第二部 第7話 影の力の解析
影の使者が姿を消した翌日。
研究室には重い空気が漂っていた。
凛はモニターの前で、影の文明のエネルギー反応を解析し続けている。
その表情は険しく、眉間には深い皺が刻まれていた。
「……これは、まずいわね」
翔は凛の隣に立ち、画面を覗き込んだ。
「影の力の解析、進んだのか?」
凛は静かに頷いた。
「ええ。
影の文明の力は、光の文明の技術とは根本的に違う。
“存在そのもの”を変質させる力よ」
リュミナが光を揺らしながら言った。
『影の力は……生命や物質の“在り方”を変える力です。
光の文明が扱った精神エネルギーとは別次元のもの』
翔は息を呑んだ。
「存在そのもの……昨日の街灯が消えたのも、それか」
凛は画面を操作し、影の力の波形を拡大した。
「見て。
影の力は“存在の情報”に干渉しているの。
物質の構造を壊すんじゃなくて……
その物質が“存在しているという情報”を消している」
翔は眉をひそめた。
「……情報を消すって……そんなことができるのか?」
アーク・ネオの声が翔の心に響いた。
『翔。
影の文明は、光の文明よりも古い文明です。
彼らは世界の“根源情報”にアクセスする技術を持っていました』
翔は息を呑む。
「根源情報……?」
『世界を構成する“存在のコード”のようなものです。
影の文明はそれを書き換えることができた』
凛は震える声で言った。
「つまり……影の文明は、世界を“編集”できるってこと?」
アーク・ネオは静かに答えた。
『はい。
影の文明は、世界の存在を自由に書き換える力を持っていました。
光の文明が恐れ、封印した理由はそこにあります』
リュミナは翔の隣で、光を揺らしながら言った。
『影の力は、精霊にも影響します。
私たちの存在は“光の情報”で構成されているから……
影の力が強くなると、私たちは存在できなくなる』
翔は息を呑んだ。
「……リュミナが消えるってことか?」
リュミナは静かに頷いた。
『影の力が世界を侵食すれば……私は消えます』
翔は拳を握りしめた。
「そんなこと……絶対にさせない」
凛は画面を切り替え、影の力の解析結果を表示した。
「影の力は、世界の“存在情報”を上書きする。
でも……一つだけ対抗手段があるわ」
翔は凛を見つめた。
「……なんだ?」
凛は深く息を吸い、静かに告げた。
「“存在干渉能力”。
影の力に対抗できる唯一の力よ」
翔は息を呑んだ。
「……俺が昨日使った、あの力か」
アーク・ネオの声が響く。
『翔。
あなたの新しい肉体は、光の文明の技術で作られています。
そのため、影の力に対抗する“存在干渉能力”を扱う素質があります』
翔は拳を握りしめた。
「……俺が影の文明の力を止めるってことか」
『はい。
あなたは光と影の境界に立つ存在です。
影の文明に対抗できるのは……あなたしかいません』
リュミナは翔の手を握りしめた。
『翔。
あなたがいるなら……私は消えません。
あなたの力で……影の侵食を止めてください』
翔は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
「……わかった。
影の文明がどんな力を持ってても……
俺が止める」
凛はモニターを閉じ、翔へ向き直った。
「翔。
影の文明の力は、世界をゆっくりと侵食している。
このままでは、光の文明が守った世界は崩壊するわ」
翔は頷いた。
「……なら、行こう。
影の文明の力を解析して……対抗手段を作るんだ」
アーク・ネオの声が力強く響いた。
『翔。
影の文明との戦いは、ここから本格的に始まります』
翔は新しい肉体で、
新しい力を胸に──
影の文明との戦いへ向けて歩き出した。




