第二部 第8話 リュミナの異変
影の使者との遭遇から数日。
松阪市は表面上は平穏を保っていたが、
世界の“空気”はどこか重く、冷たくなっていた。
研究室では、凛が影の力の解析を続けている。
翔はアーク・ネオと共に訓練を重ね、
“存在干渉能力”の制御を学んでいた。
しかし──
その日、異変は突然訪れた。
◆
「……翔……」
弱々しい声が研究室に響いた。
翔は振り返り、息を呑んだ。
「リュミナ……?」
リュミナは壁にもたれかかり、
光が不安定に揺れていた。
いつもは柔らかく輝く金色の光が、
今は黒い影を混じらせている。
『……身体が……重い……』
翔は駆け寄り、リュミナの肩を支えた。
「どうしたんだ!?
影の力の影響か?」
リュミナは苦しそうに胸を押さえた。
『……影の力が……世界に満ち始めています……
精霊の身体は“光の情報”でできているから……
影の力が強くなると……存在が……薄れていく……』
翔は息を呑んだ。
「存在が……薄れる……?」
凛が駆け寄り、リュミナの身体をスキャンした。
「……まずいわ。
影の力がリュミナの存在情報に干渉してる。
このままじゃ……消える」
翔は拳を握りしめた。
「そんなの……絶対にさせない!」
リュミナは弱く微笑んだ。
『翔……あなたが戻ってきてくれたから……
私はそれだけで……十分……』
翔は首を振った。
「十分なんかじゃない!
リュミナは……俺の仲間だ。
消えていいわけないだろ!」
リュミナの光がさらに弱まり、
黒い影が身体を侵食するように広がっていく。
『……翔……怖い……
消えるの……怖い……』
翔はリュミナの手を強く握った。
「大丈夫だ。
絶対に消させない。
俺が守る!」
アーク・ネオの声が響いた。
『翔。
リュミナの存在情報を守るには、
あなたの“存在干渉能力”を使う必要があります』
翔は息を呑んだ。
「俺の力で……リュミナを守れるのか?」
『可能です。
ただし──影の力は強大です。
あなたの精神に負荷がかかります』
凛が翔の肩に手を置いた。
「翔……無理はしないで。
影の力は危険よ」
翔は首を振った。
「無理でもやる。
リュミナが消えるなんて……絶対に嫌だ」
リュミナは震える声で言った。
『翔……ありがとう……
でも……影の力は……私の存在を……』
翔はリュミナの手を握りしめ、強く言った。
「リュミナ。
俺は臆病で、弱くて……
でも守りたいものがある時は、絶対に逃げない」
リュミナの瞳が揺れた。
『……翔……』
翔はアーク・ネオへ意識を集中させた。
「アーク・ネオ。
リュミナの存在情報を守る方法を教えてくれ」
アーク・ネオの声は静かに、しかし力強く響いた。
『翔。
リュミナの存在情報を“固定”します。
影の力による書き換えを阻止するために──
あなたの存在干渉能力を最大出力で使います』
凛は息を呑んだ。
「最大出力……!
翔の精神が耐えられない可能性があるわ!」
翔は迷わず言った。
「耐えるよ。
リュミナを守れるなら……何だってやる」
リュミナは涙を浮かべながら翔を見つめた。
『翔……あなたは……本当に……』
翔は微笑んだ。
「臆病だけど……守りたいものがある時は強くなれるんだよ」
アーク・ネオが光を放ち、
翔とリュミナを包み込む。
『存在干渉能力──起動します』
翔はリュミナの手を握りしめ、
強い光の中へ意識を集中させた。
リュミナの身体を侵食していた影が、
少しずつ後退していく。
しかし──
影は完全には消えなかった。
アーク・ネオの声が重く響いた。
『翔……影の力は強すぎます。
リュミナの存在情報は守れましたが……
影の侵食は完全には止められません』
翔は息を呑んだ。
「……そんな……」
リュミナは弱く微笑んだ。
『翔……ありがとう……
あなたがいてくれるだけで……私は……』
翔は拳を握りしめた。
「影の文明……絶対に許さない。
リュミナを苦しめるなら……俺が止める!」
アーク・ネオの声が静かに響いた。
『翔。
影の王が動き始めています。
リュミナの異変は、その前兆です』
翔は強く頷いた。
「……行こう。
影の文明の力を止めるために」
リュミナは翔の手を握り返した。
『翔……あなたとなら……私は消えません』
翔はリュミナを抱きしめ、
影の文明との戦いへ向けて歩き出した。
第二部は、ここからさらに深い闇へ踏み込んでいく。




