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『岳飛伝』  作者: RiHakuun
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20/44

十九

空は晴れ渡り、春風が頬を撫でている。道端の淡い緑の草地には、赤や黄色の名も知らぬ野花が点々と咲いていた。韋小宝は羊腸のように細い山道を、馬に乗ってゆっくり進んでいた。時おり、節くれ立った枝をくねくねと絡ませた低い榆の木が見える。

前方に鞍部があった。両側の朱丹色をした切り立った崖の頂には雑草が生い茂り、遠目には緑の毛束のように見える。そこを越えれば、太行山脈の奥深くへ入ることになる。

岳飛よ、岳飛。いったいどこにいるんだ?

山に入ってから半月あまり、韋小宝は幼馴染みの岳飛について、何一つ手がかりを得られずにいた。太行山の景色は確かに美しい。だが韋小宝は、昔から山を遊び、水を眺めるような風流にはさっぱり興味がない――目の前の女色に心を動かされることすら少ない男なのだから、山水などに心を奪われるはずもなかった。

物思いにふけりながら俯いていたそのとき、突然、目の前が真っ暗になった。身体がふらりと傾き、そのまま馬の背から転げ落ちた。

次に目を開けたとき、背中と後頭部がひどく痛んだ。

韋小宝は木の板張りの寝台に横たわっていた。

目の前には、ゆったりとした儒袍を着た中年男がいて、こちらに笑いかけている。目尻が弧を描き、まるで二つの三日月のようだった。その後ろには青い衣を着た屈強な男が二人立っており、一人は錆びだらけの幅広い短刀を手にしている。

「韋相公、お目覚めになりましたか」

儒袍の男は寝台の端に腰を下ろした。顔は血色がよく、声にも力がある。

「ここはどこだ?」

韋小宝は、ほのかな香りを嗅ぎ取った。

小屋の壁は皮を剥いだ松の丸太を縦に並べて組んだものだった。木と木の隙間は、拳の半分くらいなら入りそうなほど広い。西側の壁には四角い窓が一つ開いているが、窓枠も窓扉もない。

外には、幾重にも重なる険しい崖。その上空には灰色の雲が一面に垂れ込めている。

「俺はどれくらい寝てた? どうやってここへ来た?」

儒袍の男は声を上げて笑った。顎には贅肉が二重に重なり、どこか愛嬌のある顔つきになる。

「韋相公は大物でいらっしゃるから、忘れっぽいんですな。ご自分がどうやってここへ来たのかまでお忘れとは」

そう言って男は腰牌と魚符を取り出し、手の中でもてあそんだ。

「韋小宝――韋相公、これは汴京の皇宮を出入りするための証明でしょう? あんた、間違いなく役人だな? どこの省のどの役所に勤めてる? 何品官だ?」

韋小宝は後頭部から首筋を手で揉んだ。

激痛が首から背中全体を走り抜け、危うく気を失いそうになる。

こいつらは追い剥ぎだ――この身体の痛みが、こいつらと無関係なはずがない。

「てめえのばあさんでも食らいやがれ!」

韋小宝が怒鳴ると、唾があたりに飛び散った。

「てめえはいったい何者だ!」

青衣の大男が幅広の刀を振り、歯をむき出して韋小宝を脅した。

儒袍の男は微笑んだ。

「俺は范温、登州の者だ。この辺りの頭目をしている。ここは『忠義社』の大寨だ」

大寨?

