一目惚れ
そよそよとふく風が耳に気持ちがいい。
波打つように芝生は生きているかのように動く。
「こっち」
手を引かれ、ついていく。
男の人に、手を引かれるのは初めてのことだからすこしドギマギした。
ふっと手が離れた。
「単刀直入に言いますね。
あなたはどこの家の人なんですか?」
振り返ってまっすぐ見つめられる。
「えっと、なんて言えばいいかわかりません。
ずっと、自分の家なのに自分の家ではない感じです」伏せ目がちに草原を見る。
もう波打っていなかった。
「そうですか」
わざわざここまで来てそんなこと?
と、不思議に思った。
「見たことのない美しいお方だったので話してみたかったのです。
普段見かけないお方なので、場所を変えさせていただきました。」
私の疑問を見透かしたように答えた。
それに、美しいなんて言われるのめっちゃうれしい。
いや、だめよ。そんな簡単に落ちちゃ。
私の方が実質、年齢高いんだからね!
「それはどうもありがとうございます。
ではわたしはこれで」
一礼して去ろうとしたとき、
「待って
ごめん
僕、君のことめちゃくちゃ気になる。
もっと知りたい」
暗くてもわかった。 ほのかに頬はピンク色になり、恥ずかしそうに目線を外した。
さっきまでずっと敬語だったのに。
私まで顔が赤くなっちゃう。
うぅぅ さっき理性で保ったばかりなのにぃ
「な、なんで、そんな出会ったばかりなのに、
なんで、ですか、
急にタメ口になったり、
なんでですか」
思わず目を瞑る。
こんなこと初めてで無意識に抑えられず舞い上がってしまう。
きっといまわたしはゆでタコみたいに赤くなっているはずだ。
あなたが私の運命の王子様ですか。
「一目惚れです」
まっすぐ見つめられて言われた。
うそでしょー うそぉ
「タメ口になってしまうのは、
その、抑えきれなくて
あなたのこと全然知らないのに、もっと知りたいと思ってしまうんです」
彼のセリフが私の頭に反芻する。
今までとちがう世界になったみたい。
それは、暗闇のなかに一輪の美しい花を見つけたみたいな衝撃だった。




