十一
「さて、猴行者が国の中へ入ってみれば、そこは千年の枯れ木、万年の石ばかり……」
茶楼は満員だった。
青い大袍をまとった老人が、身振り手振りを交え、楽しそうに講談を語っている。
朝の光が中庭へ斜めに差し込み、老人の全身を黄金色に縁取っていた。その姿はまるで、天の命を口にして地上へ降りてきた仙人のようだった。
向かいに座る岳飛が杯を掲げ、顔を上向けて一気に飲み干す。
また一杯、高粱酒が腹へ落ちた。
「喪に服し始めた初日に、そんなに酔っ払って大丈夫なのか?」
「俺は酒に強い。酔ったりなんかしない――たとえ酔っても、酒乱にはならん。小宝、燕山府へ連れてきて遊ばせてくれてありがとう。本当に、お前は俺の大親友だよ」
「親父さんが亡くなったばかりだ。お前があまり悲しまないようにと思ってな。それに、一つ分からないことがある。昔から『三年喪に服す』って言うだろ? なのに、どうして一か月しか喪に服さないんだ?」
「三年間も仕事をしなかったら、手を止めれば口も止まる。餓死しちまうだろ? 皇室ですら三年間も喪に服すわけじゃない。俺たち庶民なら、なおさら無理だ」
岳飛が言った。
「『三年喪に服す』っていうのは、実際には二十七か月喪に服すという意味で、それを日数に換算して、二十七日間喪に服せばいいんだ」
「たった二十七日? だったら長期休暇を取ればいいじゃないか。なんで軍を辞めたんだ?」
岳飛は杯をあおった。
「今は天下太平で、戦なんかない。戦がなけりゃ、兵隊は何を食っていく? 戦がなけりゃ、どうやって出世する? 俺には後ろ盾がない。軍隊に一生いたって、せいぜい隊長止まりだ。毎月三貫の銅銭をもらって、それで何が面白い? 家へ帰って田を耕したほうがましだ。田畑なら、まだ自由がある」
「鵬挙、俺を信じろ。天下が太平なのも長くは続かない。また戦になる。この世には、遅かれ早かれ、お前の力が必要になる時が来る」
「信じないね。俺はやっぱり、真面目に農民をやるよ」
岳飛は言った。
「遼国の領土は大宋と大金に分け取られ、遼国皇帝はあちこち逃げ回っている。もう大したことはできない。宋と金の二国は兄弟の国として結ばれて、仲良くやっているんだ。戦なんか起こりっこない」
*
岳飛を見送った韋小宝は、燕山府の府衙へ昔なじみを訪ねに向かった。
童貫と王安中のほかに、府衙の内院には一人の若い武将が立っていた。
「張覚、お前が口で帰順すると言っただけで、どうして信じられる? 俺には、お前が偽って降伏しているだけじゃないと分からん」
童貫が若い武将に言った。
「童王爺、箱を開けてください」
童貫は従者を呼び、張覚の足元に置かれた長方形の木箱を開けさせた。
童貫、王安中、韋小宝の三人が、同時に声を上げた。
箱の中には、血まみれの首が四つ入っていた。
一つが上に載り、三つがその下に重なっている。
「これは何のつもりだ?」
童貫が尋ねた。
「臭くなってきたんで」
張覚は一番上の首の乱れた長髪をつかみ、胸の前へぶら下げた。
「幸い、まだ蛆は湧いていない。顔もちゃんと分かる。こいつは金国の使者、曹勇義です」
そう言って、箱の中を指した。
「虞仲文、左企弓、康公弼も金国の使者です」
「この四人は完顔晟の命を受けて広寧府へ物資を買いに行き、平州を通った。そこで俺は考えた。ちょうどいい、こいつらの首を大宋へ帰順するための手土産にしてやろうってな」
「二国が戦争中であっても、使者を斬ることはしないものだ……」
王安中が言った。
「張将軍、あなたはもともと遼国の軍人だった。金国に降ったあと、金国は平州を南京と改め、あなたを南京留守にまで昇格させた。それでも、まだ欲が満たされなかったのですか?」
「人間なんて、みんなそんなもんだろ?」
張覚は唇を尖らせた。
「南京留守? 聞こえは立派だが、要するに見栄だけだ。官位は上がっても、俸禄は変わらん! それに大宋は違う。大宋は武将にちゃんと金を出してくれる。良禽は木を選んで棲むっていうだろ?」
「ふん」
童貫は薄く笑った。
