口ごもった。

「もし宋と金の両国が黄河を境とするなら、また宋・金・遼の三国鼎立の時代へ戻ることになるのではありませんか?」

「では、お前はどうすればいいと思う?」

趙構が尋ねた。

「奴らは朕の父皇と皇兄を連れ去った。大宋が受けるべき罰は、もう十分に受けたはずだ」

「おっしゃることはもっともです。ですが、金国も同じように考えているかどうか、それを見なければなりません」

張邦昌は答えた。

君臣による朝議。

韋小宝にとっては、これほど退屈なものもない。

彼はそっと門の敷居のところまで下がった。

堂内から聞こえてくる群臣の議論は、何を言っているのかよく聞き取れない。

韋小宝は府衙の庭に植えられた一本の粉柏をぼんやり眺めていた。

そのとき、塀の外が突然騒がしくなった。

門を激しく叩く音が響く。

衙門の両側に立っている二十人あまりの禁軍は、無表情のまま、門外の騒ぎなどまるで気にしていない。

趙構が敷居をまたぎ、軒下に立った。

「毎日毎日騒ぎやがって、いつまで続けるつもりだ!」

趙構は台基から飛び降り、怒りに任せて衙門へ向かって歩き出した。

「皇上、冷静になってください」

韓世忠が言った。

だが止めるのが間に合わず、趙構はすでに禁軍へ門を開けるよう命じていた。

八字壁の下は人で埋め尽くされ、通りにも人があふれていた。

十代後半から二十代ほどの若者ばかり。

皆、幅広の袍に大きな袖という儒生姿だった。

鮮やかな赤の皇袍をまとった趙構が姿を見せた瞬間、通り中の若者たちは一斉に声を潜めた。

死んだような静けさの中、一人の儒生が階段を駆け上がった。

二人の禁軍が刀を横たえて、その行く手を遮る。

儒生はその場に跪いた。

「皇上、太学生の声をお聞きください! 皇上――!」

人々の声が再び湧き上がった。

野次、罵声、笑い声が絶え間なく飛び交う。

しばらくして、ようやく静かになった。

跪いた儒生が続けた。

「靖康の恥は昨日のことのように残っています。皇上、あなたは一国の君主なのです。皇上としてなすべきことを、少しはなさってください」

「陳東、お前はここで何を騒いでいる?」

趙構は禁軍に刀を鞘へ収めさせると、身を屈めて儒生を助け起こした。

「俺は今、朝臣たちと国の大事を相談している。これこそ皇上のやるべきことじゃないのか?」

陳東は趙構より背が高かった。

趙構は親しげに陳東の腕をぽんと叩いた。

「行在を北へ移し、二聖を迎え戻す。それこそ皇上のやるべきことです!」

陳東の声は、通りにいる数百人の儒生すべてに聞こえるほど大きかった。

「皆さん、私、陳東の言っていることは正しいでしょう?」

趙構は引きつった笑みを浮かべた。

「朝廷には、もっと重要な問題がある。二聖を迎え戻す件は、じっくり考える」

「じっくり考える? いつまで考えるおつもりですか? 皇上、あなたはお分かりですか? それはただの先延ばし、責任逃れですよ!」

「我々が朝廷と社稷に尽くす忠心は、天地に誓って明らかです。雨の日も風の日も門前で願い続けてきたのに、皇上は今日になってようやく出てきたではありませんか!」

趙構の顔色が突然変わった。

袖を大きく振り払う。

「皇上、あなたはまだ世間を知らない。あなたにつけ込もうとする者は大勢います。特に、あなたの周りにいる奸臣どもです。太学生こそ、心から朝廷のことを考えているのです……」

陳東は趙構へ駆け寄り、その腰に抱きついた。

頬を皇袍にぴったり押しつけ、ううう、とすすり泣くような声を漏らしている。

何を言っているのかは、もはや分からない。

趙構は左右を見回し、身体をくねらせて逃れようとする。

しばらくして、禁軍が陳東を引き離した。

陳東は必死に腕を振り回し、その手のひらが何度も趙構の頬をかすめた。

禁軍に守られ、趙構は府衙の庭へ戻った。

開封知府の王時雍が門から出てきて言った。

「天子を脅迫するとは、これが太学生のやることか? それでいいのか? いつまでそこに立っている? さっさと解散しろ!」

「俺たちが忠義をもって天子を脅迫するほうが、お前が奸臣を使って天子を脅迫するより、まだましじゃないか!」

言い終わるより早く、顔を真っ赤にした陳東が王時雍の官袍の襟をつかんだ。

拳を握り、殴りかかろうとする。

王時雍の紫色の官袍は陳東に引き剥がされた。

だが本人はするりと逃げた。

片手でズボンの裾をつまみ上げ、庭の中へ駆け込みながら叫ぶ。

「門を閉めろ……早く門を閉めろ!」

府衙の大門が閉じられた。

「無法にもほどがある!」

韓世忠が怒鳴った。

「本を読みすぎて頭が木っ端みたいに固くなりやがって、皇上にまで手を出すとは!」

張浚が言った。

「秦桧、秦学士がいてくれればな。あの方なら太学生どもを抑えられる」

「秦桧は金国に連れて行かれた。今、生きているのか死んでいるのかも分からない」

張俊が言った。

「敵に寝返って国を裏切った可能性だってある」

「学生どもが騒ぎを起こして、いつまで経っても収まらない」

趙構は冷たく言った。

「いつもの手で……」

王時雍が様子をうかがうように言った。

「一部を捕らえて、一部を牢へ入れるとか?」

趙構は首を横に振った。

「陳東という男は、必ず禍をもたらす。生かしておくわけにはいかない」

群臣は黙り込んだ。

最初に沈黙を破ったのは韓世忠だった。

「陳東は殺すべきです! 皇上、ご安心ください。この件、今日中に私が片をつけます」

「もう一人、欧陽とかいう奴も首謀者だ」

杜充が言った。

「そいつもまとめて殺してしまえ!」

韓世忠は憎々しげに言った。

その日の夕方。

陳東は首と胴を別々にされ、その首は商丘東大街の菜市口に立てられた一本の杭へ突き刺された。

趙構は詔を下した。

この日をもって、宋国の太学院は三か月間、休学とする。

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