嫌なやつ
手汗でしわくちゃになった折りたたんだ小さい紙をそっとポケットにしまった。
「エラの家が大変なのかもしれないことはわかった
よかったらここにきて」
そうやって渡された小さなメモ。
わたしにとっては誰かが手を差し伸べてくれることがすごくうれしかった。
そ、それに、一目惚れされちゃったし
頬に手を乗せうっとりする。
夢のようだった。
「今日はお集まりいただきありがとうございます。
このように、誰でも、若い殿方、お嬢様方が参加できる舞踏会を開けたことを我ながら誇らしく思います」
ずっと先にあるステージで司会者がスポットライトに照らされながら進行していく。
「そして、なんとこの度は我が国の王子、チャーミング様が来ています」
ほんとうだったんだ…
まわりの男性たちはささやきあい、女性たちはステージを見つめ、今か今かと王子が出てくるのを待っている。
バチンッ
急に光が消えた。
瞬く間に眩しい光がステージ中央に現れた。
盛大な拍手と女性たちの黄色い声。
皆の視線の先には、チャーミング王子がいた。
漆黒の艶やかな髪に、長いまつ毛。
深く澄んだ黒色の瞳は、見た人すべてを吸い込んでしまいそう。
ステージから降り、中央へと歩いていく王子に観客は道を開けていく。
どこに向かっているんだろう…?
シワひとつない真っ白な短いシャツ。
足がとっても長い
歩き方さえ美しい完璧な動きは急に、中央で、止まった。
「お集まりの皆様、ご無沙汰してます。
私、チャーミング心よりこの舞踏会に参加できること、うれしく思います。」
艶のある声。聞いた人を魅了してしまいそう。
欠点の“け”の字もない人だ。
「と、言うとでも思ったか!
くそ平民どもが!」
え あれが王子?なの?
周囲もざわめきだす
急な変化についていけない
こんな噂聞いたことがないわ
エールやお姉さま方の反応じゃあ、それはそれはとても素晴らしい殿方だと思っていたのに
王子はそのまま目の前の男性の胸ぐらを掴み、殴った。
バキッボギボキッ
殴る音だけが聞こえる。
誰も、なにも、できない。
いや、逆らえないんだ。逆らったら自分もああなってしまうとわかってる。
でも、地位も名誉も容姿も、前世の私が欲しいもの、
すべてもっているのになんなのこいつ!!
私がずっと”この”王子を待ち望んでいたのだと考えたら、恥ずかしいし、なにより腹が立つ。
ふざけんじゃないわよ
こぶしをぎゅっとにぎる
相手を見据え歩き出す。
参加者達は王子にしか目もくれない。
パシンッ
彼の頬がわたしの手ではじけた。