この四人、間違いなく山賊だ。

韋小宝は寝台から降り、窓辺まで歩いた。

小屋は山の中腹に建っていた。前には柵で囲った庭がある。庭には竹竿が二列に立てられ、そこには茶褐色の細長い干し肉や、暗赤色の腸詰めが吊るされていた。

門の脇には、二十歳にもならなさそうな若者が一人、紅纓槍を手にして寄りかかっている。空いている左手を宙に掲げ、その指先には一匹の蝶蛾がとまっていた。

「俺を気絶させたのは、お前らだろ?」

韋小宝は、話せば話すほど腹が立ってきた。

「何が目的だ!」

「相公、失礼ですが、ご出身はどちらですかな? その訛りを聞くと、金国の人のようにも聞こえますが」

范温が尋ねた。

「俺は宋国人だ。通籍持ちだ」

「ほら、やっぱりな」

刀を持った大男が身を乗り出した。

「こいつ、絶対に役人だ。それもかなり偉い役人だ。俺の村にいる秀才や進士だって、通籍なんか持っちゃいない」

「お前は何も知らんな。九品の芝麻官だって通籍を持ってる!」

范温は頬の内側を噛みながら言った。

そして韋小宝のほうへ向き直ると、今度は打って変わって猫なで声になった。

「韋相公、今や宋国なんてどこにもありませんぜ。大宋は滅んじまった。今あるのは大楚国だけです」

「大宋だろうが大楚だろうが……名前が変わっただけじゃないか。朝廷にいるのだって、結局は昔の趙佶の手下どもだろ? あの張邦昌だってそうだ。張邦昌が皇上になる前には、俺だってあいつを罵ったことがある」

「張邦昌……相公、皇上の名を呼び捨てにするとは」

范温は感心したように舌を鳴らした。

韋小宝は心の中で笑った。

皇上だって?

この山賊どもは知らないらしい。張邦昌は人から「皇上」と呼ばれるのを嫌っていて、百官の前でも決して「朕」とは称さない。公文書を出すときも、「手詔」ではなく「手書」を出しているのだ。

しばらく話し込んで、韋小宝はようやく范温の腹の内を理解した。

忠義社は太行山一帯で最も人数が多く、最も勢力の大きい山賊集団だった。そして寨主の范温は、官府から招安を受けたいと思っているらしい。

そんなの、簡単な話だ。

韋小宝は范温に教えてやった。

大勢の宋国の官僚が金軍とともに北へ行ってしまったため、今の大楚は官も吏も足りず、朝廷は人材を喉から手が出るほど欲しがっている、と。

「韋相公、ちょっと話を聞いてくれ。俺の言い分を聞いて、どう思うか判断してくれ」

范温は身を乗り出した。

「近くに『黒風寨』っていう山寨がある。たった三十人ばかりしかいないのに、先月、朝廷がそこの寨主を『陪戎校尉』に取り立てたんだ。こんなの、どういうことだ! 俺は数百人もいる大寨の寨主なのに、朝廷は俺を招安せず、俺より弱い連中を招安しやがった。腹が立たないか? 韋相公、もし俺が招安されたら、五品官になれると思うか? 将軍くらいになったって、別に分不相応じゃないよな?」

范温はひどく情けなさそうな顔をした。

「県衙にも州衙にも、俺は何度も行った。ところが、あの役人どもときたら、『忠義社』と聞いた途端、何も言わずに俺を追い返す。それどころか兵勇まで呼んで捕まえようとしやがる。俺の逃げ足が速くなかったら……」

そこで范温は考え込むように眉を寄せた。

「どうも、俺には分からない何かがあるらしい。『朝中に人あれば官になりやすい』っていうだろ? 役人になろうと思ったら、やっぱり誰かに糸を通してもらわなきゃならない。俺は貧乏な家の生まれで、粟や糠を食って育った。九歳になって、ようやく白飯ってものを食ったんだ。俺の兄弟たちも同じだ。子供のころは貧しくて、穿くズボンさえなかった。役人なんて、一人も知り合いがいない」

