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アークブレス  作者: 灰皿
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第2話 初めての能力覚醒

翌朝。

翔はベッドの上で目を覚ますと、右腕に巻かれた腕輪――アークブレスが、淡い光を放っているのに気づいた。


「……夢じゃなかったんだな」


腕輪は静かに脈動している。

まるで呼吸しているように。


翔はため息をつきながら、腕輪を隠すために長袖のシャツを着た。

職場の人間に見られたら説明できない。

そもそも自分でも理解できていないのだ。


会社へ向かう途中、腕輪が突然震えた。


『翔、前方に注意』


「え……?」


次の瞬間、交差点でトラックが急カーブを曲がり、歩道に乗り上げてきた。

翔の視界が一瞬スローモーションになる。


「危ない……!」


逃げようとするが、身体が固まって動かない。

恐怖が足を縫い付ける。


その瞬間――


腕輪が光った。


世界が止まった。

風も、音も、トラックのタイヤの回転も。


翔だけが動ける。


「……時間が、止まってる?」


『時間操作。あなたの生命力を少し借りました』


「借りましたって……!」


翔は震えながらも、止まったトラックの進路から外れるように身体を動かした。

腕輪が再び光り、世界が動き出す。


トラックは空の歩道を通り抜け、何事もなかったかのように走り去った。


翔は膝から崩れ落ちる。


「はぁ……はぁ……なんなんだよ、これ……!」


『あなたが死ぬ未来を回避しました。

時間操作はあなたの生命力を消費します。

多用は推奨しません』


「そんな大事なこと、昨日言ってくれよ……!」


腕輪は沈黙した。

だが、どこか申し訳なさそうに光が弱まる。


翔はしばらく呼吸を整え、立ち上がった。

心臓はまだ早鐘のように鳴っている。


「……俺は、こんな力を望んでない」


『それでも、あなたは選ばれた』


「選ばれた理由なんて知らないよ……!」


翔は腕輪を隠しながら会社へ向かった。

だが、心の奥底では――

さっきの出来事が何度も反芻されていた。


自分は助かった。

腕輪が助けた。

もし腕輪がなかったら、今頃――


「……俺は、生きてる」


その事実が、翔の胸に重くのしかかる。


臆病な自分が、誰かに助けられた。

その助けが、自分の腕に巻かれている。


会社のビルが見えてきた頃、腕輪が再び震えた。


『翔。あなたの周囲に“異常な反応”があります』


「異常って……また何か来るのか?」


『敵意を持った存在が接近中。

戦闘補助モードを解放します』


「戦闘なんて……無理だよ!」


だが、腕輪は静かに告げる。


『逃げてもいい。

ただし――逃げ切れる保証はありません』


翔は振り返る。


そこには、黒いコートを着た男が立っていた。

無表情で、まっすぐ翔を見つめている。


「矢本翔。アークブレスを渡してもらおう」


男の声は冷たく、感情がない。


翔の背筋が凍る。


「な、なんで俺の名前を……!」


男は一歩近づく。

腕輪が反応し、翔の身体が勝手に構えを取る。


『翔、戦ってください。

あなたの命が危険です』


「戦うなんて……!」


男が手を伸ばした瞬間、腕輪が光り、翔の身体が跳ねた。

自分の意思とは関係なく、身体が動く。


「うわっ……!」


男の攻撃を紙一重で避ける。

腕輪が翔の身体能力を強化している。


『戦闘補助、発動中』


「勝手に動かすなよ……!」


男は無表情のまま、再び翔へ向かってくる。


翔は恐怖で震えながらも、腕輪に導かれるように拳を突き出した。


拳が男の腕に当たり、男はわずかに後退する。


「……やるじゃないか」


翔は息を呑む。


自分が、誰かを殴った。

臆病な自分が。


腕輪が静かに告げる。


『翔。あなたは戦える。

そのために私は存在します』


男はコートの内側から黒い刃を取り出した。


「腕輪を渡せ。抵抗するなら――殺す」


翔は震えながらも、腕輪を見つめた。


「……俺は、死にたくない」


腕輪が強く光る。


『では、生きるために戦いましょう』


翔は覚悟を決めた。


臆病でもいい。

怖くてもいい。


――生きるために、戦う。

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