「昔から、文官は名を求め、武将は金を好む。例外などない」
「王相公は俺の欲が深いと思うのか? だが、ここにいる皆さんに聞きたい。いったい誰の欲が深くない?」
張覚は言った。
「女房を娶るのと同じ理屈だ――王相公、あんただって正妻を一人置いて、その周りに妾を何人も侍らせてるんじゃないのか? これを『碗の中を食いながら、鍋の中も眺める』っていうんだ」
「それを『欲の深さには底がない』っていうんですよ。へえ……」
韋小宝が言った。
皆が一斉に韋小宝を見る。
張覚は眉を吊り上げ、恥辱と怒りに顔を赤くした。今にも怒鳴りつけようとした、そのとき――
月洞門の外から、立て続けに感嘆の声が聞こえてきた。
「妙だ! 昔、劉玄徳は『兄弟は手足のごとく、女は衣服のごとし』と言った。今は張将軍が『碗の中を食いながら鍋を眺める』と言う。実に妙だ――実に妙だ――」
拍手をしながら、劉延慶が門をくぐって入ってきた。
その後ろには、三十歳を少し過ぎたように見える男が一人ついている。
「劉将軍、今日はどんな風の吹き回しです?」
「童王爺、お久しぶりです! こちらは私の息子、劉光世です」
劉延慶が紹介した。
「息子を連れて燕山府へ遊びに来たんですよ。大宋がこんな宝の地を手に入れたんですから、あちこち見て回らなければ、死んだ二十万の将兵にも申し訳が立ちませんからな」
「劉将軍、また一つ宝の地が大宋のものになったぞ」
童貫は豪快に笑った。
「張覚将軍が平州を携えて大宋へ帰順してきた。劉将軍、どうする? 受け取るか、受け取らないか?」
「得する話を前にして、指をくわえてる奴は馬鹿ですよ」
劉延慶が言った。
午後の日差しが、一人ひとりの顔を照らしていた。
皆、顔を見合わせて、にやりと笑った。
*
童貫と王安中は、燕山府とその周辺地域の文武官たちを宴席に招き、酒を飲み、芸を楽しんだ。
宴に参加した常勝軍の統領・郭薬師が、一つの知らせをもたらした。
遼国皇帝が侍衛に命じ、蕭普賢女を縛り上げ、滅多斬りにして殺したという。
童貫は鼻で笑った。
「蕭普賢女は耶律淳を皇帝に推した女だ。耶律延禧があの女を許すと思うか? それなのに、よくもまあ耶律延禧を頼って逃げ込んだもんだ。この馬鹿女、死んで当然だ」
*
冬至の日、宴席に三人の招かれざる客が現れた。
先頭に一人、その後ろに二人の供がいる。
三人の軍袍は、郭薬師が着ているものとどこか似ていた。
皇帝・趙佶の特別な許可により、郭薬師とその部下たちは、いまだに遼国の軍袍を着て軍務に就いていた。
ただし違いがあった。
郭薬師の軍袍の襟元の両側には青牛と白馬の図柄が刺繍されている。
一方、三人の客人の軍袍の襟元には、翼を広げた一羽の隼が刺繍されていた。
先頭の男は、自らを完顔宗翰と名乗った。
金国宰相の息子だという。
半信半疑の童貫は、完顔宗翰から差し出された蝋書を受け取った。
そこに押された金国の国璽を確認して、ようやく相手の言葉が本当だと知った。
「完顔将軍、何のご用ですかな?」
童貫が尋ねた。
「張覚を探しに来た」
完顔宗翰は宴席を見回した。
「彼ならいないぞ」
劉延慶が言った。
童貫が送った目配せにはまったく気づいていない。
「歌妓と颠鸾倒鳳に夢中でな――いやはや、ずいぶん楽しんでいるようだ」
そう言いながら、二本の指で落花生を一粒つまみ、口へ放り込んだ。
「呼んでこい!」
完顔宗翰が言った。
「張覚は金国の裏切り者だ。連れて帰る」
「その通り。張覚は確かに裏切り者だ」
童貫が大きく手を振ると、楽器の音がたちまち止んだ。
百人近い舞姫や酒を酌していた美しい女たちが席を立ち、一部の下級官吏もその後について大広間から退出していった。
「童相公、平州内の宋兵は我が軍がすでに追い払った。ただ、安心してほしい。我が軍は宋兵を一人たりとも殺していない。大金が追及するのは張覚一人の罪だけだ」
「宋軍はみんな逃げたのか?」
「誰も宋軍のあだ名が『逃げ足が速い』だってことを知らないのか?」
完顔宗翰は言った。