范温は韋小宝の顔をしげしげと見た。

「韋相公は額が広くて顔立ちも非凡だ。きっと大官なんだろう」

「つまり、俺に糸を通してもらって、朝廷に行って役人になりたいってわけか?」

韋小宝は言った。

「役人になって何がそんなにいいんだ? 俺には、お前の山寨のほうがよっぽど立派に見えるけどな」

「韋相公、まあまあ。まずはうちの寨の名物を召し上がってくだせえ」

范温は茶褐色の干し肉を一本つまみ、韋小宝の口元へ差し出した。

鼻を刺すような生臭い臭いが押し寄せ、韋小宝は眉をひそめた。

「羊肉みたいだな。臭みはないけど、ちょっと生臭い……牛肉か? いや、これも違う……なんか臭いな」

「韋相公、これはたいしたもんですぜ!」

范温はむっとしたように言った。

「臭いけど、食えばうまい。二本足の羊の腿から切り取った、一番うまいところでさ……」

「二本足の羊?」

口に入れようとしていた韋小宝は、思わず首を引っ込めた。

「俺が聞いたことがあるのは、肥臀羊とか肥尾羊だ。二本足の羊なんてのは初耳だぞ」

「韋相公、食ってみてくだせえ、食ってみて」

范温がしきりに勧める。

韋小宝は首を前に伸ばし、口を開けて噛みつこうとした。

そのとき、目の端に范温の太い指が映った。

爪には油汚れがびっしりつき、爪の間には真っ黒な垢が詰まっている。

たちまち食欲が失せた。

韋小宝は顔を背け、窓の外へ目を向けた。

先ほど庭の門を守っていた若者が、紅纓槍を手にして部屋へ駆けてくる。

だが、その身体が前へ倒れ込んだ。

首から一本の矢が突き抜けていた。

庭の門口に、顔へ刺青を入れた男が三人現れた。

それぞれ長弓を手にしている。

弓矢が窓へ向けられた。

范温はまだ何やらぺちゃくちゃ話していた。

韋小宝は突然、范温を突き飛ばし、自分は寝台の下へ潜り込んだ。

范温の傍にいた青衣の大男二人が、矢を受けて倒れた。

「ドン!」

轟音とともに、部屋の扉が叩き破られた。

外から大勢の人間がなだれ込んでくる。

何十もの大きな足が、韋小宝の目の前を行き交った。

「こいつが俺たちの大当家だ」

「范温?」

頭上から低い男の声がした。

「俺だ。皆さん、名前を聞かせてもらおうか? その格好を見ると官府の者じゃなさそうだな。まさか、同業者か?」

「誰がお前みたいな畜生と同業者になるものか」

低い声の男が言った。

「人の道を踏みにじった外道め。今日がお前の命日だ」

三人が范温を押さえつけた。

右頬と手のひらが地面に押しつけられる。

紅纓槍の穂先が范温の手の甲に突き刺さり、柄がかすかに震えていた。

范温は何度か呻いたあと、声を出さなくなった。

呼吸のリズムを整えているのだ。

「好漢、俺は『忠義社』寨主の范温だ。いったい、どこであんたたちの気に障ることをした?」

范温の声は、先ほどまでの慌てふためいたものとは違っていた。

「これは何だ?」

細長いもの、丸まったもの、塊になったもの――さまざまな干し肉が地面へ落ちていった。

「羊肉だ」

范温が答えた。

「まだ嘘をつくか! これは人肉だ!」

低い声の男が怒鳴った。

「俺、王彦は半生を生きてきたが、黒い髪の生えた羊なんぞ見たことがない。お前ら、そんな羊を見たことがあるか?」

「ない!」

皆が声を揃えた。

「二本足の羊には髪が生えるんだ!」

范温は必死に弁解した。

「好漢、あんたたちは金人か、宋人か?」

「自分で見て分からないのか?」

「金人も宋人も顔つきも訛りも似てる。どうやって見分けろっていうんだ?」

「俺は金国人と戦うことを生業にしている、上党の人間だ。王彦という」

「やっぱりそうか! 好漢、俺たちは同じ道を歩む仲間だ! 忠義社は金国の二本足の羊の肉だけを食い、金国の二本足の羊の血だけを飲んでるんだ――」

「閻魔のところへ行って、お前の二本足の羊でも食ってろ」

寒光が閃いた。

匕首が范温の背中へ突き刺さる。

続いて、一本の槍が後頭部を貫いた。

范温の口元と胸から黒い血が流れ出した。

血は広がり、寝台の下へ流れ込んでくる。

韋小宝は後ろへ身を引いたが、腰と背中が寝台の板にぶつかった。

そして、誰かに寝台の下から引きずり出された。

「この人食いの畜生を殺せ」

王彦が命じた。

韋小宝は全身の力を振り絞り、腰を狂ったように捻りながら、声が枯れるほど叫んだ。

「俺は山賊じゃない! こいつらに捕まっただけだ! 俺は韋小宝! 大宋の宮廷で大夫をしていた! 魚符が証拠だ! 腰牌もある! それに通関文牒もある! 全部、荷物の中だ! その荷物がどこへ行ったのかは、こいつらがどうしたのか知らない!」

王彦は地面に落ちていた魚符と腰牌を拾い上げ、念入りに調べた。

「韋大夫」

王彦は部下に命じて韋小宝を放させた。

「先ほどは失礼した」

ほとんど力を使い果たした韋小宝は言った。

「王相公、一人、聞きたいことがある。あんたの軍にいるはずなんだ」

「ほう? 誰だ?」

「岳飛、岳鵬挙だ」

王彦の表情が一変した。

その顔には、ありありと嫌悪の色が浮かんでいた。

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