「無駄話はやめよう。引き渡してもらう――死体でも構わん。とにかく、生きていれば本人を、死んでいれば死体を見せてもらおう」
童貫は王安中を振り返った。
「お前は知府だ。どうすればいいと思う?」
「張覚はもともと遼国の将軍です。しかし、彼はすでに金国へ降伏している……となれば、金国の人間ということになります。宋と金は兄弟のよしみを結び、互いに亡命者を受け入れないという誓約を交わしております。張覚はそれを破って宋へ降った以上、私は宋国の朝廷官として、大宋を代表し――」
「いつまで話してるんだ?!」
完顔宗翰が王安中の言葉を遮った。
「張覚がここに隠れているんだろう? なら、さっさと引き渡せ。でなければ趙佶に手紙を書いて、どちらが正しいか判断してもらうぞ」
「こんな小さなことで皇上のお手を煩わせる必要はありません」
王安中は満面の笑みを浮かべた。
「将軍は先ほど、死体でもいいとおっしゃいましたね。では、この私が張覚将軍の首を差し上げるということで、いかがでしょう?」
「それでもいい」
「よし。では完顔将軍、まずは私の屋敷にお泊まりになって――」
「ここには泊まらん。宿に泊まる。明日の朝、また来る」
皆は完顔宗翰とその供の者が府衙の大門を出ていくのを見送った。
童貫が王安中に言った。
「張覚を捕まえるなら、今すぐ行ったほうがいいぞ。あいつに話が漏れて、こっそり逃げられてからじゃ遅い」
「私は張覚を捕まえません」
王安中は言った。
王安中は衙役、男の召使い、馬夫、車夫、輿夫など百人あまりを集め、三列に並ばせて自分の前に立たせた。
大広間は、先ほど宴会で騒いでいたときよりも、さらに狭苦しく感じられた。
王安中は三列の人々の周りを何度か歩き回り、しきりに首を横に振った。
そして目を上げると、童貫のそばにいた韋小宝が目に入った。
王安中は歩み寄り、頭のてっぺんから足の先まで、じろじろと何度も眺めた。
韋小宝は見つめられて、背筋がぞっとした。
王安中は隊列の中央へ戻り、再び歩き回った。
そして、痩せた背の高い中年の衙役の前で足を止めた。
「お前にしよう」
そう言った。
王安中の後ろにいた護衛が腰の短刀を抜き、痩せた衙役の腹へ突き刺した。
衙役は低く呻き、その場に倒れた。
「童王爺、似ていると思いませんか?」
「おや、言われてみれば、本当にちょっと似ているな」
王安中は、両手で腹を必死に押さえながら地面に倒れ、ぴくりとも動かない、すでに気絶したか死んでいる衙役を見下ろした。
「兄さん、悪かったな。恨むなら、そんな顔に生んだ父母を恨んでくれ」
護衛は痩せた衙役の首を斬り落とし、木箱へ入れた。
「これを完顔宗翰のところへ届けろ」
王安中が命じた。
*
翌日の午前。
完顔宗翰が、木箱を抱えた供の者を一人連れてやって来た。
王安中、童貫、郭薬師、韋小宝は互いに目配せしたが、誰も口を開かなかった。
完顔宗翰は親指を立て、褒め称えた。
「王知府、仕事が早い! 昨夜、裏切り者の張覚の首を受け取った。今日はその報告に来たんだ。これから朝廷へ戻って復命する。では、失礼する」
完顔宗翰と供の者は振り返って立ち去った。
二人が門の敷居をまたいだところで、王安中は男の召使いに命じ、州衙の大門を閉めさせた。
「もう出てきていいぞ、張将軍――」
王安中が言った。
「あの間抜けは行った」
張覚が屏風の後ろから姿を現した。
「張将軍、これからはあまり人前に姿を見せないことだ」
童貫が言った。
「安心して兵を鍛えろ。我が大宋の朝廷がお前を粗末には扱わん」
張覚は拱手して礼を述べた。
童貫は案几のそばまで歩いていき、筆を執った。
「王知府、さっきのお前の言い方は、どうも適切じゃないな」
「どこが不適切なんです?」
王安中が尋ねた。
「お前は完顔宗翰のことを『間抜け』と言っただろう? 老夫に言わせれば、この二文字こそ、もっともぴったりだ」
童貫は筆を置いた。
紙の上には、痩金体で大きく二文字が書かれていた。
「傻屄」
「これは老夫が燕山で覚えた方言だ」
童貫が言った。
皆がどっと笑い出した。




